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素晴らしき哉(かな)異世界辺境生活  作者: 富士敬司郎


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第59話:初めての商売

 それにしても村人が多くなったもんだ。

 そして畑が無双してる。

 103匹を俺の一声で受け容れてもなお収穫は余る。

 そうでないと危なくて迂闊に受け容れることなんてできない。


「消費を増やしたいです」


 収穫物の管理を行っている組のリーダーである有翼族のエリンが、記録簿を持ってやってきた。


「そうか、近隣に与える方もドラゴンに与える方も増やしているんだがな」

「追いついていませんね。喫緊ではありませんが、収穫量に対して消費量が追いついていません。収穫をもう少し減らすか、消費量をもう少し増やすかしないと、収蔵庫がこのままではパンクします」

「103匹加わってもか?」

「103匹加わってもです。全然追いついていません」


 であるならば、ハイドワーフたちの村々にももう少し受け取ってもらいたいのだが、今まで以上に配ると今度は自分たちの産業に影響が出るらしい。

 あくまで俺たちが与える作物は特別な時に食べる高級作物。

 一方で彼らは従来から普段の食事に上らせる主食などを自作している。

 そして、これ以上増えると高級作物の量が主食などを上回ってしまうらしい。

 そうなると舌が肥える以上に、収穫に影響が出て、畑を廃棄しなければならない。


 それは困った。

 舌が肥える以前に、彼らの自活を止めてしまうと、今度は俺の方に何かあった時に困る。


 取引量を増やすか、取引先を増やすか、畑を減らすか、収蔵庫を増やすか。

 サイクルを減らすことも考えたが、需要が供給を上回っている作物があるので、急転回は難しい。

 それに、すでに生まれてしまった在庫は、食べるか処分するか収蔵するかの三択しかない。

 まだ食べられるものを何もせず処分するような勿体ない真似はできない。


 魔石問題もある。

 現在はほぼ全部の魔石が魔気に転換されて収蔵庫の冷蔵に使われている。

 その魔気は炎熱にも冷蔵にも電撃にも使えるのだが、現在はほぼ冷蔵オンリーらしい。

 それほどまでに収蔵庫が魔石を、魔気を食いまくっている。

 これ以上収蔵庫を増やすとなると、魔石の涸渇が問題になるらしい。

 これも有翼族やシャドウウルフに冷気魔法を使えるのが何人かいるので、その場をしのぐことはできるが、ずっととなると難しい。管理や狩りに回す人材がいなくなる。


「冷気魔術を使えるのを増やすとなると、かなり有翼族を増やさないとダメですね」

「その当てはあるのか?」

「ないですね。シュリン様の一声で集まるのは現在が総てです。それ以上集めるとなると父上様に声をかけていただかないと。そして、有翼族はだいたいどこか管理しているので、無理に集めると、そうした部族が庇護を失うことになります。それは父上様でもどうにもなりません。庇護を失うだけならいいんですが、管理担当がいなくなりますと……」


 それ以上は言わなくても分かる。

 管理がいい加減な部族が困る。

 管理という面倒を引き受けるから有翼族のポジションが保てる。

 これ以上引き剥がすとなると、有翼族の影響力も低下するし、破綻した部族が近隣に散らばって森の治安が悪化する。


 あまり食べ物の収穫量は増やしていないのだがな。

 畑を拡げすぎた。

 いろんな種類があるといい、と思って様々な作物を育てたのだが、消費というところに思い至らなかった。

 しばらくは消費量の多い作物への転作でその場をしのげるだろうが、それでも対症療法でしかない。

 保管と消費という部分に思い至らなかった俺のミスだ。

 俺に提言できる人材がいなかったゆえに気付かなかった。

 そのために有翼族を受け容れたわけだしな。


 村人の消費を増やすのはどうかとも考えたが、それは結果的にマズくなりそうだ。

 太ましい者を増やしたいわけではないのだ。

 そうでなくても、村人は俺に振り返ってもらうためにプロポーションの維持に躍起になっている。

 もっと食え、もっと消費しろ、と言われても、村人自身から拒否されるだろう。


 ひとまずエリンの提言に対しては収蔵庫をもう少し増やす、ということで対処することになったが、魔石や取引の当てがあっても、このままでは収蔵庫ばかりが際限なく増えてしまうことになる。

 大消費地となるところが欲しい。


 ハイドワーフに相談すると、魔石問題は魔鉱を掘り出すことで何とか対処することができた。

 ただ、魔石のように無限に湧いてくるわけではない。

 魔鉱は限りがあるし、それほど大規模な鉱山はないし、何よりも本来は高価なものだ。

 それをただただ食べ物だけのために消費するのはあまり健全ではない。


 交換レートの問題もある。

 現在は働きや金属・ガラス製品の取引によってその分の作物を与えている。

 提供分は少なくて良いから作物をもっと受け容れたまえ、とするか?

 そうなるとさきに述べた通り、彼らの自活分に影響が出るし、迂闊にこちらからの提供量を増やすとなると作物の価値が下がる。

 俺としては大した苦労をしているわけではないので取引レートはもっと安くていい、と思ってるのだが、向こうはそう思っていないようだ。

 橋の村の作物を、取引のある村からさらに他の村へと交換に使ってるので、その交換レートに影響が出るらしい。

 影響が出るとその村の影響力が低下する。

 いろいろ難しい問題が絡みあってるとのことだった。


「余ってるなら、連れてくるか?」


 クライルヴァードがある日言った。


「連れてくるって、誰を?」

「商人」

「いるのか?」

「山に近い方なら『外』に亜人の商人が結構いるぞ」

「人間の方はいないのか?」

「人間は山から遠いとこになるからなあ。連れてきてもいいが、ドラゴンが連れてくるとなると騷ぎになる。輸送ルートも厳しい。その点、亜人商人なら山と森を越えてくるだけで済む。適当なの見繕うか?」

「頼む」

「頼まれた」


 その会話から2週間後に、クライルヴァードは1人の初老の獣人を乗せてやってきた。


 あごひげが豊かな男だった。

 狼系の獣人で、顔も腕もふさふさとした毛に覆われていた。

 毛深い中に油断ならなそうな目つきを持ち、見上げる偉丈夫で、熊でも絞め殺せそうないかつい身体をしている。

 2メートル半ぐらいはあるのではないか。


 その彼が、クライルヴァードの首に乗ってカタカタと蒼い顔で震えている。

 流石に神龍に乗ってくるのはキツイか。


「連れてきたぞ、商人」

「何者だ?」

「レパード商会というとこの主人らしい。俺も詳しいこと知ってるわけじゃないんだが、持たせてくれた作物を一番高く買ってくれたのがコイツだ」


 彼に連れてきてもらうに当たっては条件をつけた。


 なるべく多く取引できる者。

 偏見をあまり持たない者。

 無理矢理はダメ。

 脅してもダメ。

 ここが森の中であることを承知していること。

 その上で取引しようという気概を持てること。

 あと、最初はなるべく商会の主人本人が来てくれると嬉しい。

 その後は代理人でも構わない――などと、いろいろ並べて、その総てを満たしている者にした。


 難しい条件を課しているわけではない。

 そして必ずしも1人でなくてもいい。

 条件に合う者全員を連れてきてもいい。

 ただ、クライルヴァードが連れてきたのはその1人だった


「条件に合う奴は他にいなかったのか?」

「何人かいたが、最初は1人の方がいいだろう。追って少しずつ増やすといい。自前で食う分が足りないと困るだろう」


 なるほど。

 最初の取引だから最初の1人、と。

 彼から販路を広げても取引先を増やしても良い、と。


 その彼は何かに怯えるように辺りをきょろきょろと見回していた。


「何で怯えてるんだ?」

「さあ?」


 クライルヴァードは頭を捻るが、何となく予想はつく。


 相手は人間かと思ったら正体はドラゴンだったよ。

 しかもドラゴンの中でも最高位の神龍だったよ。

 そのドラゴンに直接森の中に連れて行かれたよ。

 しかも代理人でなく主人を連れてこいと言われたよ。


 で、単独行ということになって、高度数百メートルの中を直接跨がらされて飛ばされてきたのだろう。

 別に主人さえいれば1人に限るわけではなかったのにな。

 主人と護衛と実務で計十数人の集団でも良かったのだが。


 クライルヴァードは主人を連れてきてほしい、というのを、主人以外連れてくるな、と受け取ったのかもしれない。

 俺が主人にこだわったのはその場で即断即決できる者であり、最高意思の確認という意味であって、余計な者を一切連れてくるな、ということではなかったのだが。


 まあ、連れてきてしまったのはしょうがない。

 良い取引になることを祈ろう。


「ども、橋の村の村長、カズナリです。始めまして。良い取引ができることを願います」

「ど、どうも、レパード商会会頭のロベルト=ウルフリンです。神龍様……クライルヴァード様からカズナリ様とのお取引のお話をいただき、感謝しております」


 彼は強い力でがっしりと俺と握手した。

 声は震えてはいるが眼は泳いでいないので、怖がっているだけではなさそうだ。

 そうでないと森には来れないか。


 ちなみに俺の後ろには村人総勢が集まっていた。

 エリシア、ノルデース、クラッヘ、エルダーアラクネ、ハイエルフ、ハイドワーフ、大蜘蛛、アントケンタウロス、キュバス、有翼族、ノーマルアラクネ、スライム、ボウショクヤケイにグレートワイバーンにと、とにかく集まれる者総てが集結している。


 震えているのは、彼はその迫力に気圧されてるのかもだ。

 まあ、確かに構図だけ見れば、数で押す軍団と単身との顔合わせだからな。

 人質みたいに怖がってしまうのもむべなるかな。


 流石にその状態で話はしにくいので、エリシアとノルデース、クラッヘとクライルヴァード、ハイエルフリーダーのサラチ、有翼族リーダーのシュリン、エルダーアラクネリーダーのレメといった主なメンバーだけ連れて、ウルフリンを屋敷に案内した。

 シュリンとドラゴン組を除けば、直接会話ができる中で、この村の黎明期から頑張ってくれるメンバーだ。

 シュリンは実務・書類担当。

 ドラゴン衆は保証人ポジション。

 基本的に今後交渉は、ドラゴンを除けば今後はこのメンバーでやりたいと思っている。

 俺の代理人も基本この中から出すことになるだろう。


「まずはご挨拶代わりといたしまして」


 ウルフリンはそう言ってうやうやしく、懐から袋を取り出して交渉用のテーブルに置いた。

 ぢゃら、という重い音が鳴った。


「中身を拝見しても?」

「どうぞ」


 見ると、キラキラと光る金貨がごっそりと詰まっていた。


「このお金は?」

「手付金と、クライルヴァード様から渡された作物の代金ですね」

「サンプル品で無料で差し上げるつもりだったので、必要なかったと思うのですけど」

「いえいえ、複数人の手付金も含んでおりますし、あの作物にこちらが何も用意できないのでは、こちらの沽券に関わりますので」

「そうですか。いくつか持たせましたが、気に入ったものはありましたか?」

「総て、ですね。いずれも口に入れた瞬間に、電撃が奔りました。これはどこにもない商品だ、と確信しました」

「褒めすぎのような気もしますが」

「褒めすぎても何ら価値の落ちるものではありません。それほどのものだと私は思っております」

「ありがとうございます。で、どれくらいお取引できるかの相談なのですが」

「全量、私の信用において引き受けましょう」

「こちらからは量をまだ示しておりませんが」

「そちらの可能な限り、全部引き受けます。そして全量そちらの言い値で取引したいと思います」

「私どもに有利すぎる内容のように思いますが」

「その有利を全部呑み込んでもなお、こちらに利があるものだと思っております。それほどのものです」

「高値で取引できるものだとお思いですか」

「できますね。私どものネットワークを駆使してでも全量それ以上の高値で売りきれます。これは嘘いつわりのない確証です」

「では、最初ですので、倉庫1つ分を。その後、こちらで出せる分を逐次調整して、そちらも必要な量を計算して、今後徐々に取引量を増やしていく形で」

「ありがとうございます。代金の支払いは、今の手持ちがさきほどお渡しした金額だけになりますので、後日支払いになりますが、よろしいですね。書面は別に用意しております」

「基本的に信用取引でやりましょう。後払いで結構ですよ。売れた中から私どもに渡せる分をお渡しください」

「ありがとうございます。こちらの信用にかけて、確実に支払いは履行したいと思います、遅滞なく」

「急ぐ必要はありませんが」

「こちらが急ぎたいですね。売る前から売れることは分かっておりますので、先に金額を要求されても構いません。他に商品が行くのは行くほど損失だと思っておりますので」

「さいですか。では、現状がシュリン(こちら)に持たせたものになりますので、後は項目ごとに取引内容を決めていきましょう」


 ウルフリンとの交渉は昼から始まったが、夕闇のとばりが降りてもなかなか終わらず、総てが終結したのは夜半になってからのことだった。


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