第89話 破壊帝
ブレスを放ち終わった直後、空を舞っているドレイクへ向けて黒煙の中から主砲が放たれた。
「ドレイクっ! 避けろぉぉ!!」
気が付くと俺は念話をするというのも頭から吹き飛ぶほど焦りながら、自分でも驚くほどの大声を張り上げていた。
時間がゆっくりと流れているように見える。
ドレイクは咄嗟に氷の壁を作りつつ回避行動をするも、主砲から放たれるエネルギーの塊が左の翼に当たり墜落していく。
≪ドレイク、帰還転移だ! キヌも帰還してドレイクの治療にあたってくれ!≫
≪ぐっ、兄貴っ! ま、まだいけるっす! 俺に任せてください!≫
俺は念話で指示を出しながら、どうするべきかを思案する。あの主砲が当たったとなればドレイクであってもタダでは済んでいないはずだ。
しかしドレイクは、砂埃を上げながら地面に着地し、その身体からは青白く輝くオーラを放出させ、身体の青い模様も強い光を放っている。
【雲蒸竜変】のスキルを発動させたのだろう。逆に言うとこれまでのブレスは、バフスキルの二重掛けをせず放っていたということだ……
そして、その口腔には既にエネルギーの塊が溜められていた。
大きなダメージを負いながらも最後の1隻を破壊しようとする気迫が遠目から見ても伝わってくる。
数秒の後、ドレイクは飛んでいる最後の飛空戦艇に顔を向け、極大のブレスを放った。
そのブレスは、今までに見たどのブレスとも異なり、莫大なエネルギーだけでなく、氷と風両方の魔力が内包されている。
ドレイクから一直線に放たれたドラゴンブレスは、轟音を轟かせながら、飛空戦艇を光の奔流へと吞み込む。
空気が震えるほどの爆音と、思わず目を背けるほどの大爆発で、爆風が街中に吹き荒れる。
ブレスが収まると飛空戦艇は原型が留まらないほどバラバラになりながら中央広場へと落下していった。
ドレイクが移動しながら位置の調整を行っていたためか、幸い王城やコロシアムにはその破片は落下しておらず、街の住民が全員避難出来ているのであれば、人的被害は極少に抑えられたのではないだろうか。
『ギャルロロォォォォ!!!!』
勝鬨を上げる咆哮の直後、ドレイクの近くにあった建物が崩れ落ちると、大きな砂埃がまき上がりドレイクの姿を完全に隠してしまう。
コロシアム内の民衆は震えながら恐怖や不安の表情で固唾をのんでモニターを見ていたようだが、ドレイクの咆哮でその雰囲気は一転し、驚愕・歓喜・興奮の声色へと変わる。
そして、コロシアム内の雰囲気に背中を押されるように、マイケルのアナウンスが街中へと流れた。
『ド、ドレイクの放ったブレスが3隻の巨大な魔導飛空戦艇を全て破壊し尽くしたぁぁぁぁ!!!
見たか、イブルディア帝国っ!
空の覇者はこの男っ!! 【破壊帝】ドレイクだ!!』
コロシアム内だけでなく、王城の方からも驚愕と喜びの声が聞こえてくる。
だが、俺達は喜んでいる場合ではない。
俺とネルフィーは闘技場の壁から外へ飛び降り、ドレイクが居たであろう場所へ駆けつけた。
そして無我夢中で瓦礫を投げ飛ばしていくと、外壁の隙間に重度の火傷を負ったドレイクが人型の姿で倒れていた。
「ドレイク、大丈夫か!?」
「……うっす、すんません。掠っただけかと思ったっすけど、結構ダメージ食らってました……」
「いや、良くやった! とりあえずこのポーション飲めるか?」
≪キヌ、シンク、出来るだけ早くアルラインダンジョンに帰還転移してくれ≫
≪ん。もう待機してる≫
「ドレイクとネルフィーはアルラインダンジョンに今すぐ帰還転移だ。ドレイクは治療を済ませて、しっかり休んどけ。ネルフィーもドレイクを頼んだ。戦争は俺とシンクが何とかしとく」
「ういっす。兄貴、あとは任せたっす」
「うむ。ドレイクの事は任せておけ」
そう言うと、二人は帰還転移をしていった。
あとは国境付近の地上戦だけ……
大切な仲間を傷つけられたんだ。帝国軍……マジで許さねぇ。
怒りに支配されそうになる思考を無理やり抑え込み、ルザルクに戦況報告と状況整理のため連絡を入れる。
『ルザルク、阿吽だ。ドレイクがアルラインに来ている全ての魔導飛空戦艇を撃墜した。
街は半壊しているが人的被害は極少に抑えられたと思う。
だが、ドレイクが敵の主砲で負傷した。ここからは、俺とシンクの二人が戦場へ向かう』
『分かった。こちらの戦況は拮抗しているが、魔導飛空戦艇が全機撃墜されたのなら、圧倒的にこちらが有利になったと言える』
『……できるだけ早く向かう』
ルザルクとの通信を切り、シンクに念話をしながらアルラインダンジョンの出口へと向かう。
シンクはすでにダンジョン出口で待機しているらしい。
シンクと合流すると、その表情は今までに見たことが無いほどに怒りで歪んでいる。ここに来る前にドレイクの負傷を見たのだろう……
その気持ちは自分の事のように理解できる。
イブルディア帝国軍は、一方的に戦争を仕掛け、街に向けて主砲を発射しただけでなく、俺達の大切な仲間にケガを負わせた。
考えるだけでもはらわたが煮えくり返る。
怒りでどうにかなっちまいそうだ……
「阿吽様、わたくしは……戦場へ出たら、自分を抑えられそうにありません……」
「あぁ、俺もだ。だが、味方を巻き込まないようにだけは注意しろ。それ以外は……何をやっても構わねぇ」
「わかりました」
戦場となっている国境付近へと到着し、ルザルクに味方を後退させるように伝える。頭の中は怒り以外の感情はなく、どうやってルザルクの元まで来たのかすら覚えていない。
この怒りをぶつけなければ、おかしくなってしまいそうなくらいには、俺たちの頭は沸騰している。
隣を見るとシンクの目は血走っており、怒りの感情を隠しきれていない。
「……阿吽様、まだでしょうか……早くあのクソ虫どもを叩き潰す御指示を」
俺自身、今すぐにでも暴れ出したいところだが、今すぐソレをすれば味方も巻き込む……
怒りで沸き立っている頭だが、微かに残っている理性が何とか仕事をする。
「もう少しだ。我慢しろシンク」
ルザルクの方を見ると、表情は崩していないものの額から汗が滴り落ちている。
俺とシンクがブチギレているのが伝わっているんだろう。
その雰囲気を察知してか、通常ではあり得ない有利な場面での自軍後退の指示をレジェンダに伝える。俺達の攻撃で巻き添えを食らわないよう最善を尽くしてくれているのだろう。
それを受けたレジェンダも、すぐさま各部隊長へ向けて指示を飛ばしていた。
「シンク、お前は左に回り込んで待機だ。俺は右から殲滅していく。ルザルクは音声拡張型魔導具で指示をくれ。俺もシンクも、もう長くは我慢できんぞ」
「あ、あぁ。分かった……でも皆殺しだけはダメだ。捕虜も必要なんだから……
あと最後通牒だけはさせてくれ」
「約束はできんが……善処する。10分で何とかしてくれ」
そう言うと、俺とシンクは左右に分かれルザルクからの指示を待つ。
数分後、ルザルクからイブルディア帝国軍に向けて音声拡張型魔導具での最後通牒が行われた。
『イブルディア帝国軍へ告ぐ。私はアルト王国第二王子、ルザルク・アルトだ。
そちらの魔導飛空戦艇は、既に8隻全てを撃墜した。
さらに、この戦場にアルト王国の最高戦力のうち2人が到着している。
これ以上の闘いは無意味であると思うが、撤退しないのであれば、こちらも手加減はしない。
ここから先は……本当に引くことをお勧めする。……返答がない場合、10分後に攻撃を再開する。以上だ』
両軍からは喧騒が聞こえてくる。
イブルディアの軍隊は隊列を立て直してはいるものの、撤退の動きは見せていない。
そして、返答を待っているこの10分間がクソほど長く感じる。
くそっ、再開まであと何分だ!!
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