第318話 優勝候補
~阿吽視点~
「まずは知っておくべきでしょう。今年の優勝候補達を……」
「優勝候補って、街中で噂になってた奴等か?」
そう言いながら大会要綱が書かれた木板から目を離す。
周囲を見回せば、受付を終えた武人達が思い思いに仲間と話し、武器の手入れをし、静かに闘志を燃やしていた。
当然のことながら、ここに居る全員誰もが勝つために来ている。己こそが最強と信じて疑わない者たちの集まりだ。
そんな中でも頭一つ抜きん出ている者たち……優勝候補とはそんな奴等なのだろう。
「これまでの実績もありますからね。今ここにも数名おりますよ」
そう言うと禅は一際大きな体躯の人物へと目を向けた。
「まず一人目は鬼瓦 岩鉄。徒手空拳の最大流派【鬼瓦流】現当主です」
徒手空拳、つまり武器を持たず己の身一つで戦う者たち。その流派の当主か……。
「武京では"剛"を極めし流派として知られております」
「剛?」
「力を受け止め、力でねじ伏せる。“全身凶器”と言ったところでしょうか」
禅は拳を軽く握り、続けた。
「その恵まれた体格やステータスから繰り出される圧倒的な攻撃力。それだけではなく、防御から攻撃へと転じる技術にも長けており、真っ向から崩すのは極めて困難でしょう。去年もベスト8まで勝ち進んでおります」
「なるほど。ナチュラルなパワーファイターか」
「ですが、決して鈍重ではありません。」
「へぇ?」
「武京には"力任せ"という言葉を嫌う者が多いのです。力を扱う者ほど技を磨く。その最たるものが鬼瓦流ですね」
ちょっと楽しそうだ。
真正面から殴り合ってくれる奴は嫌いじゃない。
ってか、単純に俺も入門してみたい。
「二人目は?」
「風早 朔夜。武京屈指の居合流派【風早流】の継承者です」
そう言って目を向けた先に居るのは腰に刀を携えた細身の女性だった。
「おぉ!? 居合ってことは……」
「えぇ。阿吽もよく使っている技術ですね。ただ、阿吽の居合とは恐らく考え方が違います」
そう言いながら禅は人差し指を立てる。
「風早流は『初太刀こそ最強』という思想を持つ流派です」
「ほぉ? 一撃で終わらせるってことか?」
「えぇ。抜いた瞬間には勝負が終わっていることがほとんどです。さらに、朔夜さんは全く同じ構えから様々な技を繰り出してきます。つまり“後の先――”、簡単に言うと……相手の行動を見てからじゃんけんの手を変えられるってわけです」
なるほど。
確かに俺とは似ているようで違う。
俺の場合は、居合を一つの技として使う事が多く、戦いながら最適解を探す。
もちろんそれで仕留めるつもりで刀を抜くが、防がれた場合の次の手も考えている。だが、風早流は二の太刀を考えない、最初から終わらせに来るタイプだ。そして居合に特化しているという事は、その技術だけならば俺を凌ぐと考えた方が良い。
「ちなみに去年は?」
「ベスト4ですね」
「十分化け物じゃねぇか。」
「えぇ。しかも17歳という若さを考えれば、昨年よりも強くなっている事は明白でしょう」
禅は淀みなくそう言い切り、視線を俺へと戻した。
「三人目、霧隠 佐助。【四季彩】黒冬様の一番弟子ですね」
「街中でも噂になってたな。忍者ってやつなんか?」
「はい。霧隠一門は、どこに里があるのかなどの情報は一切伏せられております。分かっているのは名前と、“忍”という考え方くらいでしょうか」
「武京に於ける斥候集団ってトコか? ネルフィーのような戦い方をするイメージをしてるんだが」
「そうですね。斥候、暗殺が主たる仕事です。そのため、正面から勝つ流派ではありません。勝つべくして勝つ流派です」
「勝つべくして、勝つ?」
「えぇ。修羅咲祭、その予選は霧隠 佐助が一番有利でしょうね。“ただ相手から奪えばいい”だけなんですから。真っ向から勝負する必要などないわけです」
「あー、確かにそうか。ネルフィーがこの予選を戦うって考えたら確かに有利だわなー」
「ただ、真っ向勝負が弱いというわけではありません。実際、黒冬様の武は武京でも一二を争うと言われている程です」
ヤバい。聞けば聞くほど戦いたい奴が増えていく。
このうちの何人とは戦えないってのが残念でならないが……ん?
(あ、そっか。予選は出場者全員で乱戦なんだから、見つけ次第喧嘩売れば問題ねぇじゃん)
そんな事を考えていると、禅は一度大きく息を吐き一拍置いて口を開いた。
「そして最後、――鬼灯 烈真」
その名を聞いた瞬間、近くに居た数人の目は自然とこちらに向けられた。
「……有名なのか?」
「有名、という言葉では足りませんね」
禅は静かに笑う。
「今年の優勝最有力候補と言われております」
「なるほどね」
「鬼灯家は代々武京を支えてきた名門。武京統一以前から続く武家であり、多くの将や剣豪を輩出してきました」
「歴史ある家系ってわけな」
「えぇ。そして烈真様は、その歴代でも最高傑作と評されています」
「最高傑作?」
「十六歳で武人として頭角を現し始め、二十三歳で修羅咲祭を優勝」
「は?」
「その年に奈落迦迷宮に挑戦をして、生還しております」
奈落迦……、最難関と言われるダンジョンだ。
踏破者は二人しかいないって話だったよな。
「生還って言ってたけど、踏破はしていないんだな?」
「えぇ。ですが奈落迦迷宮は、生還するだけでも英雄と称えられますからね」
それほどに難しいダンジョンって訳か。
「その後も修羅咲祭には二度出場しています」
「その二回の結果は? 優勝したのか?」
「いえ。二度とも決勝にて【四季彩】のメンバーに敗れたと聞きます。そして今年は数年ぶりに万全の状態で修羅咲祭への参加をしているそうですよ」
だから最有力候補。
そういうことか。
「あれ? そう言えば、今年も【四季彩】は出るんだよな? 優勝候補に名前が挙がってなかったけど……」
俺がそう尋ねると、禅は少しだけ目を細めた。
「今年、四季彩は四人とも不参加です」
「全員?」
「はい。もちろん将軍様も観戦されるので、護衛として2名は同行されると思います」
その答えに周囲の武人も小さく頷く。
どうやら有名な話らしい。
「理由は?」
「将軍直々の勅命と言われております。現在、何らかの任務に就いているのではないでしょうか」
「修羅咲祭より優先する仕事か」
「理由までは公表されておりませんが……、【四季彩】はそもそも将軍様直属の部隊。そちらを優先させるのは当然の事ではあります」
「つっても、何かが武京で起こってるって事になるんか?」
「そこは……私にも分かりません」
短い沈黙。
何となく胸の奥がざわつく。
嫌な予感というほどではない。
ただ。
何かが動いている。
そんな感覚だけが残った。
「まぁ、それは今考えても仕方ありません。話を戻しましょう」
禅は空気を切り替えるように微笑んだ。
「今挙げた候補の中では、鬼灯 烈真殿が最も注意しなければならない人物と考えております」
「そんなにか?」
「えぇ」
禅は迷いなく断言した。
「仮に今年、四季彩のお一人が出場されていたとしても、優勝候補筆頭は鬼灯烈真様だったでしょう」
その言葉に、周囲にいた武人達まで誰一人異論を挟まなかった。
つまり、それほどの実力者という事なのだろう。
「面白ぇ。ソイツとは真っ向勝負をしてみたいな」
「皆そう思っています。そのためにも、予選は確実に勝ち上がらなければならないですね」
思わず口角が上がる。
俺より強い奴が居る。
そう考えるだけで血が騒ぐ。
――まだ見ぬ強者。
そいつらを超えるために、俺はこの武京という国へ来たのだから。
次話は7/17(金)投稿予定です♪




