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「魔物になったので、ダンジョンコア食ってみた!」 ~騙されて、殺されたらゾンビになりましたが、進化しまくって無双しようと思います~【書籍化&コミカライズ】  作者: 幸運ピエロ
第11章 修羅咲ク都 武京編

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第308話 鍛刀②

 

~二代目 國光視点~


 真っ赤に熱を帯びた白鵺丸を金床へと据え、その中心へ槌を振り下ろす。

 想像以上に甲高く響いた一打目、それは新たな生を受けた赤子の産声のようやった。


(――絶対に殺さん。また“白鵺丸”として生まれ変わらせてやるからな)


 十数回槌で叩き、また炉に戻していく。

 強い部分は残し、余分は削る。


 強く。

 より強く。


 それを何度も繰り返すうち、土台となる形が成形されていき、これが新たな刀の芯となる部分となる。

 それは、新たな刀の魂。


 続いて、その土台となる白鵺丸の上にヒヒイロカネを乗せ、炉へ入れ炭で蓋をする。

 (ふいご)で空気を送り込むと、火の色が変わりはじめてきた。

 白と金そして紅が交差する炎。初めて見る幻想的な色彩に思わず見惚れ、一瞬時間が止まった感覚に陥った。


 肌を刺す熱でふと我に返る。

 空気を押し潰すほどの圧倒的熱量は、息を吸うと肺が焼けるよう。その中に、微かに甘い香りが混じりだした。

 深く吸い込みたいと思わせる蠱惑(こわく)的な芳香が充満し始めるが、集中を途切れさせるわけにはいかない。


 この鉱石は五感で鍛冶師を誘惑してきやがる。

 それを乗り越える事ができる者だけが本物だと言わんばかりに。


 そのうち溶けたヒヒイロカネと芯が一つになり始めていく。


「ええ頃合いやな」


 ――カン!!


 最初の一撃。

 返ってくる感触が、普通の鋼とは全く違う。

 骨の髄に響く振動から、『もっと打て』『もっと寄越せ』『お前の力はそんなものか』という鼓舞すら聞こえる。


「上等や」


 歯の間から、息が漏れる。


 打つ。

 打つ。

 打つ。


 滴り落ちてくる汗をぬぐいつつ、熱された刀に藁を付け、粘土水をかけ、再び炉に入れる。

 その工程を繰り返す毎に、ヒヒイロカネと白鵺丸は、高温の中で一体となっていく。


 バチバチと激しく音を立てて舞う火花は、さながら夜空に咲く大輪の花火。

 その光の中で橙に輝く金属は、炎の中で進化を繰り返していく魔物のようだった。


「我ながら、“白鵺(・・)丸”とはよぅ名付けたもんやな」


 金床に上げ槌を打ち、引き延ばした金属を何度も何度も折りたたむ。

 幾層にも重ねるごとに刀は強度を増し、硬く、しなやかになっていく。


 ――カン、カンッ。


 視界が炎と溶けた金属の赤に染まる中、振り下ろした槌の音と振動、飛び散る火花の熱は間違いなく自分の身体に跳ね返ってくる。


 それは今までに聞いたどんな音よりも激しく、どんな景色よりも鮮やかだった。


 どれだけ時間が経ったかは曖昧だが……そんなもんは、とうにどうでもようなっとった。

 ただ、この工程の一つ一つを、極限まで集中しとる今のまま完遂させたい。


(……まだや)


 もう少し、まだ数歩、こいつは鍛えられる。


 まだ浅い。

 まだ届かん。

 この鋼は、こんなもんやない。

 もっと奥がある。

 もっと、

 もっと、もっと――


「……ここか」


 素材が限界を迎えるギリギリ、鍛造の限界点。

 その一線が見え、最後の一打を振り下ろす。


「これがお前の望んだ形か……。だいぶデカくなったのぉ」


 太刀を越えて大太刀の部類や。取り回しは以前よりかなり難しくなるが、核にした白鵺丸が望んだ形ってことは、これが阿吽にとっての正解なんやろう。


 もう一度炉で熱し直し、汲んできた井戸水の中に入れる。

 ジュゥーという鋼の冷める音と共に蒸気が爆ぜ、白色が視界を覆った。

 その数秒後、耳鳴りがするほどの静寂が訪れ、ゆっくりと水から引き上げる。


 次いで、焼き刃土を刀身に塗り、再度焼き入れ、冷ますことで刃文を付けて行く。

 そうする事で刀全体の硬度と靭性が保たれ、衝撃を吸収する役割を担ってくれるのだが……、


「こいつ……本当に、何から何まで……」


 水から取り出してみると、綺麗な()の目が現れていた。


 静かな波打ち際のような揺らぎ。それでいて確かに息づく(あやかし)のような模様。

 見惚れるほどの美しさや。

 この手にあるのは、もうただの鋼やない。


「……あとは、最後の作業工程である砥ぎだけか」


 安心感と名残惜しさが同時に心中を駆け巡るが、ここから先も集中は途切れさせるわけにはいかない。

 砥石に運び、静かに刃を当てる。


 ――シャリ。


 金属と砥石が織りなす一音目。

 それは、さっきまでの火祭が夢だったかのような、静かで穏やかな音だった。


「こいつを研ぐのに、余計な力はいらんな」


 ただ自分の感覚を信じ、一研ぎ一研ぎ丁寧に通すだけ。

 鋼の声を指で拾うたび、指腹から伝わる甘美な刺激。

 研げば研ぐほどに澄んでいく輪郭。

 押せば押すほど浮かび上がっていく刃文。


 この数時間で、こいつは色んな表情を見せてくる。

 扱いにくい程の激しい感情を見せたかと思えば、物静かで魅惑的な一面を覗かせる。

 それでいて、底知れん包容力すら伺える。


(……ホンマ、最高の(オンナ)やな)


 そうして短く、息を吐く。

 しばらく呼吸すら忘れていたかもしれない。


「……完成、やな」


 冷静になって、改めて思う。

 わしは……、とんでもないモノを生み出してしまったと。


(斬ってみたいと思った事はあるが……、斬られてみたい(・・・・・・・)と思ったのは――初めてや)


 炉の残り火を受けて輝く刀身は、静かにそこに在るだけで、周囲の空気を支配していた。

 銀とも赤ともつかぬその光は、見る角度によって微かに色を変え、まるで呼吸するように明滅している。

 刃文に浮かぶ()の目は、ただの波ではなく――生き物の鼓動にすら感じさせる。


「……お前、これで良かったんやな?」


 ぽつりと呟く。

 返事などあるはずもない。

 ――なのに。

 確かに“応えた”気がした。


 握りに手を掛けた瞬間、指先から伝わるのは冷たさでも、温もりでもない。

 これは、“意志”。


「阿吽……」


 あの小生意気な若造の顔が、脳裏に浮かぶ。

 無茶苦茶で、型破りで、誰よりも“自由”に振る舞う男。

 この刀は、間違いなくあいつを選んどる。

 ならば……、


「――使いこなしてみせぇや」


 小さく笑い、刀を鞘に収める。

 カチリ、とその音がやけに重く響いた。

 それはまるで、何かが切り替わったような――

 あるいは、封じたような。

 どちらとも取れる、曖昧な音だった。


 鍛冶場に残る熱も、匂いも、音も。

 すべてがゆっくりと引いていく中で、ただ一つ。

 大太刀だけが、そこに在り続けている。


「完成……、いや――ここからが、“始まり”か」


 窓の外に目をやると、空には一際強く輝く星が瞬いていた。

 それは(そら)の闇すら吸い寄せるほどに、強い存在感を放っている。


「この大太刀の銘は――『白鵺丸(しろぬえまる) 星廻(せいかい)』や」


 (まわ)り、(めぐ)る、この星で――

 阿吽と白鵺丸が、どんな物語を綴るのか。


 残りの人生、刀匠として一番近くで読ませてもらうのも……悪くないかもな。

 


どうも、幸運ピエロっす!

プロット調整等の兼ね合いで1週お休みを頂きます!

次話は5/1(金)投稿予定です♪

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