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「魔物になったので、ダンジョンコア食ってみた!」 ~騙されて、殺されたらゾンビになりましたが、進化しまくって無双しようと思います~【書籍化&コミカライズ】  作者: 幸運ピエロ
第11章 修羅咲ク都 武京編

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第296話 入門

 

 禅との話が一段落したところで、今まで沈黙を貫いていた宗次が、意を決したように口を開いた。


「あ、あのっ! オレ、この水月道場に入門したくてっ!!」


 思い切りのいい声だった。

 その言葉に、禅は即答せず、静かに俺とキヌへ視線を移す。


 禅の顔には『え? 従者じゃないの?』――とでも言いたげな戸惑いが、そのまま出ていた。


「こいつは宗次って言ってな。この街へ来る途中、鎌鼬に襲われてたところを助けたんだ。俺たちが道場の場所を知らなかったから、案内を頼んでただけでさ」


「なるほど……」


 禅は宗次へと向き直る。


「宗次くん。剣を触ったことはありますか?」


「あ、えっと……、木刀なら……!」


「では、構えてみてください」


 促され、宗次は慌てて立ち上がり、腰に差していた木刀を抜いた。

 ぎこちない動き。構えも決して洗練されてはいない。

 誰かの真似事で木刀を握っている――そんな印象だ。


 だが。宗次の視線は、確かに“何か”を見据えていた。

 おそらく、道中で命を脅かされた魔物、“鎌鼬”。

 恐怖の記憶と、それでも立ち向かおうとした意思が、そこには残っている。


「……悪くない目ですね」


 禅は小さく頷いた。


「良いでしょう」


「……え?」


 宗次が目を丸くする。


「あ、あの……それって……?」


「入門、という意味です」


 あまりにもあっさりした一言。

 宗次の思考が、一拍遅れて動き出した。


「し、試験とか……ないんですか……?」


「水月道場では、“剣を学びたい”という意志そのものを拒みません。故に、入門のための特別な試験はありません」


 宗次の顔が、一気に明るくなる。


「……ただし」


 その空気を切り裂くように、禅は続けた。


「ここに残れるかどうかは、別の話です。剣は、生半可な覚悟で続けられるものではありません」


「……はいっ!」


 それでも、宗次は即座に頷いた。

 逃げ道を与えられた上で、それでも前に進むと決めた声だった。


「今日から君は、水月道場の門下です」


 一瞬の沈黙。

 そして宗次は、勢いよく頭を下げた。


「よ、よろしくお願いします!!」


 畳に額が付きそうなほどの深い礼。

 その姿を見て、禅はほんの僅かに口元を緩めた。


 やがて宗次は、道場の者に連れられて下がっていく。

 部屋を出る直前、振り返ってこちらへ満面の笑みを向けた。


(――良かったな)


 剣を志す場所を得た少年の背中は、ここに来る前よりも少しだけ大きく見えた。



 ◇  ◇  ◇  ◇



 翌朝。

 水月道場で一泊させてもらった俺たちは、再び昨日の和室へ通された。

 そこには、すでに一人の男が待っていた。


 年の頃は五十を少し過ぎたあたり。

 無精髭を生やし、腰には年季の入った槌袋。

 武人でも商人でもない――土と火の匂いを纏った、鍛冶師特有の佇まいだ。


「……禅様。ご依頼の剣、仕上がりました」


 男はそう言って、布に包まれた一振りを差し出す。

 禅はそれを受け取ると、丁寧に布を解き、鞘から剣身を抜いた。


 水の魔剣。

 序列戦で、キヌと相対した際に使われていた一振りだ。

 光を受けて静かに輝くその剣身から、この鍛冶師が一流であることが分かる。


「さすが孫呂久(まごろく)です。いつも通り、完璧な仕事ですね」


「恐れ入ります」


 孫呂久と呼ばれる鍛冶師は一礼し――そして、視線を上げた。


「……禅様、この方々は?」


「阿吽とキヌさん。私の友人であり、同士であり、ライバルです」


「ライバル……なるほど」


 そう頷いた孫呂久の視線が、ふと揺れる。

 そして、吸い寄せられるように――俺の横に置いてある白鵺丸へと向かう。


「……失礼」


 俺に対し一言断り、一歩近づく。

 だが、白鵺丸へと伸ばしかけた指は、途中でピタリと止まった。


 まるで……不用意に触れてはいけない、とでも言うように。


「……この太刀は……」


 続く言葉が出ない沈黙。

 そして孫呂久は深く息を吐き、静かに正座した。


「……阿吽殿。ご自身で引き抜いていただけますか」


「うん? いいけど……」


 普段通りに鞘から白鵺丸を抜く。

 ただ、武京に来る直前から感じていた、あのざらつく違和感は、まだ消えていなかった。


 白鵺丸を受け取った孫呂久は、(つば)()を丁寧に外し、(なかご)を確認する。


 ――『二代目 國光』。


 茎に刻まれた(めい)を見届けた後、静かに組み直すと孫呂久は重々しく口を開いた。


「……単刀直入に申し上げる」


 その声音は、職人としての覚悟を帯びていた。


「この刀、このまま使い続けるのは――危のうございます」

 


次話は2/6(金)投稿予定です♪

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