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「なんか、こう言ったらなんだけど、その嘘通用するのか? 朝から晩までなんて、普通ないだろ」
「大丈夫。俺が行ってる塾って、働いてる大人の人も行ったりしてて、塾っていうより予備校みたいな感じなので、自習室は二十四時間あいてる。だから前、本当に朝から三日くらいそこに篭って、勉強したことある」
「み、三日!? 三日家に帰らずに勉強してたのか!?」
「うん。お姉ちゃん、いい成績とると喜んでくれるし。だから、言い訳じゃないけど、サボったのは今日が初めて」
「普段は真面目なんだなあ……」
「そう。普段は真面目」
大介が胸を張ると、鯨は笑って「偉いじゃん」と言った。褒められたことが嬉しくて揚々と歩く大介に、鯨は歩幅を合わせた。
*
改札を抜けた大介は、ようやく見知った風景を目にして「あ」と声をあげる。
「ここ来たことある」
「いや、お前の地元だから」
とぼけた発言に素早くツッコミが入った。「ああそうか」と大介が納得すれば、鯨は「本ッ当に春日中学校なんだな?」なんて、本気の疑念をもって尋ねてきた。大介は「当たり前」と言ってから、またあたりを見渡して、「もう大丈夫」と続ける。
「ここまで来たら、一人で帰れる。ありがとうございました」
すると鯨は、「馬鹿」と言った。突然投げられた侮辱に、大介は目を丸くする。
「家まで送ってくよ」
「一人で帰れる」
「こんな夜道を中学生一人に歩かせられるわけねえだろ」
「そんなものか」
大介は納得して、「じゃあお願いします」と頭を下げる。そして、「あっち」と自宅のある方を指差した。どこまでものんびりした様子の大介に、鯨は溜息を吐いていた。
二人並んで夜道を歩く。大介にとっては、塾の通り道なので慣れたものだ。反対に、鯨の方はあまりここに来ることがないらしく、興味深そうにしている。
「田舎だから、あんまり見るものないと思う」
「いや、そこまで田舎じゃねえって。確かに施設とかはさほど多くないけど、別に一面たんぼばっかりってわけじゃないんだから。……それに、ここは治安も良さそうだしな」
「そうかな」
大介は改めて周囲を確認する。特別治安が良いようには見えない。むしろ、ほとんどの店が閉店してしまっているため、明かりが街灯しかなく、不気味な雰囲気すら持っているように思えた。鯨達の在中する交番がある、先程の場所の方が、よほど明るくて活気があるように感じる。
大介がそう言うと、鯨は「違うんだよ」と苦笑いした。
「そもそもあそこは、明るいのが間違ってンだ。夜には空いてちゃ駄目な店が開いてたり、水商売の店ばっかりだったり。夜は暗いのが普通なんだよ」
「そんなものか」
大介は答えた。適当な感想ではあったが、自分の地元の治安を褒められるのは素直にうれしいことだった。
「まあ、有名な進学校があるんだから、自然とそうなるのかもな」
言った鯨に、大介はまた「そんなものか」とのんきに答えた。「お前それしか言えないのか」と鯨が呆れる。
それから暫し歩いて、駅前通りを抜けると、住宅街に出た。洋風の一戸建てが、左右両側に立ち並んでいる。ほとんどカーテンがしまっていて、隙間から明かりが漏れていた。どこかから、幼子の笑い声がした。




