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第9話

 まるで殺気が爆発したかの様だった

 さっきまで無だったものが斧を構えた瞬間、爆発的に高まり、それを向けられていない筈のデランが戦慄を覚えるほどに凄まじかった。彼は漸くにしてS級超人の恐ろしさを知ることができた。


「お待ちください!」


 ソウガをめがけて今にも突進しようとするオーランを止めようとカルムが声を上げた。


「・・・なんダ?」


 斧を水平に薙ごうと振りかぶる体制からそのままと静止して、オーランの瞳だけが動いてカルムを見つめた。


「彼は、シィーが了承すれば我々に引き渡すと言っています。無用な争いは避けて彼女が目覚めるまでお待ち頂けませんか」


「・・・」


 カルムの説得を受けてオーランはその瞳だけを下に移動させ、しばらくの思考の後、今度はその瞳の焦点を目の前のソウガに合わせてきた。


「シィーが断ったら、オマエ、どうするつもりダ?」


 デラン以上に筋肉質なその体に相応しい低く重厚な声で、ソウガに質問を投げかけてきた。

 黙っていても相手を威圧してしまうかのような威容を備えた大男を目の前にして、ソウガは毅然としたまま明瞭に答えた


「その時は、彼女の信頼している男に預けるだけだ」


 不意を突かれ、手傷を負わされた事への憤りはなかった。今、オーランが出している殺気を感じた以上、先ほどの斧は彼なりの挨拶で、ただ物を投げてその存在を知らせただけに過ぎないと察したからだ。祖父以外に経験していない強者の出現に、ソウガは胸が高鳴り、傷の痛みも忘れて彼を観察する。

 身長は2m以上、体重も100は優に超えていそうだった。超重量の大斧を真力を使わずに軽々と振り回すあたりかなりの膂力の持ち主であることも伺える。また、明かりを持たずこの地下道内を走ってきたとしたら、それは野生動の物並みに優れた感覚の持ち主かもしれないと警戒を強める。殺気を自在に操れるあたり、相当の闘いの場数を踏んでいるに違いない。

 〈フェイを庇いながら戦ってたら殺られるな・・・いまは逃げるしかないか〉

 観察した結果、内心でそう決断しつつ大男の反応を待った。


「ワレワレがそれを許すと思うのカ?」


「・・・それを問う意味はあるのか?」


「!?」


「押し通る!」


 さっきのお返しとばかりにオーランの意表を突く回答をして、そこに刹那の不意を生じさせることに成功する。それだけで十分だった。ソウガは左手に真力剣を発動させ、それが完全に形成される前から横に薙いだ。

【秘技-楯無斬】

 オーランは咄嗟に大斧でそれを受けようと構えるも、ソウガの繰り出す光の刃が未形成であったため、すり抜けてしまうと感じて、右半身から引く形で体を捻りつつソウガから見て右に大きく飛んで回避しようとする、その両手から大斧は消えて自らとともに空中を移動しており、かわりに腰に下げてある投擲斧2丁が投げ放たれていた。

 しかし、それが届く頃には標的は既にそこには居なくなっていて、今さっきまで自分が立っていた所を通過して一直線に地下道を駆け抜けていった。

 オーランは最後の投擲斧を投げようとしたが、それより早くソウガが真力剣を伸ばして地下道の天井に向かって振い、それを崩壊させていたため、追撃を断念し崩れ落ちる瓦礫越しに走り去るその背後を見送った。


「逃げやがった・・・」


 一部始終を傍観していたデランが呟いたその言葉も、崩壊する地下道の音に掻き消されてしまった。

 デランとカルムは茫然としていたが、オーランは近くの壁に食い込んである投擲斧を掴むと、軽々と引っこ抜いてその刃先を見た。


「それは!?」


「なっ、いつの間に!?」


 それに気がついたカルムと、知らぬ間にオーランが斧を投擲していたことに驚いたデランが我に返って声を上げる。


「ヤツが逃げると感じて、あの光(真力剣)を躱すときに予め放っておいた・・・どうやら当りだったようだナ」


 斧の刃先にはべっとりと血の痕がついていた。


「彼らの音は記憶しています。追いますか?」


 当たりだったと言いながらも何故か残念そうに斧を見つめているオーランに、カルムが声をかけた。


「何言ってやがんだカルム。相手は手負いだぜ?聞くまでもねえことだろ!」


 それに応えたのはデランで、真力を両腕に纏わせて今にも瓦礫を吹き飛ばそうとした。


「いや・・・一度地上に戻ル」


「はあ?」


 オーランの予想外の言葉に、デランが立場も弁えない反応を取る


「どうしてでございますか?」


 一瞬、デランを睨みつけたあと、カルムがオーランにその理由を問うた。


「嫌な予感がする・・・何か禍々しいものが近づいていル・・」


 そう言ってS級超人は遠くを見るように何もない天井を見つめた。


「予感がするって・・・それだけでせっかくのチャンスを」


「デランっ、いい加減にして!オーラン様、先程から連れが無礼を働き申し訳ありません!!」


「かまわない・・・オマエたちはどうすル?」


 必死に謝るカルムに、

 そんなことは気にしていないといった風のS級超人は、二人にこれからを問うた。


「私は残ります。」


「カルムが残るなら護衛の俺も残るしかねえな!」


 何やら嬉しげにそう言うデランを見て、〈どうせ、オーラン様が居なくなるから良かったと思っているに違いない〉と内心で思ったカルムは、この世間知らずで単純な筋肉バカを懲らしめるべく、その希望の芽を摘み取ることにした。


「どうせさっきの子には敵わないでしょ?それに彼は話せば分かる相手だから暴力は邪魔なだけなの。だから、デラン、あなたの護衛は要らないわ」


「なっ!」


「そうか・・・ならばここは任せたゾ・・・」


 そう言ってオーランは体により強い緑光を纏わせると直立になって、俯きつつ胸の前で両手を組んで祈る体勢を取った。すると、オーランが纏っている緑光は、まるで煙のように宙を漂いながら埋まってしまった通路の瓦礫に注がれ。


 次の瞬間


 -ポン、ポンポンポンポン-


 っと、たくさんの植物の芽が一斉に出たかと思いきや、急激に伸びだし、その根は瓦礫を割り土砂を穿って瞬く間に根と蔓でできたトンネルを形成させた。処々に淡く発光する白い小さな花咲いていて、チャーミングな仕上がりを醸し出している


「わあっ・・・」


 無機質なもので埋まった地下通路が蔓のトンネルというメルヘンチックな光景に変わったのを見たカルムから感嘆の声が出る。


「またナ・・・」


 少し照れた感じで別れを告げたオーランは、カルムに拒絶されたからか、或いはS級超人の不可解な能力を目撃してからか、絶句したまま立ち尽くすデランの頭をむんずと掴むと爆風を起こして消えたかのように走り去った。後には凄まじいデランの絶叫が残され、カルムはその声を遮断してようやく一息つき、少し罪悪感に悩まされながら呟いた。


「あいつもこれで懲りるといいけど・・・」


 不滅の魂に入った時からずっとあんな感じだった。第一印象から気分屋で向こう見ずなトラブルメーカー。研修生の時からよくタッグを組むことがあったが、実力者と見ると時と場所も考えずに無理やりにでも勝負を挑み、敗れても懲りずに勝つまで挑む、ほんとに関わるとロクなことがない。しかし、それだけに力だけは研修生の中でもずば抜けてあった。そして、自らを鍛え自分の信じた技を磨くことに情熱を注いでいた。負けても負けても立ち上がり勝つまで負ける。その心身の強靭さと強運をそなえた彼は、世界を知ればもっと伸びるに違いない、ある程度、成長の限界に達している自分とは違ってそんなデランが妬ましくもあり羨ましくもあり、その破滅的な彼の性格故か、心配でどうしても気になる存在でもあった。


「ま、大丈夫よね」


 デランの強運を信じて、今は自分の役目を果たすことに決めたカルムは、まるで不思議の国へ行けるかのような植物のトンネルへと入って行った。





 薄暗いのはこの室内で今、モニターが作動しているからだろう。室内には男が一人、モニターに向かってその巨躯を膝から折って両手とともに地につけ、這い蹲っている。


 土下座だ


 そのモニターの先には、その男に比して小柄で痩身の男がいて、色眼鏡を掛けているけれども分かる程に顔を歪ませた、嘲りに近い笑いを浮かべている。

 二人共、世界政府の関係者だとひと目でわかる制服を着用しているが、モニターに映る方は、制服の上に竜の刺繍が入った赤い衣を羽織っており、知る人が見れば、こいつは皇帝でも気取ったつもりかとその傲慢と不遜さに呆れるに違いない。


「ホホホホホホ、情けないアルねぇ〜、辺境域の分際で折角の大役を与えて頂いたにも関わらず、3日と待たずにに果たせないなんてぇ〜。それにしても、アナタ、私が土下座しろ言うたらすぐに土下座するねぇ〜。全く、それがヤマトダマシイアルか〜、恥を知れ恥を〜アル♪」


 モニターの男は、自分に対して土下座している男、すなわち世界政府キョクトウ域長官・ラゴスが下手なのをいいことに好き勝手に喚いていた。

 散々こちらの此方の非をまくし立てられたあと、土下座を強要され、したらしたでまた散々に貶められる。しかし、ラゴスはそれをじっと堪え、決して反抗することはなかった。


 ジェットによって、もたらされた驚愕の情報。

 S級超人3人を有する不滅の魂にシィーの移送車両を襲撃されて護衛はほぼ全滅、現在のところシィーは行方不明で不滅の魂が周辺を包囲して捜索中。

 最悪の一歩手前の状況報告に、キョクトウ域の現有戦力だけではとても対処することはできないと考えたキョクトウ域代表・ラゴスの決断は早く、犬猿の仲であるにも関わらず、隣に位置する強域・アジア域の代表に救援を要請したのだった。しかし、モニターを通して目の前の男には、簡単に「諾」とは言ってもらえず、刻一刻を争う中、彼此30分余りが無駄に過ぎようとしていた。


「所詮、世界は変わっても鬼子は鬼子のまま、こんな低能共と同列とはやはり今の統治体制はおかしいアルね、今度、キョクトウ域はアジア域に吸収させるよう総統に進言することにするよ〜あんな辺境でも戦略的価値は十分にあるからねぇ〜住民どもは殺すか砂漠に強制移住させて朕の別荘でも建てるかねぇ〜それから〜」


「ワン殿、どうか狂言はそれくらいにして、ご裁可をいただきたい」


 放っておいてはいつまでもしゃべり続けるアジア域代表ナンキン基地長官・ワンに、ラゴスはこれ以上は時間が無いとばかりに決断を促す。


「貴様ぁああ、朕を呼ぶときは陛下と呼べといったであろうが!それに今、朕の御言葉を狂言とか吐かしおったなぁ〜!無礼にも程があろう!この木偶の坊のイモコングがぁあ〜」


 ラゴスの発言はワンの逆鱗に触れたらしくは彼は激怒した、近くにあるものを手当たり次第にモニターに向かって投げつけて、もはや滅茶苦茶である。なぜこんな男がアジア域代表なのか、統一された世界において、この男は一体何を企んでいるのか、内心でラゴスはそう思っていたが表面は平然としてその様子を見守っていた。すると暴れて溜飲が下がったのか急に真顔になったワンは、乱れた呼吸もそのままに


「ゼハー、ゼハー、い、いいでしょう。どうせ、あなたがたの事など最初から信用してはいない。既に域境に配置してある我等が精鋭、駆動兵団1千をそちらに送り込みましょう。この失態の責任、必ず取っていただきます・・・じゃなかった、いただくアルよ!」


 と、ようやく援護要請を受け入れた。


「かたじけない。よろしくお願いする。」


「フン。感謝をされる覚えはないアル、我々の手によって故郷の地が踏み荒らされる様をその目に刻むがいい。言っとくが容赦はしないアルよぉ〜!」


 そう言って、また顔を歪ませて不敵に笑った。


「相手が相手だからそれは構わない、先程も申した通り、向こうはS級が3人も居ると推定される。くれぐれも舐めてかからぬ様に。では失礼する」


「きっキサマッ・・・」


 要件が済んだことで、これ以上、ワンと話すのは不快だとばかりにさっさと回線を閉じたラゴスは大きくため息をついた。そして、今回の事件の首謀者がワンであることに確信を持った。

 なぜ不滅の魂の最重要機密であるシィーをワンが入手できたのかはわからないが、それを利用してキョクトウ域を自らの掌中に収めるために画策したことは間違いない。

 おそらく、予め、シィーの情報を不滅の魂に流していたのだろう。その上で、少数精鋭による迅速な移送を行うという名目の下に護衛の数を意図的に減らし、そこを不滅の魂に襲わせれば、兵の質で劣る我々がシィーを守りきれないのは必定だった。そして、それがキョクトウ域で起こったがために責任を追及されるのは当域代表の自分である。

 心憎いことは、駆動兵1千をいつでも出撃可能にしている周到さだ。仮にこのことを糾弾しても、「不滅の魂がシィーの移送を察知したという情報を得たから備えていた」と言われてしまえばそれまでだ。


「おのれワン!この害虫が!平和を乱す獅子身中の虫が!」


 冷静沈着と皆からは言われているが、今回の一件、自分の迂闊さとワンの汚い謀略に沸々と怒りがこみ上げてきたラゴスは、近くに置かれてある長机をその豪腕で粉砕し、せめて、シィーが不滅の魂の手に落ちいていないことをワンが知らないことでその溜飲を下げた。そして、ワンよりも早く、シィーを見つけ出し保護することでキョクトウ域の活路を見出すべく、もはや避けられない不滅の魂との全面対決を前に、決死の覚悟を持つのであった。


「キョクトウ域全兵に告ぐ、此れよりキョクトウ域における反政府組織の殲滅を開始する、大義は我等にある心を鬼にして全身全霊を以て事に当たれ」








花粉症に悩まされてます。今年はホント辛い・・・

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