爆弾発言
久しぶりの新連載です!
どうぞよろしくお願いいたします!
「――は? いや、ちょっと待っ…………………………結婚?」
「そういうわけだから、私が今抱えてるいくつかの案件は、あんたに引き継ぐことになると思う。取引先に迷惑をかけたくないから、打ち合わせ諸々よろしくね」
「あぁ、それは当然、任されるけど……」
「急なことだけど、三日後にはウェインスター領に向かわなきゃいけないの。あんたみたいな色恋商売をする軽薄男に頼るなんて悔しいけど、できれば弟妹達を気にかけてくれると助かるわ」
「そりゃちび達も家族みたいなもんだから当然面倒見るし、何度も言うけど俺は色恋商売なんてしてない……って、ちょっと待て! お前、こんな重大な話をさらっと流そうとしてるだろ!」
シャロン・ヘッセンは騒ぐ幼馴染みから目を逸らし、こっそり嘆息した。勢いで押せば話を終わらせられると思ったのに。
幼馴染みは、さすが長年の付き合い。シャロンの態度から色々と察した。
「急に二人だけでランチしようなんて誘ってくるから、おかしいと思ったんだよ! 適当に流そうとしたってことは、俺に紹介できないような相手なんだな!? 誰かと付き合っ……てはいないだろうし、訳アリってことか!?」
「恋人はいないっていう決めつけ、腹が立つわね。いないけど」
街中の娘を口説いている幼馴染みと違って、シャロンは誠実なのだ。
実家のヘッセン商会の手伝いと、四人いる弟妹の世話をするので忙しかったし。
だから女性としての魅力に欠けるとか、そういうことではないはずだ。きっと。たぶん。
「なるほど、親父さんの紹介なんだな? 結婚適齢期を迎えても恋人の一人も連れてこない娘がさすがに心配になって、見合い相手を探したと」
「うちの父が、そんな『年頃の娘を持つ一般的なお父さん』みたいな心配をすると思う?」
「それを言われるとあり得ない気もするが……そんな心配をするくらい、お前が愛だの恋だのから遠ざかって干からびそうになってるってことかもしれないだろ!?」
「は? 私だって言い寄られたことくらいありますけど?」
「ヘッセン商会の長女って名乗った途端に街からいなくなった、あの吟遊詩人のことだろ? お前、吟遊詩人の言葉を口説き文句だと捉えるのはやめた方がいいぞ。あいつらは甘い言葉と幻想的な雰囲気で女を騙すのが生業なんだから」
幼馴染みは、世界中の吟遊詩人から訴えられそうな偏見をさらっと口にする。この発言のせいで街中の女の子達から嫌われてしまえばいいのに。
というか、吟遊詩人にときめいて家に招こうとしたシャロンの黒歴史をなぜ知っている。情報網が怖い。
だが、彼の無神経さに毎度目くじらを立てても時間の無駄だ。シャロンはゆっくりと深呼吸をしてから、怒りを鎮めて頷いた。
「父さんが持ってきた話っていうのは正解。だけど、正確にはお見合いというより政略結婚ね」
「せ…………」
幼馴染みが、卒倒しそうな顔色で絶句した。
頭の回転が早い彼は、すぐに察したのだろう。
多数の国をまたにかけて活動しているヘッセン商会。平民とはいえ資産も潤沢で、そのヘッセン家の長女といえば、一応引く手数多なのだ。
ただシャロン本人が仕事一筋で生きてきたのと、父が損得勘定で結婚相手を見繕う主義ではなかっただけ。
それなのにシャロンが、父の命令で政略結婚をする。
それはつまり断ることのできない相手――上流階級から縁談がきたということ。
彼はそのまま、さらに目を見開いた。何か、とてつもなく恐ろしいことに気付いてしまったというように。
「待てよ……さっき、ウェインスター領に行くって言ったよな。平民と結婚しようなんて貴族の男、俺は一人しか思い浮かばないんだが……」
「本当によく回る頭ね。あんたってまさに商人向きだわ」
腹立たしさを通り越し、いっそ感心してしまう。
すると、幼馴染みの目つきが凶悪になった。この期に及んで誤魔化そうとするつもりかという、非難が込められた眼差し。
往生際が悪くもなる。
女癖の悪い幼馴染みだが、シャロンにとっては家族に近い存在なのだ。
商会の仕事を競うように学んだ日々は充実していたし、弟妹達も新生児の頃から世話になっていたためよく懐いている。父など、支店を任せたいと言うほど彼を信頼していた。
こんな結婚、心配されるに決まっているから話したくなかった。
弟妹達にも軽率に決断するなと窘められ、散々泣きすがられたのだから。
けれど、だからこそシャロンは俯かなかった。
彼に本音を打ち明ければ、きっとどのような手段を用いてでも助けようとしてくれる。商会長である父と対立してでも。
それが分かるから、不安や弱音の一切を封じて、シャロンは毅然と笑ってみせた。
「そうよ、あんたの予想通り。元公爵家嫡男、クラウディオ・ウェインスターと結婚することになったの」
クラウディオ・ウェインスター。
四年前に世間を騒がせた、大醜聞の当事者。
そのせいで次期当主の座を追われ、公爵領の片隅に引き籠もっているという、いわくつきの青年。
長い長い沈黙のあと、幼馴染みの大絶叫が洒落たカフェ店内に響き渡った。




