第七話 俺の力
生霊飛ばし二日目。
「なんか、げっそりしてんな」
「そうですか? 頑張って食べてはいるんですけど」
「だろうな。さっきから、でっけぇおにぎり食ってるし……」
「すみません。勤務中に」
「いや、別にいいけど。そんなに削れるんだな。生霊飛ばすって」
「そうですね。故意に飛ばすと、こうなります」
「そもそも、それって呪詛とかの類なんじゃねぇの?」
「うーん、どうなんでしょう。でも、私は陰陽師ではないので」
「いや、そうだけど。そうなんだろうけど。見えるだけならまだしも、何で呪詛の類を使えるのか。そして、何で祓えるのか。そこがわかんねぇなぁ」
「……寺で育ったからかもしれません」
「……はぁ!? じゃあ、菅原、お前、リアル寺生まれのTさんじゃねぇか」
「ひかりなので、Hですが」
「いや、つっこむべきところはそこじゃなくね!?」
そういえば、こいつの名前、ひかりだったな。
菅原ひかり。普通の名前。
「親が住職だったとか?」
そういえば、父親が行方知らずって言ってたな。てことは、母親が?
「いえ、こんな力があるので、母の手に負えず寺に預けられただけです」
「……へ、へぇ……」
こいつに、そんな過去があったなんて知らなかった。
みんな、言わないだけで色々抱えてんのか? 今まで、そういう他人のややこしい部分は見ないようにしていた気がする。こんな見た目だし、そういうことを聞くと勘違いされることもあるし。
「……普通に幸せでしたよ。同情されるような暮らしではありません。確かにお金はありませんでしたが、静かで平凡で。私にとっては十分な暮らしでした」
「……そうなんだ。同情してるように聞こえたなら、悪かった」
「いえ、お気になさらずに」
「それで? その寺で色々習ったのか? 祓う方法とか」
「いえ。そもそも寺は仏教なので、祓うというより成仏の方向ですかね。私的には和解なんですけど。まぁ、神仏習合的な考えでしたら話は変わりますが」
「そんなのはどうでもいいんだよ。俺が聞いてんのは、お前が寺で祓う方法とか、呪詛の方法を習ったのかってこと」
「習ったというより、『共に考えた』が正しいかもしれませんね。私を育ててくれたのは尼さんでした。母の古い友人で。その人は私に、『力があるのは、良いことでも悪いことでもない。どのようにその力と共生するか、それを考えることが大事。そして、それを一緒に考えよう』と言いました」
「……なるほど。力があるのは、良いことでも悪いことでもない。いや、俺からしたら良いことでしかないけどな」
「そうですね。あなたは陰陽師の名家に生まれた。力がなければ、そこでは存在できない」
「うっ……胸が痛い。そんな突き刺すようなことを……。でも、そうだな。力がない俺は、あの家では存在できない。俺ってさ、マジでお前がいないと、あの家にいられねぇんだな」
「あなたは、あの場所で存在したいんですか?」
「いや、あの場所でしか存在できないんだよ。御影という名前がなければ、俺なんてただのポンコツイケメンだぞ。俺には何の能力もねぇんだよ。大体、海外に七年もいたのに、英語だってぼちぼちな男だぞ」
「なるほど」
「なるほどって。本当、バカにしてんな。俺のこと」
「バカにはしていません。あなたはチャラついてはいますが、陰陽師の仕事に誇りをもっていますし、依頼者に真摯に向き合っています。私にはそう見えます」
「え……? 俺が?」
「はい。あなたは、自分にはイケメンという価値しかないと日々嘆いていますが、イケメンであるために努力をしています。身体を鍛え、食事を管理し、身なりを整える。それも一種の才能なんじゃないでしょうか」
「……才能」
「はい。才能。あなたの力です」
「……俺の力」
「はい。そろそろ着くので、準備をお願いします。その前に、おにぎりをもう一つ……」
俺の力……そんなものがあるのか?
イケメンであるために努力することなんて、当たり前だと思っていた。
だって、俺の価値なんて、そこにしかないから。




