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陰陽師の名家のイケメンなのに霊力ゼロな俺。全部マネージャーの女が祓ってるけど、アイツ全然可愛くない  作者: かにえR
【第三章 視える女の重責】

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第十九話 ひぃちゃん


その日は、いつも通りの依頼のはずだった。


「今日はどこだ?」


「ちょっと待ってください」


ナビに住所を入力する菅原。


「えーっと、今日はスナックですね」


「スナック?」


「はい。お父様の知り合いの方のようです。よろしく言っておくように、先ほど言われました」


「ふーん」


スナックに到着し、中に入る。


昼間なのに、薄暗い。当たり前だが、客はいない。


「どちらさまですか?」


高い猫なで声がして、女が出てくる。俺の母親より少し若いくらいか?


「依頼されてきた、御影です。陰陽師の……」


そう言って菅原を見ると、カバンをゴソゴソと漁っている。多分、イヤホンを探しているんだろう。


女がジッと菅原を見る。菅原はそれに気づかず、まだカバンをゴソゴソと漁っている。スケッチブックがバサッと床に落ちて、俺はそれを拾う。


「おい、菅原。大丈夫か? イヤホンだろ?」


そう菅原に声をかけた瞬間、女の息を呑む音がした。


「ひぃちゃん? ひぃちゃんだ! ひぃちゃん、久しぶり。わぁ、大きくなったね」


ひぃちゃん? ひぃちゃん……あぁ、ひかりだからひぃちゃんか。いや、似合わねぇ。ひぃちゃんって感じではねぇだろ。つーか、誰だ? 菅原の知り合い?


目を見開いて女を見る菅原。


「えっと……知り合い?」


「……母です」


母……母。母!? 母親!? これが菅原の母親!? いや、これって言ったら失礼だな。でも、これが!? 年の割に幼い表情、高い猫なで声……正反対じゃねぇか。でも、顔をよく見ると、確かに面影はある。


「ひぃちゃん、ごめんね。携帯を無くしちゃって、連絡先がわからなくなっちゃってたの。それで、ずっと連絡できなくて。ごめんね……」


「亡くなったのは、知ってるんですか?」


「……うん、知ってる」


「それなのに、お葬式に来なかったんですか? あんなに世話になったのに。いや、世話になったのは私ですけど」


「違うの。違うのひぃちゃん。あのね、知らなかったの。あとから人づてに聞いて。でも、お墓には手を合わせようと思って、お寺に行ったの。そしたら、あそこ一帯が『立ち入り禁止』になってて……お寺にも、お墓にも行けないようになってたの」


菅原が見たことがないような顔をする。怒りなのか、呆れなのか。


「……あそこは……今は入れない。お墓も、別のところに移しました……もし……墓参りしたいなら……場所を教えます……」


カランと音がして、店に誰か入って来る。


「あ、御影家の?」


そう声がして振り返ると、めちゃくちゃイカつい男がいた。


いや、これは知り合いで大丈夫な人間なのか? 親父よ。


「あ、ケンちゃん! ねぇ、見て! ほら、ひぃちゃん。私の娘! たまたま、会えたの! すごい偶然でしょ?」


そう言って男に駆け寄る菅原の母。菅原を見ると、怪訝な顔をしている。


「たしかに、すごい偶然だな」


そう言って、ジャケットの内ポケットに手を突っ込み、ブランド物の名刺入れを取り出し、俺と菅原に名刺を渡すケンちゃん。面倒なので、俺もケンちゃんと呼ぶ。


「あ、オーナーさんですか? このスナックの」


俺がそう言うと、菅原の母が女の顔でケンちゃんを見つめる。


「そう、ここのオーナーさん。ケンちゃんが私を拾ってくれてね、このお店でママをやってほしいって言ってくれて……」


「ひかりちゃん、だっけ? 話はよく聞いてるよ。悪いね。連絡しようとは思っていたんだけど、連絡先がわからないって言うんだ」


「お墓に行こうとした時も、ケンちゃんが連れていってくれたの」


菅原の顔が引き攣っている。


「お寺の件は、残念だったね。何かできることがあれば、そこに連絡してくれていいからね」


「……ここに、お墓の住所を送るので、線香……一本くらい……あげてきてください……」


「うん、そうする。ひぃちゃん、ありがとう」


そう言って、菅原に抱きつく母。固まって動かない菅原。


菅原の母が俺を見る。


「あら、お兄さん、イケメンじゃない。ひぃちゃん、この方とお仕事してるの?」


「御影家の跡継ぎだ」


ケンちゃんがそう言って、俺の肩を叩く。強い。怖い。親父、ケンちゃんはカタギの人間なのか?


「ひぃちゃんも一緒に祓ってるの?」


ドキッとする。そうか、母親だから、菅原に力があることを知っているんだ。


「私は祓っていません。紫門さんが祓っています。私はマネージャーです」


ホッとする。そうだ。このことは俺と菅原だけの秘密だ。いや、俺の親も知ってるが。


「こんなイケメンとお仕事してたら、好きになっちゃうんじゃない?」


そう言って俺を見つめる菅原の母。色目を使うな。娘の前で。


「仕事なので、あり得ません」


菅原がそう答える。胸が痛い。


仕事だから? 俺だって仕事だ。


あり得ねぇ? 俺だってあり得ねぇ。俺だって、お前なんか好きになんかならねぇ。


スナックの床、趣味の悪い色をした絨毯にまで、イラついた。


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