第十一話 笑った
「ほら、依頼の前にこれ食えよ」
後部座席に手を伸ばし、コンビニの袋を取り出す。
「こんなにたくさん、どうしたんですか?」
「寝てる間にコンビニに寄った」
「……全然気づきませんでした。すみません……」
そう言いながら、背もたれを垂直に戻す菅原。
「昆布のおにぎりもあるぞ」
「……ありがとうございます」
「飲み物もあるだろ。飲めよ」
「……ありがとうございます。紫門さんも食べますか?」
「は? 俺? いい。……いや、一個食うか」
「珍しい……」
そう呟いて、おにぎりを一つ手渡してくる菅原。
「……うま。めっちゃ久々に糖質食ったわ」
「いつもサラダだけですか?」
「いや、さすがにサラダチキンとかは食うけど」
「適度に糖質を摂らないと、健康によくありませんよ」
「はぁ、また説教かよ。んなことはわかってんだよ。見た目優先なんだよ。仕方ねぇだろ」
「なるほど」
「だいぶ顔色がよくなってきたな。まぁ、でも今日は俺が運転するから、寝とけよ」
「いえ、もう大丈夫です。それに、明日は休みなので」
「え? じゃあ、俺も休み?」
「はい、紫門さんもお休みです」
「何か予定あんの?」
「私ですか? はい、ありますよ」
休日に予定? 絶対、彼氏だろ。
「へぇ、どっか出かけたり?」
「はい、まぁ」
これはデートだろ。完全に。
「へぇ、遊びに行ったりするんだ。菅原も」
「遊びに行くわけではありませんよ」
遊びに行くわけではない? じゃあ、デートじゃないな。だよな。こいつに彼氏なんているわけがない。
「へぇ、まぁいいや。じゃあ、そろそろ行くか」
「はい」
♢ ♢ ♢
依頼を終え、げっそりした顔の菅原の腕を引っ張り、駐車場まで歩く。
「やっぱりダメじゃねぇか。そんなにヤバいヤツだったのか? 今、祓ったやつ」
「いえ、そこまででは……生霊の件で、少々疲労が……」
「今日、あと何件あんだよ。依頼」
「あと三件ですね」
「やべぇな。身体持つのか?」
「大丈夫です……」
運転する俺の横で、黙々とコンビニ飯を食う菅原。
「……運転、上手ですね」
「そうか? 別に普通だと思うけど」
デカいメロンパンに齧りつく菅原を、チラリと見る。
「思うんだけどさ。まぁ、今回はしょうがないとして。お前、もう生霊とか飛ばさねぇ方がいいんじゃねぇの」
「そうですか?」
「いや、だって、どう考えても削れてんだろ。絶対、寿命縮まってるぞ」
「確かに、そうかもしれません」
「そうかもしれませんじゃねぇよ。そこまでやる必要はねぇだろ」
「そうですね。勤務中に居眠りし、コンビニの飯を貪り食うのは、よろしくないと自分でも思います」
「いや、そこじゃねぇって。寿命縮めてまでやる必要はねぇって言ってんだよ」
「依頼者が困っていても? クチコミで低評価をつけられても?」
「そうだ。別に、そこまでやってやる必要はねぇだろ。オプションで生霊とかやんならまだしも。クチコミだって、圧力かけりゃ消せんだろ。知らねぇけど」
「オプションで生霊……いい案ですね」
「おいおい、閃くな。そこじゃねぇだろ。やめとけ、そんなのは。死んじまうぞ、マジで」
「わかりました。今後はやめておきます」
「わかればよろしい。お前が死んだら困るからな。ただのイケメンになっちまう」
「……」
「おい、無視すんなって。つっこめよ。俺がスベッたみたいになってんじゃねぇかよ」
「ははは」
笑った。笑いやがった。
菅原ひかり、マジで謎すぎる。




