第九話 海賊船
翌日になった。
ホーク達は約束通り海賊達のアジトに向かったが、昨日より一人、人影が多かった。
海賊のアジトに着いたが、扉をノックしたのは、その人影だった。
「……何だそいつは。何故大人を連れて来た」
扉の小さな覗き穴から様子を見た海賊はそう言った。当然海賊達にとって、大人を連れてくるのは予想外だった。
「私はこの子達の親戚筋にあたる者だ。名をラークという。話はこの子達から聞いている。お前たちに協力する気で来た。自分で言うのもなんだが、剣はかなり使える。役に立つと思うぞ。この子達と一緒に中に入れてくれ。」
ラークが中の海賊にそう呼びかけると、今度は昨日のリーダー格の海賊が、値踏みをするように覗き穴から、ラークを見た。
「……確かに使えそうだな。大人が来るとは考えてなかったが……。まあいいだろう。入りな」
扉が開いた。ホーク達は中に入って行った。
「昨日の護符は持って来たな?」
代表して、大人のラークが護符を見せた。ラークもどうやらマスエルに護符を貰ったようだ。
「上出来だ。じゃあ船に案内してやろう。ついて来な」
リーダー格の海賊はそう言うと、昨日は開けることがなかった海側に続く扉を開け海に向かって行った。ホーク達はそれについて行った。
程なくして、海賊達の隠し港に繋がれた海賊船が見えて来た。遠目で見ると、何人かの海賊が船上で出航の準備をしている様子が見て取れた。昨日、店先で酒を盗んだザップもいるようだ。
「これが俺たちの海賊船だ。野郎ども! 準備はできたか!」
リーダー格の海賊の声に船上の海賊達はオウと威勢のいい声で呼応した。
「おいっ! ボーッとしてんな! 乗った乗った! 足元に気をつけて乗れよ」
海賊に急かされてラークから順番に海賊船に乗り込んだ。ホークら子供達はワクワクしていた。
「海賊船と言えども結構立派なもんだな」
ラークはそう言って辺りを見回した。甲板、マスト、船頭船尾までしっかりしている。
「失礼な奴だ。まあ、この船に乗り込んだ以上、お前らはまな板の上の鯉だ。何にしろ俺たちに従ってもらうぜ」
「従うのは従うが、まず何故この護符が必要なのか説明してもらおう。そういう約束だったな」
「説明はするが、それは後だ」
「何故だ。約束が違うだろう」
「約束を違えるわけじゃない。まず潮流が変わった原因を見せてからだということよ。おい野郎ども! 出航するぞ!」
「オウッ! 錨を上げろ!」
錨を上げ、舵を切ると、海賊船は近海に出航した。出航してから程なく、潮流にせき止められて沖に出られなくなった。
「まあこうなるわけだが……この原因自体は実は前々から分かっているんだ。この行く手を塞いでいる潮流をたどっていくと、海上の洞窟にぶち当たる。その洞窟に原因があるわけだ」
「洞窟に何かいるのか?」
「察しがいいな。洞窟には元々、少しばかりのモンスターが住み着いていたが、それはどうってことはない。問題は洞窟の最深部にあるんだ」
「何がいるんだ」
「竜がいる。竜神と言った方がいいかも知れねえな。その竜神と竜神の子供……子竜がいるわけだが、その子竜がまだ幼いのが潮流が変わった原因になっている」
「子竜が幼いから?」
「ラークとか言ったな。あんたも小さい子供がいるんだろうから親の気持ちは分かるだろう。大体が子供が心配で守ろうと思ってついて来たんだろうからな」
「まあ……その通りだ」
「人間の親もそうだが、竜もそうだ。まだ独り立ちできない子供を守ろうとして親の竜が力を使い潮流を変えている。そうすりゃ子竜は幼い間は外海に出られないからな。人間の親が自分の子供を目の届く所に置きたがるのと一緒だ」
「原因は分かったが、それじゃあ子竜が成長するまでどうにもならんのじゃないのか?」
「それが、その護符を竜の親子の所に持っていけば何とかなるかも知れねえんだ」
「これはそんな大層な物なのか?」
ラークは自分が身につけている護符を見直した。
「まあ何でその護符が要るかもおいおい分かってくるさ。この船で洞窟に向かってそのまま入るぞ」
海賊船は進路を変え潮流を辿って行った。しばらくして大きな入り口を開けた洞窟に着いた。悠々と海賊船が入りそうだ。
「コウモリのようなモンスターが結構いるからな。気をつけろよ。子供には結構きついだろうからな。親がしっかり守ってやれよ」
「なるべく俺がお前たちを守るが、お前たちもいつでも動けるように身構えておけ」
「はい!」
カイトとホークは武者震いをしていた。
洞窟内の空洞は広く、横幅は海賊船の四倍ほどはあった。壁面にはヒカリゴケが生えており、暗さの中にもほの明るさがあった。
明るさがあるにはあったが、それだけではどうにもならなかった。そこで、
「おい。燭台に灯をつけろ」
とリーダー格の海賊が命令し、明かりを灯した。海賊船を中心に行動できるくらいの明るさが生まれた。
「モンスターに気をつけろよ。何回も言うが」
やや奥に進んだ所でリーダー格の海賊がそう言った。言ってる側から、一匹のコウモリ型のモンスターが襲ってきた。モンスターはザップを狙った!
「危ない! ザップ君!」
カイトは自身が装備している剣を抜いてザップを助けようとしたが、それよりも速くラークがモンスターを切り倒していた。
「ほーう。鮮やかなもんだな。言うだけのことはあるじゃねえか」
ラークの剣の腕前を見て海賊達は感心したようだった。
「どんどんくるぞ! ぬかるなよ!」
海賊船は奥に進んでいるようだったが、それにつれてモンスターの攻撃も増してきた。
「わあっ!」
悲鳴をあげたのはマスエルだった。二匹のモンスターが一気に襲い掛かってきている。
「マスエルさん!」
カイトとラークが救援に向かった。マスエルも二匹のモンスター相手に必死に抵抗している。
「たあっ!」
カイトは掛け声と共に剣を振り、モンスターの一匹を切り倒した。もう一匹はラークがすでに切っている。
「いてててて……」
マスエルは少し手傷を負ったようだった。ラークは携帯していた包帯で傷を縛った。
「大丈夫かい? マスエル」
「かすり傷だけどやっぱり怪我は痛いね」
「シージャがいればこのくらいの傷はすぐに治るんだけど……」
まだまだモンスターは攻撃の手を緩めないようだった。
「らちがあかない。ホーク! 少し焼いてみるか!」
「やってみるよ!」
ホークは集中し始めた。集中が高まるにつれ手の平が赤く発光してきた。
「ホットサーモ・レベル1!」
ホークが言葉を発すると、複数の火球がモンスター達めがけて飛んで行った。
「ギャッ!」
火球はほとんどモンスター達に命中し、かなりの数が焼け落ちた。
「……驚いた。こんなガキが魔法を使えるのか…。お前らただもんじゃねえな」
リーダー格の海賊はホーク達の強さにやや呆気に取られていた。
魔法を放ったホークは疲労の色が濃いようだった。肩で息をしている。
「よくやったな。ホーク」
「ハアハア……今の僕にはこれが精一杯だよ」
「上出来だ」
魔法でモンスターを焼き払った甲斐も会って、攻撃は鎮静化した。後はスムーズに洞窟の奥まで進むことができた。