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第52話 ヒーローは遅れてやって来る


「な、何をするんだシェリナ!」


 私に頬を引っぱたかれたエイリーク王子はキツネにつままれたような表情で固まっている。

 私が抵抗するなんて夢にも思っていなかったんだろう。

 どれだけ脳内がお花畑なんだ。


「貴様、エイリーク殿下に何という事を! 聖女様といえども許せん!」


 兵士達が私を取り囲んで槍を突き付ける。


「き、貴様達、少しこの女に自分の立場というものを分からせてやれ! 人の好意を無下にしやがって」


 正気を取り戻したエイリーク王子が兵士達に命令を下す。

 私はエイリーク王子が復権する為には重要なカードだから殺されはしないだろうが、この後どんな酷い拷問を受けるのか想像もつかない。


 聖女の破邪の力は人間には効果がないので私にはこの場を乗り切る力はない。

 でもそれも覚悟の上だ。


 こんな男に利用されるぐらいなら死んだ方がましだ。


 兵士達が一斉に槍を振り上げる。

 刺されはしないだろうけどきっと柄の部分で袋叩きにされるんだ。


 これから私を襲うであろう激痛を想像して、思わず私は目を瞑った。


「……ッ! ……?」


 どれだけ待っても痛みがやって来ない。


「やれやれ、相変わらずお前は危なっかしくて目を離せないな」


「え?」


 目を開けるとそこには倒れている兵士達とエイリーク王子の首根っこを掴んで持ち上げているアザトースさんの姿があった


「アザトースさん! どうしてここに?」


「そろそろお前が目を覚ました頃だと思って教会へ行ったらお前が兵士達に連れ去られたと聞かされてな。こうして連れ戻しに来たのだ」


 アザトースさんは笑いながらエイリーク王子を床に叩きつける。


「ぐべっ……。き、貴様許さんぞ! 王子である私に向かってこのような事をして無事で済むと思うなよ!」


「ほう、許さないとはどうするというのだ?」


 アザトースさんは床に這い蹲っているエイリーク王子を睨みつける。


「く、くそ……覚えていろよ!」


 しかし今のエイリーク王子にできるのは捨て台詞を残してここから逃げる事だけだった。

 いくら王子とはいえ、先の戦いの失態で王家からは勘当同然の身。

 今日の事をアルガノン陛下に知らせたとしても恥の上塗りだ。

 エイリーク王子の都合のいいように捻じ曲げて伝えたとしてもまともに取り合われないだろう。


 そして腹心の部下達も全員小屋の中で気を失って転がっている。

 これ以上彼に何かできるとも思えない。


「ふう、助かったあ……」


「立てるか、シェリナ?」


 気が抜けてヘナヘナと床にへたり込む私にアザトースさんが手を差し伸べる。


「エイリークといったか。運のいい男だな。お前が傷一つでも負っていたら俺はあの男を殺していたかもしれん」


「ダメですよ、人間界の者には手を出さない約束です」


「もう出してしまったぞ」


 アザトースさんは床に転がっている兵士達に視線を移して苦笑いをする。


「この人達はノーカウントでいいです。それにしてもわざわざこんなところまで来てくれるなんてあの時の借りを返す為ですか? 私は全然気にもしていなかったのに」


「!? シェリナ、お前……思い出したのか?」


「思い出したというか、正確には夢だと思ってた出来事が現実だったと気付いたというか……」


「ふっ、何だそれは。相変わらずお前の言う事はよく分からないな」


 私とアザトースさんは笑いながら小屋を後にした。


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