第53話 聖女の処遇
王宮では聖女シェリナの処遇についての会議が行われていた。
聖女が国民を守る義務を放棄して魔界に亡命するなど前代未聞だ。
これが王国に仕える臣下だとしたら重い罰が与えられるだろうが、聖女は女神の神託によって選ばれた特別な者であり、王国の臣下とは見做されない。
下手に処罰をすれば慈愛の女神ティターニアの怒りを買う事になり得るデリケートな存在だ。
長きに渡るイザベリア聖王国史の中では処罰された聖女の記録はない。
ある意味では無敵な人物だが、元々聖女に選ばれるのは清廉潔白な女性のみ。
犯罪に手を染めるような者はそもそも選ばれない。
逆説的には聖女に選ばれたシェリナの全ての行動は何の罪にも当たらないとも言える。
だからといって放置する訳にもいかない。
今はおとなしくしているが、もし聖女シェリナが魔王と結託して野心を持てばイザベリア聖王国などあっという間に滅ぼされてしまうだろう。
それだけ女神の口づけによって得られる力は規格外なのだ。
聖女をこのまま魔界に置いておくわけにはいかないが、無理やり連れ戻すとなると魔王と事を構える事になる。
これは忌々しき問題ではあり、国王アルガノンも簡単には結論を出せずにいた。
まずは宰相のクロール卿が自身の意見を述べる。
「今までの聖女シェリナの功績と境遇を考えれば、どの道魔界へ亡命した事は大した罪には問えないでしょう。ならばまずはシェリナ殿の今までの行動は全て不問にすると公表した後に魔王城へ使いを送り、王国への帰参を促してみては如何でしょう」
クロール卿の進言に国王アルガノンは頷き答える。
「そうだな、そもそも亡命の原因となったキーラ嬢は既にこの世におらず、馬鹿息子エイリークも反省するまで離宮に閉じ込めておく事にした。もはやシェリナを害そうという者はここにはおるまい」
「それでは早速手配を──」
「お待ち下さい!」
その時、赤い長髪を靡かせながらひとりの青年が扉を開け会議室に入ってきた。
「おお、勇者オルトシャンではないか。そなたが来てくれれば心強い」
「陛下、恩赦はともかく、シェリナを王国に連れ戻すのは難しいかと」
オルトシャンの発言に周囲がざわつく。
「オルトシャン、それはどうしてだ。シェリナが魔界に亡命した理由は全て解決したのだぞ。王国に戻らない理由はあるまい。……まさか、魔王に親しい者を人質に取られ、帰りたくても帰れないような状態だとでもいうのか?」
オルトシャンは首を横に振って答える。
「まさか。私が見る限りでは、シェリナは自分の意志で魔王城で暮らしているようですよ。それに魔王アザトースもそんな彼女を大切に扱っている」
「なんだそれは。それではまるで……」
「いや、確かに……あの二人の間には並々ならぬ絆のようなものを感じた」
先の破壊神ファフニルとの戦いに参戦し、二人の様子を間近で眺めていた騎士団長ティファルの言葉には説得力があった。
「ではどうすると言うのだ」
「ここは私にお任せ下さい。魔界へ赴き、魔王と話をつけてきましょう」




