第48話 王家の面汚し
ファフニルの頭部に寄生して彼の者を操っているキーラもエイリーク王子が兵を率いてこの場に来ている事には気付いていた。
ファフニルは巨大な翼を羽ばたかせ、包囲している兵士達の頭上を飛び越えて一気にエイリーク王子の眼前までやってきた。
「これはこれはエイリーク殿下、ティファニス姉様という大切な方がおりながら、わざわざ私に会いに来て下さったのですか?」
「キッ、キーラ!? 誰が貴様などに会いに来るか! 私はただ父上の命令でゾーランド領に現れたという化け物どもを討伐に来ただけだ」
「へえ、つまり破壊の神ファフニルと一体化したこの私を討ちに来たというんですね。やれるものならやってみなさい!」
ファフニルはエイリーク王子の目の前で耳を劈くような雄叫びをあげる。
「ひ、ひいっ。貴様達何をしている! 早くこの私を守らないか!」
エイリーク王子は完全に腰を抜かしながらただ配下の兵士達に喚き散らしている。
勇敢な兵士達は王子を守ろうとファフニルに挑みかかるが、ファフニルが腕を横に振るっただけで簡単に払いのけられてしまった。
エイリーク王子は衝撃の余り落馬して地面に這い蹲っている。
「さようなら殿下。これでお別れですわね」
「ひっ、た、助け……」
ファフニルがエイリーク王子に止めを刺すべく洞窟の入口ような大口を開けてひと噛みにしようと近付いたその時だった。
ファフニルの両脇からオルトシャンさんとビバリー王子が飛びかかり、それぞれファフニルの両の牙を切り落とす。
「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオン」
その激痛でファフニルは大地を揺るがすほどの大きさの悲鳴を上げる。
「殿下、ご無事ですか?」
「兄上をこんな所で死なせはしません。さあ、早く馬に乗って皆の指揮を!」
オルトシャンさんとビバリー王子はエイリーク王子の手を取り愛馬に騎乗する手伝いをする。
「さあ、兵士達にご命令を!」
牙を失ったファフニルは怯んでいる。
まさに総攻撃を仕掛ける絶好の機会だ。
兵士達の視線がエイリーク王子に集まる。
しかしエイリーク王子の取った行動はこの場の誰もが予想だにしない事だった。
「む、無理だ。こんな化け物に適うはずがない! ひっ……」
あろう事かエイリーク王子はファフニルに背を見せ、兵士達を置き去りにして逃亡を図る。
「エイリーク殿下、今は踏み止まり下さい。今を逃したら二度と好機は訪れません」
「わ、私はイザベリア聖王国の王太子だぞ。こんなところで死ぬ訳にはいかんのだ! 後はお前達が何とかせよ!」
「殿下!」
エイリーク王子はオルトシャンの諌める言葉に耳を貸さず、そのまま馬を走らせて単身で戦線を離脱していった。
「おほほほ、このまま逃げられると思っているのかしら? ファフニル、やっておしまいなさい!」
キーラは逃亡するエイリーク王子にファフニルを追わせようとするが、牙を失った激痛で暴れまわるファフニルを思い通りに制御できていない。
「何なの? どいつもこいつも……ええい、この駄神め、さっさと言う事を聞きなさい!」
「ギャオオオオオオオン!」
「な、何ですの? こら、止めなさい! 嫌ああああああああ!?」
ファフニルの頭部と一体化していたキーラの上半身は、ファフニルの咆哮と共に少しずつ内部に取り込まれていく。
「誰か助けてよ……どうしていつも私だけがこんな目に……ああああああああ! ……」
キーラの意識は完全に消えた。
後に残ったのは自我を持たずにただ破壊を繰り返すだけの邪悪な存在だけだ。
「憐れな……人間が神を操ろうなどできるはずもない。身の程を弁えるのだったな」
何もできずにそれを眺めていたオルトシャンさんはキーラの無残な最期に黙祷をささげる。
その頃指揮官が逃げだした事で王国軍は大混乱に陥っていた。
「くっ、こうなったら以後私が指揮を執る! 皆の物続け!」
咄嗟にビバリー王子が軍を引き継ぐものの、一度混乱した軍隊は簡単には立て直せない。
手当たり次第暴れまわるファフニルの前に一人また一人とやられていった。
一方、後方でその一部始終を眺めていた私はアザトースさんを膝枕しながら祝福の歌を口ずさんでいた。
「アザトースさん早く目を覚まして……」




