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第20話 キーラの誤算


 私の名前はキーラ。

 イザベリア聖王国の名門貴族であるゾーランド公爵家の二女にして、現在行方不明となっている聖女の代理を任されている身だ。


 先日、聖女シェリナの救出の為に魔界へ向かった勇者オルトシャンは、何の成果も得られずにとぼとぼと帰国してきた。

 国王陛下は大層落胆していたけど、何もかも私の計画通りだ。


 私はシェリナの救出作戦が失敗するように、わざとオルトシャンに浄化の力を宿らせないままの食料を渡した。

 あのまま魔界に入ればオルトシャンの持っている食料はあっという間に魔界の瘴気に曝され、細菌によって毒に侵されてしまうだろう。


 腹が減っては戦は出来ぬ。

 オルトシャンは諦めて帰ってくるしかない。


 私達はあくまで聖女候補の身だ。

 魔界の瘴気に対して浄化の力が及ばなかったとしても仕方がなかったで済まされ罪に問われる事はない。


 思ったよりも帰国が遅かったのは恐らくオルトシャンは体力の限界まで捜索を続けたからだろう。

 いっその事そのまま魔界で朽ち果てても宜しかったのに。


 更に私は以前魔族との国境沿いでお父様が捕まえた魔族を利用する事を思いついた。


 ゾーランド領は魔界と接している為、魔界の情報が王国内のどこよりも早く領主であるお父様の耳に入ってくる。

 ゾーランド家に仕える者の中には魔族の言葉を理解できる者もいる。

 お父様の調べでは魔界は一枚岩ではなく、現魔王アザトースと先代魔王クトゥグアが争い続けているという。

 そしてシェリナを攫ったという魔族は、その目撃証言から現魔王アザトースで間違いないと思われる。

 もちろんこの事実はゾーランド家だけの秘密とされ、王族ですら把握していない事だ。


 捕らえていた魔族を拷問して調べた結果、先代魔王クトゥグアの使い魔という事が分かった。


 アザトースはシェリナを攫った後、自身の城に監禁しているだろう事は容易に想像できる。

 もし勇者オルトシャンが魔界に侵入したらアザトースはどう動くだろうか。

 きっとオルトシャンを迎撃する為に配下の者を連れて出陣するだろう。


 つまりアザトースの居城の守りが薄くなるという事だ。


 もしその情報を先代魔王クトゥグアの使い魔であるこの魔族に教えて解放したらどうなるか。

 間違いなくクトゥグアはがら空きとなったアザトースの居城に奇襲をかける。


 そうすれば城の中に監禁されているシェリナも無事ではいられまい。


 シェリナがクトゥグアに殺されてくれれば再び女神の神託によって次の聖女が定められる。


 そして次の聖女に選ばれるのは私を置いて誰がいるだろうか。


 いやいない。




 我ながら完璧な作戦だったはずだ。




 それなのに……。


 オルトシャンは計画通り魔界から逃げ帰ってきたけど、一向に次期聖女を定める神託が降りない。


 それはシェリナがまだ生きている事を意味する。


「ちっ、クトゥグアの役立たずめ、しくじったわね」


 などと私は誰もいないところで他人に聞かれないように家臣でもないクトゥグアを罵倒するが、現実は変わらない。


 結局シェリナが聖女の任期を終える二年後まで待つしかなさそうだ。



 私は今日も聖女の卵達を引き連れて王宮の横に建てられた聖堂に向かうと、彼女達に女神への祈りを捧げさせる。


 ひとりひとりの祈りの力は小さくても、人数を集めればそれは巨大な祈りとなり、魔を退ける破邪の結界が生まれる──











 ──はずだったのに。



 どうも思った程の強さの結界が生まれない。


 あまりにも効果が薄すぎで、辺境の魔獣達はそれをあざ笑うかのように平気で結界の中に侵入してくる。


 まだ人的被害は出ていないが、魔獣に住処や田畑を荒らされた民衆は怒りの矛先を私達に向け始めた。


「何が破邪の結界だ、全然役に立ってないじゃないか!!」

「おらの畑が魔獣に荒らされて酷い有様だ! どうしてくれるこの税金泥棒!」


 聖堂の外から私達に向けて容赦ない罵倒が浴びせられる。


 今まで聖女の力に頼り切ってきた癖に、なんて恩知らずな連中なんでしょう。


「貴様ら! 誰に向かって暴言を吐いている!」


「やべっ、皆ずらかれ!」


 聖堂の前の騒ぎを聞きつけてきたエイリーク王子が私に野次を飛ばした民衆達を追い払った。


「キーラ、大丈夫か? 愚かな民衆どもは私が追い払った。もう大丈夫だぞ。それにしてもとんでもない奴らだ」


「ありがとうございますエイリーク殿下」


「ずっとお前の近くにいてやりたいが、俺も仕事が溜まっている。すまないが今日のところはこれで失礼するよ」


 そう言ってエイリーク王子は急ぎ足で王宮へ戻っていった。

 シェリナがいなくなってからというもの、王国各地の混乱はますます大きくなり、それを抑える為に支配階級である彼らの仕事は倍増している。


 これではもうエイリーク王子も当てになりそうにない。


 これも全てシェリナがまだ生きているせいだ。

 さっさと死んでくれないかな。


 それにしてもこの聖女の卵達は本当に使えない子達ばかりだ。


「ちょっとあんた達、手を抜いてるんじゃないの?」


 私は語尾を荒げて彼女達を怒鳴りつける。


「キーラ様、精一杯やっています!」


「これで精いっぱいですって? ふざけんじゃないわよ。全然効果がないじゃない。いい? あなた達が無能なせいで私が民衆達からやり玉に挙げられてるのよ」


「でしたらキーラ様も祈りに加わって下さい!」


「はぁ? 私はあんた達と違って色々やる事があるのよ。そんな事をしてる暇はないわ。私はもう行かなきゃいけないけど、私がいなくても祈りをサボらないでよ」


 私は悪態をつきながら聖堂を後にして王宮内に用意された聖女の部屋に戻って寛ぐ。

 いつまでこんな日々が続くのかしら。

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