戦記31
「進め。」
エヴァの号令と共に始まった戦闘は、公国軍が先手を取った。それは半分は竜将軍の読み通りであり、残りの半分は外された。公国軍が両翼と中央の同時攻撃により、竜騎士団の大隊規模による機動戦術を封じ込めたからだ。こうなると純粋に兵数が互いの戦闘力に影響するため、竜騎士団は全戦線で劣勢に立たされていた。
本来であれば爪と顎が抑えこまれれば尾を振るって薙ぎ払うところだが。
竜将軍はその思いが浮かんだ瞬間、この状況が演出されたものだと気がつく。
「なるほど、竜を手玉に取る黒策士か。マグオリンの小僧が持ち上げるのも頷ける。」
若くして才人の名を欲しいままにする大貴族の子息は、従兄が竜騎士団に所属しているため竜将軍とも知己であった。
「黒策士は才あり、性格は上等、立場は軽く、背景は強い。何より理念が単純です。」
「ほう、貴公がそうまで言うとはな。怖いのか。」
「私が優位なのは経験と生まれた国ぐらいです。」
柔和で誇り高い男の評価を軽くみたわけではないが、この緒戦の不利は自分の甘さだと竜将軍は戒める。
「敵の目的は我が軍の基本戦術、機動戦を封じることで兵力を損耗させることにある。」
竜将軍は騎士団司令部の面々に珍しく守勢を命じる。
「各大隊は爪を隠し、牙をしまえ。敵の攻勢の限界が来る時までは。」
竜将軍の命令を受けて伝令が各大隊に向かう。
「確かにこの勢いで来る敵と殺し合えば、最後まで立っていられるのはわずかだな。」
竜の第四大隊、通称「竜の左爪」の大隊長バルカンは伝令に命令受領を伝えると、視線を目の前で繰り広げられる戦いに戻す。
第二騎士団と第二兵団一個大隊はノエルの進言を得て、騎歩混成軍で「竜の左爪」に襲いかかった。騎馬が十分に展開可能な平地において、歩兵が騎兵に攻勢で当たるのは悪手である。機動力が違うため騎兵に側面や後背を突かれ、最終的に包囲され身動きとれなくなる。
「それを防ぐためのこの陣形か。」
バイファル騎士団長は目の前に配された陣形の効果を改めて感じる。中央に歩兵の第二兵団第三大隊を置き、左に第二騎士団第二大隊、右に第一大隊を配置している。歩兵は正面の敵にのみ集中できるため槍を用いた突進力が向上する。結果、「竜の左爪」は一部の兵を下馬させて隊列を組ませる事になり、必然的に騎兵数は公国軍より劣勢となっていた。
「しかしそれでも強いな、竜騎士は。」
隣でジャルダン伯爵に言われてバイファル騎士団長は頷くしかなかった。数で勝りながら「竜の左爪」を突破できる兆しはまだなく、敵前衛一千に対して公国軍は歩兵一千と騎兵一千でも互角に戦われている。
そしてこれは「竜の右爪」と戦う第三騎士団と第二兵団や「竜の顎」と戦う第一騎士団と第一兵団でも同じだった。特に第三騎士団のベルナール騎士団長に迷いがあることで「竜の右爪」を相手している公国軍の左翼は精彩を欠いていた。
左翼を指揮するベルナール騎士団長は、北部守備軍編成中にルード伯爵からの密書を受け取っていた。第二公女派への策謀について書かれた密書には、第三騎士団の消極的対応でエヴァの勝利を抑えるようにとあった。
公子派はエヴァの武勲の大きさに元々警戒を強めており、ベルナールも第三騎士団内の意思統一をはかるために騎士長全員の招集を命じていた。その直前に竜騎士団の来襲の報告が入る。そして守備に徹するどころか討って出て竜騎士団を倒そうとする第二公女の命令により、第三騎士団の騎士達に使命感が芽生えてしまう。
ベルナール自身も全騎士団で敵の前衛を釘付けにして少数の兵で敵の本陣を突く、本来は味方が寡兵の時に取る策を数が上回る側で使うノエルの鬼謀を認めてしまいそうになっていた。
「閣下、如何いたしました。」
騎士団の参謀役の騎士長はベルナールの変化を直ぐに感じとる有能な部下で、その反面、迷いがある時はベルナールを困惑させる。
「何もない。」
ベルナールは密書の件を士気に影響するため誰にも話していなかった。
「よろしいのですか。」
様々な意味を持つ騎士長の問いかけにベルナールは折れる事にした。ベルナールから渡された密書を一通り目を通した騎士長は苦言を呈す。
「宮廷の内事を戦場に持ち込む事はあまりお勧めしませんが。」
ベルナールの表情からある程度の苦慮を感じとった騎士長は、具体的な対処法を考えることに切り替える。
「この戦で我が第三騎士団の締め方を考えてみるのは如何ですか。」
騎士長がすぐに策を話さないのはいつもの事なので、ベルナールは黙って聞く。
「他の騎士団はさておき第三騎士団の生存のみを考えるか、それとも公国軍を無事に撤退させる事を考えるか。」
目の前の戦況に配慮しながら騎士長は続ける。
「生存を考えるなら戦線の維持にのみ注力を注ぎ、逃げる余力を残すべきです。しかしそれはこの作戦を放棄する事になり、必然的に他の部隊を見捨てる事になります。」
そこまでは考えていないベルナールに、騎士長は厳しい見方を突きつける。
「公国軍の存続を目論むなら、黒バラ騎士団を捨て駒にして退却すべきです。できれば他の騎士団とも連携したかったですね。」
ムーグベル騎士団長は第一公女派でバイファル騎士団長とルードルフ将軍は中立なので、消極的でも連携も可能であったと騎士長は考える。
「その時間が無かった。」
「何よりこの作戦に反対すべきでしたね。奇跡が前提、それも二度も必要な作戦に乗った幹部もどうかと。」
騎士長の批判はベルナールを怯ませた。
「勝つ見込みは無いと。」
頷く騎士長にベルナールは考え込む。先ほどまでとは違い勝利が感じられなくなったベルナールは、ノエルへの感情を高ぶらせて吐き捨てる。
「やはりあの小僧に騙されたか。」
「黒策士。才あり弁も立ちますがまだ子供でしょう。」
「くそっ。」
騎士長はベルナールを横目に見ながら、新たな伝令を通すように命じる。
「伝令、本陣より黒バラ騎士団が出撃します。」
後方にいた隊からの伝令は意外な情報を伝えにきた。
「ん、早いな。まだどの部隊も敵の第一陣を崩しておらんぞ。」
「はっ、しかし騎士団旗は間違いなく黒バラ騎士団のものです。」
ノエルの策はあくまで黒バラ騎士団を「竜の心臓」にのみ投入する予定で、このままでは自力で敵の前線を突破することになる。
「伝令、伝令。黒バラ騎士団より第三騎士団に伝令あり。」
騎士長と顔を見合わせたベルナールは、取り敢えず黒バラ騎士団からの伝令を通す。黒色の騎士が二騎、ベルナールの許しを得て通されると戦場においての儀礼省略のため立ったまま報告する。
「黒バラ騎士団は今より敵の本陣に突入します。」
若い騎士の報告は先の伝令の情報が真実を示すもので、それゆえベルナールは尋ねるしかなかった。
「どのようにして敵の戦列を突破するというのだ。まだどの部隊も敵の第一線を崩しておらんぞ。」
「詳しいことは一伝令には判り兼ねます。」
若い騎士は姿勢を正すと言葉を続ける。
「心置きなく正面の敵と戦われよ、というのが代表代理からの伝言でございます。」
瞬間、頭にノエルの顔を浮かべてしまいベルナールは思わず怒鳴る。
「中隊規模で何とかなるというのか、浅慮だぞ。」
流石にベルナールに怒鳴られ若い騎士は言葉を詰まらせる。
「お待ちください、代表代理からこのようにも言付かってきました。」
もう一人の戦場を知る風貌の騎士が進み出ると、背筋を伸ばし胸を張り声を出す。
「敵一大隊を釘付けにしていただければ問題なし、後は黒バラ騎士団にお任せくださいと。」
大言壮語の見本を突き付けられベルナールは二の句が継げなくなる。代わりに騎士長が確認をする。
「黒バラ騎士団は今から戦場を迂回するのか。」
「いえ、敵大隊間を突破します。」
「貴殿は本当に可能だと考えるのか。」
初めて伝令の騎士が口を噤む。その表情は押し黙ったと言うよりは言葉を選んでいる様子だった。
「作戦を聞き始めた時ほぼ全員が考えました。不可能だと。それでも殿下の命であれば戦うのが黒バラ騎士団。」
「そう決意して整列した我々の前に代表代理が現れて仰られました。」
不可能を言っているつもりも奇跡をあてにしているわけじゃない。誰もが知っている方法を話しているだけに過ぎない。
先制により敵の機動力を封じる事や小数で敵の本陣を突く事は戦術の基本で独創的でも何でもない。
そして全ては予定調和だ。
「そのまま代表代理は隊列に加わり、今我々とともにいます。」
「まさか。」
騎士長は驚き、二の句が継げなくなる。ジャルダン伯爵ならともかく若輩のいや、子供のノエルが突撃する部隊に参加するなどありえないからだ。
「我が主は、自ら先頭に立ちますから。その腹心もさもあらん、という事かと。」
騎士長の内面を悟った伝令はそう付け加えた。
「閣下、少し認識を改める必要があります。」
伝令が立ち去った後に、騎士長はベルナールに忠告した。
「そうだな。」
ベルナールは思考を進めながら目の前の戦況に注目する。
「少なくともあの小僧が突撃するまではここをもたせる必要がある。」
「仰る通りです。」
「第二歩兵団のルバン団長に連絡せよ。第二陣の投入準備をと。」
「はっ。」
「それと。」
「なにか。」
「中央の第一騎士団長ムーグベルク殿にも連絡。」
「なんと。」
「我が左翼は本来の職務を全うすることを優先すると。」
騎士長が伝令に指示を出す様を見ながら、ベルナールは密書を破りそのまま火口を使って燃やし捨てた。
中央で戦う公国軍から黒バラ騎士団の隊列が確認できると、第一騎士団と第一兵団の士気が微妙にあがっていく。当初は第一騎士団を差し置いて黒バラ騎士団を切り札に使う作戦に反感も生まれたが、騎士団のみで「竜の心臓」と戦う事を知り、またダンケの存在が明かされると敬意を表明する者も出て空気が変わっていった。
「黒バラ騎士団が我が隊の左を行軍中です。」
「うむ。」
ムーグベルクは目の前で報告する配下の騎士が、黒バラ騎士団に肯定的な態度である事から発言を最小限にする。これは部下への配慮であると共に、内心ほくそ笑むのを悟られないためだった。
昨夜、第一公女派の密偵から受け取った密書には、エヴァにこれ以上の力を持たせないようにするため、黒バラ騎士団とノエルの排除する指示が書かれていた。本来なら根回しが必要なその策略も、黒バラ騎士団が自ら死地に赴く事で手を打つ必要がなくなり、ムーグベルクは満足していた。
「それにしても早いな。」
できる限り冷静にムーグベルクは副官に言う。
「確かに。」
副官もまだ中央も両翼も前線を崩せていない状況での進出に疑問を感じた。
「焦ったか。」
訝しむムーグベルクの前に黒バラ騎士団の伝令が現れる。
「これより黒バラ騎士団と代表代理閣下が敵「竜の心臓」に攻撃を開始します。」
「今なんと言った。代表代理とはダロワイヨ男爵ではないか。」
予想外の言葉にムーグベルクは身を乗り出して確認する。
「はっ、閣下は本作戦を完遂させるために最前線で指揮をとられます。」
「馬鹿な。いや、失礼した。」
本来なら一石二鳥の話に喜ぶところだが、碌に剣も振り回したこともない貴族が騎士隊同士のぶつかり合いに混ざるなどムーグベルクはノエルの正気を疑った。
「まさか。あの小僧がか。」
「貴族の身で最前線だと。」
「本当は腕が立つとでもいうのか。」
部下達がざわめく事で、それもノエルを見直すという方向で空気が変わっていく。その雰囲気の中で新たな報告が入る。
「伝令です。第三騎士団から閣下に。」
直ぐに通された伝令はムーグベルクも知る、第三騎士団の騎士長だった。
「貴様が来るとは余程のことか。」
「はっ、我が第三騎士団団長ベルナールより閣下に直接との内容です。」
「申せ。」
少し近づくと伝令の騎士長は声をひそめてゆっくりとムーグベルクに伝える。
「我が左翼は本来の職務を全うすることを優先する、との事です。」
ムーグベルクは意味を理解すると、打算の中で最も利がある方針を選択する。
「皆の者、あの黒策士が最前線で指揮をとるという。我々は公国の第一騎士団である。かの者に遅れをとるなど断じてあってはらない。」
副官が口を真一文に引き締める様子に気が付きながらムーグベルクは命じる。
「正面の「竜の顎」を総力をもって押さえ込む。リッジ兵団長にも伝えよ。」
騎士団長の決意と命令に、にわかに活気づく騎士団本陣で事情を承知する副官は独白する。
「まあ、黒バラ騎士団が「竜の心臓」に食らいつくまでは頑張る必要があるか。」
そう自身を納得させると副官本来の仕事に戻っていった。
「黒い騎士が数騎、我が大隊と右爪の間に進出してます。」
報告を受けて「竜の顎」の大隊長は横にいるボッシュに確認する。
「どうやらお前の言うとおりのようだな。」
「まあうちのエルラッドを手玉にとるぐらいですから。」
ボッシュは黒バラ騎士団が単独で動くと予想していた。公国軍の他の騎士団とは異なるため、独立した戦力として活用すると考えていて、今回はその通りとなった。
起伏が緩やかな平原では少数の動きでも必ず誰かの目に止まる。堂々と旗を立てる姿や、ましてやその後方から縦列で整然と行軍する騎馬隊は目立つことこの上なかった。
「やっていいですか。特に槍使いはウチが頂きたいですな。」
「竜の顎」は公国軍中央の圧力を受けて守勢のままでいる。それでもまだ二個小隊二百騎程度の抽出は可能と考える大隊長だが、反転攻勢用の第一中隊「竜の牙」は温存したかった。
「目の前は第一騎士団だ。お前の獲物はそっちだ。」
「まあ、それなりなのは認めますが。」
ボッシュは部隊前面の敵はそれなりに強力で、先の威力偵察で戦った第二騎士団よりも上等だとは感じていた。それでも黒い騎士達の極上感には遠いと思ってしまう。
「しかし、このまま通して背後に回られても面倒でしょう。」
未練がましいボッシュの指摘でも、黒バラ騎士団が「竜の顎」か「竜の左爪」の後方を遮断する動きに見えるのは確かであった。当然撃退する必要があるため大隊長が決断しようとした矢先に、帝国公用語が耳に飛び込んでくる。
「我が黒バラ騎士団はこれより「竜の心臓」に決闘を申し込む所存である。」
大声で朗々と唱える言はまるで古来の戦闘様式だった。最初に戦いの目的と意義を言い合いそれから合図と同時に戦闘を開始する戦習いは何百年も前に廃れている。
「堂々たるものにするため、願わくば一切の手出しを控えて頂きたい。」
「当方は五百騎、先方は二千騎。貴部隊が危ぶむ事は微塵も無き事。」
若いというより子供のようにも聞こえる声に、大隊長は数瞬だけ思案してボッシュに命じる。
「ボッシュ、この声の主がどんな奴か見てこい。ただし。」
声をかけられた時点で飛び出そうとしたボッシュの背後から、大隊長は肝心な命令を付け加える。
「こいつの言い訳が下らなければ、構わず切ってこい。」
「さすが兄貴、わかっている。」
大隊長の言葉に満足したボッシュは、騎乗すると部下数名を連れて本陣を後にした。
「竜の顎から数騎来ます。」
「閣下、偵察にしては殺気が強い。お下がり下さい。」
全部で六騎の竜騎士にホーウッドはノエルを背後に隠して剣を抜く。
「鷹の目ホーウッドがなぜこんなところにいる。」
ホーウッドが誰何する前に相手から声をかけてきた。
「先陣ボッシュがこんな所で何をしている。」
ホーウッドも知っている声に思わず返事をしてしまい、背後にいるノエルの存在を思い出し舌打ちをこらえる。敵同士でも互いに知己である場合、命のやり取り場でこんな会話も発生する。ただボッシュと違いホーウッドには苦い過去に係るため喜ぶものでは無かった。
「今は竜騎士団の一番隊隊長よ。しかし貴様が黒バラ騎士団とはな。」
「事情があってここにいる。」
「それはそれは。あのときの借りを返さないと。」
「今は忙しい今度にしろ。」
「次があるとは限らないのが人生だ。」
会話を交わしながら位置取りを行う二騎に手出しを控える部下達。
「旧交温めるのもいいが、祭りの準備があるのを忘れるな。」
口を挟むノエルにとって二人の関係も因縁もどうでもよかった。むしろ予定の時間が狂うのを懸念していたため、この場で戦闘になるのは望ましく無いと考える。
「それが例の黒策士か。子供だな。戦場に出るのは鎧が似合う年になってからにしろ。」
「全くその通りだ。だからさっさと見逃してくれ。」
ノエルは自分を軽んじ煽る発言には気にも止めず、時間の浪費のみを気にする。その態度を余裕と判断したボッシュは黒策士を敵と明確に認識する。
「ただの子供ではないというわけか。」
ボッシュの意識が遊びから本気に変わると、ホーウッドもそれまでの相手の出方を探る体勢から攻める姿勢になる。部下達も相手を見定めて各々の隊長の動きに注意する。
切っ掛けは二人にしかわからない。同時にボッシュとホーウッドが掛け声と共に、間合いを詰めて相手に剣を振り下ろす。それを合図に残りの騎馬が互いの獲物を求めて襲いかかる。
ボッシュの剣がホーウッドの首を狙い、ホーウッドの剣がそれを弾いてそのまま横薙ぎに胴を狙う。逆手で受け止めたボッシュはその力強さに驚きながらも満足する。
「怠けてはいないようだな、ホーウッド。」
「少しは怠けてほしいな、ボッシュ。」
「戦が俺を怠けさせんのだよ。」
豪快に笑うとボッシュは強引に剣を払い、ホーウッドの体ごと押し返す。ホーウッドは間合いを取ろうとするが、ボッシュはその隙をつくらせずに大上段から剣を振り下ろす。
「ぐっ、馬鹿力め。」
両手で受け止めるも、技量がなければ押し切られていたほどの剣撃に、ホーウッドは悪態をつくのがやっとだった。
「これを受けるか。」
完全に殺るつもりの一撃を受け止められて、ボッシュは感嘆する。
「楽しみの最中だが、時間切れだ。」
ノエルの一言で二人は相手側から騎馬が駆けて来るのを確認する。
「ボッシュ隊長、お戻りください。敵の二次攻勢が来ます。」
「ホーウッド隊長、全面攻勢が始まります。この機を逃す事はできません。お引きください。」
剣を交えて睨み合う二人は、そのまま視線を外さずに伝令から報告を受ける。
「わかった。」
二人が同じ言葉を吐いて同時に剣を引くと、部下達も示し合わせたように離れていく。互いに馬を返しても斬りかかられない距離まで離れると、ボッシュが声を上げる。
「貴様は確かに帝国の敵だな。次は必ずその首を跳ね飛ばす。」
ボッシュの宣言に、なんとも言えない顔で黒策士は返答する。
「その時はこのホーウッドを通してくれ。」
「貴様の前にホーウッドがいるのなら、むしろ二度楽しめるな。」
猛獣の笑顔を最後にボッシュは部下を引き連れて「竜の顎」へと戻っていった。
「閣下、勝手に予約しないでください。」
ホーウッドの抗議をノエルは両手を上げる仕草で答えると、四列縦隊で進む黒い騎士団に合流するため急ぎ馬を駆けさせる。その後につき従うホーウッドは、いつもの余裕ある表情とは別の顔だった。




