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黒バラと姫  作者: 無風の旅人
帝国大乱
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戦記19

 ダロワイヨ男爵家の屋敷では、主のノエルの出立の準備を使用人総出で進めていた。その準備の最中、ノエルはフローリがお茶の準備をするのを眺めながら考える。

 ノエルにすればあの案は採用されることは無いと踏んでいたほどの過激で無謀で無理な案。もしこれに飛びつく決定がなされていたら公国首脳部に失望しただろう。紆余曲折あって最終的にこの提案に落ち着く事が最善だと考えるため、その点については喜ばしかった。

 一方でノエル自身が交渉役に抜擢されて矢面に立つ状況になったことは意外だった。この有り得ない人事は、明らかに他派閥や自分に反感を持つものが動いたとしか考えられない。

 交渉の失敗をもって失脚を目指すつもりか。

 ノエルは暗躍しそうな何人かの顔を思い浮かべる。

 この一大事に派閥闘争にいそしむ輩は、予定にはないがせいぜい利用させてもらう。

 ノエルの相変わらずな腹黒い笑いにフローリは嘆息しながらお茶を渡すのだった。


 全権大使ダロワイヨ男爵の出立はそれなりの規模となった。連合王国への正式な大使のため、部下となる副大使一名に護衛と従者で総勢二十名となる。これに替えの馬と馬車を複数用意した一行は公都から出ると急ぎ街道を南下する。

 ノエルは事前の顔合わせで副大使のレグニックに準備と道中の全てを任せる旨を伝えた。

「よろしいのでしょうか。」

 レグニックは子爵家の三男で若いが学識に優れ、公王の諮問団にも名を連ねている。そのレグニックでも自分より更に若い男爵家の当主を好意的に見るのは困難だった。

「面倒な事は任せる。交渉に集中したい。」

「わかりました。後はお任せください。」

 副大使というよりも副官の扱いにレグニックは内心不快であったが、表向きは同意してその場はおさめた。

 言葉通り出立前も出立後の道中もノエルは全てレグニックに任せて、馬車の中でひたすら書類を読み、一日一回必ず現れる黒バラ騎士団の騎士に書類を受け渡していた。

 そのため一行はしだいにレグニックを中心にまとまり、連合王国に付くころにはレグニックが正大使であるかのように、護衛や従者が振舞うようになっていた。


「レグニック大使、連合王国のバッカノ総督府から内々に会談の依頼が届きました。」

 連合王国の最大の港であり、海軍の拠点でもある都市バッカノの公国領事館に到着後も、ノエルはレグニックに所々を任せると部屋に引き篭もる。もうすっかりノエルを軽んじていたレグニックは従者の媚びる態度を受け入れていた。

「そうか、それは受ける必要があるな。」

 連合王国の王都に向かう前にこのような打診があるとは、連合王国側が探りを入れようとしている、それだけ公国を認めているとレグニックは考えた。

「断われ。」

 背後からのノエルの命令に全員が固まる。それまでとは全く違う雰囲気のノエルに驚きながらもレグニックは反論する。

「大使閣下は意味がお分かりでない。」

 総督との会話は連合王国側の腹の内を知るのに必要な行為であるのに。

「連合王国は一枚岩ではない。総督は王弟派だ。下手に会うと国王派から痛くも無い腹を探られるぞ。」

 レグニックはノエルの説明に驚く。連合王国は様々な利権を持つ複数の集団から成り立っているのはレグニックも承知している。王弟と国王の確執も。しかし総督が王弟派との情報はまったく無かった。

「その情報をどちらで。」

「総督家に出入りしている商人からだ。それよりも会うのはこちらだ。」

 ノエルは一枚の紙をレグニックに渡した。

「これは。」

 海軍提督ミスガンの署名入りの書面。バッカノに拠点を置く連合王国海軍のトップで、現王の妹を娶り信任熱い重鎮。その提督から面会を了承する手紙を読みレグニックは驚く。

「いったいどうして。」

 連合王国の商船を守るため艦隊を率いて常に海にいる生粋の船乗りで、民の人気も高い。先の公国侵攻の際にも公国海軍をあっさりと封じ込め、エンドルの港を機能麻痺に追い込んだ。

 ただ連合王国内の政治には必要以上に関わろうとせず、派閥争いの外にいる。だからこそ、その言動には重きがおかれている。

「何故かは問題ではない。何をが問題だ。」

 ノエルの言いようから、あしらわれた印象を受けて不快になったレグニック。それでも提督との会談に参加しないわけにはいかなかったため、すぐに支度を済ませるとノエルの後を追った。


 朝の遅い時間に僅かな護衛で指定された屋敷に入った公国の使者二人は、連合王国の重鎮の貫禄を肌で感じていた。

「ダロワイヨ男爵が何故に足りないとおっしゃられるのかわからぬ。全兵力は十万を超え、物資も問題なく調達できる。戦は時の運だがそれを引き寄せるだけの準備は万端だと考えるが。」

 海の男らしい風貌と堂々とした語り口に、ノエルは少し軌道を修正する。

「簡単です。貴国が帝国軍の強さを見くびっておられるからです。」

「それは聞き捨てならんな。」

 ミスガンに対してノエルは強気の路線で会話を続ける。

「まさか忘れておられますまいな。ファーレンの戦いの事を。」

 ここでようやくミスガンの受け応えが滞る。

 ノエルが持ち出したのは十五年前に起こった帝国対北方国家と共和国と連合王国の三ヶ国の戦いで、連合王国は帝国の竜騎士団に戦術でも戦闘でも歯が立たずに敗退した。大国二ヶ国と組んだにも関わらずであり、軍事力で帝国に敵わないと諸国に認識させた。そして総司令官だった当時の王太子は連合王国の現国王であり、今回の三ヶ国連合の発起人でもある。

「その言葉は我が国では禁句となっておる。王都では気をつけたほうがよかろう。」

 初めてミスガンの感情が見えるも、落ち着いた口調は変わらなかった。

「我が国は常に倍する帝国軍を撃退しております。ゆえに帝国軍の強さを知っております。」

 ノエルは公国軍の強さのアピールをしながら、ミスガンに公国の活用法を提示する。

「特に帝国の存在すら嫌う御方は自ら騎士団を率いて帝国軍に突入しますからな。」

 激発姫、その名を思い出したミスガンが少し考えを深める。

 気性が激しく、怒ると誰であろうが指揮棒で殴りつけるとか。先の帝国との戦では騎士団の先頭に立ったのは本当らしい。対帝国強硬派の急先鋒がその第二公女でその腹心がこの男、ノエル。

 ミスガンは己に課したただ一つの信条である、連合王国を守る、そのためだけに思考すると一つの問いかけを行う。

「公国は同盟の暁には先陣を切ると言うのか。」

 ノエルは身を乗り出してミスガンを真正面から見据える。

「むしろ、我が国を差し置いて帝国を攻めて欲しくないというのが心情です。」

 多少の演技もあるノエルの言葉に、幾分かの真実をミスガンは感じる。

「判った。陛下への紹介状を書こう。」

 ミスガンは力強く告げた。

「ありがとうございます。閣下のご決断に感謝いたします。」

 ノエルは礼を述べて、ミスガンの別邸を後にした。


 沈黙の馬車に揺られるノエルとレグニック。ミスガンとの会話に参加できなかった事を密かに悔やむレグニックを尻目に、ノエルは馬車を共和国の領事館に向かわせた。

「レグニック。次は君が話せ。」

 馬車の中で急に命じられたレグニックは驚く。

「共和国との交渉は私には荷が重すぎます。」

 あえて下手に出たのはノエルの意図が不明であったため。

「第一公女派は妥協策だろう。だが共和国との妥協できなければ進まないぞ。」

 レグニックは表情を変えてノエルに反論する。

「第一公女派とかどういう事ですか。」

「知らないのかとぼけているのかは判らんが、第一公女派はそうだというのは知っている。問題は相手がどの条件なら妥協するかを押さえているのか。」

 レグニックはノエルの尋問がはったりかどうか読み切れrないでいた。確かに第一公女派閥のレグニックはノエルの交渉がとん挫した場合に裏で再交渉する命を受けている。

「大使を差し置いて交渉など。」

「君は次席だ。私が動けぬ今、君の出番だ。」

「動けぬとは。」

 いつの間にか馬車が共和国大使館に到着する。

「今日の分は働いた。後は任せる。」

 そういうとノエルは寝そべってしまった。扉が開けられ、当惑するレグニックだったが意を決して馬車を降りる。

「公国大使閣下、お待ちしておりました。」

 迎えにそう言われてレグニックは鷹揚に答え、屋敷の中へと案内された。レグニックが従者と共に屋敷の中に消えると馬車は待機所に送られる。屋根付きの待機所で馬車が止まり、しばらくして周囲が静かになるとノエルは起きる。マントを脱ぎ軽装になると帽子をかぶり外にでる。

「身分を確認させていただきます。」

 衛兵がすぐに近づきノエルに確認する。ノエルは内心舌打ちしたが、共和国も公国の大使の馬車から出た人物ならたとえ従者でも丁寧に対応しなければならない。

「失礼した。公国副使レグニック閣下の従者です。厠をお借りしたい。あとできれば水をいただきたい。」

 衛兵は公国の大使一行が今入った大使と従者二名、別室で休んでいる護衛四騎との報告を受けていた

「なぜ馬車の中におられた。」

「大使の命令でこの次にお会いする方の情報を整理してました。」

「判りました。こちらです。」

 ノエルは御者に喋らぬように合図をすると衛兵の一人について館に入っていった。


「公国内の強硬派は、貴国らと同盟を組んでの帝国への侵攻を訴えております。」

 レグニックは共和国首席領事官にノエルの案をあっさりとばらしてしまった。

「今回は通行権さえいただければよかったのですが。」

 首席領事官は困ったような顔をする。

「ええ、我が国としてもそこは善処する用意がありました。」

 レグニックも困った顔を造って見せる。

「その、帝国振興の急先鋒はあのエヴァ姫と聞き及んでます。」

 首席領事官の指摘にレグニックは大きく同意する。

「はい、常に帝国を敵視し自ら騎士団まで養成して帝国と対立を主張しておられます。」

「激発姫、でしたかな。その勇名は共和国まで響いておりますな。」

 半分は笑いを含む首席領事官にレグニックも軽い口調で答える。

「まあ、わが国でもあの聡明な公王陛下の子でありながらと申し者もいます。」

「なるほど貴国でも持て余していると。」

 首席領事官の直接的な物言いにレグニックは笑みをこぼすのを制して真面目な顔を造る。

「臣下の身でそのような事は申し上げられません。」

 互いに目は判ってますよと言わんばかりの二人だった。


 その頃、ノエルは炊事場で貫録のある炊事婦と会話していた。

「お偉いさんの相手も大変だよ。ろくに食事を取る暇もない。」

「大変だね若いのに。」

「ほんと、給料がまあそれなりなのが救いだね。」

「そうかい、あ、これもお食べ。」

 炊事婦からもらった蒸し饅頭を食べるノエル。

「でもここの領事官は貴族じゃないんだってね。」

「そうだよ。なんでも民でも偉くなれるんだってねえ。」

 連合王国民からみれば貴族でもないのに大使を名乗る方が不思議だった。

「無能な貴族よりそっちのほうがいいよな。」

 ノエルは自分の上司がさも無能そうに嘆いてみせる。

「でも本当はそうでもないんだって。」

「え、どういうこと。」

「ここの首席領事官様は結構なお金持ちで、この地位も金で買ったとかなんとか。」

「へえ、よく知っているね。」

「まえに部下の人が酔っ払って話すのを聞いちゃってねえ。」

 炊事婦は肩をすくめる。

「結局、世の中は金か生まれってことか。」

「やんなっちゃうね。」

「やんなっちゃうなあ。」

 ノエルは蒸し饅頭の礼を言うと炊事場から出る。

「おいお前、何をしている。」

 裏方の炊事場から表玄関に向かう途中でノエルは衛兵に止められた。

「公国全権大使のノエルだ。」

 ノエルは公用帝国語と連合王国標準語で二度名乗る。衛兵が驚き、すぐに上司に知らせる。守衛長は連合王国発行の入国証を確認して慌てて首席領事官に知らせる。

「体調がすぐれないとお聞きしておりましたが。」

 談話室に入ってくる若いノエルを見て動揺を最小限に抑えたのは流石だった。

「閣下、お加減は良いのですか。」

 レグニックの顔には出しゃばりめ、と書いてはいたが言葉ではきちんと配慮する。

「大変失礼した。しかし首席領事官殿との席に私がいないのは非常にまずい。」

 先ほどとは異なる説明にレグニックは口を歪めるが、そんなことは構わずにノエルは席に着くと話を始める。

「お願いしたいのは、我が国からの磁器鉱物の輸出についてです。」

 ノエルは首席領事官殿に懐から出した一通の書面を差し出す。

「殿下より親書いただいております。」

 ノエルは事前に連合王国に駐在する首席領事官の前歴を調べていた。陶磁器生産と販売で莫大な富を持つ商家の三男坊で父親は共和国の経済の重鎮。

「しかし、貴公の役目はあくまで連合王国との交渉では。」

 首席領事官は本来の仕事を差し置いて、この様なことをしているのか不思議に思った。

「それは既に手を打っております。閣下にお願いする筋ではありませんし、ここで閣下が公国を擁護しようなら共和国と連合王国の間に不和が生じかねません。」

 ノエルは平然と答えると、鉱物の件について取り扱う窓口は一任するとの条件を伝える。

「私に期待する所は何でしょうか。」

 首席領事官殿はノエルを計りかねていた。

「公国と共和国で行われている交渉に、閣下の後押しをお願いしたい。」

 共和国は支配層は形式上存在しない。選挙で選ばれた者が法を作り国を動かすシステムは、一方で国政に関わる人間へ大小問わず接近し支援する者が存在する。その支援する商家の経済力や政治団体の影響力が国政に強い影響を与えていた。

「私にそこまでの力があるといわれるのか。」

「その答えは既にその書状に。」

 まっすぐ首席領事官を見るノエルの顔には真摯な、ものは無く完全に悪党の顔だった。首席領事官は貴族らしからぬノエルに少し気押されながらも、利権の旨みを勘案して結論を出す。

「お約束しましょう。」

 一人を除いて満足した会談は昼過ぎには終了した。


「どのような、お心算ですか。」

 馬車に乗るまでは大人しくしていたレグニックは、領事館から離れると直ぐにノエルに食って掛かる。

「共和国領事官との連合王国への対応の相談は任せたとおりだ。」

 レグニックはノエルの言い方に不愉快となるが、そこで口を出すのは控えた。しかし、ノエルの口から出た次の言葉は見過ごせなかった。

「私が行ったのは対共和国交渉の支援の話だ。」

 レグニックは反論する。

「それは越権行為では。閣下が拝命したのは連合王国への交渉役のはず。」

「副大使は四ヶ国連合は可能かと思うかね。」

「何を突然。」

「いや、大切な事だ。」

 ノエルの急な質問にレグニックは渋々答える。

「四カ国連合は流石に無理かと。」

 そしてそれは第一公女派の意見であり方針でもある。

「そう、特に共和国の理念派の説得は無理だろう。だから商業組合を味方につけて妥協案まで落とし込むしかない。」

 レグニックはノエルの説明に内心冷や汗をを流す。第一公女派の中心で国際派のローエン伯爵は共和国の商業組合と内政主体派を中心に出兵を否決させる策を講じていた。それを見越したのかノエルが商業組合への対策を打ってきた事実は、無視できないものだった。

 レグニックは今すぐにでも帰国すべきかと考えたが、現実的には連合王国との交渉に出席しないわけにはいかない。悶々とするレグニックをノエルは悠然と眺める。

 レグニックとノエルの差は能力よりも決定権があるかどうかの差であった。全権委任の大使と副大使としてではなく、エヴァすら気にせずに決断できるノエルと、第一公女派の意向に沿わなければならないレグニックとでは異なる。

「明後日は連合王国の親玉が相手だ。最悪、勾留や強制退去もあり得るから気を引き締めていこう。」

 最後にそう締め括り馬車を降りるノエルと憮然とした顔のレグニック。護衛の騎士達は今夜の酒の肴見つけて内心満足していた。


 共和国大使の一行が七日目の朝に到着した連合王国の王都は人口二十万を超える都市で、王宮は都市の中心にありその謁見の広間でノエルは王国の重鎮に囲まれていた。

「我が戦略に公国は必要ない。」

 堂々と第一王子が発言する。

「無論、この進言は殿下をお助けするためではなく我が公国の都合です。待ちに待った帝国の内乱、せっかくの機会を見過ごすわけにはいきませんから。」

 ノエルも悠然と答える。ノエルが公国通行権の条件として提示した四ヶ国同盟案に対して、今回の同盟軍司令官となる第一王子は冷淡に対応していた。

「ならば勝手にすればよかろう。」

「そうはいきません。我が国と貴国が別々に動き、結果敵に利することが無きようにする必要があります。何より我が目標は帝都ですから。」

「言うわ。」

 第一王子が薄く笑う。

「公国では策士として名を売っているようだが、王国では子供の浅知恵は通用せん。」

 第一王子はそこで同席する弟のメイリオ王子へ視線を移す。

「まあ、そんな子供にやられる者もいるようだが。」

 先の戦を揶揄されメイリオ王子は一瞬不快な表情をするが発言は控え、変わりにノエルが応える。

「あの矢雨の中を立たれていた胆力だけでも感嘆の限りかと。」

 何故かメイリオを助けるノエルの態度に第一王子は口を歪める。

「守られていただけだろう。」

「最後までその場におられたのは疑いようもありません。」

「貴国の姫もその場にいて平気だったと聞くがな。」

「あれは頭があれなのです。」

 ノエルが肩をすくめて発言した内容に、第一王子は初めて感情を混ぜて尋ねる。

「貴国には不敬罪は無いのか。」

 ノエルは指摘されて気が付いたように答える。

「おお、そういえば。このままではあれな姫に首を打たれるので亡命させて下さい。今なら帝国の情報もおまけします。」

 まるで道化のように語るノエルに第一王子は最初虚を突かれた表情で、それから一度吹き出し、最後に笑い出した。

「ふはははっ。公国人は真面目ばかりと思っていたが貴様は違うようだな。」

 第一王子は国王に一度礼をすると見解を述べる。

「公国と組む必要はありませんが、この男と組むのは面白いかもしれません。」

 そのまま一旦、議論を終えたていで第一王子は口を閉じる。

「そちは良いとしても。公国の役割はな。」

 ようやく国王が口を開いて述べた言葉は否定的な内容だった。利用するにしても同盟ともなると配慮する必要がある。故に通行権のみを求めた国王はこれで終わりにしようとした。

「大義名分があります。」

 ノエルの一言は国王の気を引いた。ほんの興味本意だったがそれでも国王は視線をノエルに固定する。

「ほう。申してみよ。」

「はい、ですがまずはお人払いを。」

 続いて出た言葉はさすがに広間を凍らせる。公式の間で重臣全員を人払いしろと言うのは無理を超して無茶だった。

「これは最重要機密です。陛下のお耳にのみ。」

 重臣たちの当然の叱責、怒りの発言は無かった。国王が指を上げてそれら全て抑えてしまったからだ。

 その国王も信頼をおくミスガン提督からの書状や同盟相手である共和国の首席領事官からの使者がなけれすぐさま謁見を打ち切っていた。

 国王の異例中の異例な対応に重臣一同は固唾を飲んで見守る。

「それが相応しいものでなかったら。」

 連合王国の剛者も震える国王のこの問いかけに、ノエルは平然と答える。

「無論、陛下のお手を煩わせた罪はこの首で。」

 ゆっくりとノエルは頭を下げる。

 斜め後ろにいたレグニックは内容も意図も判らずにただ頭を下げるしかなかった。


 静寂の中で二人の王子が左右を固め、中央に王が座する。ノエルがレグニックを退出させた事で国王は衛兵すら下がらせた。その代わりに護衛も兼ねて二人の王子が残る。

「ここまでさせて貴様の言が頼りなければ。」

 メイリオ王子はノエルを厳しく問う。

「公国第二公女エヴァンジェリン殿下の生母マリアンヌ先公妃が元は帝国の皇女で現皇帝の妹君であられたことは周知ではございますが。」

 急に話を始めるノエル。

「公国に嫁がれた後も帝室の一員であった事は知られておりません。」

「どういう事だ。」

「指輪をお持ちでした。」

 第一王子の問いにノエルは簡潔に答える。

「指輪がなんだというのだ。」

 メイリオ王子が口を出したためノエルは国王と第一王子を見る。第一王子が国王を横目で見たのでノエルは国王を正視する。

「それは真か。」

「はい、先の公女殿下の帝国訪問の際にその旨の発言と先帝に指輪を返すところをこの目で見ました。」

「で。」

 これまでがそよ風と感じるほど強烈な国王の一言に、ノエルは全身で耐える。ここで羞恥を見せては苦労が水の泡となる状況で、ノエルの口からゆっくりと応えがでる。

「その指輪が今は公女殿下の指に。」

 大きな謁見の広間に流れる沈黙は、その意味を王子が理解する前に破られる。

「ふっ、ふははは。」

 突然の哄笑。二人の王子は程度の差こそあれど、初めて見る国王の姿に仰け反り驚く。始めたのと同様に突然笑いを納めると国王はノエルに答えを与えた。

「よかろう、四ヶ国同盟の件は余から二国に話しておこう。」

「有り難き幸せ。」

 この遣り取りに王子達は思うところはあっても口を挟まずにいた。

「ただこの議は切り札中の切り札。公国でも知るものは片手もおられませんゆえに。」

「わかっておる。」

 国王は二人の王子に厳命する。

「他言無用、道化だろうと寝室だろうと一切だ。」

 二人の王子の返事を聞き、国王はノエルに笑みを浮かべて話しかける。

「ダロワイヨ男爵よ。これからは暴虐な帝国に対する同盟者として共に戦ってゆこうぞ。」

「偉大なる陛下のお言葉、公王に代わりお礼申し上げます。」

 この瞬間、公国は対帝国同盟への参加と積極的防衛のため帝国侵攻へと踏み出すこととなった。

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