第1話 魔法少女と、浴室
――浴室の扉が開く音がした。
反射的にはっと顔を上げたおれは、次の瞬間、完全に固まった。
湯気をまとった白い身体が、目の前にあった。
タオルもまとわないままの彼女が、濡れた銀色の髪を頬に張りつかせ、上気した顔でおれを見つめている。
白い肩先から透明な雫が落ち、細い鎖骨を伝っていくのが見えた。
「冬花――」
慌てて視線を逸らそうとした。
けれど、それより早く、冬花の濡れた身体がおれの胸元へ飛び込んできた。
細い腕が、おれの首筋にすがる。
湯上がりの熱と、石鹸の匂い。
そして次の瞬間、やわらかな唇が重ねられた。
「んっ……」
触れ合うだけの、短いキスだった。
それなのに、彼女の唇はしっとりと濡れていて、驚くほど柔らかかった。胸元に縋りつく少女の身体は湯上がりの熱を帯びていて、服越しにも、そのやわらかさがはっきりと伝わってくる。
「冬花? いったいなにを……」
「お金なんかいらないの」
冬花は、おれの首筋に抱きついたまま、小さく震える声で言った。
「ご飯だって、私が頑張って作るし、冥獣との戦いだって、アキトくんを助けられるように私が頑張る。アキトくんが欲しいものがあるなら、私がぜんぶ用意する」
「冬花……」
「だから、私のそばにいてほしいの」
彼女の腕に、ぎゅっと力がこもる。
「あなたに見放されたら、私、今度こそ本当にひとりぼっちになっちゃう。あなたがそばにいてくれるなら、私、どんなことだって……」
すがるような声音でそう告げた冬花が、もう一度おれにキスしようと唇を近づけてくる。
――彼女は雪崎冬花。
願いの代償として、誰にも触れられず、誰にも認識されない呪いを背負い。
それでも、たったひとりぼっちで戦い続けていた魔法少女である。




