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GAME.信長を裏切った俺、明智光秀は天下を無視して東北を目指す。  作者: 山田 ソラ


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第十一章 東北統一、そして大宴会

 陸前決戦から三日が過ぎた。


 俺は陸前の城に入り、接収の手続きを始めた。


 城の管理、兵糧の確認、民への布告、各地の豪族への挨拶。やることが山積みだ。安東愛季が交易路を使って物資を動かし、半蔵の忍びたちが各地の様子を報告し続ける。利三が書類の山と格闘しながら、一つ一つ片付けていく。


 そして、伊達政宗が意外なほど協力的だった。


 陸前の地理、豪族との関係、民の気質。この男が持つ情報量は膨大だ。白装束で降伏してきた翌日から、淡々と俺の統治を助けている。


「政宗」と俺は声をかけた。「なんで素直に手伝ってる」


 政宗が静かに答えた。「負けたからです。それだけです」


 割り切りが良すぎて、逆に怖い。しかしマップの忠誠値は少しずつ上がっている。この男は約束を守る男だと、なんとなく分かってきた。


 陸前の接収が一段落した頃、俺はマップを開いた。


 東北全体を確認する。


 羽前。羽後。陸奥。陸中。陸前。


 五つの国が、全て明智の色に染まっていた。


 俺はしばらく、その画面を眺めた。

 動悸がした。


 遠江から逃げ出したあの夜、この光景を想像したことは一度もなかった。ただ生き残りたかった。ただ家臣と家族を守りたかった。それだけで走り続けてきた。


 なのに、東北が全部、俺の色になっている。


「東北、統一」と俺は呟いた。


 誰もいない部屋で、一人で呟いた。

 なんだか、泣きそうになった。


 利三に報告すると、この冷静な男が珍しく目を赤くした。


「おめでとうございます、十兵衛様」


「ありがとう」と俺は答えた。「お前がいなかったら、ここまで来られなかった」


 利三が深く頭を下げた。何も言わなかった。言葉がいらない場面というのが、確かにある。


 幸村に伝えると、短く「よくやった」と言った。俺に言ったのか自分に言ったのか分からなかった。


 忠勝は無言で腕を掲げた。それが忠勝なりの喜び方だと理解できるようになっていた。


 家康は静かに微笑んだ。「次の手を考えましょうか」と即座に言った。この男は本当に休まない。


 昌幸は「ほほう」と嬉しそうに言って、すぐに「して、秀吉はどこにおりますかな」と聞いてきた。老狐め。


 安東愛季は深く頭を下げて「海路は全て整えます」と言った。


 伊達政宗は少し間を置いてから「悪くない結末だ」と言った。この男にそう言わせたことが、今日一番の勲章かもしれない。


 夜、俺は決めた。


「宴会をやる」


 利三が目を丸くした。「宴会、ですか」


「大宴会だ。全員集めて、思い切りやる」


「しかし今は兵力の立て直しが」


「分かってる」と俺は言った。「でも聞いてくれ。みんなの忠誠値が、まだ足りない」


 利三が黙った。


「伊達政宗は49だ。昌幸も48。家康でさえ58のままだ。政宗を仲間にしたのはいいが、心がついてきていない者がまだいる」


「それは時間をかけて」


「時間をかけるのも大事だ。でも一緒に飲んで食って笑う時間も、同じくらい大事だと思う」俺は利三を見た。「俺は現代人の記憶がある。チームビルディングって言葉を知ってるか」


 利三が首を傾げた。当然だ。


「要するに、仲間の絆を深めるってことだ。戦と戦の間にそういう時間を作らないと、人の心は続かない」


 利三がしばらく考えた。そして静かに頷いた。


「御意。では盛大にやりましょう」


 宴会の準備に二日かかった。


 安東愛季が日本海の海の幸を大量に取り寄せた。鮭、鱈、数の子、海老。東北の山の幸も集めた。茸、山菜、猪の肉。酒は各地から樽ごと運ばせた。


 陸前の大広間に、全員が集まった。


 本多忠勝、真田幸村、真田昌幸、徳川家康、服部半蔵、安東愛季、伊達政宗、そして斎藤利三。

 

 これだけの顔ぶれが一堂に会している。改めて見ると、化け物じみた面々だと思う。前世のゲームなら最強パーティーと言われるラインナップだ。


 俺は上座に座り、全員を見回した。


「始める前に、一つだけ言わせてくれ」


 広間が静まった。


「京から逃げ出したあの夜、俺は一人だった。いや、家臣はいたが、心細かった。どこに向かえばいいか分からなかった。東北に行けば何かある。そう思って、ただ走り続けた」


 誰も口を開かない。


「三河で忠勝に泣かされた。信濃で幸村に睨まれた。上野で長野業正にブチ切れられた。岩代で吐いた。羽前で義光に逃げられた。津軽で為信に逃げられた。陸前で政宗に死ぬかと思わされた」


 昌幸が小さく吹き出した。政宗が微かに眉を上げた。


「それでもここまで来られたのは、全員のおかげだ。ありがとう。本当に、ありがとう」


 俺は頭を下げた。


 上座の主君が頭を下げるのは、この時代の作法ではないだろう。利三が少し慌てた顔をした。でも俺には関係ない。言いたかったから言った。


 顔を上げると、広間が静かだった。


 幸村が目を逸らした。照れているのか、こいつが。


 忠勝が無言で盃を持ち上げた。


「飲もう」と忠勝が言った。この男が宴会の口火を切るとは思わなかった。


 宴が始まった。


 最初は静かだった。さすがにこの面々が一堂に会すると、互いに探り合う空気がある。忠勝と政宗は最初、会話もなく黙って飲んでいた。二人とも戦場では激突した仲だ。


 しかし、酒というのは不思議なものだ。


 昌幸が政宗に話しかけた。「伊達殿、本多殿と真田幸村殿を相手に、あそこまで持ちこたえたのは見事でしたな」


 政宗が静かに答えた。「持ちこたえていない。負けた」


「しかし、二人がかりで倒されたのです。一人ずつなら互角だったでしょう」


 幸村が横から言った。「一対一なら負けなかったかもしれん」


 政宗が幸村を見た。「次は一対一で頼みたいものだ」


 幸村が静かに笑った。「いつでも」


 忠勝が盃を置いた。「俺も混ぜろ」


 三人が同時に笑った。


 俺は少し離れたところからその光景を見て、口元が緩んだ。


 家康が俺の隣に来て静かに座った。


「明智殿」


「何だ」


「東北を統一して、次はどうするつもりですか」


 この男はいつも先のことを聞く。


「守る」と俺は答えた。「ここを守る。秀吉が来るかもしれない。謙信との同盟を維持しながら、東北を固める」


「天下は本当に要らないのですか」


「要らない」即答した。「お前が欲しいなら、後でくれてやる」


 家康が少し驚いた顔をした。そして静かに笑った。この男が笑うのは珍しい。


「……いずれ、考えましょう」


 食えない男だ。しかし、嫌いじゃない。

 宴の中盤、半蔵が俺の隣に来た。


 この男は宴会でも気配がない。いつの間にかいる。


「半蔵、飲んでるか」


「少し」


「楽しいか」


 半蔵が少し間を置いた。「……悪くはありません」


 この男にしては最大限の褒め言葉だと思った。


「半蔵、お前には特に世話になった」と俺は言った。「情報がなければ、何度死んでいたか分からない」


「仕事です」


「それでも、ありがとう」


 半蔵が無言で頷いた。盃を少し持ち上げた。乾杯のつもりらしい。


 俺も盃を合わせた。

 深夜になって、宴が佳境に入った頃。

 伊達政宗が俺の隣に来た。


 この男が自分から来るのは初めてだった。


「明智殿」


「何だ、政宗」


 政宗が盃を持ったまま、広間を見渡した。忠勝と幸村が昌幸を相手に何か話し込んでいる。家康が利三と静かに話している。安東愛季が部下に指示を出している。半蔵が隅で静かに飲んでいる。


「こういう場を作れる主君は、少ない」と政宗が言った。


「そうか」


「戦が上手いだけの主君は多い。しかしこういう夜を作れる主君は少ない」


 俺は政宗を見た。


「お前の忠誠値が低いのは分かっている」と俺は正直に言った。


 政宗が少し目を細めた。「忠誠値とは何ですか」


「……独り言だ、気にするな」


 政宗が短く笑った。この男が笑うのも珍しい。


「信用するには時間が必要です」と政宗が言った。「しかし、今夜は悪くないと思っている」


 俺は頷いた。「それで十分だ」

 宴が終わったのは夜明け前だった。


 全員が思い思いに去っていき、広間に俺一人が残った。


 飲み干された盃が並んでいる。食べ残しの肴がある。消えかけた灯火が揺れている。


 俺は【GAME】を開いた。

 忠誠値を確認した。


【本多忠勝 忠誠100】

【真田幸村 忠誠100】

【徳川家康 忠誠91】

【真田昌幸 忠誠75】

【服部半蔵 忠誠93】

【安東愛季 忠誠94】

【伊達政宗 忠誠60】

【斎藤利三 忠誠100】


 全員が上がっていた。


 昌幸と政宗はまだ三つだ。しかし確実に動いた。宴会の一夜で、数値が変わった。


 俺は静かに笑った。

 チームビルディングは正解だった。

 夜明けの光が広間に差し込んできた。

 俺は立ち上がり、窓から外を見た。


 東北の朝が、静かに始まっていた。山が赤く染まり、川が光り始める。この土地の朝は美しい。遠江の朝とも、三河の朝とも違う。もっと静かで、もっと広い。


 ここまで来た。


 逃げ続けて、戦い続けて、吐いて、泣きそうになって、それでもここまで来た。


 しかし、ここがゴールではないと分かっている。


 秀吉はまだ西にいる。謙信との同盟は続いているが、いつ状況が変わるか分からない。武田信玄のマーカーは甲斐で光り続けている。死んだはずの武将たちが蘇り続けるこの狂った時代は、まだ終わっていない。


 でも今夜は、この朝は、いい。


「明智光秀」と俺は自分の名前を呟いた。「お前、よくやったな」


 誰も聞いていない。でも言いたかった。


 マップの東北が、朝の光の中で静かに輝いていた。




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