52.おえおえだよぉ……
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イキョウ、ソーエン、ヤイナの三人は、それぞれが『ラリルレの事が一番好きなのは自分』と思っていて、同時に『他二人ほどキモイ関わり方をしてない』と思ってます。
「全員衝撃に備えろ!!」
「っス? きゃっ!!」
オレが指示を出した直後に、ラリルレの<ホーリープロテクション>に物凄い衝撃が走る。
「なになに!? 何が起こってるの!?」
横殴りの衝撃を受けた<ホーリープロテクション>は海中を高速で流されている。幸い、壁が硬かったおかげで中への衝撃はそこまで無かった。
その中でラリルレが困惑した声をあげる。
「ロッククラーケンの――」
「わぁっ!!」
今度は上からの衝撃だ。衝撃で流される度に全員が壁にへばりつく。
「なんなんスかもー!!」
「ロッククラーケンの足が動いてんだよ!!死んだってのに勝手に暴れまわってやがる!!」
「もう化けて出てきたか。イカのレイスか」
「んな訳あるか!!魂の反応無いのに動いてんの!! うげっ!!」
また横殴りの衝撃。
ロッククラーケンの足はそこかしこを破壊するように暴れまわっている。
オレ達を狙っているってよりは、暴れまわった結果偶然<ホーリープロテクション>に足がヒットしてるって感じだ。
「ラリルレ!!壁はまだ持ちそうか!?」
「大丈夫だよ!!でもこのままだと!!」
「このままだと!?」
「……私酔っちゃうカモ…ジェットコースターとか苦手なの…」
ラリルレが史上最高に弱弱しい顔をしながら口を手で押さえている、なんとも痛ましい姿が眼に映った。
「めっちゃ緊急事態発生!! ナトリ!!ヘルプ!!」
「イカやタコは自身の足を囮として逃走の目晦ましに利用することがある。その反射機能が働いているのだろうな」
「うーん。また一つ賢くなったけどそうじゃねえんだよなぁ」
「グッ!!」
「ぅぇー……」
今度は下からの衝撃。
その衝撃でソーエンは苦しそうな声をあげ、ラリルレが弱弱しい声を上げた。
「ならば酔い止めの知識であるか? ラリルレよ、手を貸せ。ここの手首にあるツボを押すとある程度は楽になれる」
「ありがと…ルナちゃん…」
衝撃が絶え間なく続くこの状況で、二人は並んでへばりついたままツボ押しを始める。
「おばあちゃんの知恵袋じゃん。そうじゃなくてこの状況を打開する策を教えろっつってんの!!」
「そういうのは阿呆の役目であろう」
「ソーエン!!」
「ナトリの言う通りだ。さっさと考えろ」
「ヤイナ!!」
「っスー。なんだかあたしも、うぷ、気持ち悪く……おげーっス……」
「だめだこりゃ!!」
二人はダウン、残り二人は思考放棄……ってより、全部オレに丸投げ。
早く終わらせないとこの球体空間が地獄絵図になるぞ!! 家の仲間にはもう雪のゲロ吐くやついんだからこれ以上増やしてたまるか!!
「その囮の反射機能ってどれくらい待てば終わるんだ!!」
「我輩はイカ博士ではない。が、この巨体に加えて食後だ、治まるまでは相当な時間を要するであろう」
「具体的な時間が知りたいんだよ!! クッソつかえねー!!このポンコツオカルトマニアが!!」
さっきからガンガンガンガン壁殴られて、この球体の中の慣性グッチャグチャだよ。新手の絶叫アトラクションだよ!!
待ってるだけじゃダメだ。何か打開策を考えなければ。
えーっと、ロッククラーケンって……。ゲームの頃には居なかったモンスターだから何もわかんねぇ……。
オレこいつに関する情報ほとんどもってねぇよ!!どうすりゃ良いって言うんだよ!!
知ってることなんてさっきギャラ達から聞いた、ちょっとの情報だけだぞ!!
…ん? そういえば…………あっ!!
そのとき、少ない情報から一つの案が浮かんできた。
もうこれしか思いつかないわ!!
「ちょっとオレ行って来っから!!それまで耐えてて!!」
即断即決。思いついた案を実行すべくすぐさま行動に移す。
「うん……。が……がんばるよ……」
「おえーっス…パイセン早く…」
「ふむ、我輩もそろそろツボを押すとしよう」
ナトリも限界近いんかい!!
「どうするつもりだ」
唯一酔ってないソーエンはオレに尋ねてくる。
「ま――」
「いいから早くっス!!乙女がゲロ吐きそうなんだから!! ムーブっス!!」
「へい……」
ヤイナがマジな顔して急かしてきた。
まあ、説明する必要も無いしさっさと行くか。
オレは<ホーリープロテクション>に触れて、外側に出る。
この壁はパーティメンバーなら出入り自由、他は使用者に許可を貰う事で同じ効果を得られる。
皆出ないってことは、まだあの中の方が安全と思ってるんだろう。実際そうだよ、あんな触手の一撃喰らったらこの肉体と装備と言えどダメージは食らう。何より、外側は暗闇に支配されてるから迂闊に出るよりは壁がある環境の方が何倍も安全だ。
でも、オレはこの海を見通す目を持っている。だからこの暗闇の中でも自由に動ける。
壁に叩きつけられながらすり抜けるように<ホーリープロテクション>を脱出した。そして、慣性の法則で投げ出されそうになる身体を<ジェットストリーム>つかって無理矢理に制御し、体制を立てなおす。空から落ちた次は海に流されるハメになるとはなぁ。
そしてそのままの勢いで特攻だ。
両手に<ジェットストリーム>を発生させて、海の中を飛ぶように移動する。
「うおおおおおおおおおお!!」
暴れ狂う触手を抜けながらの高速移動。一歩間違えれば触手に身体を叩きつけることになってしまう。
「でもラリルレのためだああああああああああああああああ!!いっけえええええええええええええええええええ!!」
このオレの目を舐めるなよ!! そんなトロイ攻撃が当たる訳無いだろうがよ!!
高速で海中を飛ぶオレ、それを遮るように荒れ狂う触手。だけど、オレの方が上だったようだな。
「っしゃおらぁ!!今度こそオレの勝ちじゃ!! うけけけけけ……わあ」
触手をすり抜け、海底に突っ込むように沈んだオレを待っていたのは……シーサーペントの死に顔だった。
目的の場所はロッククラーケンの足元。目が合うのも当然だよね。
「同情…なんてすっかこのボケが!! 全部お前等が招いたことだ!! 墓標作ってやっから悔い改めろ!!」
ロッククラーケンを止める唯一の手段。
「範囲拡大<アースウォール>!!」
オレは周囲の地形を巻き込んで、海底ごと全てを持ち上げて巨大な壁を生成する。
後はこいつを海から引き釣り出すだけ。
そう、こいつは重すぎて自重に耐えられない。海から出しちまえばこの暴れてる触手の動きも止まるはずだ!!
海底から唸りを上げて出現する土の壁。その壁はオレごとロッククラーケンを持ち上げ上昇する。この壁は頑丈だから海流に晒されてもそうそう壊れる事は無いぜ。
「おいイキョウ、早くしろ。ラリルレ達がもう限界だ」
ソーエンからパーティチャットを介して最悪の報告が来た。
「やってから!!全力でやってから!!」
魔力グングン消費して必死にやってから!!このまま行けば海面にはギリギリ届くからそれまで待ってて!!
「きょ、きょーちゃん…私が吐いても嫌いに…ならないでね…」
「待ってもう少しで終わるから!!頑張ってラリルレ!! オレならラリルレのゲロだって飲めるよ、そんなことで嫌いにならないから!!」
「おえっ…今の発言で気持ち悪さ倍増したっス…冗談も大概にして欲しいっス…。まあ、あたしも飲めるっスけど」
「ほざいてろバカ共。まあ、俺もだが」
オレの意見に、ソーエンとヤイナが反論して来やがった。
いやさぁ、オレは良いけど、お前らが言うとただただキモイ発言だからな? オレはラリルレに対して崇高な思いを持って発言してるから別だけど、お前等二人は自分の発言を省みてくれよ。頭おかしいことしか言ってないからな?
「お前等頭おかしいんじゃねぇのか?」
「パイセン達狂信者っス……」
「お前等達ほど俺はおかしくない」
「「「……は?」」」
「きょーちゃん達にそんなきたいののませられないよ……」
「うーん、この女神様は人のことを慮っていらっしゃる。崇高な存在だぁ」
「……」
「ナトリ!?さっきから喋ってないけど大丈夫か!!」
「……である」
「ダメじゃん!! お前が一番ダメそうじゃん!!」
「ナトリはもうダメだ。最悪この壁から放り出す」
「ついにこの四日間のツケが回ってきたな。因果応報だ、そのバカを遠慮なく放り出せ ……って言いたい所だけど」
それよりも早くこっちの方が終わってしまいそうだ。
月が照らす海面はもう眼前に迫っている。
「さっきからしてるこの押し上げられるような感覚なんなんスかね……これが一番ヤバイっス」
ヤイナから謎の報告が入ってくるけど、すまん。今はこっちを優先させてくれ。すぐに終わるから。




