48.悪役と女神とメイドと下っ端
皆が座りなおした現状。ラリルレは上機嫌そうに、ヤイナの膝の上に座っている。
「ヤイヤイちゃんふかふかー」
「ああーリルリルちゃんの体温が体の芯まで染み渡るっスー。極楽っスー」
オレはその横で、窓際に座ってラリルレの笑顔を視界の端で見ながら煙草を吸っていた。
オレの対面にはソーエン、ヤイナの対面にはナトリが座っている。
セイメアは、オレ達に気を使ってくれたのか席をはずしてくれてた。
「向かいに座ってる奴等、なんか敵幹部みたいだな」
怪しい仮面と黒フード。ビジュアルがもう敵。
「お前もこちら側だろ」
ソーエンは煙草の煙を吐き出しながら、オレに対してふざけたことを抜かしやがった。
「幹部ではなく下っ端の見た目をしてるのであるがな」
「なんとでも言いやがれ。こっちの陣営にはラリルレが居るんだからな、言うなればこっち側は正義のヒーローだぞ。悪役は聖なる光で浄化されて大人しくくたばってろ」
腹立つから煙草の煙でわっか作ってソーエンに飛ばしてやろう。
「やめろ。そしてお前の言動がもはや悪役だ」
煙の輪を鬱陶しそうにしながら手で払い、逆にわっかを飛ばしてくるソーエン。
お前も止めろよぉ。
「ラリルレーあの怪しい二人組みがいじめてくるー」
「すぐ泣きついてくる正義のヒーローとか情けなくないっスか?」
「んふふ~、この感じ懐かしいなぁ。楽しいなぁ嬉しいなぁ」
「「ああ~」」
ラリルレのニッコニコの顔を見てオレとヤイナは心の底から癒される。
心が……浄化される……。
「おいナトリ」
「何用だ馬鹿」
「俺達の事はあのバカから聞いたか」
「然り。故に説明は不要だ。ならばこそ、貴様等には我輩の旅路を聞く義務がある」
「そうか。聞かせろ」
ソーエンは相変わらずぶっきらぼうな口調で淡々と話してるけど、オレには分かる。あいつ、内心めっちゃうきうきしている。
「ソーエンテンションぶちあがってんじゃん」
「何で分かるんスか……付き合い長くてもやっぱ完全には分かんないっスよ……」
「ルナちゃん達のお話し聞きたい!!」
「良かろう。我輩が存分に貴様等を楽しませてやろう!!」
「でも私も沢山お話したい!!」
「それも良かろう」
「お前さっき説明不要って言ってなかったっけ?」
「甘いっスね、リルリルちゃんにあまあまっスよあの腐れ外道」
「やったー!!」
「ラリルレもテンションぶちあがてんじゃん」
「これは見れば分かるっスね」
「「せーの、かわいい~」」
「阿呆共の阿呆加減に限りは無いのであるか?」
「フッ…」
「ふはは!! 馬鹿も馬鹿であったな」
もーラリルレが望むなら、オレは何回だってナトリ達の話聞いちゃうし、何回だってラリルレの話も聞いちゃうよ。
ついでにお茶を皆の分注いであげちゃう。
ラリルレの為にお茶を注ぎ、オレはナトリやヤイナから聞いた話をもう一度聞く。でも……コイツ等の旅路ってそんなに厚みある話じゃねぇんだよなぁ……。
だから、話の大半はオレ達の事に関しての内容になった。ずっとラリルレが楽しそうに話してて――――オレは幸せだった。ずっと聞いていたい……。
でもそんなわけには行かず、幸せの時間についに終わりが来てしまった。
「――――――でね、今日シャーユに到着したんだぁ」
ああ……もう終わっちゃった。まだ夕方だし、もう一週くらい話してくれないかなぁ。またラリルレの語りをもう一度聞きたい。
「っスっスー、リルリルちゃん偉いっスー。めっちゃ頑張ってたっスー」
「邪神を従え、アステルを守り、王国を救う。並大抵の者では成し得ない功績であるな」
「皆が居たから出来たんだ。ありがとね、キョーちゃん、ソーちゃん」
「今全ての行いが報われた気がするわぁ」
「ああ。話をもう一周聞き、最後にまた同じ事を言われたい」
「分っかるぅ。一日一回はこれ聞けば自己肯定感上がりまくるわ」
「一人一猫一ラリルレで世界は平和に包まれる」
「オレは一コロロ一ラリルレだな」
「二人とも褒め上手だねぇ。私は皆が居れば笑顔にちゃうな。一日一皆だね」
「「照れる」」
「ふははははははははははは!!」
「えぇ……パイセン達に会って無い期間長かったから、ナトナトのツボ浅くなりすぎて皿になってるっス」
「ルナちゃんは本当に二人の事大好きだよねぇ」
「愉快愉快!! ふはははははは!!」
「笑いすぎじゃない?」
「いつものことだろ」
「それもそっか」
ナトリはホント良く笑う奴だよなぁ。
気持ち良く笑う奴だから、思わず笑わせたくなるわ。
「……ムール貝」
何も入ってない手を開いて、ナトリに見せてみる。
「止めるのである!!腹が捩れる!! ふははははははははは!!」
「シジミ」
ソーエンも乗っちゃったよ。
ムール貝は手首側を基点にするけど、シジミは小指側が基点なんだよな。
「はーーーーーーはっはっはっはっは!!」
ナトリK.O. テーブルにダウン!!
「ナトナトって馬鹿とか阿呆って言うっスけど、大きく括ったらパイセン達側っスよね」
「遠まわしにオレ達のこと貶してない?」
「細かい事は気にしないほうがいいっスよ。それより、そろそろ本題に入るっス」
なんか無理矢理話題を逸らされたような気がするけど……そっちも大事な事だし、切り替えるか。
本題とは海に現れたシーサーペントの件だ。二人には事情を話すだけだから、ツボってるナトリは放置してても構わないだろう。
「本題とはなんだ。今この瞬間以上に重要な事があるのか」
「ソーエンお前、テンション上がり過ぎてキャラぶれてるからな?」
「仲間内のソーパイセンは割りといつもこうじゃないっスか? あと猫関連っス」
「猫!?」
「あーもうソーエンの情緒ぐっちゃぐちゃだよ」
「っスっスー。シャーユの海にシーサーペントが居座っちゃって困ってるんスよー」
あの状態のソーエンはスルーするに限る。その事はヤイナも重々承知してるから、無視して話を切り出した。
家のメンバーは癖の強いやつが多いから、話を進める上ではスルーが一番効果的なんだよなぁ。まったく、真人間のこっちの身にもなって欲しい。
「シーサーペントって、ゲームにも居たモンスターだよね?」
唯一オレと同じ真人間仲間のラリルレはヤイナに質問する。
聞いただけですぐ理解するとは……やっぱりラリルレは賢いなぁ。天才さんだなぁ。
「そっスよー。特徴聞いた感じだとゲームの頃とほとんど同じっス。でっかいウツボにヒレが生えた感じのあれっス」
「しかも強さも据え置きっぽいから、この平和な土地の住民達だけで対処すんのは無理っぽい」
「何故お前等三人が居て放置している。俺達が来る前に殺しておけ、邪魔だ」
「それがさぁ――――――」
何でオレ達がシーサーペントに手を出さなかったのか。その事情を、経緯を交えて話す。
話していくうちに、ソーエンの目がみるみる呆れて行ったけど、その目はオレじゃなくてナトリに向けろ。あとその目はオレだってしたいからな。
そしてラリルレはと言うと、オレの話を聞いて難しそうな顔をしていた。
「ん~。ルナちゃんが私達と一緒に戦えるのを楽しみにしてたのは嬉しいけど、でも町や海の人たちのこと考えると……ん~」
ラリルレはナトリのバカみたいな思考回路と町の住民の気持ちを慮って、感情が板ばさみ状態になってるっぽい。
「ならばすぐ討伐しに行けばよかろう。それでラリルレの悩みは解消されるのである」
「そっか。そうだよね、ルナちゃんありがと」
「それがラリルレにとっての一番の解決策だけど、元凶のお前が言っていいことじゃないからな?」
「っスっスー、ホントっスよ。でも意外っスね、リルリルちゃんのことだからシーサーペントの討伐に反対するかと思ったっス」
ヤイナは明確には言わないけど、命のやり取りをする件に関して言っている。
「昔の私だったらそうしてたかも……。でもね、私が初めて冒険者になったとき、モンスターの討伐失敗しちゃってシアスタちゃん達が怪我しそうになっちゃったことがあるの」
ラリルレは真剣な顔をして話し始めた。
冒険者としての初めての失敗。シアスタがイジケ虫になったときか。
「そのときね、この世界は生きるか死ぬかが近い世界なんだって思い知らされたの。でもね、それでも命を奪うってことは怖かったの。
そのことをローザちゃんに相談したらねこう言ってくれたの。『冒険者の中にもモンスターの命を奪う事に抵抗がある者は少なからず居ます。ですが、その様な事で躊躇してしまっては仲間に危害が及ぶ事を、皆一様に理解しています。一受付の私から言える事は、命を奪う為に戦うのではなく、生きる為に戦うと考えてはいかがでしょうか』って。あの時言われたことは今でもちゃんと覚えてるんだ。忘れないように、しっかり心で覚えてるの」
「本来生物にとっての生きるという行為は常に他者から何かを奪うという事象を伴うのである。そのことに戸惑いを覚えるというのは知性を得た者の特権であり、同時に傲慢な思考だ。
殺すという行為に抵抗があるのならば、功利的な思考だけを働かせて感情を切り捨てるのが最も傷つかずに済む手段であろうな」
「こうり…?ってのは分からないけど、私は感情を切り捨てないよ。ちゃんと奪った命には向き合って、背負ってくんだ」
「それだとリルリルちゃんが辛くないっスか? ずっと背負ってたらいつかつぶれちゃうっスよ」
「んふふ~大丈夫、私には皆が居るもん。それにねソーちゃんがね、私の辛いを背負ってくれるって言ってくれたから私は辛くないの。逆に元気一杯にならないとソーちゃんがつぶれちゃうの。だから、奪った命とはちゃんと向き合って、しっかり受け止めながら前に進んで行くんだ」
「最強の感情論っスね、感情に感情ぶつけて相殺してるっス。リルリルちゃんは強い子っスね」
「それもまた一つの理論であるな」
「いうほど理論っスか? あと、なんでさっきからパイセン達は腕組んでるんスか?」
オレとソーエンは今、しかめっ面をしながら腕組んで自己嫌悪に陥ってた。
だって。
「金稼ぐ為だけに何の感情も持たず冒険者やってるオレ達が汚く思えてきた」
「加えて、異世界に来て初のシリアスな話題だ。何を言うべきかと思ってな」
「そっスか?本当に初っスか? 絶対に他にもシリアス発生してたと思うっスよ?」
「私はもう大丈夫だよ。それに、キョーちゃん達は汚くないよ。皆のためにすっごく頑張ってくれてるもん、キレーで立派だよ」
「女神が言うならオレ達は綺麗で立派だ」
「ああ、気にする必要は無くなった」
「ふははははは!!快感を覚えるほどの切り替えの速さであるな!! ではすぐに討伐へ向かうのである!!」
「お前の切り替えの早さも相当だと思うよ?」
しかももう立ち上がって、海に行く気まんまんだし。
「ナトリ、ステイステイ。どーどー」
「なんだ阿呆」
でもこのまま海に行くのは勘弁して欲しかったから、宥めて座らせる。
「作戦何も考えてないから」
「歩きながら考えればよかろう」
そう言ってナトリはまた立ち上がった。
「ステイ、ナトリナトリ。どーどー」
「なんだ阿呆」
また宥めて座らせる。
「よく見て、今夕方。せめて日が出てるときにやろう?」
「四日も我慢したのだぞ? これ以上は待てん」
コイツ止まらねぇ!!また立ちやがったぞ!! 通路側に座らすんじゃなかった!! しかもそれに賛同するようにソーエンも立ち上がりやがった。
「それに、夕方であろうとあのような雑魚に遅れなどとらん」
「ナトリの意見に賛同だ。さっさと終わらせて宿をとりに行く」
「お前の中でのその教訓強すぎない? あ!!おい待てって!! 止まれこの悪役共!!」
さっさと終わらせたいソーエンと、早く討伐に向かいたいナトリは二人揃って歩き出しやがった。
「またこの流れっスか……。あたし、メアメアちゃんに出かけるって一言声かけとくっス」
「クソが、あの二人傍若無人過ぎんだろ。もう行くしかないじゃん……」
「皆でやればきっと大丈夫だよ。私達も行こ?」
「「はーい」」
準備も何も無しに事が進むな。
オレ達は、もう店の外に出たあの二人を追うために歩き出した。




