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無計画なオレ達は!! ~碌な眼に会わないじゃんかよ異世界ィ~  作者: ノーサリゲ
第三・五章-オレの親友がポンコツなんだよ異世界-
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13.温かアステル

 そのドーナッツは球体が連なっている見た目をしていて……あれ? この世界にそのドーナッツってあったっけ? それってポンデ――。


「ラリルレ直伝の新メニュー。もちもちうまうま」


 カフスがドーナッツを頬張りながら言葉を発する。


 ……ん? 誰がなんだって?


「カフスさん……あの……ほんと、あのときの私は……」


「いつも言ってる。大丈夫」


「申し訳ございません……」


 オレの疑問は受付さんの様子で消し飛ばされる。


 受付さんは申し訳なさそうな、それでいて恥ずかしそうな顔をしながらカフスに謝罪をしていた。


 この光景は何度も見た。


 オレ達の晩酌にお邪魔するのは受付さんだけじゃない。カフスだって参戦する。


 そしてその後日は必ずと言っていいほど、家に泊まった受付さんが同じく家に泊まったカフスに謝罪するんだ。


「ん」


「あ、はい。いただきます」


 受付さんに新品のドーナッツを渡すと、カフスはまたテーブルに戻って行った。


 あいつ、やりたい事やって何事も無く戻りやがったぞ。会話に参戦したかった訳じゃなくて、ただドーナッツをおすそ分けに来ただけのようだ。


 どうやらカフスの優先度はオレ達と話すよりもソーキスと飯を食べることの方が高いらしい。


 カフスからドーナッツを渡された受付さんは行儀良く食べては頬をモチモチさせている。


「それ美味いですよね」


 その受付さんの姿を見て、キンスが言葉を発する。


「んくっ。ふわふわモチモチで……」


 受付さんはそのドーナッツの食感と味を堪能して飲み込んだ後にキンスの言葉に答えた。


 飲み込んだ後の顔でさえも、幸せの微笑みが浮かんでいる。


「ああ、それが噂の。私も食べてみたいものだね」


「テモフォーザさん、はい」


 受付さんは、球体が連なるドーナッツの一粒をちぎると、そのままテモフォーバに渡した。


「おや、これはこれは」


 テモフォーバはそのモチモチを楽しんで咀嚼をしている。


 まるで……まるでじゃねぇわ。マジでヤギが食い物を食べるが如く下顎を回しながら咀嚼してやがる。


「にゃあキンス、そのドーニャッツはそんなに美味いのか?」


 ドーナッツの評価を聞いていたニルドは興味を持ったらしく、キンスに尋ねた。


「ニルドさんもどうぞ」


 その姿を見た受付さんは、また一粒ちぎって今度はニルドにドーナッツの欠片を手渡した。


「にゃあ、副ギルマスに甘えてありがたく頂戴するにゃあ。……モチモチ、にゃあにゃあ」


 テモフォーバと同じく、そのドーナッツを堪能するニルド。


「その感想はおかしくない?」


「分からんでもない。これを食った奴は皆こうなっちまう」


「ああ、キンスの言う通りだ。この菓子は新たな革命を起したと言っても過言ではない」


「イキョウ」


「あーね、なんとなく分からんでもない」


 ソーエンはオレの名を呼んで、同意を求めてくる。だからオレは同意をする。


 だってそれ美味いもん。ポンデー―。


「家のモヒカも絶賛してたぞ。このドーナッツはドーナッツ界隈に革命を起すって」


「元も悪いわけではない。だが、従来のボソボソするドーナッツと違ってこのラリルリングはしっとりふわふわだ」


 ……お? そのドーナッツの名称が……なんだって? なんかさっきから家の女神の名前が出てきてる気がするなぁ。


 まあでも、翻訳機のせいだろ。この世界であのドーナッツの名前は美味さゆえに『女神ドーナッツ』って名前だから、翻訳機を通して『ラリルリング』になってるんだ。


 そうに違いない。最近、ラリルレが子供達と一緒に家で色んなお菓子を作ってた気がするけど、それはこのドーナッツの件には関係して無いだろう。


 一人結論を導き出したオレの目の前では、逸脱者達が話をしている。


「にゃあ、美味かったにゃあ。俺のドーナッツ界隈に革新が起きたにゃあ。やっぱり甘味はどうにも求めてしまうにゃあ」


「分かる。冒険者になってからというもの、何でか甘いものが欲しくなっちまうんだよな」


「美味い酒、飯、甘味は冒険者の共通理念と言っても過言ではないからな。我々も最近はラリルリングを食している」


「にゃあ、これはモヒカのランキングにも変動もたらすんじゃないかにゃあ?」


「奴の甘味に対する姿勢は我々の情報収集力を凌ぐ。だから頼りにさせてもらってはいる。……が、時たまファンシーな店をピックアップされるのが困りどころだ」


「モヒカは凄いにゃあ……。モヒカオススメの店を全て巡れるのなんてモヒカ本人ぐらいにゃあ……」


「分かるぜ。俺とフローも、モヒカ同伴じゃないと入れない店はごまんとあるからなぁ……。甘いものってどうにもなぁ……。美味いんだけどよ、男だけだと躊躇しちまうよな」


「同意だ」


「わかるにゃ」


 二等級冒険者のリーダーそれぞれが腕を組んで頷いている。


 目の前の男達は甘味というものを食す事に当たっての苦労を共有していた。


「よく分からんけど、皆苦労してんのな」


 目の前の二等級冒険者達も結局のところは一人の生き物であり、逸脱者と呼ばれようとも人相応の悩みを抱えているようだ。


「ふむ、逸脱者と呼ばれる者達の苦労か。それもネタになりそうだな」


 横のバカも人並みの悩みを抱えて今日は一生懸命やってるし。若干ネタネタ煩く感じてきたけど、こいつなりに頑張ってるから突っ込まないでおこう。


「先程から気になっていたんだけどね、そのソーエン君が言ってるネタってのはなんなのかな?」


 ここ、アステルギルド長でもありバフォメットとかいう大悪魔だって今の今までずっと悩みを抱えていた訳だし。


 皆色々頑張ってんのなぁ。


「気にするな。ただ手紙を書くために情報を収集しているだけだ」


「え!? ソーエンさんって手紙書くような人でしたっけ!?」


「今回ばかりは特別だ。普段ならばこのような面倒な事はしない」


 あの日の夜。受付さんも何か過去を抱えていたような感じだったし。今はもう大丈夫そうだけど。


「特別な手紙……。同胞よ、情報ならば我々が提供しよう。帝国の金の流れについてか、王国の暗部についてか、教皇の正体についてか。気にする事は無い、銃の礼と思ってくれ」


「そのようなものは要らん。面白い話ならばそれでいい」


「絶影よぉ……ちょいちょい気になっちゃいたが、いよいよ持って隠す気ないな……」


「勘違いするなキンス。我々は自由を愛する冒険者だ」


「詮索はしないにゃ……というか詮索したら始末されそうにゃ……」


「我々もそのような事はしたくない。お前等とは良き関係を築いているからな」


 絶影の言葉を聞いた二人は、お互いにやれやれって顔で笑いながらその顔を絶影に向ける。


 どうやらコイツ等はコイツ等で、冒険者仲間として良い関係なようだ。


 荒くれ者集団のトップ層ってもっといがみ合うような間柄になる気はしそうだけど、助け合いが大事とか言ってたし険悪な仲よりも良好な関係を築いた方が建設的なのかもしれない。


 ってか、コイツ等単純に人が良いから仲良くなるのも必然なのかもな。現に今回の講習だってコイツ等と受付さんで立案したんだし。


「面白い話って、イキョウとソーエンの周りが一番面白いと思うけどな」


「それではダメだ。今回の手紙は俺が見聞きしたものを書かなければならない」


「にゃあ? それなら別にネタ探しなんてしなくても書けにゃいか?」


「線引きがある」


「にゃあぁ?」


「なるほどなぁ。お前が手紙に書きたいのは“イキョウと”じゃなくてお前自身なんだな」


「キンスの理解力は凄いにゃあ……」


「深くは察せぬが、我々の日常の話で良ければ教えよう」


「にゃあ、功労者の一人だしにゃ。俺も教えられることなら教えるにゃ」


 ちょっと傍観していたオレの目の前では、とんとん拍子に話が進んでいる。


「アステル温かすぎないか?」


 目の前の光景を見ながらオレは一人言葉を発する。


 ここの住人は皆おおらかで優しい。特にギルドのトップ層が。


「温かい人の周りにはね、温かい人が寄ってくるんだよ」


 横にすうっと移動してきたテモフォーバは、オレの独り言への答えを言ってきた。


「温かいねぇ……。確かにアステルの代表はホント優しいドラゴンだよ。そら皆も優しくなれる訳だ」


「まるで君は優しくないみたいな口ぶりだね」


「オレは優しくなんて無い。もしそう見えるなら、オレの行動が偶然誰かの為になってるからそう見えるだけ」


「それも優しさの一つなんじゃないかな?」


「お前瞳だけじゃなくて脳味噌まで蕩けてんじゃないだろうな? こいうのは偶然の産物って言うんだよ」


「私はイキョウさんがとっても優しい人だって知ってますよ」


 受付さんとテモフォーバに挟まれてしまった。


 両手にギルドトップだ。


「優しかったらさっきの模擬戦も二つ返事で受けてると思うんだけど」


「でも、この講習のきっかけを作ったのはイキョウさんとソーエンさんですよ」


 受付さんはニコニコしながら、オレの言葉に返してくる。


 その返された言葉は、根本から間違ってるんだよなぁ。そもそもこの講習は、絡まれた末に受付さんに怒られたくなかったから付いた嘘がきっかけで始まったものだ。


 ああ、その嘘のせいでオレは受付さんから優しいと勘違いされてしまっているのか……。今更あのときのことは嘘ですなんて言えないから反論できないじゃないか。


「まあ、勝手に勘違いしてて」


 反論できないから濁すしかない。


 でも、オレの言葉を聞いて受付さんは笑顔のまま「はい」とだけ答えてそれ以上は何も言わなかった。


「言葉を交わせば交わすほど楽しみが増えて嬉しいね。イキョウ君の人と成りを多少なりとも知れてよかった」


「急に何? バカにしてんの?」


「そう言うわけではないね。君達の問題行動が大分溜まっていてね、そろそろ直に顔を合わせて『お話し合い』でもしようとは思って居たんだよね」


「話し合いってより脅しじゃないそれ? 話し合いの結果によってはブラックリストにぶち込もうとしてたんじゃないの?」


「そう言うわけではないよ。君達はクエストだけはきっちりこなしているからブラックリストに登録することはしない。ただ、このギルドでトップクラスに問題を起こしてるから、もしかして故意にやっているのでは? と少し疑ってたけど、そんな事は無い様で安心したよ」


「そんなこと故意でするバカがどこに居んだよ」


「寧ろ故意でないのがおかしい程問題起こす方が……」


 テモフォーバは口元をゆがめてオレを見てきた。なんだそれ? 口ぶりからして苦笑いしてんのか?


「いや、何でもないよ。ちゃんとその都度ローザ君からお説教も受けてるし、反省は……」


「安心してください、お二人の思いは先程聞かせていただきました」


 受付さんはオレ達二人を信頼しているような顔をテモフォーバに向けている。


「ならしているんだね。今後とも君達の事はローザ君に任せようか」


「はい、任せてください!!」


 受付さんは胸を張って自慢げにしていらっしゃる。


 言えねぇ……説教の半分以上を聴いてないなんて絶対に言えねぇ……。


 オレ達が審議師の指輪の魔法をレジストすることが出来てマジで良かったぁ。


「ところで」


 テモフォーバはあの蕩けた瞳をオレに向けてくる。


 でもその瞳に意味は無い。あの観察するような眼はもう止めてくれたようだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ラリルレなら当然だな。 [気になる点] そろそろ完結の文は削ったほうがいいような?
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