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10.ミチャルナ

「……もしかして、これ、食べたいの?」


 ミチャルナの反応を見て、俺は単刀直入に聞いてみた。それを聞いてミチャルナは顔を赤らめ、手を顔の前でぶんぶんと振る。


「な、べ、別にオレはブルードラゴンの刺身なんてっ!【外の民】の狩人たちでもまず狩ることはできないけど、腐りかけの死体を焼いて食ってもうまいブルードラゴンは絶対刺身でもうまいからいったいどんな味がするのか気になって気になって仕方なくなってないんだからなっ!!!」

「……あげるよ、はい」


 俺はブルードラゴンの肉の塊をミチャルナに放り投げた。ミチャルナは慌ててしっかりと受け止める。そのまま恐る恐るかじりついた。


「――!?!?!?!?うめーっ!!!!!!なんだこれヤベェヤベェヤベェよ!!!うますぎるんですけどぉーっ!?!?!?舌にまとわりつくほのかな甘み!一噛みごとにとろける脂!こんなん食ったことねーしっ!!畜生、いいお姉ちゃんだなぁ!!なんなんだよあのバケモン!!」


 怒ってるのか笑ってるのか泣いてるのかわからない感じでミチャルナは一心不乱にブルードラゴンを食べていく。俺の腕くらいの大きさの肉の塊だったのだが、あっと言う間にミチャルナに食べつくされてしまった。


「ふぅ……うまかったぁ……幸せぇ……げっぷぅ……」


 恍惚とした表情でミチャルナは腹を撫でながら空を見ていた。


「変な人だなぁ……」


 思わずつぶやいた俺の言葉を聞いて、ミチャルナはにやり、と笑った。


「でも、それでオレのことを覚えたろ?顔の売り方にしちゃあ、成功じゃねーのか?」

「え?」

「あんなお姉ちゃんが自分に完全に依存してるって、ヤバいぜオマエ。自覚あるかわかんねーけど、一国一城の主にだってなれるかもしんねー。だから今のうちに顔を売っておこうと思ってな。それくらいのことをしねーと、【外の民】は生き残れねーんだ」


 そう言われて、はっと俺は気づいた。【外の民】は大きな集団を持たず、リーゲという小集団が基本単位となっているらしい。そのため、ときに差別を受けたり、弱い立場に置かれることもあると、聞いたことがあった。


「ま、そんなわけで、【外の民】と、【ジャオリの狩人】ミチャルナのことは覚えておいてくれよ――っと」


 ミチャルナはいきなり池の中に飛び込んだ。

 そのまましばらくすると、右手に大きな魚を抱えて浮かびあがる。水に濡れた石のように黒く光る、丸太のように体が太い魚が、びくんびくんとミチャルナの腕の中で暴れていた。


「これはお近づきの印で、ブルードラゴンの刺身のお礼だ。よろしくな、ルビルート」


 ミチャルナはそう言って俺に魚を渡すと、池にまたドボンと飛び込み、そのまま俺の前には姿を現さなかった。

 ぬるりとした魚はまだ生きており、俺が油断するとびちゃびちゃと動いて池に戻ろうと画策する。俺はこの世界ではまだ子供の体型であり、一方の魚の方はなかなかの重量であって、俺は抑え込むのにも苦労した。


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