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第64話 スチームパンクの中の名探偵アン(4)

 第二車両。

 扉を開けると、四人の武装集団が一斉にこちらに視線をやってきた。

 銃口も同時に向けてだ。

 その武装姿は、まるでかつての機械人形のようだった。

 装備一式の名称は『エクスマキナ』と呼ばれるものだ。

 腕に抱えているのは銃。

 あれは、ガス圧作動方式だったかな?

 銃を見ると、バベルミラージュが近いことを思い知らされる。

 実践投入できるだけの精巧な銃を製造できるのは、バベルミラージュだけだ。

 外国にも売買することもあるが、まずお目にかかれない。

 眼には照準を合わせるためのゴーグル。

 背負っているバッグには、武骨な造りの噴射口が下向いている。

 ブーツの外側には、剥き出しで大きな歯車がくっついている。

 かつて見た時は腰から足にかけて、ずっと身体に機械を這わせるようなタイプが多かったのだが、最新型か?

 バッグの装備品と、ブーツの装備品に分かれている。

 コンパクト化に成功したらしい。

 他にも見えないところに刃物やハンドガンを隠し持っているかもしれないから、注意が必要だ。

 装備品は傷が入っている。

 欠けているところもある。

 中古品か。

 それとも盗品な?

 出撃する際に不具合が起こっては、命令実行に支障をきたす。

 だから普段から整備を欠かさず、例え何度も使った装備品だったとしても新品同様の『エクスマキナ』しか使わないはず。

 それに。

 ミストヤード所属の人間しか、エクスマキナは扱えないはずだ。

 それなのにこいつらが持っているのがおかしい。

「……なんだ、乗客かあ!? 伏せろ!!」

 すぐ真横の壁が弾ける。

 撃たれたのだ。

 その行為で確信する。

 やはり、こいつらはミストヤードの人間ではない。

 銃口を一斉に向けている時点で、懲戒免職処分もの。

 いくら俺が危険人物だったとしても、まずは威嚇射撃。

 一発目は空に向かって銃を撃たなければならない。

 それなのにいきなり撃ってくるってことは、民間の組織というのも考えづらい。

 非合法な集団か?

 他の一般の乗客は手を挙げながら伏せている。

 こいつらに武器を持って制圧されたのだろう。

 バスジャックならぬ、トレインジャックか?

「あんたら、強盗団か何かか?」

「うるせぇ!! もういい。死ね、お前は!!」

 銃を撃たれるが、スッと体をズラして避ける。

「ああ!? なんだあ!! こいつ!!」

 銃口の向き。

 トリガーに指をかけて、引くタイミング。

 それに、威嚇射撃もなしに銃弾を撃ってきた、せっかちで暴力的な思考。

 それさえ見極められれば、銃弾を避けるのは容易い。

 銃弾が撃たれるより先に、絶妙のタイミングで身を躱すことぐらい訓練すれば誰でもできる。

 この前ダンジョンで戦闘したバウンスの方が攻撃範囲は広かった。

 あいつに比べれば、あくびが出るぐらいだ。

「止ま――ぐえっ!!」

 歩いて近づき、油断したところを縮地で一気に接敵。

 そして、拳を腹にぶち込んだ。

 それだけのことで、悶絶したまま動かない。

 気絶したようだ。

 特にスキル名はない。

 使う必要もない。

 何故ならこいつらは自ら自己紹介している。

 自分達が激弱であると。

「貴様あ!!」

 他の奴らがいきり立つ。

 だが全く怖くない。

 爆破したのはこいつらだろう。

 何のために爆弾か何かを使ったのかは知らないが、こうして奇襲をかけて武器を持つ。

 そんなことをする連中がまともにスキルを習得しているとは思えない。

 こいつらが本当に強ければ、犯罪に手を染めることなく正当な仕事を請け負うはず。

 無抵抗な人間に武器で脅しにかかるような連中は、自ら弱いと認めているようなもの。

 大したスキルも習得できなかったから、武器に頼っているだけだろう。

「ふん」

 しゃがみ込んで銃弾を避けながら、刀を抜いて一閃。

 近くにいた奴を斬る。

 その勢いを殺さず、独楽のように体を捻って次の標的も同様に斬る。

「くっ――そがああああ!!」

 最後に残ったトレインジャック犯は、ようやく事態を飲み込んだようだ。

 実力差は歴然。

 本気で相手にしなければ、自分がやられると。

 ブースターが火を噴く。

 俺を追い抜き、天井を這うほどの高さまでワンアクションで上昇する。

 銃を横薙ぎにすると、ジャキン、と先から刃物が出てくる。

 縦横無尽に動き回ることができ、数十ある装備はいかなる状況にも対応できるという。

 空中戦だけでなく、水中戦でも戦えるように想定されているらしい。

 ただのチンピラ風情が、これほどまでの戦闘力を見せつけることができる。

 ただ一つの技術だけで。

 そう考えると、危険過ぎる。

「驚いたか。見たところただの観光客じゃないようだがなあ!! どれだけ強くとも、バベルミラージュの技術を知らないやつは、これを躱せないだろ!!」

 天井を蹴る力を利用しながら、最新鋭の技術を結集したエクスマキナで突進してくる。

 俺は縮地を使って高速移動し、


「ああ、それ知っているよ」


 交錯した際に、斬撃を五回放つ。

「ゴフッ!!」

 血を吐きながら倒れる。

 ヘッドショットを喰らったかのように、膝からゆっくりと崩れ落ちる。

 刀の軌跡すら見えなかっただろう。

 ただ斬られたということだけは、自分の体が証明している。

「何……が……?」

 身体だけじゃなく、エクスマキナもついでに斬っておいた。

「初見だったら一撃もらっていたかもな」

 中空を浮くのだから驚くに決まっている。

 もしも、初めて見るものだったのならば、だが。

 俺は何度も見ているからな。

 それに、狭い車両内ならば、どれだけ素早く動けても制限された動きしかできない。

 相手が次どう動くのか。

 どの速度で向かってくるのか。

 そのぐらい簡単に予想がつく。

「はあ……」

 この調子だと次の車両にもトレインジャック犯がいそうだな。

 いきなり撃ってきたし、血の気の多い連中が多そうだ。

 ため息をつくと、第三車両へのドアに手をかける。



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