第65話 スチームパンクの中の名探偵アン(5)
第三車両。
敵がいると分かった以上、隠密行動を心掛けるべきか否か。
どうするか決まっている。
正面突破だ。
「ああ? なんだ、お前。どうして普通に入ってこれた? 第二車両に俺達の仲間がいるはずだが?」
時間をかければかけるほど、トレインジャック犯はストレスが溜まる。
そうなってくると、乗客を使ってストレス発散するのが手っ取り早い。
無差別殺人なんてさせるわけにはいかない。
正直、実力があるとは思えない。
すぐに片付ける。
そのためには一人一人倒すのに時間をかけていられない。
どうせ第三車両にもたくさんトレインジャック犯はいる。
さっきみたいに一瞬で片を付ける。
そう思っていたのに、拍子抜けだ。
敵はたったの一人。
中央に立っていて、やはり『エクスマキナ』を身に着けている。
他の乗客達は、手を挙げながら跪いている。
銃を突き付けてくるが、まだ引き金に指をかけていない。
いきなり戦闘を仕掛ける前に、情報収集を選んだか。
さっきの奴らとは違い、随分と慎重派だな。
「あんたらこそ、何者だ?」
「こっちが質問しているんだ!! そっちが先に答えろ!!」
まあ、そうなるよな。
こっちの意見なんて聴いてくれるわけない。
なら。
こちらが情報を小出しすれば、油断して口を滑らせてくれるかな?
「あんた達の仲間に頼まれたんだ。こっちの様子はどうかお前が行って調べて来いってな」
「……だとしても、見張りの一人ぐらいつけるもんだろうが。乗客を一人でうろつかせるわけないだろうが!! この嘘つきがあ!!」
銃口が火を噴く。
縮地で避ける。
座席もあるし、乗客もいるしで、身動きがとりづらい。
下手に動くと次の動作に続かない。
気を付けながら、数発の銃弾を避け続ける。
「スキル持ちでその威力。只者じゃないらしいな。てめぇ。俺の仲間を殺したのかあ!!」
嘘がばれたせいで情報収集できなかった。
というか、逆にこっちの戦闘能力を分析されてしまったな。
ま、ある程度理解できたとしても、圧倒的実力差というものがある。
スキルレベルを観察する。
武術スキルレベル0
魔術スキルレベル10
錬金術スキルレベル0
総合スキルレベル10
まあ、ただの雑魚だな。
フレイムボールで炎弾を放つ。
と、あちらも、
「フライムボール!!」
同じ魔術スキルで応戦してくる。
明らかにあちらの方が威力は弱い。
だが、ボッと一瞬爆ぜると、火球が巨大化した。
「なっ――」
相殺される。
あちらの方が威力は弱く、速度も遅かった。
出だしもあちらの方が遅かった。
それなのに、いきなり威力が上がって、速度も上がった。
「こいつ……」
ただのスキルじゃない。
パーソナルスキル保持者か?
バフできるスキルといっても限界がある。実力を底上げして、相手と同程度のスキルに昇華できるスキルとか、そういう系のスキルか?
だとしたら、仮説が立つ。
魔術スキルしかレベルの振り分けをしていないということは、魔術スキルにしかその効力は適応されない?
ならば、文字通り力ずくで倒させてもらう。
まずは、武術スキルの一つである縮地で近づいて――
「おっ、と。余計な真似するなよ。こいつの頭を吹っ飛ばすぞ!!」
乗客の一人を盾にする。
羽交い絞めにして、決して振りほどけないように捕まえた。
泣きじゃくっていた子どもを。
「マ、ママァアア!!」
大人ならジッとしていてくれる。
的も絞りやすくなる。
だが、暴れてしまっているせいで、ピンポイントに攻撃を絞れない。
トレインジャック犯の不意を付けたとしても、当たってしまう。
「やめてください。娘だけは、娘だけは!!」
「うるせええ!!」
新たな銃声で、お母さんの悲鳴が掻き消える。
「動くなよ。動いた瞬間、撃つからな」
冷静だな。
実力差を把握し、乗客を人質にとるとは。
こいつがトレインジャック犯の親玉か?
これじゃあ、流石の俺も手は出せないな。
「大丈夫さ。あんたの娘は助かる。そこのあんちゃんが素直に俺の言うことを聴いてくれたならな」
縋るように親がこちらに視線をやる。
へぇ。
言葉回しが上手いな。
今の一声で、親を味方につけた。
もしも自分の娘が死んだら、俺のせいにするだろうな。
実際に悪いのは銃口をこめかみに突き付けている奴だというのに。
これじゃあ、トレインジャック犯の言いなりになって、親が俺の敵になるのも考えないといけない。
「手ぇ上げろ!! 銃の一つや二つ奪っているかもしれないからなあ!!」
詰んだな。
打開策はないか。
せめて、奴のスキルがパワーアップした原因。
奴のスキルの真価さえ知れれば、何か思いつくかもしれないのに。
くそっ。
そんなのいきなり思いつくはずがない。
そもそもあのスキルレベルで、あれほどの火球を使えこなせるわけがない。
スキルレベルの変動も、当然ながらなかった。
待てよ。
俺は世界を旅する中で、イレギュラーなことに慣れ過ぎている。
だから、考え過ぎているんじゃないのか。
前提が間違っているんじゃないのか。
もしも、親玉がパーソナルスキルを持っていなかったら?
ただただ普通にスキルを使っているのだとしたら?
そうなってくると、全てがひっくり返る。
「早くしろ!!」
これ以上、刺激を与えることはできない。
タネは分かった。
この手品じみたスキルを暴くための方法も思いついた。
「はいはい。ついでに足も上げてやろうか」
「ああ!?」
人質を取られている以上、手が出せない。
それなら、足を出してみようか。
振り上げた脚で『浸透脚』を行う。
「うぎゃあああああああああああ!!」
悲鳴を上げたのは乗客だけではない。
その証拠に、上から悲鳴が降ってきた。
天井にいたのだ。
こいつらの仲間が。
「やっぱり、潜んでたなあ」
一人で待ち構えたいたわけじゃない。
列車内外に仲間を配置して、敵が来た時用に潜んでいたのだ。
すっかり騙されたな。
ギンッ!! と睨み付けると、
「フレイムボール!!」
浸透脚によって、人質を手放している。
態勢も崩している。
今がチャンスだ。
さっきと同じ威力のスキルを放つ。
タイミング的に再び相殺されるはず。
だが、
「しまっ――」
あちらのフレイムボールを簡単に打ち消すと、爆発したかのように吹っ飛ぶ。
「ぐあああああああああああっ!!」
なんてことのない。
イレギュラーなスキルばかり目にしてきたから、想像できなかった。
ただただあいつらは力を合わせていただけだ。
炎弾が膨張した時、全方向ランダム、僅かに時間差があった。
あれは、あらゆる方向から炎を強化したからだ。
十人ぐらいの人数で強化すれば、たとえ一人一人のスキルレベルが10程度であっても単純計算の掛け算だとスキルレベル100相当になる。
まあ、スキルレベルはそんな単純なものじゃないけど。
それでも効果はあった。
強化魔術に特化した強化方法を使っているんだろうな。
直接、攻撃に特化した才能がなくとも、サポートに特化したスキルの才能はあったってところか?
勿体ないな。
これほどのチームワークがあるのに、犯罪に使うなんて。
力の悪用をせずに冒険者になれば、それなりのダンジョン攻略はできそうなのに。
「くそがあああああああああ!!」
乗客の一人に扮していた奴らが襲い掛かって来る。
「……隠れていればいいものの」
親玉が倒されて居ても立ってもいられなかったんだろう。
残らずわらわらと出てきてくれた。
さっき親玉がやったように、人質をとった方がまだ勝機はあったのに。
最大の障壁はなくなった。
刀とスキルを使って、適当にあしらう。
「……よし」
全員倒して一段落した。
心眼を使って他の乗客のスキルレベルを視認したが、恐らくもういないだろう。
皆同じぐらいのスキルレベルまで鍛えていたからな。
まあ、確実ではないが。
こういう時に『ホワイトアルバム』が使えれば、嘘か真実かを判別できるんだけど、俺には使うことはできない。
他のスキルなら、それなりに練習して、それなりに使えるようにはなったんだけどな。
やっぱり、あいつのスキルは特別性だ。
俺とはフィーリングが合わないっていうのもあるだろうけど。
そして、そのスキルの持ち主であるビブリアがいる第四車両へ足を踏み入れた。




