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14 武藤の家を解体(ばら)しませんか

西島組事務所は、東区にあって、法務局から歩いてすぐだった。ちなみに、東区法務局は一丁目にある。西島組も一丁目だ。オンドレの町は中心に中央区があって、商工会議所や町兵本部、警備隊本部などがある。中央区を除いて、ドーナツ型になっている部分の、東側四分の一が東区だ。中心から1丁目となって六丁目まである。中心ほど一等地に近い。だから、西島組は東区の中では一等地にあるということだ。東通りと呼ばれる大通りが一丁目を貫いているが、それにも面している。


片桐組長は、事務所の自分の部屋で、日本刀を抜いていた。目を細めて、刃先を調べている。とりあえず昨晩のお礼を述べ、ちょっとドラゴンの話をした。天気の話みたいな感じだ。かなり飛んでましたねー、とか話す。

本題に入る。


「事務所の隣に、汚い平屋の一軒家が三つ並んでいましたね。」

組長が少し考える。

「そんなのあったっけな。ああ、あれか。武藤の家とそのご近所さんだ。」

武藤さんは、知り合いらしい。

「あれ、まとめて潰しましょう。」


簡単な地上げの話だ。三つの家を潰して、広い敷地を確保して、そこに高層ビルを建てる。まあ5階程度だ。立地が良いから一階に店を出せば、面積も広いし、客が見込める。上の階は、下宿にすればいい。


例えば、町兵本部があって、ここから近くに兵舎がある。兵舎には外出制限のかかっている兵士が住んでいるが、休日は、外出許可をとって遊びたい。そのために部屋を確保していたい。時間の制約があるから、便利なところを共同で借りておけば、私物もおけるし、休日を効率よく満喫できる。ところが、この周辺にはそういう物件がほとんどない。あっても、世帯向けだったりして割高だったり、無用の設備があったりする。だから、兵舎に行けば、借りたい人間はいくらでも見つかると予想した。兵士でなくても、他にも借りたいという人は見つかると思う。


元の住人は追い出す必要はない。下宿屋の部屋を分譲すればそれで済む話だ。もちろん住人には、賃料から一部をお礼に回すことになるから、悪い話ではない。登記簿で調べたが、あそこの土地は、それぞれの世帯の所有地だった。賃料から住民にお金を上乗せして払っていって、ゆくゆくは土地も西島組が分割で買い取る。そうすると、土地付の西島組自社ビルの完成だ。


細かい計算は別として、大まかな計画を説明すると、片桐組長は予想通り食いついてきた。

そもそも西島組は、建設業の手配をするのが本業だったそうだ。今でも城壁の修理だとかそういう公共事業とかに食い込んだりしている。談合の調整とか任せてくれって言っている。だから、住居を解体してビルを建てるのは、得意分野なのだそうだ。


武藤さんが呼ばれた。オールバックでサングラスを掛けている。武藤さんもドワーフだけどね。

「おやっさん、御用ですかい。」

お、なんかすごく渋い人だ。かっこいい。惚れそうだわ。

「おう、武藤、お前んとこの家と並んでいる他の二軒、どういう人間が入っているんだ。」

俺が口を挟む。

「武藤さんの隣は、・・・さん、その隣は、・・・さんというところが入っています。どの家も借地ではなく、所有地です。どういう人かは知らないですが。」事前に法務局で調べておいた。こういうところで信用を積み重ねるのが重要だと思う。


「そうか、先生しっかり調べてくれてたんだな。武藤、三軒とも、潰すことにした。細かいことは、先生に任せるから、相談して進めろ」

おお、丸投げだ。武藤さんは、六郎氏や三丁目の健太とは違って、組の偉い人らしい。組長も信頼しきっているようだ。武藤さんは、自分の家が潰されることに決まったと聞いて度肝を抜かれたようだが、ほとんど動揺はみせず、俺が繰り返す説明に耳を傾けた。


基本的な枠組みはほぼ固まった。大まかな解体・建築費用などの相場も聞いた。

アイディアだけ出して終わりというつもりはない。細かい計画を作ることを申し出た。費用見積もりとか、投資額回収の見込みなどを考えておく。当座の資金は、片桐組長が出すか、どこかから引っ張ってくるから心配いらないそうだ。住人には、武藤さんと俺が組んで交渉する。なにしろ、三軒のうち、一軒は武藤さん本人だから、話が早い。それと契約書作成、締結を代理することを申し出た。下宿人が見つかったら、賃貸契約も任せてもらうことにする。それぞれの報酬は、あとで決めることにする。


色々と準備をする必要があるので、前金として3金貨を請求してみた。3万円相当だ。準備金としてはそれほど非常識ではないはずだ。武藤さんは、ちょっと組長と相談して、すぐに金を持ってきた。これは、正当な報酬だ。この世界で、初めて自分の力だけで稼いだ金だ。


明日から具体的に動き出すことにする。とりあえず俺は帰る。宿屋に戻ったら、今夜のうちに計画書を完成させることにしよう。


帰り際、俺が裸で本を持っているのを見て、組長が、「先生、それは駄目だよ。」と言って、余っていたビジネスバッグと風呂敷をくれた。そういえばそうだったな。全く何も考えていなかった。妙に重いバッグの底には鉄板を仕込んであるらしい。不良かよ。ありがたく頂戴する。風呂敷に書籍を包んでバッグに入れた。


そういえば、スーツを買うべきだろうか。それはちょっと高いな。しばらくは、このままの服でいることにする。

あとはノートとペンを買いに行こう。ティナちゃんの雑貨屋さんに行くことにする。そろそろ夕方に近い頃だ。


読んで頂いてありがとうございました。

今回は、潤いもなく、冒険もない話ですが、なんとか主人公も仕事を始められるようになりました。

明日も夜くらいにまた投稿させて頂きたいと思っています。

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