12 この世界には禁忌がある
貸出しカードに名前を住所を書く。住所は南区6丁目23番地の南門前ホテル201号室だ。身分証明証とかは提示しない。そもそもこの世界には身分証明証という概念がない。なぜか。不要だからだ。
どういうわけか、異世界では、自分の立場を偽るという発想がない。嘘をつく人間はいる(詐欺罪もある)けど、身分詐称的なことは、およそ人として考えられないような凶悪犯罪に近いらしい。今まで、そのようなことをした人間は記録されていない。だから、逆にこの世界では、人が自分について名乗るときには、それは当然に信用することができるという前提で回っているそうだ。
うっかり、「通りすがりのヤマダです。」などと適当に名乗ってしまったら、怖いな。恐ろしい禁忌を冒すことになる。おそらく想像を絶する制裁を受けるだろう。この世界の根本ルールを破ることになるもんね。気をつけよう。
それに関連して、この世界では、署名の偽造という概念がない。作られた書面を偽造することはよくある犯罪らしいんだが、他人の名前を別の人が勝手に書くというのは、もうありえないくらい駄目なことみたいだ。恐ろしすぎて、そのような行為については、全ての資料が沈黙している。
もう一つこの世界には特徴がある。この世界の人たちは、物事を深く考えない。基本的にはストレートな考え方をする。これはこうですよ、って言われると、ああそうかもね。っていう感じで、結構簡単に納得してくれるみたい。これは直接本には書いていなかったけど、なんとなくそう感じた。
そういえば昨日、六郎氏が疑われたのもそうだし、犬人族のナイフだっていうだけで流れが変わったのもそうだ。俺が少し話しただけで、うまく言ったのも同じだ。深く考えることがないんだ。小説の登場人物みたいなところがある。片桐組長が、立証責任について、「にゃん法務官(ごめん名前忘れた)」に言い負かされたのも同じ理由だ。
これは、ある意味いわゆるチートかもしれない。この世界では、人を説得することがかなり容易だ。常時、弱い催眠術を使っているのと同じくらいの効果が期待できそうだ。
ちなみに、この世界には金利という概念がない。金を借りたら、その額を返すのが普通で、増やして返すとかそういうことがない。預けていたら、利息がついてたということもない。じゃあ、事業を始める人はどうやって融資を受けるのか?これは、貴族や大商人のところにいって、事業計画を話すらしい。それで信用され、気に入られたら、出資して貰えるらしい。うまくいったら、そのままの額を返す。それだと貸す方にはなんのメリットもない。でも、感謝されるらしいから、名誉職的な感じみたいだ。
それって、ヤクザは大丈夫なのかな。闇金がないと、ヤクザは何をしているんだろう。
頭の中で仕事の構想が立ってきた。これはいけるぞ。とりあえず、いくつかの本を借り出して、図書館を出た。まだお昼過ぎだ。今日できることは、全部済ませてしまおう。
ご一読頂きありがとうございます。
今日の二話分は、説明っぽくなってしまいました。
次回分は4月23日夜投稿させて頂きます。お楽しみ頂けると嬉しいです。




