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クソボケ激メロ術師の現代伝奇バトルでハーレム構築スローライフ希求譚  作者: 所羅門ヒトリモン


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第37話「ハーレム・オン・ザ・ビーチ」



 事件は終わった。

 結局のところ、蔭木鏑は蟻道鈴昌が期待していたほど、格のある人間ではなかった。


 切り裂きトンカラトン。


 二段階目のA.N.O.M.A.L.Y.を手にしておきながら、汐坐市に出した被害はせいぜいが〝謎の怪人出没〟という噂を立てるレベル。


 秋水に対して、鏑が直接戦闘行為を仕掛けるといった大胆不敵も無ければ。

 蟻道のような用意周到さ、陰謀家としての能力も無いに等しかった。


 だいたい、秋水を鳶瀬山家から切り離すために、孔雀堂家を利用しようとするのも男らしくない。


 協会は極めて初期の段階から鏑に目星をつけていたし、その後、秋水が「これはヤバいな」と表立って動く必要性も生じなかった。


 本人の自認としては、きっともう少し〝やれている〟部類だったのだろう。


 が、所詮は小物だった。

 すべては実力を思い違えた末の、増上慢に過ぎないのだった。


 一応、情状酌量の余地があるとすれば。


 それは生まれつきの盲目。

 術式による、天性の渇望だろう。


 人間は何かが足りないからこそ、それを補おうとして欲する心に駆り立てられる。


 ただ、そんな精神性も鏑に関しては、汐坐という特異な環境下で悪い方向に膨れ上がってしまった。


 全伝奇術師が、あらゆるA.N.O.M.A.L.Y.に対して筆頭の出動を前提にし。

 筆頭もまた、治安維持機構としての能力を十二分に有し。

 一線を超えた〝危険〟は、あらかじめ間引くように摘み取られている汐坐市。


 全部が全部ではなくとも。

 A.N.O.M.A.L.Y.の特性を鑑みれば、それは汐坐市内のレベル帯を大幅に下げることに繋がっていて。

 術式に恵まれた術師は、実力を誤認してしまうリスクを秘めていた。


 それにしたって、鏑には現実に対する正確な認識が欠如していたが。


 恐らく、それも鏑が汐坐市内で、秋水と同じく極めて希少な男性術師であったからだろう。


 盲目というハンデ/デメリットはあったが、それも術式の強さを思えばお釣りが来たし。

 家の歴史や資産についても、それがどんな手段で築き上げられたのか。

 嫌悪感を無しに語れるかはさておき、数字だけを見るなら決して悪くはないステータスだった。


 ゆえにこれまで、〝青墨秋水と縁を結ぶなど、うちのような小さな家では絶対に無理だ〟と(はな)から諦めてしまっていた旧家のなかには、娘の結婚相手として鏑を考えざるを得ない一族も多かった。


 鏑はそうした事情や環境を利用し、時には婚約をチラつかせて相手の土地や財産、貴重な呪物等を奪い取り、自らの強化に邁進していたのだ。


 狼憑きのような、通常結婚を望めない相手に関しては、とことん弱みにつけ込んで。

 最初はあたかも、好青年を装い油断を誘って。

 相手が鏑に、絶対に逆らえなくなる最大の弱みを覗かせたら、容赦なく抉り取る。


 要するに、カスだった。


 自身を成長させる方法など、他にいくらでも真っ当な手段が考えられたはずなのに。

 尋常な鍛錬や修行を選ばず、敢えて餓狼を気取り卑劣な手段による効率性を求めた。


 そんな男が最初から、秋水の敵足り得るはずもない。


 身の程も弁えずに、二段階目のA.N.O.M.A.L.Y.なんかに手を出してしまえば。

 協会だって本腰をあげて、動き出す。


 元々の素行不良、トラブルメイカーな点もケチの付け所だ。

 思えば協会が、こんなにも鏑の身柄拘束に積極的だったのも、大義名分を得るのを待っていたからとしか思えない。


 あいにく、協会のそんな努力も虚しく。


 鏑は最後に、ギャグのように肉体を乗っ取られて〝神隠し〟に遭ったが。

 当人のカス性が周囲の予想を超えた。

 いや、さらに下回ったがゆえの自業自得だった。


 鏑の目的は、何ひとつとして叶わなかった。


 鳶瀬山家は自分たちに迫っていた卑劣漢の魔手を、まったく察知することも無かったし。

 協会は宣言通り、秋水の手を最低限しか煩わせなかった。


 もちろん、それは青墨家と協会、双方による裏での連携があったからだが。


 こと汐坐市において。

 青墨集水が最初から最後まで主導権を握って事件を解決する、という流れにならなかった時点で。


 鏑の格は、相当に低いのだった。


 せっかくの強術式も、持ち主がカスでは恵まれない。

 協会の憤懣たるや、如何ほどだろう?


 一方で。


 そんな小物を利用するだけでも、逆にこれだけの騒ぎを起こしたと言ってしまっていい蟻道鈴昌。

 先立っての誘拐事件の首謀者であり、今回の場合は囚われの身でありながら、ジェームズ・モリアーティがごとく犯罪をコントロールして見せた中年。


 今は反省して、ライトサイドに立っているはずの元野良術師は。


 切り裂きトンカラトンの入手方法など含めて。

 格が必然的に高まり、協会も秋水もイヤな想いをしながら、折りに触れて中肉中背の草臥れ男を想起するハメになっている。


 コイツが一番、得をしているのかもしれない。ふざけるなよマジで?


 ──と、クソ野郎ふたりについての話は、ザッとここまでにしておこう。


 そろそろ後日談の話に移りたい。


 事件が終わり、秋水は例によって例のごとく。

 社会人マインドの為せる技で、一連の騒動における問題点の解決を図った。


「いいんですの? お兄様」

「ああ。いいぞ」

「わたくしは反対ですわよ?」

「それでも、頼む」

「……ハァ」


 兄妹の会話。

 妹は渋々受け入れた形だったが、青墨秋蔵亡き今、これまでの暗黙の掟やルールは大きく変えられていく。

 その波は止まらない。


 人生の無駄な浪費。

 時間の無益な消費。


 秋水が嫌悪するものは変わらない。

 したがって、秋水もついに自分直通の窓口を設置・公開するに至ったのだ。


 だって陰謀とか、超メンドクサいじゃん?


 要望はストレートに。

 鬱陶しい回り道などせず、シンプルこそベスト。

 孔雀堂家にも反省を促した。

 彼女たちの真相を知ったことで〝退魔四家も案外悪い人間ではない〟という認識の改革も進んだ。


 何より、自分を求める他人の声は。

 秋水という絶大な〝力〟を求めているからではなく。

 いや、それももちろんあるのだろうが、根底。

 根底にある最初にして最大の願い。


 それは、救いを求める切実な気持ちなのかもしれないと。


 孔雀堂家が抱えていた事情から、その可能性に気がついてしまった以上。

 秋水は出来る限り、手を差し伸べようと考えていた。


 ただ剣を一振りし、それで容易に問題を解決できるなら。

 基本的にいつもの労苦と変わらない。


 協会もぶっちゃけ、大助かりなのだろう。

 許可は意外なほどすんなり降りた。


 とはいえ、夏乃は黙っていなかった。

 何も考えずに『筆頭目安箱』なんてものを公開すれば、種々の問題が起こり得ると指摘した。

 協会も頷き、秋水直通の窓口開設には慎重を期すことになった。


 例えば、安全な手紙以外は、そもそも投函できないようにする制限をかけるとか。

 一差出人につき、一日一件までに絞るとか。

 事前に申請を必須にし、審査にクリアした者だけが投函可能にするだとか。

 いや、それは秋水の望むところじゃないだろうだとか。


 議論はちょいちょい紛糾したものの、最終的に『筆頭目安箱』の調整もあらかた済み。


 公開は限定的に、且つ段階的に進められることが決定された。

 それでも、噂はすでに爆発的なニュースとなってネットを騒がし、試験的に導入されたベータ版『筆頭目安箱』には、今日も三百通余りの手紙が投函されている。


 大半がラブレターや見合いに関するものだった。


「今年の冬は、たくさん庭で焼き芋ができそうですわねッ!」

「こらこら」

「──冬まで待つまでも無いわ。BBQよ」

「いいですわねッ!」

「おいおい」


 なんて、秋水が夏乃とヒナギクを取りなすシーンも、今後の青墨家では日常的な光景となるのだろう。

 秋水はきちんと、自分で全件目を通しながら、重大なものとそうでないものとをラベリングするのが日課になった。

 メガネをかけて、几帳面にファイリングもする。


 そんな秋水を見て、夏乃とヒナギクが微妙に複雑そうな顔をしていた。


「これ、どう思う? 夏乃」

「そうですわね……もし自分が書いた恋文が、こんなふうに事務的に精査されて管理されていると知ったら……まぁ普通に乙女的にショックですわねッ!」

「でも、メガネ秋水もいいわ」

「激しく同感でしてよ! お兄様、今度ドS鬼畜眼鏡コスプレしませんこと!?」

「オマエは兄に何を求めてるんだ」

「イジワル執事コスプレでもいいわよ」

「……」

「なによ。恨むなら、泣きぼくろがいやらしい自分のお耽美フェイスを恨みなさい。この歩く18禁! 乙女誘惑機!」

「ひどくないか?」


 青墨家の女性陣は、いろいろ平常運転である。

 秋水は嘆息した。


「なら、オマエたちも何かコスプレしろ」

「「え?」」

「人の顔をどうこう言うのもいいけどな。自分たちだって、別嬪なんだ」

「「……」」

「俺にだけ恥をかかせるなんて、ひどいだろう? やるなら一緒に、恥ずかしいことをしよう」

「あ、待って? 録音するから今のもう一回言って?」

「メロメロメロメロメロメロ」

「録音? ケ●ロ?」


 とまぁ、そんなふうにクソボケムーブも挟まりつつ。

 一頻(ひとしき)り新しい鳴き声を発した後で、夏乃は困ったように秋水に抱きついた。

 事務仕事中の兄の背中に、肩から手を回して頬擦りして甘えて。


「どうした?」

「お兄様は、本当に困ったおひとですわ」

「ん?」

「ご自分の時間を何より大切にされているのに、そうやって誰かのために時間を割かれてしまうなんて、本末転倒ではありませんの?」

「アゴがくすぐったいぞ」

「ぐりぐり! 夏乃顎ドリル!」

「一撃必殺技なのか? やめなさい。それに、結局は自分のためだ」

「……まったく」


 夏乃は「ん〜〜!」と、いろいろ堪えきれない感情を絞り出すように唸った。


 自由とは、気兼ねなく満喫・謳歌されなければならない。

 秋水の信条。

 どうしようもないほどに善でしかないサガ。


 気がかりなコト。

 憂慮すべきコト。

 不安や罪悪感、後悔。


 そういった気持ちがあると、どんな自由も贅沢も心からは楽しめない。

 だから、結局は自分のためなのだと秋水は言い張るが。


 客観的に見て、それがどれだけ妹の愛情を狂わせているか?


 きっと、少しは自覚もあるくせに。

 兄は妹の前で、自重をやめない。


 それが愛しくて、心配でもあり、けれど心から尊敬している部分でもあるから。


 夏乃は唸る。

 秋水は撫でる。


 妹の髪を手櫛で梳いて、その横顔を撫でる。

 そうやって言葉少なく、互いを分かち合う兄妹の背を。


 やがてヒナギクが、そっと包み込んだ。


「愛おしい子。貴方たちは本当に、可愛いわ」

「むっ。どうせわたくしより、お兄様のほうが好きなのでしょう?」

「あら嫉妬? じゃあ一緒に、あやとりでもしましょうか。かまってあげる」

「お子様扱い! それに、あやとりぃ〜?」

「な、なによ? 不満?」

「そんなロートル、今日日古臭すぎて誰もやりませんわーッ! やるならス●ッチですわね!」

「なん──ですって──」


 あやとり好きのヒナギクが、主人の素っ気ない言葉にガビーンとショックを受ける一幕もあった。





 ……だいたいそれから、一週間ほど経って。


 ついに学生たちにも、本格的な夏休みが与えられる時期が来た。

 七月下旬、長期夏季休暇開始。


 どうせこれも、束の間の平穏かもしれないが。

 差し当たっては、何の不穏の兆しも見えない絶好調の盛夏炎天。


 汐坐市南湾岸区。

 孔雀堂家所有のプライベートビーチ。


 そこは白砂と碧海が、まるでどこまでも続く楽園だった。


 沖合には水上ヴィラ──海や湖などの水上に建てられた戸建て形式の宿泊施設、桟橋が伸びていて。

 ヨットハーバーには白いクルーザーが、落ち着いた波の間で静かに揺れている。


 椰子(やし)並木の向こうには、硝子張りのビーチラウンジとインフィニティプールも遭った。

 水面と大気、海と空の境界が溶け合うような景色があり、まさしく海外の高級リゾートを思わせる光景だ。


 潮騒は穏やかで、波風は優しく。


 燦々と降り注ぐ日光の強さは、多少肌に厳しいものを感じさせたが。

 むしろ、それこそが夏の魅力を跳ね上げさせている風物詩でもあった。


 ──今日、秋水は海に来ている。


 ザザぁぁ、ザザぁぁ。

 打ち寄せる透明な波と、ゴミひとつない綺麗な白浜。

 ビーチサンダル越しにも、足元の熱が伝わる。


 だが、最もHOTなのは?


「やっほっ、お兄さんおひとりですか〜?」

「もしかして、ナンパOKだったりしますか〜?」

「千歳先輩、千景先輩。なんですか、そのノリ──」


 ──そう、女たちだ。


 振り返る秋水は、言葉を失う。

 あまりの眩しさに、しばし呆然とする。


 千歳や千景だけじゃない。


 そこには大勢の、水着美女たちがいた。


「えへっ、渚のナンパお姉ちゃんでしたっ」

「もちろん、秋水くんにしかこんなことしないわよ?」

「チト姉もチカ姉もずるいわ」

「そうやって、すぐ抜け駆けするのよね」

「本当ね。いったい誰に似たのかしら?」

「豊葉以外にいないでしょ? 手が早いのは」

「えっ、ええっ? そ、そんなことは〜……ないわよね? ね? 秋水くんっ」

「こらっ! なんで急に前屈みになるのよ! 谷間アピールとか、あざといところも母娘そっくり!」

「え、ええっ? そんな、無意識だわっ?」


 まずは鳶瀬山家一同、勢揃い。


 千歳は海上遊園地の水着ショップで選んだ、ビキニとパレオの水着だった。

 腰元を隠したハワイアン柄のサマーグリーンが、とても女子高生とは思えない色気のあるボディラインを強調している。

 その上はパステルメロンカラーの三角ビキニ。

 どうやら、あの日選んだ二着の水着を組み合わせてのご登場。


「お姉ちゃんの水着、どうかな? 感想を教えて、弟くん?」

「好きです」

「! そっか……千歳お姉ちゃんポイント、100万点だねっ」

「おっとっ、じゃあ私はどう? だ・あ・り・ん♡」


 千景はハイネックフレアビキニに、ショートスカートの水着だった。

 チェリーブロッサムピンクとホワイト。

 とても女の子らしくて可愛い色とデザインで、やはり女子高生とは思えない色気のあるボディラインが目立つ。

 フレアビキニを選んだのは、千歳が秋水の勧めたシンプルな三角ビキニを選んだからだろうか。


「好きです」

「きゃっ♡ もっと言って?」

「なになに? 感想タイム?」

「なら、私たちも聞かせて欲しいわ」

「あっ、もうっ!」

「「どうかしら?」」


 やや恥ずかしそうにしながらも、大胆にポーズを決める八千代と八千花。

 こちらも当然、すごい。

 二人はともにランジェリーっぽいデザインのビキニを選んでいて、シースルーのローブかシフォンのガウンを羽織るかの違いしかなかった。

 シトラスイエローとオレンジゴールドの八千代。

 ピーチピンクとアイボリーの八千花。

 まるっきり同じではないが、どうしたってあの日のデートが思い出される。

 どこで勝ったのやら……


「エロすぎるので、俺以外の男の前では着ないでください」

「っ、それはつまり?」

「どういう意味っ?」

「好きです」

「「やったっ」」

「秋水くん。じゃあ、私は?」


 豊葉については、やはりだった。

 あの日のデートとは違う水着ではあったが、セーラー服を思わせるデザインなのは変わらない。

 セーラーカラーのワンピース水着で、さすがに娘たちの手前だからかショートのパレオを巻いている。

 ただ、若干ながら肌が薄く透けていた。

 濃紺ではない白色の生地部分は、とてもエッチだった。


 なのでやはり、どうしても倒錯的な印象が拭えない。


 しかも、豊葉は手に日焼け止めクリームを持っていた。


「これね? 実はワンピース部分が脱げるようになってるの」

「へぇ」

「だから後でね? 秋水くんがもし〝好き〟って言ってくれたら、ミルク塗らせてあげてもいいわよ?」


 日焼け止めクリームは、どうやらミルクタイプらしい。


「好きです」

「やぁん♥ えっちなんだからっ♥」

「ほとんど誘導尋問じゃない……」


 豊葉に冷静なツッコミを入れつつ、しかし、依穂も凄まじかった。


 大人っぽさや、大人らしくあることにこだわっているのか。

 年齢相応に落ち着きがある印象を持ったクラシカルなホルターワンピースタイプの水着で、ロングシフォンのカーディガンを羽織っている。

 だからカラダの線は貞淑に隠しつつも、シンプルな白と黒の組み合わせが非常にアダルティな魅力を押し出すことに成功している。


 なのに、秋水の視線を受けると依穂は恥ずかしがって豊葉に隠れた。


「あ、あんまり見ないで……?」

「逆効果よ? 依穂ちゃん」

「うぅ……」

「海でお酒は危ないものね」

「あっ、何するの豊葉っ!」

「せっかくのお披露目でしょう? ちゃんと見てもらわなきゃ♪」


 姉に裏切られ、依穂はカーディガンを無理やり開かれる。

 背後から強引に、両腕ごと「えいっ♡」とご開帳が行われた。

 おっぱいが大きすぎて、横乳と脇乳がハミっ♥ と出ていた。


「好きです」

「〜〜! あ、ありがとう……」

「ふん。海かや。温泉ほどではないが、まぁまぁ佳いものかや?」


 次に驚かされたのは、ハルミも水着姿だったことだ。

 場所が孔雀堂家のプライベートビーチだから、実体化しても問題が無い。


 とはいえ、その水着姿には少々の問題があった。


 巫女風ビキニと、羽衣っぽいストール。

 どう考えても、そういう目的で作られたエッチなコスプレにしか見えない。

 なのに堂々と着ていて、妙に様になっている。

 両足に浮かんだ蛇の鱗模様も相まって、どこか縄で締め付けられている和風エロスも滲んでいた。


 銀髪の髪、耳、尻尾が暑そうだ。


 蛇狐巫神はちらっ、ちらっと秋水を見た。


「オマエも可愛いよ」

「ふーん。そ、そうかや? ご主人様は。こういうのが好きかや?」

「ああ、好きだな」

「…………!」


 尻尾がブンブンと揺れて、耳がぴょこぴょこ上機嫌に動いた。

 何やらご満悦の表情である。

 するとそこに、


「退きなさい、チョロミ」

「チョロミ!? わ、妾の名前はハルミかや!」

「二度は言わないわ」

「ひっ」


 ヒナギクが現れた。

 上下関係はしっかりしているのか、ハルミはすぐにヒナギクに恐れをなして飛び退く。


 クリムゾンブラックの和柄ビキニが、目に飛び込んできた。

 薄羽織も纏い、深紅の眼帯という独特な艶かしさと迫力を備え、ヒナギクが和傘を日除けに使いながら前へ出る。

 布面積が極めて少なかった。

 普段のイメージカラー通り、ヒナギクは黒字に赤を差した水着を選んでいるが、その水着がほとんど紐に近く。


 ヒナギクは右腕を胸の下にやって〝だぷっ♥〟と持ち上げ、左腕は横からわざとらしい〝しな〟を作るために寄せていた。

 下はかなりのハイレグで、腰というより脇腹の下部にまで伸びている。


 ビキニは胸の前で、蝶々結びを垂らしていた。


「秋水」

「ああ、好きだよ」

「──そ。じゃあ、後で()()、ほどかせてあげるわ」

「セックス・オン・ザ・ビーチじゃないんですわよ……!」

「あら夏乃」


 扇情的なヒナギクの後ろから、半ば隠れるようにして佇んでいた夏乃が割り込んだ。


「セックスとか、知ってたのね」

「バカにしてますの? てかデッカ。なんですのここ? 罰ゲーム会場でして!?」

「はいはい。世はまさに大ルッキズム時代だけど、体型いじりは古いノリよ?」

「死ね」

「口悪ッ!」


 清楚なワンピース。

 フリルのスカート付き。

 夏乃の装いは兄として、実に安心できる露出の少ないものだった。

 青と黒に、チェリーレッドのデザインは、まさに夏乃らしい。


「お兄様! 今日はわたくしもいることを、くれぐれも忘れないように──!」

「俺はいつもオマエを想ってるんだが」

「シットゥッ! 陽差しよりも先にお兄様にやられそうですわ……!」


 ぐぐぐぐ、と呻くブラコン妹。

 そんな夏乃の背後に、そろりそろりと近づいてくるのは金髪ツインテールだった。


「夏乃ちゃんっ! その水着、可愛いね……!」


 孔雀堂サラ。

 続いて、クララ、エマ、マルグリットも順に現れる。


(そうだよな)


 今日は孔雀堂家も一緒に、海で遊ぶ予定なのだ。


「ご、ご機嫌よう、皆様!」

「本日は私たちも、お邪魔させていただきますっ」

「──ですが、図々しい真似は重々控えますので、どうぞよろしくお願いいたしますね」

「いえいえ」

「私たちこそ、今日はお招きいただきありがとうございます」


 孔雀堂家が合流したことで、鳶瀬山家もそれぞれ挨拶を返していく。


 その様子を観察すると、これまた対照的な魅力が際立っていた。


 孔雀堂家の水着は、非常に豪華で華美なのだ。

 挨拶を終え、夏乃にガルルル威嚇されて涙目になったサラが、秋水のもとにやってくる。


「しゅ、秋水せんぱ〜い! どうしたら夏乃ちゃんと仲良くなれますかッ!?」

「胸を削るしかないかもしれない」

「ええええええっ!? でもでもっ、そうしたら秋水先輩の好みじゃなくなっちゃいますよねっ!?」

「そうだね」

「……じゃあ、本当は夏乃ちゃんとも仲良くなりたいですけど、私は秋水先輩を選びますっ!」


 どうですか? とサラは可愛らしく水着を披露した。

 ジュエリービキニとオーガンジーパレオ。

 恐らくは本物の宝石を使った石飾りをぶら下げた、ゴールドとロイヤルなパープルカラーだ。

 表の家業ではハイセンスなファッションデザイナー? もこなしているだけあって、サラの水着にはパリコレのような趣が感じられる。


「すごいデザインだね」

「大人っぽいですか? 実はこれ、おっぱいが大きくないと着れないんです」

「……へぇ」

「ここ、ダイヤ型が二つになってますよね?」


 サラの両胸では、トランプのダイヤ型ビキニがそれぞれ中心から盛り上げられている。

 ダイヤは互いに左右の角同士で繋がっていて、その下にはゆるく垂れ下がったストーンチェーンが斜辺同士で結ばれているが、下の角部分の布はヒラヒラと風にめくれそうだった。


 秋水の耳元に、サラは小悪魔チックに囁く。


「着るっていうより、掛けてるんです♡ おっぱいが大きくなかったら、ストーンって丸見えになっちゃいます♡ これでも、お兄様モードですか……?」


 最後は少し不安げに、うるうると。

 秋水は思わぬ色仕掛けに、急いで夏乃を見た。

 ああ、安心した。


「お兄様?」

「夏乃と仲良くしてね」

「うわーん! やっぱり夏乃ちゃん攻略してからじゃないとダメなのー!?」


 サラは引っ込んだ。

 そこに、クララがタイミングを見計らって、「コホン」と咳払いをしながら入れ替わる。


「ご、ご機嫌よう? 秋水様」

「ずいぶん挑戦的ですね」

「秋水様が、こういうを好んでいるのは把握済みですから……」


 ゆるまき縦ロールが麗しいクララは、黒地に金のラインのラグジュアリーなモノキニ。

 洗練されたエレガントさと、男を悩殺することを重視した水着のチョイスで、かなり気合を感じる勝負水着だった。

 秋水は水面下で動揺した。


「俺の性癖を把握している、と……?」

「だ、だって……女のカラダをご自分の好みで飾るのが、お好きなのでしょう?」

「アレか」


 やはり、千歳とのデートは少なからず監視されていたらしい。

 とんでもないプライバシーの侵害だが、クララの格好を秋水好みだった。

 実際には、クララはこんな挑戦的な水着を着るほど大胆な性格ではないし、見かけほどキツい性格でもない。

 我の強い人物でもないのは分かっている。


 なのに、きっと秋水のためだけに、エロい水着を選んだらしい。


「気持ちは嬉しいですが、あまりご自分を安売りされないほうが」

「し、紳士ですのね……でも」

「でも?」

「わたくし、秋水様にしかこのカラダを売るつもりはありませんの。秋水様なら、言い値で売って差し上げますわ……!」


 なんなら、タダでもいいですのよっ? と。

 クララは慣れないアプローチにあたふたしつつも、見事に色仕掛けを行った。

 胸を張ってはいても、気をつけの姿勢だったのは可愛かったが。


 見かねたエマが、娘の援護のためだろう。


 すかさず、歩み寄って来た。


「言い値でいいとは言っても、価値が無いわけじゃないわ?」

「分かってますよ?」

「そう? でも、ねぇ秋水くん? ちゃんと見て?」


 エマはクララと並び、元カリスマモデルらしいポージングを決め込む。

 両腕を頭の後ろで交差させ、足はクロスしての全身晒し出し。


「ほら、クララさんもっ」

「っ、はい……!」


 母親に促され、現役モデルであるクララもポーズを取った。

 エマのヒップと背中にくっつくように、シンメトリーの体勢になって。

 モデル母娘ふたり、揃ってセクシーポーズ。


 ただ、エマのほうがエロスさでは優っていた。


「ほら、すごいでしょう……?」

「……」

「今まで誰も、触れたことのない宝石、黄金、禁断の果実♥」


 エマはふるふる♥ と爆乳を揺らして見せた。

 プラチナブロンドによく合う、白金のオフショルダー眼帯ビキニが窮屈そうに僅かにズレ。

 翠緑の瞳によく合った、エメラルドグリーンのロングパレオは結び目がほどけて、ストンと落ちた。


 スパンコールみたいにキラキラする素材だったので、それはゴージャス且つセレブリティな落下だった。


 クララ同様、いざ押されてしまえば。

 中身はチワワみたいにテンパりがちな人物とは、到底思えない。

 これも夏の魔力なのか。


「いけませんね。少々、はしたないわ」

「! マルグリット様……!」

「ご機嫌うるわしゅう。青墨秋水様」


 反面、マルグリットの佇まいには堂々たる芯が通っていた。


「ああ。貴方もいらっしゃったんですね。その後、特におかげんは問題ないですか?」

「──はい。貴方様のおかげで、この通り」


 ゴールド、シルバー、ディープターコイズ。

 ロイヤルながらスリット入りのセクシーなワンピースにロングケープ。

 唾広の大女優みたいな帽子とサングラスのセットで。


 声も所作も完璧に整えられたマルグリットは、どこまでも気品に満ち溢れ礼儀正しかった。


 しかし黄金化が解けたカラダは、子孫にも劣らない凶悪な果実な実らせている……


「いけませんね。図々しくは振る舞わないと言っておいて、この体たらく。ご気分を害されてはいませんか?」

「大丈夫ですよ」

「まあ。貴方様はとてもお心が広いのですね? ──ところで、いかがでしょうか?」

「はい?」

「この場は舞踏会とは違いますが、夏の海辺にはふさわしいドレスコードで参ったつもりです」

「ああ。大変お似合いだと思いますよ」

「──では、殿方として私にダンスの誘いを?」

「ん?」

「社交界では、それが常でした」


 マルグリットは伏し目がちに、貞淑なムードを漂わせながら秋水のアクションを待つ。

 舞踏会。

 それに、社交界。

 求められているのは何かと思案して、秋水は「ああ」と思い至った。


 先ほど、孔雀堂家は鳶瀬山家に挨拶を済ませた。


 だがマルグリットは、秋水じきじきの許可も言質として取るつもりなのだ。


「なるほど。奥ゆかしいのに、したたかですね」

「お返事はいただけまんか?」

「では──Shall we dance?」

「ありがとうございますっ!」


 風儀に合わせて返事をすると、マルグリットは満面の笑みで華やいだ。

 そしてコソッと、こちらの耳元に近づくと。


「夜のダンスも、いずれ……」

「っ」

「孔雀の求愛は、とても艶やかですからね」


 図々しくは振る舞わないと言っておいて、なかなかに過激な発言も残すのだった。


(……まあ、本当に遠慮する気があったら)


 今日こうして、一緒に海になどやって来ていない。

 つまり孔雀堂家は、秋水を諦めないことにしたのだ。


 光栄だったが、すでに身内と化している退魔巫女たちからの視線が、肌に痛かった。


「秋水くん、エッチな顔してない? 悪い弟くんかも……」

「お仕置きが必要かもしれないわ、ダーリン……」

「でも、アレはなかなか手強いエロスよ?」

「私たちも負けてられないわね……」

「大丈夫よっ。合計値じゃ、こっちが上よっ?」

「豊葉。なんの合計値……?」

「やだっ、言わせないでよ依穂ちゃんっ」

「またおっぱいの話してるかや」


 六人+一体と四人では、そりゃたしかに合計値に差はあるだろう。

 しかし、孔雀堂家が今日この場にこうして姿を表したのは、何を隠そう鳶瀬山家の許しあってのことだった。


 いや、あるいは孔雀堂家の思惑あってのことか。


 と言うのも、先日。

 孔雀堂家は北嶺区に赴き、今回の事件について洗いざらい喋ってしまったのだ。


 〝実はこの度は、裏で色々とこんな悪巧みをしていました〟

 〝誠に申し訳ございませんでした〟


 最初にあったのは謝罪。

 その次に、如何にして自分たちが計画を取りやめる事になったかを語り。


 秋水が秘密裏に、千歳たちを守っていた事実。

 本当なら永遠に知られないままにしておこうと思っていた事柄も、ほとんど正確にバラされてしまった。


 蔭木鏑。

 二段階目A.N.O.M.A.L.Y.『切り裂きトンカラトン』

 デート中にあった遠吠えの正体。

 犯人の動機。


 つまり、秋水がどれだけ鳶瀬山家を想っているのか。

 千歳たちに何を喋らないで、デートをしていたのか。


 いろいろ、エゴが露呈してしまった。


 孔雀堂家としては、そんな秋水の姿勢に胸を打たれたと語り。

 また、長年の悩みの種も無事に解決された事情を語り。


 ──もはやこの気持ちに、偽りは申せません。

 ──図々しいとは思います。

 ──不愉快であろうことも理解しています。

 ──負い目もあるので、本来なら引き下がるべきなのでしょう。

 ──それでも……!


 許してもらえるなら、慈悲を賜りたい。

 孔雀堂家は鳶瀬山家に、そう懇願したようだ。


 結果、鳶瀬山家の返答はこうだった。


 ──……まずは、お友だちから始めませんか?

 ──秋水くんの気持ちもありますし、私たちもまだ互いをよく知りません。

 ──彼が私たちを想って、敢えて黙っていたことを教えてくれたのには感謝します。

 ──ひどい男の子ですよね?

 ──そんなことされたら、こっちはますますおかしくなっちゃうだけなのに。


 気持ちは痛いほど、よく分かると。

 孔雀堂家が秋水にアプローチをかけることを、許した。


 後から聞いて、秋水は最初「お人好しすぎる」と思った。


 なにせ鳶瀬山家が首を横に振れば、その時点で秋水に孔雀堂家を受け入れる選択肢はあり得なかったのだ。


 でもそれは、彼女たちなりの決意の表れでもあった。


 ──秋水くんは、私たちに「ダメだ」って言って欲しかった?

 ──本当はね? 言いたかったわよ?

 ──でも、これは罰よね。

 ──ええ、私たちへの罰……

 ──また、秋水くんに守られちゃったわ。

 ──ねえ、お願い……隠し事は、もうしないで?

 ──私たち、たとえどれだけ他の女の人がやって来たって、負けないもん。

 ──女の人だけじゃなく。

 ──いつかA.N.O.M.A.L.Y.にだって。

 ──ううん。他の何にだって、負けない女になる!

 ──だから……ね?


 と。

 泣きそうな顔で予想外の言葉を吐き出された秋水は、激しい後悔に襲われた。

 そして、彼女たちの望む通りにするしかなかった。


 より一層の愛情を憶えたし、より一層のありがたさを得たのだ。


 〝自分はこれほどまでに想われている〟 


 エゴのせいで、傷つけてしまった。

 だからこれは、もうやめよう。

 二度としないと約束しよう。


 そしてそれが、奇跡的にも〝条件〟の達成でもあった。


 千歳たちは第三者の口から秋水の愛情を知ったことで、もはやこれ以上は無いと思われていた気持ちを爆発的に増大させた。


 絶対服従の契約首輪が光を増し、全員の霊力回路に熱い疼きが走り。

 より深く、より濃く、より強い結びつきが自ずと再び変異と変質を果たした。


 恋愛回路が物語った。


 〝もう、バードキス以上をしても問題ない〟


 舌を入れて、愛撫までなら許される。

 直観が秋水を含めて、同時に行き渡ったのである。


 つまりそれは、鳶瀬山家の特異体質が契約を通じて、秋水にも共有可能になった証だった。


⚫︎激メロ:『なるほど。チャット形式なんですね』

⚫︎巫女娘:『え、え、え?』

⚫︎少女脳:『秋水くんが、いる……?』

⚫︎エロ姉:『これって──』

⚫︎エロ妹:『うそ』

⚫︎淫酒女:『私たち……!?』

⚫︎巫女母:『か、家族に……?』

⚫︎春 巳:『霊的な絆だけなら、そうなるかや!』

⚫︎雛 菊:『ついでに夏乃も招待しておくわね』

⚫︎最高妹:『颯爽ログインですわーッ!』

⚫︎約全員:『えええええええ!?』

●激メロ:『激メロ……?』


 と、なんだか気恥ずかしい部分もあったが、名実ともに身内の証拠が出来上がったのである。


 男と女の絆。

 恋し合い、愛し合ってすらいても、なお両者を分かつは異なる人間であるがゆえの溝。

 互いが互いに抱くエゴは、相互理解による歩み寄りを必要とする。


 ヒナギクは純情だ。


 強火なようでいて、恋愛について誰より純粋な理想を持っている。

 だからこれは、「なるほど」と納得するしかなかった。


 納得し、理解すれば。


 結果的に、孔雀堂家のおかげで仲が進展したとも言えるワケだったので。


 こんな境遇、いいのか?

 現代社会で、許されていいのか?


 と、秋水は自問しつつも。

 大切な少女たちが、良いと言っているので運命を受け入れる。


 すでに自分は、〝普通〟とは別離する覚悟で背中を向けているのだからと前へ進み続ける。


 よって、まだこの日常が最後にどんな形で落ち着くのかは分からないが。

 秋水を取り巻くハーレムは、加速度的に増加しつつあった。


 ビーチに意識を戻すと、秋水の背後に跪く者がいる。


「我があるじ。喉が渇いてはおられませんか?」

「あるじ様。楓が三秒で、なんでも買って参ります」


 大狼家の姉妹だった。


 (はやて)(かえで)


 姉はスポーツビキニとショートラッシュパーカー、ターコイズブルーとホワイトの水着。

 妹はワンショルダービキニと同じくショートラッシュパーカー、ネイビー&シルバーの水着。


 まさかまさか。

 どうして? という疑問もあるだろう。


 秋水も驚いている。


 だが、最後に付け足すようでアレなのは申し訳ないが、秋水はこの二人にも少なくない責任を有していた。


 切り裂きトンカラトンとの戦闘の後。

 大狼家姉妹は、ショック状態で気絶していた。


 一言でいうと戦闘の巻き添いである。


 勘違いはしないでもらいたいが、秋水の術式は人間を傷つけない。

 斬ろうと思わなければ斬らないし、燃やそうと思わなければ燃やさない。

 姉妹には創傷も無ければ、火傷のひとつも無い。


 しかし、尋常ならざる霊威霊圧。


 これだけはどうしようも無かった。

 切り裂きトンカラトンの分も加えれば、二人がショック状態になるのも当然で。

 蔭木家邸で意識を失っていたふたりを、秋水は慌てて協会に保護してもらったのだ。


 その後、事情聴取やら何やらを進めて。


 聞けば、蔭木鏑によって家も両親も財産も奪われているだとか。

 これまでは狼憑きが原因で、いろいろ苦しい目に遭って来ただとか。

 もはや姉妹を除けば天涯孤独の身の上で、助けてくれた秋水しか信じられるものは無いだとか。


 恩を返したいので、ぜひ秋水に仕えさせて欲しい……だとか。


 助けた自覚はあまりない秋水は困惑だったが、二人はとても強く秋水の預かりになることを希望した。

 もともと大狼家は、クノイチの末裔で時々によって主君を変えて生きていたらしい。


 ──今生のあるじ様は、青墨秋水様以外にありえません!

 ──終生の感謝と忠誠を誓い申し上げます……!


 鏑を神隠し送りにしたことが、よほどありがたかったようだ。


 結果、なんと居候として迎えることが決定した。

 伝奇術師的な立場としては、青墨家に仕える専属従者のような感じだ。

 クノイチなので、諜報・変装・密告なんでもござれなイヌミミ姉妹。


 無論、これは協会を交えて紆余曲折あった。


 鏑に脅され、ギアス系の呪具を用いて? 無理やり従わされていたらしいのだが。

 南湾岸区では実際、A.N.O.M.A.L.Y.を誘発させたりと犯罪行為に手を染めていたし。

 生まれつきの【呪い】である狼憑きの件も、術師社会では忌避される傾向にある。


 人間の人狼化は感染するからだ。


 が、これを構わないと受け入れたのは、意外にも夏乃とヒナギクで。


 ──使える犬が欲しいんですのよ。

 ──番犬と猟犬ね。


 という、なんだか恐ろしさも背後に秘めた要望により、大狼姉妹は青墨家で預かる事になった。


 秋水としては「なんだかな」という感じだったが、妹にせがまれては拒否できない。


 今のところの印象は、「パシリ根性が凄まじい」だった。


 あ、ちなみにだけど爆乳である。


 年齢は本人たちも分からないようだが、だいたい二十歳頃との協会の見立てだった。


 いや、にしてもデカい。

 この場に居合わせながら、夏乃以外は誰も胸囲の平均サイズを著しく下げていない。

 鏑は楓と颯を、日頃から事あるごとに醜いだとか罵っていたそうで、二人は自分たちを美人だと思っていないフシがあるのだが。


「あるじ様?」

「焼きそばのほうが、よろしいでしょうか?」


 歳上の美人なお姉さん。

 イヌ耳とイヌ尻尾付き。

 時代錯誤な呼び方で、ワンワンと傅かれるとか都合が良すぎる。


「……俺なら三秒もかからないんで」


 秋水はとりあえず、禹歩でペットボトルのお茶と焼きそばを一瞬購入してみた。


「そん──な……」

「速すぎ……!?」

「何してるのよ」

「お兄様が無駄にお二人を絶望させていますわ」

「いや、別にパシリとか要らないし……」

「「どうかもう一度だけチャンスをッ」」


 くぅーん! と狼憑き姉妹は哀れを誘う犬のように、秋水の足元に縋り付く。

 あ、おっぱい柔らかい。


 そこに今度は、予期しない人物までやって来た。


「お〜い、あっおずっみはーん! あぁん、会いたかったでほんまっ!」

「よっす。いえーい、しゅうすい……ぴすぴす」

「うちが遊びに来ましたよ? っと。だから、いーれーてっ?」

「海といえば誰……? そう、私だよね……」


 國塚皐月姫。

 沙織鈴鹿。

 市外からまさかの、筆頭術師二名がお越しである。


「え、なんでいるんですか?」


 理由がマジで不明だった。

 汐坐の女たちも、一斉に驚愕しざわめく。


「なんでって、なぁ?」

「しゅうすい……勝手にいなくなるから……」

「うちら、寂しくなってなぁ?」

「隙を見て……遊びにきたよ……?」

「マジかよ」


 京洛市と珠凪市で緊急事態が起こったら、どうするつもりだ?


「さては俺に、送らせるつもりですね?」

「あきまへん。バレてもうた」

「私はべつに。このままここで、しゅうすいのお嫁さんになったっていい……」

「はぁ〜!? せやったら、うちかて青墨はんのお嫁さんやもんっ」

「からかってますね」


 秋水は「やれやれ」と肩を落とした。

 でも、予想外の乱入に喜びはあった。


 皐月姫も鈴鹿も、めったに会えない。

 そして、そんな二人がさらに珍しい水着姿だったからだ。


 黒髪姫カットの皐月姫は、和洋折衷の特注と思しい白、藤、金、黒色のビキニ。

 藍色ウルフロングの鈴鹿は、インディゴブルーとスカイブルーのタンキニに、レースアップのショートパンツ。


 どちらも素晴らしい。

 はち切れんばかりの爆乳だらけ。


 孔雀堂家が「え、どうやって入って……?」と戦慄しているが、この二人なら不思議もない。


「お帰り願っても、無理なんでしょうね」

「礼儀知らずやった? でも、先に無礼やったのは青墨はんやもん」

「私たちを放って、あんな紙切れ一枚で済ませようだなんて……ね」

「と、沙織は言ってはりますが、実はだぁいじに今も持ち歩いてます」

「サッツーもだよね……?」

「なんなんですかお二人とも」


 秋水は諦めた。


「すいません、というわけで、急遽の飛び入り参加になるんですが……たぶん満足したら帰ると思うので」

「え、ええ! 京洛市と珠凪市の筆頭さんですよねっ?」

「も、もちろん構いませんわ……!」


 孔雀堂家と鳶瀬山家も、頷いた。

 皐月姫と鈴鹿も、改めてペコリと頭を下げる。





 そんなわけで。


 今日は特別な夏休み。

 最初はぎこちなさも隠しきれなかったが、次第に誰もが肩書きを忘れて海とビーチを楽しみ始める。


 そう。


 今日ばかりは、皆が青春を謳歌するだけ。

 ただひとりの、一夏の憩い人に過ぎない。


「海、最高だな」


 夏、最高だった。


 青い海、白い砂浜、南国トロピカルな水着の美女たちの笑顔──

 はい、ここでとびきり魅力的な一枚絵(スチル)




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 tips

 

 ◆青墨秋水を巡る者たち


 夏乃Withヒナギク

 ・家族(妹・母・妻)の距離感で秋水を理解し、支えている。

 ・何事においても一番の自負がある。


 鳶瀬山家Withハルミ

 ・絶対服従の契約首輪により不断の絆を持ち、最大の寵愛を得る。

 ・関係性が順調に進んでいて、心の距離も近い。


 孔雀堂家Withマルグリット

 ・お友だちからスタート。

 ・叶わないかもしれないと思いつつも、欲で恋に邁進する。


 大狼家

 ・従者としてスタート。

 ・居候&忠犬系路線で、忠誠度がカンストしている。


 皐月姫&鈴鹿

 ・実は一番遅れているが、巻き返し始めると強い。

 ・共通点が多く、仮に戦闘になればヒナギクしか対抗不可。


 蟻道

 ・実は前世の記憶持ちで、だから秋水に固執している。

 ・光のホモとなったが闇のホモ属性も継続する厄介ホモ。


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