第13話「課長」
生産管理部の席が、まとめて空いたのは先月だった。
辞める時期は少しずつ違ったが、
結果として、ほとんど誰も残らなかった。
理由を説明する人はいなかった。
説明しても、たぶん変わらなかった。
後任は決まっていたらしい。
入社前日までは。
「やっぱり辞退だって」
昼休み、誰かが小さく言った。
理由も、すぐに広がった。
入社前の出張費を、
一度立て替えてほしいと言われたらしい。
「まだ入社もしてないのに?」
「……ブラック企業っぽいですよね」
誰かがそう言って、
それ以上は続かなかった。
次に来た新人は、二日で辞めた。
名刺だけが机に残っていた。
そのあと、社長は新しい人を連れてきた。
まだ若く、業界経験もないらしかった。
初日から、「課長」と呼ばれていた。
社宅も用意されていた。
広めの部屋らしい、という話だけが先に広がった。
午後、社長室のドアが少しだけ開いていた。
白川さんの声が聞こえる。
「いきなり課長ですか?」
社長は笑いながら答えた。
「そういうほうが頑張るじゃん」
少し間があって、続ける。
「こうやってさ、
人参ぶら下げたほうがいいんだよ」
白川さんも、小さく笑っていた。
その言葉を、偶然聞いてしまった人がいた。
けれど、誰も反応しなかった。
夕方、新しい課長は一人で資料を読んでいた。
どこに何があるのかも、まだ分かっていない様子だった。
周囲も、誰に何を聞けばいいのか分からなかった。
十八時。
チャイムが鳴る。
社長は立ち上がり、
白川さんに向かって言った。
「今日は早く帰ろう」
「はい」
二人は並んで出ていった。
新しい課長は、その背中を見ていた。
机の上には、まだ開いたままの組織図が置かれていた。




