第1話 「病院という予定」
登場人物
社長:黒田 翔
愛人:白川 玲奈
部長
社員B
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夕方近く。
部長はスケジュール表を睨みつけ、首をかしげる。
部長「……翔は、もう帰りました?」
画面をスクロールして、もう一度。
部長「……ん? 病院?」
同じ時間帯、同じ文字。
「病院」という予定が、二か所に入力されている。
一つは――黒田 翔。
もう一つは――白川 玲奈。
備考欄には、申し訳程度にこう書かれていた。
「検査」
……検査、らしい。
――玲奈は七月出産予定。
その事実について、もはや社内で異論を唱える者はいない。
否定するだけ、体力の無駄である。
十七時半ごろ。
黒田社長は椅子から立ち上がり、事務所をぐるりと見回して、短く言った。
社長「戸締り、お願いします」
まただ。
社員たちは一瞬だけ視線を交わすが、誰も何も言わない。
もはや日常。
止める理由も、止める勇気も、残っていない。
社員Bが、あくまで“業務として”確認する。
B「ヤマトセンター、寄りますか?」
社長は時計をちらりと見て、やや早口になる。
社長「時間がないです。ちょっと急ぎで。日本橋センター、近いですよ」
近い。
確かに近い。
歩いて十分。
……ただし、その隣はラブホテルだった。
(近いけど、行きたくないな……)
Bは心の中でつぶやく。
社長と玲奈は車がある。
荷物を渡すだけなら、一分もかからない。
それなのに、なぜ自分が歩くのか。
なぜ今日も、こんなに急がされるのか。
――最悪だ。
Bが包みを持ち上げたときには、
社長と玲奈の姿は、すでにエレベーターの向こう側に消えていた。




