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74:大団円ですわ!

 この世界に顕現する事になったマリエラ様がゼブルスを掬い取っていったような感じがしたのですが、その時に何となく元の世界に帰るかどうかを訊かれたような気がしまして……差し伸べられた手の事や帰る事が出来る喜びよりもアンジェリカ達の事が心配になって振り返ってしまったのですが、(わたくし)が視線を戻した時にはマリエラ様の気配が薄れて離れていくところでした。


(今のは…?)

 白昼夢でも見たような感覚だったのですが、わかっている事は私がこの時の決断を後悔する事はないという確信でして……とにかく帝都周辺で暴れ回っていたゼブルスのせいで大地が汚染されていたのですが、噴き出した女神の聖氣やゼブルスの巨体から弾けた膨大なマナ(自然エネルギー)が還元された事で徐々にあるべき姿に戻っていくのかもしれません。


「アリシア、ご無事ですか!?」


「ちょ、大丈夫ですわ、マエリエラ様が治して…って、その、だから」

 絶頂と共にエネルギーが抜けていったおかげで元の大きさに戻っていたのですが、駆けつけて来ていたアンジェリカにおもいっきり抱きしめられてしまい……久しぶりに感じたアンジェリカの温もりとか匂いとか心地よい安心感にムズムズとしてしまいましたし、嬉しくなって抱きしめ返しているとミレーヌさんが近づいて来ている事に気が付きました。


「終わった…ようだな」


「みたい…ですわね、これだけ被害が大きいと後始末の事を考えると頭が痛い…って、何ですの?」

 リッテンベルン宰相と共に近づいて来ていたミレーヌさんが愛用のツーハンデッドソードの柄を向けて来ていたのですが、差し出されている理由がわからないと首を傾げてしまい……。


「ゼブルスを倒してめでたしめでたしと言いたいところなのだが、帝国を私物化していた悪の皇帝が残っているからな…本当ならウィズベリア(リッテンベルン宰相)ヴォルド(ヴォッサム将軍)にでも任せたら良いのだが」

 そんな事を言いながらひーこらと駆け寄ってきているリッテンベルン宰相に視線を向けるのですが、当のウィズベリアさんは自殺を仄めかすミレーヌさんに対して物凄い形相をしておりまして……魔法の準備をしながら私達とミレーヌさんの間に割り込み差し出していた剣を弾いてしまいました。


「そんな戯言を…本気で言っているの?」


「わかってくれ、どうせ死ぬのなら復興の象徴として聖勇者()に討たれるのが良いと思ってな…嫌な役目だとは思うが、頼む」

 なんて事を言い合い始めた2人には呆れてしまいますし、アンジェリカに一言断りを入れてから弾かれていった剣を回収しておくのですが、ここでミレーヌさんを斬り捨てたら禍根しか残りませんわ。


「そういう痴話喧嘩は…ふっ、ん、っと…この剣、意外と硬いですわね…っと、やっと折れましたわ…とにかくそういう責任の取り方はお断りですわ、代わりに勝者側の人間として言わせてもらいますが…ここで死ぬというのは責任から逃げるという事ですわ、本当に皆の事を考えているのなら何が起きていたのかを説明した上で罪を償ってください、ここまでやらかした後に降りるのは面倒ごとをリッテンベルン宰相やヴォッサム将軍達に押し付けるのと同義ですわ」

 格好良くミレーヌさんの剣を壊しながら自殺させるつもりも殺すつもりもないという事を示したかったのですが、ミレーヌさんの剣は聖勇者の力をもってしてもへし折るのには苦労しまして……因みにこの時私が壊した剣は初代皇帝から代々伝わる由緒正しき逸品だったという事を後々知って申し訳ない気持ちになってしまったのですが、そういう象徴的な剣だったからこそ意味のある行為になったのかもしれません。


「そうか…そうだな、ここで降りても責任を果たした事にはならないのか…わかった、それでは全身全霊をもって帝国を…この国を立て直す事を改めてここに誓おう」

 説得されたというより課せられている義務や責任を思い出したというようなミレーヌさんが晴れやかに笑っていたのですが、この人は確かに色々とやらかしすぎてしまったのかもしれませんが、ザインブルグという帝国を纏め上げるのに相応しい人物だったという事なのかもしれません。


(その気真面目さが悪い方向に作用していたのかもしれませんが、これ以上の悲劇を生み出しても仕方がないですわ)

 なんていう自己満足はともかくとしまして、ゼブルスが暗躍していた事でボロボロになっていたザインブルグ帝国……名目上の皇室を残しつつ各団体から送り込まれた代表達の合議制へと政治形態が変化して行く事になったのですが、この辺りはファンタジー世界によくある皇帝の血筋でなければ機能しないギミックがあったり共和制にシフトするにしても代表をどのように選出するのかとかいう事や国民全体の教育レベルの向上などが課題として残っておりまして……引きこもり気質のあるエルフ達は国政なんていうややこしいモノを担いたくないと最低限の人員を残してデヴァン大森林に引きこもってしまいましたし、レスリーナちゃん(獣人)達は力こそ全てすぎて新天地への移住やらなにやらで忙しそうですし、ドワーフ達を率いていたギルバさんも実戦投入された事で実用性が認められた魔科学を体系的に纏め上げる事に熱中しているようで誰も積極的に介入しようという人達がいなかったのですよね。


 だからといって穏便に纏まったかといえばそうでもなくて、中にはゼブルスが暗躍していた事やミレーヌさん達が傀儡だった事を説明されても納得する事ができないという人達もいたのですが、親身になって復興支援をおこなうミレーヌさんやウィズベリアさん達の姿を見ながら燻ぶっている思いを飲み込む事になりまして……2人の献身っぷりには「やむにやまれぬ事情があったのだろう」と思うのに十分な説得力を持っていましたし、幸か不幸か皇帝陛下が直接手を下したという場面に出くわした生存者が少なかった事も問題を曖昧にしてしまった原因の一つなのかもしれません。


 とにかく将来的には民主制が敷かれるのか帝政に戻るのかは次世代の人達の判断に委ねる事になりそうですし、目の前の問題を片付けていく事で怒りや悲しみを誤魔化そうとしていただけなのかもしれませんが、そういう急いで片付けないといけない問題がひと段落したある日、私達は進捗とこれからの事を話し合うために一度帝都に集まる事になりました。


「あら…少しばかり到着が早かったのかしら?」

 浄化だけして再建が後回しにされていた皇居の中庭に降り立とうとしたらとミレーヌさんとターナー神官長が机を囲んでいるのが見えましたし、その後ろにはウィズベリアさんとアンジェリカが控えていたのですが……ファティエラ(神殿都市)の再建の為に別行動をしていたアンジェリカとは久しぶりの再会だったので胸の奥の方がザワザワとしてしまってなんだかニヤケてきてしまいそうだったのですが、今日は話し合いの為にやって来たのだと表情を引き締めておきましょう。


「アリシアは時間単位で考えすぎだ、緊急を要する問題はひと段落したのだ…そろそろ任せられる仕事は人に任せて腰を落ち着けたらどうだ?」


「ほっほっ、それをお忙しい陛下が言うのもどうかとは思いますが…こうして集まっているのも事前の打ち合わせというより休憩時間みたいなものじゃからな…キッチリとしているのがアリシア様の美徳なのかもしれませんが、皆が皆そのようにキビキビと動けるものでもございませんので」

 なんていうお叱りを受けてしまったのですが、どうしてもこの日に話し合いがあると言われるとその日にあるものだと思い込んでしまい……飛べる私達とは違って普通の人達が別の町から別の町へと歩いて移動をする場合は日数単位でズレる事がありますし、快堕(かいだ)獄牢(ごくろう)の調査に向かったヴォッサム将軍とノアさんからは数週間単位で遅れる可能性があるという連絡が来たので本日の会議は延期になってしまったのだそうです。


「それは…気を付けますわ」

 ゼブルスが出て来た時の影響で地形が大きく変化しており調査が長引いているようですし、期日を守ろうとしすぎて再復活を許したなんて事になったらたまらないという申し出があったようでして……なんていう話を聞きながら翼を畳んで席に着くとテーブルの上に置かれた果物の陰で何かがモゾリと動きました。


「そうそう、アリシア達はせかせかしすぎなのよ…皆が集まって来るまでにはそれなりの時間が必要なんでしょ?到着するまではゆっくりとしていたら?」


マリーちゃん(マリーメリー)まで…お久しぶりですわ、ようやく出て来られるようになりましたのね」

 マナが欠乏していたせいでデヴァン大森林から出て来る事が出来ていなかった妖精のマリーちゃんがリンゴっぽい果物を食べながら手を振っていたのですが、この頃妖精の姿をあちらこちらで見かけるようになりまして……徐々にながら大地にマナが戻ってきているのだという事を実感しますわ。


 とかいう話をしながら会議に参加する事になっている他の人達の事について訊いてみたのですが、仕事を押し付けられたヘルムートさん(エルフの代表)と魔科学の研究をしているギルバさん(ドワーフの代表)は雑務に追われておりまして、獣人の代表であるザックスさんは我々に干渉してこなければ決定事項だけを伝えてくれたら良いとか言っていたのですが、流石に仲間外れは不味いという事でしっかり者のレスリーナちゃんがやって来る予定なのだそうです。


「皆さんの予定はわかりましたわ、それより聞きたい事があるのですが…なんで帝都のど真ん中にあんな物が建っていますの!?」

 必要な情報を交換し終えた私達の会話が自然と雑談へと移っていったのですが、真っ先に問い詰めたかった巨大な石造について訊かないといけないのかもしれません。


「ああ、あれ…か、あれは顕現なされたマリエラ様の姿を残そうという有志が建てた石造で、復興のシンボルにという事だったので私が許可を出したのだ」

 「断る理由がなかったから」と曖昧な笑みを浮かべているミレーヌさんなのですが、前々から何か大きな幕がかけられている建物があるな~とか思っていた私のビックリ具合も考えておいて欲しかったですわ。


「復興のシンボル大いに結構、です…が、私が問題にしているのはどう見てもあの石造のモデルが私になっているという事ですわ!」

 帝都の中央広場にどでかく建てられているヴェールだけを纏った裸婦像のモデルが私であるという事に気が付いた時の恥ずかしさは筆舌に尽くし難かったのですが、ミレーヌさんが言うには邪竜を撃ち滅ぼしたマリエラ様の姿をそのまま形にしたとかで……それがどう見ても最終決戦仕様の私だったりしていたのですが、女神様から迸った色々なモノが大地を再生させたとかいう逸話まで聞かされたりと会う人会う人に拝まれたりするので何とかして欲しいですわ!


「それだけアリシアの活躍が顕著だった…という事では?それよりこの会議が纏まった後の話なのですが、アリシアはひと段落した後はどうするおつもりなのですか?」

 そうして私とミレーヌさんが言い合っていますと、今まで護衛として控えていたアンジェリカからの助け舟……と、言いますか、やや話が逸らされたような気がするのですが、微笑むアンジェリカを見ているだけで怒りが引いてしまうのが我ながらチョロいと思ってしまいますわ。


「そう…ですわね」

 除幕式も盛大に執り行われてしまったという事で今更破壊する訳にもいきませんしと羞恥心は飲み込んでおく事にしたのですが、このままこの国で骨を埋めるにしても聖勇者として祭り上げられるのは少しだけ考えてしまいますし……いえまあ私が崇め奉られるのは当然の結果なのかもしれませんが、顕現なされたマリエラ様が何とかしてくれたようなものなので私の手柄のように扱われるのはむず痒いのですよね。


 それならいっその事、各地を放浪しながら人助けをしている雨宮さんに「一緒に旅をしませんか?」と誘われていますし……いえむしろあれは「娘を見つけたので連れて行きます」という決定事項だったのかもしれませんが、一緒に別の大陸に渡ってみるのも良いのかもしれません。


アン(アンジェリカ)がついて来てくれるのなら即断できますのに…アンにはアンのお仕事があるので無理に誘う事が出来ませんのよね)

 因みに雨宮さんは北方辺境領(危険地帯)にあるというゼブルスの民の隠れ里に里帰り中(事情を説明しに行った)のリンディさんを追いかけて行ってしまい……色々な決着がついて戻って来るまでには身の振り方を考えておかないといけないのかもしれません。


「おいおい考えてみますわ…それよりミレーヌさんはどうしますの?本当に皇位を降りてしまいますの?」

 私は問題を放り投げるつもりでミレーヌさんに話を振ってみたのですが、復興支援で駆けずり回っているミレーヌさん達の姿を見ていた人達からの評判は上々ですし、このままなし崩し的に女帝を続けても良いような気がしたのですが……ミレーヌさんが言うには自分が降りるのはケジメであり必要な事なのだそうです。


「流石に今日明日退位すると混乱が大きくなるのでまだ先の話ではあるのだが…私が玉座ついたままでは要らぬ問題が出て来そうだからな、然るべき人間にこの椅子を譲り渡して必要な知識を叩き込むのが最後の仕事になるのだろう」

 との事で、臨時の皇帝である事を譲らないミレーヌさんの決意は変わらないようでして……たぶん私が訊かなくてもヴォッサム将軍あたりが翻意を促していたとは思いますし、今更どうのこうのと言われた程度では意見を変える気がないのかもしれません。


「でもそうなったら…次の皇帝はどうしますの?たしか他の…適任者が居ないという事でしたが?」

 「皆殺しにした」とは言いづらかったので少しだけ言葉を濁したのですが、ミレーヌさんが降りる事で余計に混乱が大きくならないかと思って訊いてみますと、何故か苦笑いを浮かべられまして……近くに居たウィズベリアさんの顔をチラチラと見ていたのですが、そちらはそちらでやや憮然とした照れ顔をしているというのはどういう事なのでしょう?


「その、なんだ…その辺りの問題が無くなったというか、今まさに作っている最中というか」


「ええ、まあ…騒がれても嫌だから遠縁の親戚を引き取って来たという扱いになるのかもしれないけど…本人にはちゃんと伝えるつもりだから安心して」

 何気なく聞いてみたら照れながら俯いてしまったミレーヌさんと歯切れの悪いウィズベリアさんというレアな姿を見る事になったのですが……というよりミレーヌさんとウィズベリアさんの間で交わされている湿度の高すぎる視線のやり取りにこちらまで照れてきてしまいそうになったのですが、そんな事が可能なのでしょうか?


「え…っと、おめでとうございます…で、よろしいのかしら?」

 なんとなくミレーヌさんのお腹に視線を向けてしまいましたし、何となく全体的に雰囲気が丸くなったような気がしていたのですが……ビックリな報告すぎたので言葉が続きませんわ。


(魔法が存在している世界ですし、ウィズベリアさんの執念と根性なら何とかするのかもしれませんが)

 ゼブルスの呪いに苛まれて苦しんでいたミレーヌさんを長年支え続けたウィズベリアさん達が収まるところに収まったという事なのかもしれませんが、唐突なおめでた発言に絶句してしまった私の代わりにアンジェリカが物凄く食いついてしまい……。


「歓談中申し訳ありません、その辺りの事情と方法を詳しくお聞きしても?」

 その目がギラギラとしすぎていて少しだけ引いてしまったのですが、“そういう可能性(アンとの子供)”もある事にジワジワと不思議な喜びみたいなものが広がってきまして……考えないといけない事もやらないといけない事もまだまだ山積みすぎるのですが、それでもきっと全部丸っと上手くいくような気がしますわ。

※アリシア達の波乱万丈で爛れた人生はこれからも続いていく事になりますし、アンジェリカ一家は子沢山になる予定ではあるのですが、未来に幸あれという感じで一旦ここで完結とさせていただきます。


 そして今後の活動方針などは『活動報告』の方で上げていく予定なのですが、癖の強い作品ばかり書いていたので少しだけナチュラル寄りのまったりとした作品を書いていきたいとか思っていたりしながら相も変わらず猫っぽい作品を書いていくのかもしれないとか思いつつ、流石にいきなり500話とかなると重いし勧め辛いという事で100話以内くらいの中編を書いていこうとか思っているのですが、どちらの方がいいのでしょう?


 そんな事を考えながら一旦次回作までシーユーアゲイン……なんて事を言っておきながら最後に『聖勇者アリシアの受難』という奇妙なお話をここまで読んでいただき誠にありがとうございます、たぶんまたひょんなタイミングで別の作品を書き始めると思いますが、何かの拍子でそちらも読んでいただけると猫が小躍りしたり喜んだりすると思います。

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― 新着の感想 ―
思ったより早く終わっちゃってちょっと寂しいけど、最後まできれいにまとまっていて良かったです。次の作品も楽しみにしてます!
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