65:ミレーヌさんの事情とか諸々ですわ
「君には…迷惑をかけるな」
絡みついた肉の鎧に苛まれている女帝……ミレーヌさんが謝罪の言葉を口にしていたのですが、地下室に突入する前は考えてもいなかった事態に陥ってしまいどう返したらいいのかがわかりませんわ。
「そう思っているのなら…この拘束を解いて貰う事は出来ませんの?」
私は私でヌメヌメとしたドロのような物に絡みつかれたままですし、ゼブルスに聖氣が吸い取られてしまったので振り払う事も出来ないのですよね。
「それは…彼女の匙加減しだいなんだが」
それが難しい事がわかっているミレーヌさんは狂ったように回復薬を作っているリッテンベルン宰相に視線を向けるのですが、ゼブルスと関係なく拘束されている私は拘束魔法を唱えた人に解除してもらう必要がありまして……このまま命を取られるといった状況でもなさそうなのが救いなのですが「利用価値がある」とか「獄牢からの魔力が」みたいな話をしていましたし、このままでは聖乳が搾られ続ける日々がやって来るのかもしれないと恐れおののく事しか出来ませんでした。
「本当に…申し訳ないと思っている、それもこれも私が不甲斐なかったばかりに」
そうして何やら事情がありそうなミレーヌさんが重ねて謝罪の言葉を口にするのですが、ここまで来たらその理由を聞かせてもらいたいものですわ。
「理由を…お聞きしてもよろしくて?」
「そうだな、ここまで巻き込んでいるのなら聞く権利も理由もあるのだろう…だが、どこから話せばいいのか」
なんてポツリポツリと話してくれたのですが、暴虐の限りを尽くしていた先帝を倒した辺りから魔物達の活動が活発的になっていきまして、帝位を継いだミレーヌさん達は早々に行き詰まる事になったのだそうです。
「今にして思えばそれ自体がゼブルスの罠だったのだと思うが…私は魔物の脅威を取り除く為に先祖代々伝わるという神躯に手を出す事にしたのだ」
一部の騎士達を除いて本当に使えない者達ばかりになっていたと嘆息するミレーヌさんなのですが、少数の心ある人達と再編を進めながら女帝本人が力を振るう必要に迫られる事になりまして……。
「それが…ゼブルス由来の物だったと?」
「そうだ…まったく、こんな物を由緒正しい物であるかのように伝えなくても…そんな訳の分からない物に頼ってしまった私も同罪なのかもしれないが」
とにかく物凄い力を扱えるようになった代わりにゼブルスからの精神支配が増していく事となり……気が付いたら出した覚えのない命令が実行されていたり記憶が飛んだりと徐々に意識が失われる事が増えていく事になりまして、北方の辺境領から押し寄せる魔物達に対抗する為に右腕ともいえる将軍を……話の流れ的にこの時に送られたのがヴォッサム将軍だと思うのですが、この頃になると意識がある時の方が少なくてよくわからない状況だったのだそうです。
「ゼブルスからしたら数少ない理解者を遠ざけるという意味があったのだろうし…私がこのような力に頼ったばかりに引き起こしてしまった悲劇だという事は重々承知の上だ、だから…」
なんてミレーヌさんが続けようとしたタイミングでリッテンベルン宰相が戻って来まして……。
「出来ました!ささ、早くこれを!」
リッテンベルン宰相がドロリとした液体が入っている針の無い注射器みたいな道具を持って来たのですが、ある意味回復薬っぽくてどうにも回復薬っぽい物が出て来たので少しだけ驚いてしまいました。
(というより形状から考えて…直腸注射、ですの?)
そりゃあ操られて意識が朦朧としている人の口から回復薬を流し込むのは難しいのかもしれませんが、毎回そのような方法で栄養を摂取していたのだという事を考えると何となく顔が赤くなってしまい……とか茶化せないレベルで肉の鎧に苛まれているミレーヌさんの消耗具合が大変な事になっていますし、たぶんリッテンベルン宰相が作った栄養補給ドリンク?を摂取する事で何とか命を繋いで来たのかもしれません。
「ありがとう…だが、大丈夫だ、今なら普通に飲む事が出来る」
「そ、それは…そう、ですね…では、どうぞ」
「すまない、いつも苦労をかけるな」
「そ…んな事はないから!早く、ぐいっと!」
私がそんな事を考えているのがわかったのかもしれませんが、苦笑いを浮かべているミレーヌさんが「早く早く」と急かしているリッテンベルン宰相から渡された回復薬を握りしめながら息を吐きまして……そのまま私の顔を見据えて口を開きました。
「それより言いかけていた事なんだが…私の意識が残っている間に君の手で止めを刺してくれないだろうか?見ての通りゼブルスに侵されているので自殺も出来ない体でね…頼めないか?」
なんて事を言いながら肉の鎧にヌチャヌチャにされている身体をみせてくれたのですが、いきなりすぎるお願いに言葉が詰まってしまいますわ。
「それは…」
事情や経緯を話してくれたのは「止めを刺して」という言葉に繋げたかったのかもしれませんが「わかりました」と即答できる問題でもないので視線を彷徨わせてしまいました。
そして冷静に悪の帝国を成敗してゼブルスの計画をとん挫させる場合はここで斬り捨てるのが手っ取り早いような気がするのですが、聖勇者的には怪しげな力に手を出してしまったうっかり屋さんを殺して終わりにするというのもどうかと思ってしまい……。
「何を…言っているの?」
誰かれ構わず精神汚染を仕掛けて来たり手足のように動いている赤毛のトカゲ人間さんが居る限り大きくは変わらないのかもしれませんが、それでも帝国の暴走を多少なりともマシにできるのかもしれないというミレーヌさんの提案だったのですが……私の代わりにリッテンベルン宰相が物凄い形相で掴みかかっていく事になりまして、本当にその通りだと思いますわ。
「ヴィズベリア…わかってくれ、私が生きているだけでどれだけ多くの人間が犠牲になるのか…ゼブルスの神躯が触媒になっているのだ、勿論今すぐこの悲劇が終わる訳でもないし償える訳でもないのだが、これが私なりのケジメのつけ方だ」
「嫌です!何でそんな事を…一番アイツに苦しめられているミレーヌが死ななければいけないの!?もう少しなんですよ!?ようやくあの化け物を!わたしがどのような思いで今まで…折角ジオルドで…っ!?」
苦労を共にしてきたリッテンベルン宰相からしたら「殺して欲しい」なんていうのは都合が良すぎる言葉でしたし、そこまで言いながら何かに気が付いたように辺りをキョロリと見回すのですが……たぶんゼブルスに監視されていないかという事を確認したのだと思いますが、先程の顕現で力を使い果たしたのかそれっぽい気配はありませんでした。
「聖勇者の力を使えばミレーヌの意識を保つ事が出来る、むしろそれ以上の…コイツはゼブルスの因子を含んだワイバーンを倒しました、それこそ鉱山一つ吹っ飛ばすくらいのエネルギーを使う予定だったのに…だから、わかりました、もし陛下がそのおつもりでしたら私がコイツを殺します、絶対に貴女を殺させはしません」
ゼブルスに覗き見されていない事を確かめてから安堵の息を吐いたリッテンベルン宰相が声を潜めながら続けるのですが、どうやらジオルグ鉱山でやろうとしていたのはゼブルスを倒す事が出来るかどうかという実験だったようで……というのをドワーフ達の反乱に乗じて行おうとしていたみたいなのですが、目的の為には被害を考えなさ過ぎるところが恐ろしいですわ。
「ウィズベリア…」
駄々をこねているリッテンベルン宰相に弱いミレーヌさんが何とも言えない顔をしていたのですが、そんなやり取りをしている間も宰相の魔力がギチギチと締め上げてきておりまして……冗談では済まないレベルでミシミシと骨が軋んで意識が朦朧として来てしまいます。
(と、いうより…無理心中に巻き込まれているような感じで…出来れば私の居ないところでやって欲しい…ですわ!)
聖氣が足りなさ過ぎて振りほどく事も出来ないままバタバタとしていたのですが、このままだと本当に絞め殺されてしまいますわ!?
「無理は承知で頼む…と、言いたかったのだが…時間切れのようだ」
このような地獄をさっさと終わりにしたかったというのも本心だったと思うのですが、信頼も信用もしているリッテンベルン宰相が「諦めない」と言っているのなら信じてみようといった感じなのかもしれません。
「安易な選択肢に逃げた責任は取るし、これ以上悲劇が生まれないように努力はする…が、まずはこの場を治めなければいけないようだ」
しかも私のジャッジメント・ディザスターやゼブルスが顕現した影響が出ているのか地上側が騒がしくなっていますし……これだけ大穴が開いていると遮蔽効果も失っているのか誰かが事態の収拾に向かわなければややこしい事態に発展してしまいそうですわ。
そうして不安が広がれば広がるほどゼブルスの暗躍を許してしまう事になりかねませんし……半封印状態のゼブルスがどのような方法で地上の様子を窺っているのかはわかりませんが、何かしらの影響を受け続けている彼女達には誤魔化す方法があるのかもしれません。
「意識が残っている間に何とかしておいた方がいいのだろう…こちらの事は頼む、わかっているとは思うが…くれぐれも私なんかの為に無茶はしないで欲しい」
「………」
近づいて来ている気配の中にはアンジェリカやノアさんのものもあったのですが、帝都の奥深くで騒ぎを起こしたら大変な事になりますし……このままミレーヌさん達と戦ってもいいものかと考えてしまった私は黙って見送る事しかできませんでした。
とにかくリッテンベルン宰相が恭しく取り出したマントを羽織ったミレーヌさんが集まって来ている野次馬達を抑える為に出て行く事になったのですが、半壊した怪しげな地下室で血走った目をギョロリとさせているリッテンベルン宰相と一緒に取り残されるのだけは避けたかったですわ。
「えっと、私はこの後どうなり…あっ、ふ、あ…ん!?」
「安心して…貴女はミレーヌを治すための実験材料になるだけだから…絶対に、わたしがミレーヌを助けるから!」
あまり愉快な事にはならなさそうだったのですが、リッテンベルン宰相がいきなり湿り気を帯びた割れ目を指先で撫で上げてきまして……。
(聖氣が吸い取られて…はっあ゙っ、ん、くっ…ゔ!?それ、は…ぁん、こちらは、こちら…で、碌でも…無い事に、なりそうですわ)
どこか平衡感覚を失ったような笑みを浮かべているリッテンベルン宰相が怖すぎるのですが、ウゾウゾと絡まりついて来る肉塊の感触にゾワゾワと鳥肌が立ってしまい……四肢を絡め取られたままドロドロの粘液を割れ目に擦り付けられていると腰が浮いてしまいました。
※アリシアの受難は偶数日更新の為、次回の投稿は4月2日の19時50分となります。そろそろ最終決戦に入るのですが、応援の為に良いねや☆をポチっとしてくれると猫が小躍りいたします。




