56:虚腔の大穴と分断ですわ
網の目のように張り巡らされている地下道の奥深く、私の視線は得体の知れないチューブ付きの大穴に奪われていたのですが……呆けている場合ではないのでしっかりしないといけませんわ。
「すみません、あまりの悍ましさに気を取られていたようですわ」
「いえ、お気持ちはわかります…私も寒気が止まりませんし…なんなのでしょう、あの穴は?」
「わかりません…が、何とかしないといけないという事だけはわかっていますわ、この場合は…チューブを斬っていけば良いのでしょうか?」
大穴が脅威であるという事は理解していたのですが、どうしたらいいのかという事がわからなくて……とりあえず伸びているチューブを切断していったら良いのでしょうか?
「そう…ですね、引き剥がしたら吸収も止まると思いますし…少々お待ちを、防具を身につけ直しておきますので」
「わかりま…って、あれを…不味い予感がしますわ!?」
本格的な戦闘があるのならと収納魔法から防具を取り出そうとしていたアンジェリカなのですが、コッソリと発動させていた魔法に反応してしまったのか灰色の肉人形を食べていた大穴がピタリと動きを止めてしまい……。
「危な…ひっ!?」
勢いよく伸びて来たチューブの束を聖氣の盾で防ごうとしたのですが、エネルギーが吸収され続けているので上手く生成する事が出来なくて……アンジェリカの収納魔法も発動していないようですし、大穴の近くだと魔法が使えなくなっているのかもしれません。
「私の後ろへ!」
なのでランプデトネイターを構えなおしたアンジェリカが咄嗟に庇ってくれたのですが、魔力が吸われ続けているせいで踏ん張りがきかず……一緒に弾き飛ばされてゴロゴロと転がってしまったのですが、手に持っている武器で自傷しないようにするので精一杯ですわ!
(不味い…ですわ、こんな状態なのに肉人形が…っ!?)
ぼんやりとしていた灰色の肉人形達の瞳が赤黒く輝き始めておりまして、不気味な呻き声を上げながら津波のように押し寄せて来ているというのはなかなかホラーチックな光景ですわ。
「ご無事ですか!?」
「私は大丈夫…です…が、穴が…穴が逃げて行きますわ!?」
なんとか体勢を立て直した私達は押し寄せて来ている肉人形達を撃退していたのですが、空中に開いていた大穴が周囲のチューブを引き千切りながら縮むように消えていきまして……たぶんマナを集めるのがお仕事なので最低限の防衛行動以外はおこなわないようになっているのかもしれませんが、だからといってようやく見つけた怪しげな異変が消えていってしまった事に驚いてしまいました。
「くっ、追いかけ…いえ、どうやら周囲一帯の肉人形達に指示を出していったようですね、こちらに向かって来ているような気配が…まずは目の前の問題から片付けていく事にしましょう」
「仕方がありませんわ、囲まれてしまう前に蹴散らしますわよ!」
不幸中の幸いと言うべきなのかもしれませんが、大穴が消えた事で魔法が使えるようになっておりまして……このまま囲まれてしまったら不味いとジャッジメント・ディザスターでワラワラと押し寄せて来ていた肉人形達を吹き飛ばしておくのですが、四方八方から襲い掛かって来ているので焼け石に水すぎますわ。
「本当にワラワラと…キリがありませんわ!それに…何ですか、このドロドロが…気持ちが悪い…は…ぁああぁっ、這いずり回るのは…んっ、よしてください」
媚毒と瘴気漬けの探索だったので体力が大幅に削られていますし、大穴の残り香のようなヌメリが絡みついてきまして……。
「OoooOOxxx…!!」
そんな状況で吹き飛ばした肉片同士がくっ付き一つの肉団子になりまして、巨大灰色肉人形が両腕を振り上げていたのですが……こういう場面での巨大化はただただ鬱陶しいので止めて欲しいですわ。
(蹴散らしても染み出すように出てきますし…流石に数が多すぎますわ!)
通路を埋め尽くすような肉人形に気が取られている間に巨大な肉人形が拳を振り下ろしてくるのですが、左右に分かれるように避けたらアンジェリカとも分断されてしまい……灰色の肉人形達がワラワラと押し寄せて来るので合流もままなりませんし、このままではただのジリ貧になってしまいますわ。
「アリシア!」
「しまっ…!?」
そのような消耗戦に注意力が散漫になっていたのですが、一瞬の隙を突かれて組み付かれたかと思うと引きずり倒されてしまい……抜け出そうと藻掻いていたら1体2体と肉人形達が圧し掛かって来たのですが、その重さが増える度に私の身体がズブズブと沈んでいきました。
(地面に…穴!?じゃ、なくて…ブヨブヨとした通路が動いておりますの!?)
状況がわからずパニくりかけてしまったのですが、どうやら地面に擬態していた肉壁にめり込んでいっているようでして……。
(脱出、しないと…いけない…の、です、が…こいつら…ブヨブヨしていて、生臭いで…すぃッ!?はぁっ、あっ、そんな所を、弄っては…駄ッ!?)
藻掻けば藻掻くほど肉人形達が押さえ込もうとブヨブヨとした手でまさぐってきますし、弱点ある乳首を摘ままれただけで頭の中が真っ白になってしまい……こうなって来ると反撃どころの騒ぎではありませんわ。
「やめ…っ、ふぁああっ!?ひぃんっ、んんっ、奥まで…はいっ…て!?ヌルヌルしながら、奥をズボズボするのは…はっ、あ…駄目っ、駄目、です…わぁあっ!?」
そうして容赦なく捩じり込まれた肉棒がぐちゅぐちゅと動いて聖氣を奪い取っていくのですが、ドロドロとした媚毒を吐き出されると下腹部が蕩けたように熱くなってしまい……。
(いっ…た、いき、ました…のにっ、どうい…んッ!?っ、くぅ…!?)
上手さも思いやりも無い緩慢な動きに追い詰められていくのですが、1体目が終わると2体目の挿入が始まってしまい……ドロリとした媚毒が吐き出される度にお腹が膨らんでいくのですが、まるで無理矢理孕ませようとしているような動きに本能的な恐怖が浮かんで身体が竦んでしまいます。
『ああもう、世話が焼けるっすね!アリシアがやられたら僕まで気持ちよくなってしまうんっすよ!?』
肉人形達に揉みくちゃにされながら中出しが続いていたのですが、意識が混ざり合うと気持ちが悪くなるからという理由で必要最低限のコミュニケーションに終始していたノアさんが見かねたように助けてくれまして……ブワリと広がった影が絡まりついていた肉人形達を弾き飛ばしてくれました。
「けほっ、はっ、た、助かりましたわ…ありが…けほっ、とう、ござい…ます」
そうして埋もれていた天井から落ちて来た私達は一つ下の階層に落下して来まして……下の階層があった事にも驚きですし、アンジェリカと分断されてしまったり土地勘がまったく役に立たなくなってしまったりしていたのですが、とにかくノアさんのおかげで窮地を脱する事が出来ました。
「っとうに…一気に…来て…って、安心するのはまだ早いっすよ、一緒に落ちて来た肉人形達が起き上がるっす!」
マントのように広がった影から押し殺したようなノアさんの声が聞こえて来るのですが、快堕の獄牢内では維持が難しいのか端の方からホロホロと崩れていきまして……私も絶頂の余韻で足元がフラついていましたし、地下道に入った辺りから続いている媚毒や瘴気の影響も馬鹿にする事が出来なくなっていたのですが、こんな所で挫けている訳にはいかないと震える手でインペールを掴みました。
「わかって…いますわ!」
一緒に落下して来た肉人形達を倒さなければ無慈悲な種付けプレスが待っていると気力を振り絞るのですが……。
(沢山出されたからなのか…お腹が重いですわ)
ノアさんに防御を任せながら肉人形を捌いていくのですが、目に見えて膨らんでいるお腹に吐き気にも近い悪寒が広がっていきまして……悍ましい不快感のせいで気持ちと身体が重くて剣先が鈍るのですが、それが余計に焦燥感を掻き立てて動きが鈍ってしまいます。
(本当に…碌でもない相手…でっ!?)
たぶん灰色の肉人形達は不幸な犠牲者から生み出された存在なのだと思いますし、積極的に中出しをしてくるのは対象を孕ませて大穴に捧げる生贄を増やさなければいけないという彼らなりの行動原理に基づいた動きなのかもしれませんが、狙われている私達からしたらただただ嫌らしい相手なだけですわ。
「とっ、はっ、はー…これ、で…最後、ですわ!ノアさんも…ありがとうございます」
度重なる妨害や吸収攻撃の影響で今にもへたり込みそうになっていたのですが、それでもノアさんのおかげで蹴散らす事が出来まして……排出用の魔法を使えばドロドロとした体液を出し切る事が出来たのですが、本当に女性の敵のような魔物ですわ。
「その…お礼なんて、と、いうか…僕もこんな事になっているっていうのは知らなくて…資料だと魔物の死骸を埋めている共同墓地みたいな扱いで…瘴気が漏れているかいないかの確認だけをしている場所っていう事になっていたんっすよ?」
「わかって…いますわ、たぶん奇妙な改造を施すにあたって資料の改竄をしたり人払いをしたのだと思いますし…ノアさんのせいではありませんわ」
結果的にこうなってしまったと言いますか、嘘偽りがない事は繋がっている私が一番よくわかっていますし……奇妙な大穴を発見できたのは聖勇者的には一歩前進なので結果的には良かったのかもしれません。
「それで、少し休憩をって言ってあげたいんっすけど…新手っすね」
続いて行く連戦に体力と集中力が削られていくのですが、この地下道を管理している大穴の命令で次から次へと魔物達が襲い掛かって来ているようですし……。
「そう、ですか…仕方がありませんわ、なんとかこのピンチを切り抜けて…アンジェリカとの合流を目指しますわよ!」
地下1階より地下2階の方が媚毒や瘴気の濃度が濃いのか身体が火照ってしまいますし、肉壁が蠢きながら触手を伸ばしてきているので身嗜みを整えている暇もないのですが、それでも頑張るしかないと武器を掲げて気合を入れ直しておきました。




