50:ドラゴンゾンビの末路と暗殺者の事情ですわ
「ぐぉおおお、こんなバカげたコウゲキにやぶれぇええええッ!?」
ルル結晶付きの双頭デ〇ドルが放つ聖なる波動でドラゴンゾンビの下半身が吹き飛び引き千切れていくのですが、私は消滅していく肉片を見ながら震えていまして……こんなにも危険すぎる物を使わせようとしていたルルさんが恐ろしすぎますわ!
(とか考えている場合でもないのですが)
拘束が解けたのは良い事なのですが、聖氣不足で自由落下しておりまして……反動で双頭デ〇ドルも壊れてしまったのでバフをかける事も出来ませんし、こんな状態で地面に激突したらそれ相応のダメージを受けてしまいそうなのですが、絶頂の余韻が抜けきっていないのでまったく力が入らず動く事すらままならないのですよね。
「くっ…っとう、に…大丈夫、ですかっ!?」
なので地面に激突する事を覚悟していたのですが、寸前でアンジェリカが受け止めてくれまして……こんな状態で抱きしめられると別の意味で大変な事になってしまいそうですわ。
「大…丈夫、とは言い難いですが、とにかく無事ですわ」
物凄くドキドキしていたり愛液とか聖乳がたらたらと垂れてきてしまっていたりでアンジェリカの顔を直視できないのですが、今は恥ずかしがっている場合でもございませんし……とかいう事より今更ながら恥ずかしい光景がフラッシュバックして来て顔から火を噴きそうだったのですが、レーザーで倒れている人達の方が多かったというのが不幸中の幸いだったと考えるべきなのかもしれません。
(そういう訳にはいかないのですが…女は度胸、気にしていても始まりませんわ!)
愛の無いレイプは駄目みたいな風潮があるので一概にはいえないのですが、こちらの世界ではああいう行為が神聖視されているので大丈夫だったという事にしまして……なんていう精一杯のやせ我慢で何食わぬ顔をしておくのですが、そういう事にしておかないと恥ずかしすぎてここから消えたくなってしまいますわ!
「ご無事で何よりです、本当にいつもいつも無茶ばかりして…」
「すみません、でも…アレをなんとかしませんと」
私達の視線の先ではドラゴンゾンビの上半身部分がしぶとく藻掻いていますし……まだまだ暴れ足りないと言いたげなドラゴンゾンビの肉塊と違って引き千切れた時に離れた黄色い結晶が地脈にめり込み大爆発を起こそうとしていたのですが、ドラゴンゾンビの意識と結晶の機能は別物だったという事なのでしょうか?
「アリシア、立てますか?」
「は…はい、いえ、すみません…力が入らなくて…もう少しこのままでもよろしくて?」
嘘では無かったのですが、アンジェリカの温もりをもう少しだけ感じていたくて……ぎゅーっと抱き着くとアンジェリカも「仕方がないですね」みたいに笑いながらインペールが突き刺さったままのドラゴンゾンビの肉塊に近づき止めを刺し……。
「はっ、そのテイド…チミャクとのツナがりもソがれ、チカラのダイブブンをウシなったとはいえ…ただのニンゲンごときにヤブれるワレではないわ!」
黄色い結晶と切り離されているドラゴンゾンビの方には大した力が残っていなかったのですが、振るったアンジェリカの剣が弾かれてしまい……腐ってもドラゴンゾンビと言いますか、邪竜の因子を引いているだけの事はありますわ。
「出来たら私の手でこの世から消滅させたいのですが…申し訳ありません、アリシアの力を借りないといけないようです」
「ええ…わかっていますわ」
「はは、そうだ、ワレがやぶれるとすればメガミの…ワスれぬぞ、ここまでコケにしてくれたコトはけっしてワスれぬからなぁああああ!!」
ここまで弱っていてもアンジェリカの攻撃ではゼブルス擬きにはダメージを与える事が出来なくて……武器を回収してくれたアンジェリカの手を借りながらブヨブヨと再生しようとしていたドラゴンゾンビに止めを刺しておいたのですが、刃を入れた瞬間に纏わりついて来ていた嫌らしい気配が雲散霧消しその肉体が消滅していきました。
「さて、後は結晶の方ですが…」
肉塊の方はなんとかなったのですが、制御装置であったドラゴンゾンビが居なくなった事で無尽蔵にエネルギーを吸収し続ける結晶が残ってしまい……。
「どう…しましょう?ここから運び出す事も出来なさそうですし」
賢者タイムとは違うのですが、ここまで来たらどうしようもないという諦めにも似た心境でして……地面に激突した時のダメージでヒビが入っていますし、そこから猛烈な勢いでエネルギーが噴出しているのでちょっとした衝撃で爆発してしまいそうですわ。
「確かに…無理に引き剥がしたら爆発しそうですね」
因みにルルさんやドワーフさん達に伝えようと思っていた避難勧告なのですが、途中で出会ったドワーフさん達に伝言を頼んだ段階でして……まだまだ時間がかかりそうなのでこの結晶をなんとかしないといけないのだそうです。
(ジャッジメント・ディザスターを放つだけの聖氣もありませんし、いったいどうすればいいのでしょう?)
なんて事を考えているとアンジェリカが剣を振るっていたのですが、キンッという音と共に奇襲を仕掛けて来たノアさんが後ろに跳びました。
「逃げ出さなかったのは良い心がけだと思いますが…出し切った後だと勝てると思いましたか?」
てっきりリッテンベルン宰相と一緒に逃げ出したと思っていたのですが、泣き笑いのような表情を浮かべるノアさんが残骸の上に降り立ち溜め息を吐いてみせました。
「そういう訳でもないんっすけど、僕にも役割という物がありまして…に、しても…度し難いっすね、何でそこまで必死になっているんっすか?どうせあのゼブルス狂いの凶信者が欠片を回収して来て邪竜の復活っすよ?今倒したような出来損ないとは違う本物の化け物に蹂躙されるだけだっていうのに」
ノアさんは「頑張っても無駄なのに」と言いたげに大鎌を向けて来たのですが、相変わらずわかり切っている事を聞いて来る困ったちゃんですわ。
「後々大変な事になるからといって目の前で苦しんでいる人達を助けないという理由にはなりませんわ…それと質問に質問を返すようで心苦しいのですが、ノアさんこそなぜそこまでリッテンベルン宰相の命令を律儀に守っているのですか?どう考えても女帝達のやろうとしている事は悪と断じられる事なのに…その考えに乗っかっている貴女達の考えがわかりませんわ」
面倒臭がりなノアさんなら真っ先に逃げ出しそうなものなのに、こうして留まり私達の妨害をしてくる方がおかしすぎます。
「まあ、こうもあっさりと切り捨てられるとは思っていなかったんっすけど、碌でもない事をしているっていうのは承知の上ですし…こちらにはこちらの事情があるんっすよ…っていう事で、あー…訊かれる前に言っておきますが、僕は雇われの身なんで詳しい事情を訊き出そうとしても無駄っすよ?まあ…その代わりといっちゃあなんですが、僕の身の上話くらいならしてあげますよ」
今にも爆発しそうな結晶をチラ見していたノアさんが大鎌を肩に担ぎながら降りて来たのですが、十中八九爆発までの時間稼ぎでして……私達は私達で皆が逃げ出す時間を稼がないといけないので好都合ですわ。
(結晶を狙われても厄介な事になりますし…それともチャージが進む前にさっさと爆発させておいた方がよかったのでしょうか?)
その辺りの判断がつかなさすぎて考え込んでしまったのですが、今はノアさんの話を聞いてみる事にしましょう。
「そうっすね~…っていっても、いちいち身の上話をした事がなかったのでどこから話せばいいのかわからないんっすけど、僕ってこう見えても…幽霊なんですよ」
サラっと自分の正体をバラしながら溶けるように消えてみせたのですが、リッテンベルン宰相が手駒を増やす為に作り出した存在というのがノアさんなのだそうです。
「冗談…という訳ではありませんのよね?」
あまりにもあっさりと教えてくれた事実に驚いてしまったのですが、ようするにドラゴンゾンビの幽霊版という感じでして……ゾンビや魔物もいるので幽霊が居てもおかしくはないのですが、本人の口からその事を教えられるとビックリしてしまいますわ。
「流石にこんな時に冗談は言わないっすよ?まあ…ここまで流暢に喋ったり意識を保っていたりするのは僕くらいなもんですけど」
なんて自慢げに喋っていたのですが、ノアさんは魂の核となる触媒をリッテンベルン宰相に握られているので逆らう事ができないのだそうです。
「最初の内は何とか奪い返せないかって頑張っていたんっすけどね、幽霊が通れない結界が張られていまして…まあ召喚した存在に出し抜かれないようにっていう最低限のセーフティーネットなんすけど、生殺与奪の件を握られている哀れな僕は反論すら許されずにこき使われ続ける事になりましたっていう感じっすね」
「貴女は…それで良いのですか?」
「良いも悪いも…制約で人形に…ああ、触媒が人形に埋め込まれているんっすけど、触れられないように出来ているんでどうする事もできませんし…そんな感じで嫌々働いていたんっすけど、それが鬱陶しくなったのかただの在庫処分なのか…一度吹き飛ばして新しい命でも作りなおすんじゃないっすか?まあ…操り人形の最後はこんなもんっすよ」
そういう事情で使役されているからなのか、常にやる気の態度で最低限の仕事をこなすだけで……。
「言ったっすよね?相反する人間が戦う事になったらどうするのかって…僕はあのいけ好かない女に命を握られているんっすよ、だから「見届けろ」って言われたら見届けるしかないんっすよ、何があっても、死ぬとわかっていても…だから僕とアリシア達とは敵同士なんです」
言いながら大鎌を構えなおすノアさんなのですが、私にはなぜそこまで悲痛そうな顔をしているのかがわかりませんわ。
「なんだ、そんな事でしたの」
「そんな事!?そりゃあ一度死んでいるから蘇っている方が不自然っすけど、それでも死にたくないんっすよ!?お前にはわかりやがりますか、他人の気まぐれで消されてしまうような不安定な状態の恐怖が!?寝て起きたらとかの問題じゃない、それこそいきなり存在が消えてしまうんじゃないかっていう恐怖に曝され続けている日々の辛さがっ!?」
私の何気ない一言がノアさんの逆鱗に触れてしまったのですが、私の言いたい事はそういう事ではありませんわ。
「別に馬鹿にした訳ではなくて…要するにその魂の核が封じ込まれているという人形を何とかすればよろしいのでしょ?」
ノアさんが触れられないようになっているといってもリッテンベルン宰相が何かしらの細工をする時や手入れをしなければいけない時もある筈で、誰でも彼でも絶対に触れられないという訳でもないのでしょう。
(はぐらかされてしまったリッテンベルン宰相を問い詰める必要もありますし、こうなってきたら一石二鳥ですわ)
ファーストコンタクトには失敗してしまったのですが、生き延びる事が出来たらお話ししましょうと言ってくれていましたし……そう考えると何とかいけるような気がしてきましたわ!
「そりゃあ…理屈の上ではそうなのかもしれないっすけど、安置されている場所が帝都にある宰相の部屋ですし、そんな場所に押し入るっていうのは帝国に反逆を…って、まさか?」
なんて事を考えておりますと、目を瞠ったノアさんが信じられない馬鹿を見るような目で見つめ返して来るのですが……私は自信満々に胸を張りながら頷いてあげました。
「勿論、事情を知ったからには力を貸しますわ…アンもそれでよくて?」
「止めても…無駄、なのですよね?わかりました、アリシアの思うがままに…と、言いたいのですが、そいつを何とかする前にあの結晶をなんとかしませんと」
言いながらリッテンベルン宰相が残していった結晶に視線を向けるのですが、これが大爆発したらノアさんを助けるどころの話ではないですし……頑張って爆弾の解除をしなければいけない理由が増えてしまいましたわ。
「うわぁ~底抜けの馬鹿が居る…本当に、馬鹿っすね…一応僕達は敵同士なんっすよ?」
前向きな私達に対して心底嫌そうに顔を顰めるノアさんなのですが、自分が抱えている問題を吐き出せたからなのか少しだけ表情が優しくなっておりまして……。
「あら、私も最初に会った時に言いましたよね?私が大丈夫と言ったら大丈夫って…ノアさんなら楽観的過ぎるって思われるのかもしれませんが、初めて会った時より確実に仲良くなれているのが証拠ですし、敵だったとしてもこれから仲良くなっていけば良いだけですわ」
立場やしがらみが増えて来るとややこしい問題が増えて来るのですが、個人的なレベルだったら何とかなる事が多いですし……ノアさんの事や色々な問題も笑いあえているのできっと多分大丈夫ですわ。




