35:エルフの王宮と女王陛下ですわ
原初の木が動いた事でちょっとした騒ぎになっていましたし、モゾモゾされたり驚きすぎたせいで少しだけ漏らしてしまったような気がするのですが、これはもう火照って汗をかいているのだと言い聞かせる事にしまして……なんて事が出来なくて頭が沸騰してしまうくらいに恥ずかしかったのですが、ああもういったいどうやって誤魔化したらいいのでしょう!?
(だからといってここで変な動きをしても目立つだけですし、何食わぬ顔をしなければいけないのですが…難易度が高すぎますわ!?)
聖衣には耐水系の魔法が施されているので意外と目立っていないような気もしますし、こういう格好もごくごく普通にあり得る世界なのだと言い聞かせながら魔法による持ち物検査を受けたり武器を預けたりしながらどのように誤魔化そうとかと考えておりますと、親書を届けてくれたマリーちゃんが洞にはめ込まれている巨大な扉……素材は高級そうな木材を魔法で強化しているという代物だったのですが、そんな大きな扉を開けて出てきました。
「やっほ~アリシア達が来てるって聞いたんだけど、ようやくお目覚めのようねー…っていうか何か凄い騒ぎになっているみたいだけど、何かあったの?」
「ま、まあ、色々ありまして…それより親書の件、ありがとうございますですわ」
「ですね、おかげでアリシアの看病に集中する事ができましたし…感謝いたします」
長々と説明していたら気づかれてしまうような気がしましたし、スススと近づいて来たアンジェリカが庇うような立ち位置についてくれたのですが、緊張のしすぎで頭の中がグワングワンと揺れてきてしまいますわ。
「いいのいいの、私達も助けられたし~…なんていう事よりアリシアの顔が赤いけど…本当に大丈夫なの?なんだったら別の日にしてくれるように言って来てあげようか?」
それでも不自然さはぬぐえませんでしたし、心配性なマリーちゃんが気にかけてくれておりまして……スィーと近づいて来られると嫌な汗がダラダラと流れてしまいました。
「そ、その…これはやむにやまれぬ事情があったといいますか、貴女達のお仲間がしっちゃかめっちゃかにしていったといいますか…と、とにかく火照って汗をかいているだけなのでおきになさらずですわ!」
「ふ~ん、まあ、そういう事にしておくけど…あ、そうだ、セラフィーヌ様とのお話の後に頼みたい事があるんだけど~…いいかな?」
なんて私達の周りを飛び回っているマリーちゃんが訊いて来たのですが、そんなに近づかれたら臭いで気づかれてしまうのではないかと思ってドキドキしてしまいますし、会話がスレスレすぎて気付かれているのか気付かれていないのかがわかりませんわ!
「わかりました、わかりましたから…と、とにかく離れてください!」
「ありがと~いや~森の外が安全じゃないってなると蜜が足りなくてね~このままじゃあ餓死する子達も出て来るかもって心配していたのよ…何でだろうね?本当ならこんなにマナが少なくなる事ってないんだけど…アリシアのおっぱいがあったら皆も助かるわ」
とか言っていたのですが、どうやら他の妖精に配る為の聖乳を搾りに来たようで……。
「ああ、なるほど…了解ですわ」
「やった、そうと決まったらさっさとセラフィーヌ様の所に案内してあげるわ!」
なんていう会話をしながら私達はごくごく自然な流れで王宮に入って行こうとしたのですが、今まで集まって来ていた人達の対応をしていたヘルムートさんに止められてしまいました。
「待て待て勝手に行こうとするな!まずは…いや、こうなったらいっその事セラフィーヌ様の判断を仰ぐべきか?」
流石に原初の木にまつわる騒ぎを放置する事が出来ないと言っているヘルムートさんなのですが、やっぱり考え直して先に報告する事を選択したのかもしれません。
「いいか、まず私がご報告をしてくるからお前達は準備が整うまでこの場で待機をしておくんだ!いいな?勝手な事をするんじゃないぞ?」
そうして念には念を押しながらこの場で待つように命じて来るのですが、鬱陶し気な様子を見せているマリーちゃんは聞く耳を持たずという感じで眉を顰めていました。
「もう!いくら小さい耳だからって…そんなふうに怒鳴らなくても聞こえているって!ゴチャゴチャ言う前に行って来たら?」
「くっ、っとうに妖精は気楽に言ってくれる…とにかく大人しく待っているんだぞ!!」
なんて捨て台詞を残しながら報告に走ったヘルムートさんに対してマリーちゃんが舌を出しておりまして……。
「べーっだ、じゃあ…あの偏屈も行っちゃったし、私達も行こっか」
「あの、それは…おもいっきり指示を無視する事になりますが…いいのでしょうか?」
一応案内役のヘルムートさんが待っているようにと言っていた訳ですし、勝手に入っちゃっても良いものなのでしょうか?
「さあ?でもセラフィーヌ様が呼んでもいるし…こういう場合はどうなるのかしら?」
なんてマリーちゃんが護送の人達に聞いていたのですが、他の人達も判断がつかないという感じで……。
「我が思うに、ここに居ても騒ぎになりそうだし…中に入るだけ入らないか?」
原初の木が動いたという事で根元の辺りでは人だかりが出来ていますし、レスリーナちゃんの言う通り扉の前の広場からは移動をしておいた方がいいのかもしれません。
「そう、ね…こんな所でアリシア達を待たせていても仕方が無いし…って事で、入っちゃおうか?」
とかいう感じで私達はエルフの王宮に足を踏み入れたのですが、洞に取りつけられている魔法の扉を開けたらちょっとしたドーム球場くらいの空間が広がっておりまして……しかも魔法で気温が調整されているので過ごしやすい室温が保たれていますし、灯となる器具が無いのにほんわか明るかったりと驚かされる事ばかりですわ。
「こっちよ!」
私達は元気よく飛び回るマリーちゃんの後を追って王宮内を進む事になったのですが、内装としては木の内部をくり抜いて彫刻を施したといった感じでして……壁にかけられているタペストリーは繊細ながらもごくごく普通の物なのですが、床に敷かれている絨毯はブヨゴツとした保護膜っぽい感触がいたしまして、至る所に木材を傷つけない為の工夫が施されているのが木と共生しているエルフ達の王宮らしいといえばらしいのかもしれません。
(そういえば…ゴロさんとシンデさんとは合流しないのですね)
ワンチャン現地集合かと思っていたのですが、そろそろ謁見というタイミングでもお2人の姿が見えなくて……なんて事を考えてはいたのですが、いたらいたらでややこしい事になりそうですし、騒ぎになるだけなので2人の事は一旦横に置いておく事にしましょう。
「で~ここがセラフィーヌ様が居る謁見の間よ!」
「え、ちょっと…それは!?」
控室みたいな場所に案内されるのかと思っていたのですが、マリーちゃんが両脇に衛兵が立っている扉を勢いよくバーンと開けると体育館くらいの広さがある謁見の間に続いていまして……いきなりやって来た私達に対して皆が驚いていましたし、段差の向こう側といいますか、左右のカーテンで仕切る事が出来る壇上の上に置かれている椅子に座っている女王陛下とその前に片膝をついて報告をしているヘルムートさんが驚いたような顔をしながら振り返っていました。
「お前達…あれ程待っていろと!」
「も、申し訳ありません…マリエラ教のアンジェリカ・ルヴァニスと申します、本日はベルザに拠点をおくヴァーナルからの親書についてとこちらのガルガナーク嬢に関する獣人達の問題について拝謁を賜りたく…謹んでお願いを申し上げる次第でございます」
「アリシア・W・神楽坂ですわ、本日はお時間をいただき…突然の来訪を快く迎え入れてくれてありがとうございます」
いくら何でも失礼すぎると手を組み片膝をつくアンジェリカが悪びれずにフヨフヨと浮いているマリーちゃんを見ていましたし、私も慌てて作り笑いを浮かべながらアンジェリカのマネをするのですが……流石に順序を飛ばし過ぎたので礼儀作法もなにもあったものではありませんわ!
「構いません、それで…原初の木が招き入れた女性というのはこの方達ですか?反乱軍を率いている者からは聖勇者であるとの報告もありますが」
そうして聖氣が溢れすぎて後光がさしているおっぱいも身長も大きな女性、透き通るようなホワイトブロンドと常に微笑んでいるような雰囲気を持つ美女がおっとりと話しかけてきたのですが……この人がエルフの女王であらせられるというセラフィーヌ様なのでしょうか?
「はっ!聖勇者であるかは不明ですが…動いたのは私めの目でも確認をいたしました!」
どうやらヴォッサム将軍が聖勇者の事を親書にしたためていたようなのですが、それより私はセラフィーヌ様の服装の方に目がいってしまい……一応という感じでシースルーのマントを羽織っていますし王冠代わりの華奢なティアラを被っていたのですが、魔法的に加工された葉っぱやら木細工の装飾品を身に着けているだけというほぼほぼ全裸という姿に度肝を抜かれる事になりました。
(これはこれで…凄い恰好ですわ)
自然体でいる事こそが至上という考えなのかもしれませんが、恥ずかしがる様子もなく鷹揚と椅子に座っているので超自然的な印象を受けてしまいますわ。
「ねえ、お話をする前に…もう少し近づいて来てもらってもいいかしら?最近は動くのが億劫で…声を張るのも大変なの」
「え~っと、はい」
なんてあまりにも怠惰な発言をするセラフィーヌ様なのですが、控えているヘルムートさんが頷いているのを確認したりアンジェリカやレスリーナちゃんと目配せをしてから手招きをされるままに近づいて行くのですが、部屋の中央辺りで止まると「もっとこっちに」と言われてしまいますし、段差の前で止まったり段差の上で止まったりしても「もっと近くに」と手招きをされてしまい……。
「確かに女神の聖氣ね…でもなぜこのタイミングなのかしら?」
最終的にはぼんやりとした眠そうな視線を向けられながらぺたぺたと顔を触られたり色々と調べられたりする事になったのですが、何かもう距離感がわかりづらすぎる人ですわ!
「あの、神躯の影響で敏感になっておりま…ひゅん!?」
「ココが敏感なのね、それにこれは…聖乳ね」
確かめるように敏感すぎる場所をクニュクニュと摘ままれたら腰が抜けそうになるのですが、セラフィーヌ様は噴き出た聖乳をペロリと舐めながら「ふむり」と頷き1人で勝手に納得をしているようで……。
「ああ、ごめんなさい…なんだったら貴女も私のを吸ってみますか?もしかしたら出るかもしれませんし」
なんて雨宮さんとは別の意味で可笑しな母性を爆発させている人だったのですが、胸をドーンと突き出されても「じゃあ頂きます」とはなりませんわ。
「あの、セラフィーヌ様…客人に対してそのようなお戯れは…困っておいでですので」
「そう?そうね…そんな事をしている場合ではないのかもしれないわね…まあ、いいわ、聖勇者の件は後々聞くとして…まずはワームトレントの討伐のお力添え、感謝いたします」
そうして私達がどこかズレたやり取りをしておりますと、セラフィーヌ様の奇行に対する耐性を持っているるヘルムートさんが顔を赤くしながらも仲裁に入ってくれまして……この時ほどヘルムートさんが頼りになると思った事はありませんし、事務的な話に切り替わった事でようやくまともな会話が出来そうだと胸をなでおろす事になりました。
※多少変な格好でも許される国、それがエルフの隠れ里だったりします。




