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3話 新しい背嚢 前編

3話 新しい背嚢 前編


「駄目!」


「なんでさ」


「危ないことするんでしょ?じゃあ駄目!」


「でもぉ」


「駄目なものは駄目!」


かねてより背嚢が小さい問題があったので朝の食事の席で母に相談したところ聞く耳を持たなかった。


話を聞きたく無いと言わんばかりに早々に朝食を食べ俺の元から立ち去ってしまった。


「とーちゃ」


「諦めろ」


一部始終を眺めていた父に呼びかけるも一顧だにせず会話を終わらせる。


そんな父も居た堪れなくなったのかチャッチャカと朝食をかき込んで食卓からいなくなった。


「はぁ」


「「はぁ…」」


俺のため息を真似する妹達がうざくなり一切れ残していたベーコンを口に放り込み席を離れる。


玄関に行き、物入れに入れている冒険セットを取り出す。


俺が冒険セットと呼んでいる背嚢・竹製水筒・ナタの整備をしてから全てを装着し家を出る。


今日も今日とて、俺は森へと行く。


この世界は日本にいた頃と同じ様な時間スタイルをしている。

7日間を一括りとして4回、その後3日間の休息日で1ヶ月となる。

どこで休もうが構わないが祝日の様な扱いが4週後の3日間なのだ。

それが12サイクルで1年。


さらに時間も時計がないので正確には分からないが、以前村に来た行商人が持っていた時計には1〜12の数字が入っていたので24時間っぽい。


俺は基本的に一週間のうち5〜6日は森に行っている。

村にいてもする事がないし、森に行がなければ食事に華が無くなるのだ。

だからほぼ毎日森に行っている。


肉を確保する事が1番だが、怪我をしない様に工夫する必要があるので肉を断念することもしばしばある。


それだからほぼ毎日通っても肉を持って帰れるのは1〜2回程度になってしまう。


そうなると俺の家だけなら大丈夫なのだが、近所付き合いもあるらしく肉の数が少なくなる。


だからより多くの収穫物を獲得するために背嚢の拡張が必要なのだが、肉になる前の生物状態が嫌いな母は買ってくれないのだ。


プラスで危険なことに遭ってほしくないという思いもあるのだろうが。


竹製水筒から水を飲みながら森を歩く。


竹は森の中にそれなりの数生えている。

ラフレシアみたいな臭う花から、白熊の様な大物がいる森なのだが、植生が摩訶不思議な事になっている。


まぁそれも何年も森に入っていれば日常の一風景なので気にしない事にしている。


因みに竹製水筒は自作だ。


そこそこ硬いから壊れ辛いし、加工がし易かったから作ってみたが今では愛用している。


「む?」


獣道を歩きながらふと木の幹に視線を向ける。


(マーキングっぽいな…【気配感知】)


木の幹には大型犬程度の生物が爪で抉った様な傷跡が残されていた。


狩人のロブ爺から聞いたことのある熊や犬の習性に当てはまるものがあったのでスキル【気配感知】を使った。


(遠くに4匹…大きさがほぼ変わらないから犬かな?)


俺から犬っぽい何かとの距離はおよそ100m。

【気配感知】の範囲ギリギリにいた。

4匹の気配の大きさがほぼ同じだった事から犬の可能性が高い。

熊だったら2匹が大きく、2匹が小さいとかになる。


(おそらく群れ…、いけるか?)


4匹程度なら魔法とスキルを使えば犬だったらなんとかなる。

これが魔物系の犬なら逃げ一択だし、範囲外に数匹ただの犬がいる場合も近寄らない方が良いだろう。


俺は判断に迷いもう少し近寄ってから考える事にし、姿勢を低く物音を極力立てない様気をつけながら距離を縮めていく。


50m程度の距離になった所でもう一度【気配感知】を使用。

このくらいの距離感なら先ほどよりも気配から感じることのできる情報が多くなる。


(野犬4匹で確定。オス1のメス3で内2匹が身籠ってるな)


身籠っているメスは動きがトロいが警戒心がバリバリしてる事が多い。

今後のこともあるしオスと身籠っていないメスを狙う事にした。


そろりそろり風下から近づいていき、手頃な石を拾って【投擲】でオスの頭部目掛けて投げつける。

オスはその攻撃で絶命した。

頭が爆ぜたのだ。

身籠っているメスの2匹が慌ててその場から離れ、身籠っていないメスがオスのそばでクゥンクゥンと泣いているのを憐れみながらナタをメスの首に振り下ろした。

泣いていて気付かなかったのが幸いした。


「やんの?」


「グルルルル」


メスの首にナタが刺さった状態で残りのメス2匹に問いかける。

2匹は唸り声をあげていたが、そのまま睨み合っていると後退り、そして立ち去った。


「ふぅ」


身籠っているということは将来の食い扶持を作ってくれているので極力相手をしたくなかったのだが引いてくれて良かった。


仕留めた2匹の足にロープを括り付け、足を魔法で持ち上げる。


両方とも血を噴出させてくれているので血抜きにもそれ程時間は掛からないだろうが警戒のためにも少し離れた木の上に登り様子を見る。


(1匹は背嚢に詰めて、もう片方どうするかなぁ)


警戒を怠らない様気をつけながら帰りをどうするか考える。


カエルの様に頭が出ても良いなら野犬の1匹なら余裕で入るがもう1匹の持って帰る手段は現地調達しないといけない。

元々最悪のケースで4匹相手にする予定だったので木で簡易ソリを作って持って帰るのも視野に入れていたが最良のケースで2匹相手にするだけで良くなった。

しかしじゃあ1匹のためにソリを作るのかと言われればそれは面倒だ。


大量ならまだしも…って感情がめばえる。


2匹の首から流れる血の量がポタポタになった頃合いを見て木から折りる。


野犬の元へと向かおうと歩み始めたその時、【気配感知】のスキルを使った時特有の波長を感知した。

俺は慌ててその場を離れようとするが【気配感知】の範囲外に出る事が出来ない。


(くっ、魔物か!)


「待ってくれ!」


スキルである【気配感知】を使った事から俺は以前たまたま出会った魔物かと気が気でない思いだったが、人間の声が聞こえたので振り返る。


すると鎧やローブを着たTHE異世界の冒険者という出立ちの男女5人がこちらを見ていた。


俺は咄嗟に【気配感知】を使用しそうになったが向こうにも使い手がいるのを思い出し止まった。


彼我の距離は100mは離れている。

向こうの使い手の【気配感知】の範囲から出れなかった事を考えるに向こうの使い手の方が数段上の実力者だろう。


となると俺が何をしても勝てる道理はないだろう。


見れば頭を抑えた薄着の女がこちらをピンポイントで指差していた。


色々と諦めた俺は彼らの前に姿を見せながら近寄って行った。



◼️(別視点)


「止まって…」


森に入り数時間。

目標を探しているが未だに見つける事が叶わず一旦休憩でも入れようかと考えていた時、盗賊職のミリーが静かにされど鋭い声で言った。


俺たちは言われた通りその場で足を止める。


ミリーが目を瞑った。

【気配感知】を使用した様だ。


そしてカッと見開いたかと思ったらある方向を指した。


「目標発見!10時の方向、距離200!」


「テリー!」


「任せろ!」


ミリーが仲間に聞こえる程度の声量で鋭く言ったので俺は相棒の剣士テリーに指示を出す。

既にテリーはミリーの指示通りの方向に走り出していた。


「行こう!」


「ええ!」


やっとこの森での仕事から解放されると思うと声が弾んでしまう。


それはミリーや他の仲間もそうなのだろう。

テリーを追いかける様に俺たちは走り出した。


「待ってくれ!」とテリーの大きな声が森に響き渡った。


「何かあったのかなあ」


「さぁ?だがいそごう!」


魔術師のミナが怯える様に野犬の死体を見ていた所にテリーの大声が聞こえたのでビクッとしていた。

可愛い。

…おっと、そんな事考えている場合ではなかった。


慌ててテリーの元へと向かうとテリーがキョロキョロとしながら周囲を睨んでいた。


「どうだ?」


「多分近いが…場所まではわかんねぇ。ミリーもう一度頼めるか?」


最後尾を歩いていたミリーに視線を移すと体調が悪そうだ。


「あそこね…」


スキルを使いすぎた事による副作用だな。

森の中ではミリーの【気配感知】が頼みだから彼女には無理をさせて悪いとは思っている。

俺ももうそろそろ使えそうな気はしているんだが、中々上手くいかない。


ミリーの指差す先から小さな子供が出てきた。


「あんなガキが対象なのか?」


「アイゼン油断すんな、あのガキ…やるぜ」


俺の口からつい出た疑問にテリーが注意を促した。


俺の目には普通の少年に映るのだがテリーにはそうは見えていないらしい。

構えてこそいないが、剣から手を離していない。


少年は手を挙げながらこちらへと歩いてくる。


「あの手を上げているのには何か意味があるのか?」


「しらねぇが油断だけ全員すんな」


挙動に怪しいところしか無い少年に全員が警戒しながら見守っていると多分ため息をついたのが分かった。


「こーさん」


俺たちとの距離が10m程度になった所で少年は地面に膝をついた。


そこでやっと俺は少年が抵抗の意思がないことを示している事に気がついた。


「降参だってよ、どうするリーダー?」


「とにかく話を聞こう、それからだ」


テリーが珍しくニヤケ面を浮かべながら普段呼びもしないリーダー呼びで振り返る。

その態度に嫌な予感がしたので憮然とした態度で返しておいた。




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