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94 相容れぬ者達

前回のあらすじ


「うひぁぁぁ!」     「ぎしぁあぁぁぁ!」

(゜Д゜;)(´Д`;)=3 3 3 Y(` △´ )Y=3 3 3

 ラネットとサラフ達が邂逅を果たしている頃、コリー達の仮拠点は百人近い賊の集団により占拠されていた。


「うまー。外で食べるオヤツは格別美味し」


「やっぱ、おせんべいは塩なんだよなぁ」


「いやーこんな所にオヤツが落ちてるなんて、神様からのプレゼントに違いないよね」


 そう上機嫌でお菓子を頬張る賊が居る一方、その傍らでは手と膝を大地に突いた賊が、悔し涙で大地を潤していた。


「くそ、あの時チョキを出して居れば・・・」


「ぐぅぅ、プリンが、私のぷりんがぁぁぁぁ」


「この仕打ち、屈辱。私は一生忘れないからね!」



 悲喜こもごもに好き勝手に食料を食い荒らす賊の集団・・・・・・ぶっちゃけタイアーを初めとする、ケモール商会の戦闘員達だったりするが。


 彼女らはサラフの先導で樹海内をフルマラソンさせられた挙句、お目当てのキショイ魔獣との接触も不発に終わった。


 幸い、魔獣の移動先はなぎ倒された木々が教えてくれたが、誰も居ないコリー達の拠点へ辿り着いた時点で気力と体力は限界を迎え、やってられるかと倒れ込みその場で休息を取り始めたのだ。


 こうして移動力に定評のある馬の雑種達だけ、まだまだ走り回れるぜ、と魔獣を追って先行し。


 残ったタイアー達は休息・・・・・・と、主の居ない拠点内での略奪を開始したのであった。



「・・・でも、いいのかなー。これってコリー達のオヤツなのにー・・・もぐもぐ」


「は、食い物を粗末にする奴がわりぃーんだよ! こんなとこに捨てていきやがって」


「別に捨ててった訳じゃ無いと思うけどー」


 タイアーの言葉にそう返しながら、シープアは獲得したオヤツをモリモリと胃にしまい込んでいく。



「あ、こっちの鞄にもオヤツが隠し・・・捨ててあるよ!」


「うひょー。今度こそプリンはあたいのもんだー」


「並べ並べ! またジャンケンで取り分を決めんぞ!」


「だからー、それって捨ててあるんじゃ無いと思うんだけどー・・・」


 困った様に眉根を寄せつつも、シープアは尻尾を揺らしながら、いそいそとジャンケンに加わる。



 そんな彼女の視界の端に、仮拠点から続く山道で何か動く影がチラリと映った。


「んー?」


 何事かと目を凝らした視線の先、遠く樹海の暗がりに、モクモクと土埃を上げ何かが接近する様子が見て取れた。


「ねぇタイアー・・・すっごい勢いで、なんか来てるんだけどー」


「あん、サラフ達が戻って来たんじゃねーのか?」


 そう二人して瞳を凝らすと、山道の奥に見える土煙はドンドンとその大きさを増ていき、地響きの様な音までが聞こえ始める。


 何かを叩きつける様な、重いもを引きずる様な、そんな重厚な響きが拠点内の雑種の鼓膜を震わせだした。


「なーんかさぁー、こんな事、前にもあった様な気がするんだけどー」


「だよなぁ、俺も心当たりがあるんだが。これって・・・・・・アイツじゃねーのか!?」


 何時の間にか大勢の雑種が山道を見つめ、訝し気な視線を投げかける中。


 周囲を高い木々に囲まれる薄暗い道の先に浮かび上がったのは、サラフを先頭にして駆ける十騎の雑種達。



 そしてその背後、土煙に霞む様に姿を現すは、巨大な二つの頭、振り回される四つの鋏、そして立ち上がる土煙に垣間見える、うぞうぞと犇めく数多の足また足の群れ。


 それこそが大地を揺らす地響きと、大気を震わせる騒音をまき散す元凶。


 雑種達曰く「凄く不味そうでクソキモイお肉の仇」


 双頭の海老、その人の登場であった。





 双頭エビの前を走るサラフ達は一気に速度を上げると、その距離をグングン広げ居並ぶタイアー達との合流を果たす。


「やぁ待たせたね、お待ちかねのゲストをお連れしたよ」


 冗談めかしたサラフの言葉、しかし全身の甲殻に亀裂を刻んだエビの姿を捉えたタイアーは、鋭い視線で彼女を睨み返す。


「おいおい、死に掛けてんじゃねーかアイツ! てめぇ等、俺達抜きで楽しんでやがったな!」


「ずるいー、ヤル時はいっしょだって言ったのにー」


「ところがそうでもないようでね・・・あれで中々に活きがイイ」



 その言葉を証明する様に、元気いっぱいのエビは四つの鋏を振り回し、百人で屯する雑種の真っただ中へと突撃してきた。


「ギシャシャシャシャーーー!」


「ち、相変わらず守りは無視かよ、トコトン舐めてくれんじゃねーか!」


「うー、こっちの攻撃なんて、虫刺され程度って事なんだろうねー」


 反撃なぞ一顧だにせず無造作に身を晒すそのスタイルに、苦々しい表情を浮かべ雑種達が散開すると、その後を追う様に突進したエビが、やたらめったらに鋏を振り回し、散り散りになった獲物を追いかけ回す。


 その様子は正に羽虫を払う人の様で、受ける被害などあり得る筈も無いと言う慢心に溢れかえっていた。



「―――でも、今回は少しばかり痛い目に会って貰うよ」


 サラフが楽し気な笑みを浮かべると、真っ先に散った馬の子達が、真っ先に距離を詰め、手にした槍を魔物へと突き付ける。


「これは貴様に敗れ、惨めに散った我々の屈辱!」


 彼女の脳裏に、打ちのめされ、情けなくも逃げ散ったかつての記憶が蘇る。


 それは心を打つ痛みとなり身を走る怒りとなり、振るう槍先に常に無い威力を上乗せする、形ない活力へとなりかわる。


 穿つ穂先は紫電を纏い、暴れるエビの尻尾を捉えるとその甲殻を深々と貫き、その下に隠された体組織を強かに傷付けた。


「ギュガガガガアァァァアァァァ!」


 跳ねる尻尾と共に絶叫が上がる。


 それは怒りによってでは無い、痛みより発した魔物が上げる初めての悲鳴であった。



「ギャギィイィィィィギィギィイィ!」


 驚きと苦痛に喘ぎ、足を止めた魔物へウィマーナが迫る。


「これは貴方に傷付けられた、あの子達の痛みです!」


 彼女の脳裏に憔悴したコリー達の姿が浮かび上がると、突き出す槍に力が籠る。


「ギャギャギャアァァァァァ!」


 砕いた甲殻を押し退け進み、その槍先は脇腹を無遠慮に抉っていく。



「これはお前に潰された、お肉の無念!」


 大声と共に槍を突き立てたポニーの脳裏には、木に吊られ血抜きをされた猪肉が、エビの鋏で地面のシミになった光景がよみがえる。



「そしてこれはー、見捨てられた肉達の悲しみだよー!」


 持ちきれず捨て置かれた熊肉達を思い、シープアの剣が脇腹を削ると、甲殻の亀裂から黄色い体液が宙に舞う。



「これはジャンケンで負けた、プリンへの渇望!」


「これは零したスープの復讐!」


「切れた靴紐の仕返し!」


「ギヤアギギギギィィィィィィ!」


 次第に言ってる事が怪しくなるが、調理具と違い壊す事に特化した武器による打擲は少しづつ、だが確実にエビの身体を破壊していく。



「そしてコイツは! お前の所為で怒られた俺の怒りだぁぁぁ!」


 ラネットに耳を引っ張られ、お説教を受けたタイアー渾身の一撃が蠢く足を捉えた。


 八つ当たりと共に放たれたその刃は、ベキベキと関節を打ち砕き節足の一つを見事に切り飛ばすと、溢れる出る体液が周囲に巻き散らされていく。


「ギャギィィイギギッギアァァァァアァァァァァ!!!」


 これまで一番の痛みが魔物を襲い、一番の絶叫が樹海の中に木霊する。



 生まれ持った性能で他者を圧倒してきた双頭エビを、数と道具で雑種が攻め立てる。


 かつての対比は逆転し、弱き者どもが強きものを追い詰めていく。


 個対群れ。長きに渡り続いた因縁の対決が、今、決着の時を迎えようとしていた。







 耕かされた土に見え隠れする、こま切れとなった人体の一部。


 その内の一つ、土中から突き出した腕がピクリと動いたかと思うと、ぐっと力が込められ周囲の土を押し退けた。


「ぷはぁ! はぁはぁ、くそぅ、えらい目にあったぜ」


 ボコりと音を立て大地から身を起こしたのは、悲しいほど威厳に満ち溢れた顔立ちと、隆々とした筋肉に覆われた肉体を持つ大男、ゼクスであった。


 彼は動く破砕機である節足の波に飲み込まれてなお、無事生還を果たしてみせたのだ。しかも全くの無傷で。


 やはり英雄の素質を宿す男は、凡人とは違う何かを持っているという事なのだろう。



「・・・・・・おまえら」


 そのゼクスは、物言わぬ躯となった手下を悲し気に見つめる。


「俺の、所為か・・・俺の浅はかな行動が、お前たちを殺したのか・・・」


 ざっと力無く膝を突いたゼクスは、自責と後悔でその顔を歪めた。


「全部・・・俺の責任だ・・・」


 歯を食いしばり、絞り出すように呟くと、様々な思い出が脳裏を流れていく。


 記憶に残る彼等は常に自分を信頼し、惜しみない賞賛と尊敬を投げかけていた。


 それをゼクスは当然の事と受け止め、向けられた信頼を余りにも軽く、余りにも蔑ろに扱ってきたのだ。


 遣る瀬無い後悔と、堪えきれない苦痛が胸を締め付ける。


 その心で荒れ狂う感情の嵐は猛々しく渦を巻き、やがて彼の中で一つの覚悟へとその形を変えて行った。



「誓うぜ・・・俺はもう間違えない、お前らの死を無駄にしない。お前らが俺に付いて来た事が間違いで無かったと証明するために・・・」


 ゼクスは地に半ば埋まった己の得物を強く握りしめ、地に着いた膝に力を込める。


「俺は、英雄に成る。自分の為じゃねぇ、人の為に力を振るえる、本当の英雄にだ!」


 立ち上がり、半ばで欠けた、だが未だにその機能を十分有する戦斧を天に掲げる。



「誓うぜ。ここから俺はお前らの意思を背負い、真の英雄を目指して駆け抜けてやる!」


 ゼクスの手の中で、砕け傷つき泥に塗れながら、その芯に確固たる鋼を宿した戦斧がキラリと光る。


 それはまるで、今の彼を映す鏡の様に、痛々しさと強さを併せ持つ至高の一振りの様であった。



「誓うぜ! 俺は・・・英雄になる!」


 才能と運気、そして信念と決意を固めた漢の顔は、かつて無い程澄み渡り、今まで以上に老け・・・貫録に満ちていた。


 今ここに、歴史に残るかもしれない男の第一が歩み出され―――二歩目で止まった。


「シャジィル・・・か」


 静かに呟いた彼の前に、薄い笑みを浮べる一人の牛族の女が佇んでいたからだ。





「ゼクス・・・か」


 獲物を求め樹海を駆けたシャジィルは、泥まみれになった筋肉を見つけると、顎に手を当て暫し思案にくれる。


「ふむ」


 そう一つ頷くと、右を見て、左を見て、背後を確認する様にクルリと一回転すると、再び正面のゼクスへと向き直る。


 周囲に人気が無いのを確認すると、その目元が妖しく緩み、赤い唇がニンマリとした弧を描いた。


「ゼクス、無事で居てくれて嬉しいよ」


「・・・まさかお前にそんな言葉を掛けられるとはな。だが今なら素直に言えるぜ・・・ありがとよ、シャジィル」


 そう見つめ返す男の視線には、かつて有った敵意は欠片も見えない。


 まるで憑き物でも落ちた様に、澄んだ瞳と穏やかな表情で感謝の気持ちを伝えていた。



「・・・らしくないね、どうにも調子が狂るっちまうよ。何時もの憎まれ口は叩かないのかい」


「ははは、そう言うなよシャジィル。俺も色々思う処があってな、下らない中傷はもう止めにしたのさ」


 ゼクスは照れた様な笑いを浮かべると、バツが悪そうに頭を掻く。


「まぁなんだ、今迄お前にはきつく当たってきちまったが・・・これはから同じ傭兵同士、力を合わせてやってこうじゃねーか」


 そう屈託無い笑顔を向けられ、シャジィルは一瞬小さく目を見開いたかと思うと溜息を零し、肩を竦めヤレヤレと頭を振った。


「はぁ、どうにも困っちまったねぇ。そんな友好的な態度を取られちゃ・・・・・・どうにも殺しにくくってしょうがないよ」


「ははは、確かにそうかもし・・・は? いま何て・・・」


「だからさぁ・・・アンタを殺すって言ってんのさ」



 言葉と共に振るわれる剣。


 咄嗟にゼクスは身を捻りその一閃を交わすが、掠めた頬に一筋の刀傷が刻まれ、ドロリとした真っ赤な血がしたたり落ちる。


「お、お前! 何の積りだ!」


「決まってるだろ、あんたを殺しちまう積りさ」


「な! ふざけるな! 一体何を血迷ってこんな事を!」


「血迷うも何も、ヤれるもんならヤッて見ろって何時も言ってたじゃないか。あたしはそのお言葉に甘えさせて貰ってるだけだろ」


「あ、あれは違うだろ! 売り言葉とか、言葉の綾とか。なんかそう言う、あれだ、なんだ!? と、とにかく分かるだろ!」


「あぁわかるよ。でもまぁ折角なんだし、ここは一つ大人しく殺されておきなよ」


「くっ!」


 ゼクスは再度振るわれる剣を、持ち上げた戦斧で防ぐ。


 お互いの得物が絡み合い、ギリギリと押し合いとなった両者の顔が近づくと、シャジィルが口を開いた。


「第一、散々あたしや親父の名誉を貶めて来たんだ・・・・・・死ぬには十分な理由じゃないかい?」


 それは押し殺した様な静かな声色だった。


 感情が籠り過ぎた所為で、かえって平坦な無感情さを感じさせるが、だからこそシャジィルの本気を、この上なく感じるさせるものでもあった。



 向かい合う筋肉とおっぱい。


 ここでもまた、一つの因縁が終末へと向かい集束し始めていくのであった。

相容れないもの


個 - 群れ

筋肉 - おっぱい

金 - 愛

鉄拳 - ストファイ


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