9 野良ケモ耳に餌を・・・
歩き歩いてたまに走ってまた歩いて、なんやかんやで一週間、山田は遂に領越えを成し遂げた。
マーグスの知識上、十年前から変わらなければここは既にトレトフ侯爵領で、近くにはファストルと言う街がある筈だった。
ここ迄人目を避けながら逃げて来たが、もう一安心と考えた山田はファストルの街を目指し、街道上を進む事にする。
テクテクひたすら歩いていると街道を行き交う人が増えて来る、周囲にも畑が広がり出しチラホラと建物が点在してくる。
「北海道みたいだな、・・・行った事無いけど」
山田は乏しい知識で北海道に似てるんじゃね?、等と考えながら人の歩みに合わせて進んで行くと、街道の先に街の城壁が見えて来た。
更に歩いて行くと壁の詳細が見えて来る、ゴツゴツとした岩を積んだ無骨な壁は、周囲の畑と相まって異世界感が半端ない。
右を見ると石の壁が歪に曲りながらも遥か先まで伸びている、左を見ると同じ様に石の壁が延々と続いていた。
正面には大口を開けた大きな門を、人や人以外の種族達が往来しているのが伺える。
山田にとっての初異世界都市であった。
砦では中世感が強かったが、ここはファンタジー感で溢れており、山田の心にじんわり込み上げて来るものがある。
門を行き交う人々を観察すると、マントを羽織った戦士や、露出の多いおねーさん、なにより二足歩行する獣達も確認できた。
(異世界ファンタジー始まるお)
内面の興奮を隠した山田は、不審者に見られないよう視線だけを動かして、周囲のファンタジー要素を楽しみつつも入場の方法に付いて考える。
マーグスの残った記憶では入場の際は、お供に任せて彼は何もしていないので何の参考にもなら無い。
門の両脇には数名ずつの兵士がおり、通行する人達を観察している。
先程から見ているが職質されてる人は居ないため、基本は素通りだと当たりを付けた山田は、そのまま歩みを進める事とした。
念のため、騎士達がお忍びで使う身分証を握りしめると、自然体を装い門を潜る。
――― 結果、身分証を使う事無く人の流れに乗ってファストルの街に入る事が出来た。
門を抜けると見渡す限り建物が連なる街の一角が現れ、そこから予想される街の規模は相当な物だと伺える。
門付近は広場があり、多くの人や荷物で溢れていたが、利用法が規格化されているためか混雑さは感じられ無い。
その広間からは幾つもの道が伸び、街中へと続いている。
山田は取り合えず、門から真っすぐ進んだ正面の大きな通りを選んで、周囲を観光気分で眺めながら通りを進む事にした。
周囲からの、ウチは飯が上手い、ウチは風呂が有る、等の宿泊施設の呼び込みを軽く聞き流しつつ足を動かす。
時には武器防具を並べた店先を見やり、時にはまるで勇者一行な集団を見送り、山田は観光気分で街中を歩いて行く。
香ばしい匂いの屋台や、見た事も無い果物の露店、用途不明な小瓶の並ぶ店内を流し見ながら、ずんずん先を急ぐ。
半獣半人な女性や、完全獣な男性の違いにフムフム言いながら長々歩いていると、通りの突き当り、T字路に差し掛かった。
広場から続いた長い直線はここで終わり、同じ大きさの通りが左右に分かれ街中に伸びている。
その正面の突き当りには殊更大きな建物が聳え、開け放たれた大きな門の入り口の上方には、特徴的な看板が掲げられている。
車輪の描かれた盾、その背後に交差した剣の意匠――― 傭兵ギルド、実は山田の目的地である。
山田の持つ騎士達の身分証は、お忍びとは言え活動をスムーズに行えるよう、ある程度上等な肩書が用意されている。
頻繁に使えばクルーゼス側へ情報が伝わる恐れもあり、出来る事なら平凡な身分証を新しく手に入れたい。
傭兵として登録し、タグを貰えばそれが身分証になる事を知った山田は、ここで傭兵登録を行う積りだ。
何より異世界技術に興味があった、ギルドカードと言えば最先端技術の塊、それに類する傭兵タグも最先端に違いない、山田の中ではその公式が出来上がっていたのである。
期待に胸を躍らせながら訪れた、傭兵ギルドの建物内の様子は普通だった。
世紀末なゴロツキが居る訳でも無く、壁や床に戦闘の後も無い、ましてや血塗れの死体が落ち居てる事も無かった。
建物内はホテルのロビーと、銀行の窓口が混ざった様な作りで、ロビーに置かれた机に数組の利用者が居るだで、昼間だと言うのに閑散としている。
見ると窓口は複数あるが受付嬢は一人しか居らず、自然と山田はその一人しかいない受付嬢に話しかける事にした。
「――― ではこの用紙に出身地、名前、レベル、スキルの記入と、下の空欄にお住まいや所属が御座いましたらお書き下さい」
登録したいと話すと、慣れた様子で用紙を差し出して来る受付嬢、金も身分証も請求は無いのは助かるが、登録前の事前説明も無いのは如何なものか、と思いつつもそこは役所に弱い日本人、大人しく新規登録のための書類を書いていく。
(出身地・・・アトランティス。名前はヤマダ、レベル1、スキルは無し。お住まいとかも無し、と)
さらさらと必要事項を記入すると用紙を返すと、受け取った受付嬢がレベルの項目を見て動きを止めた。
「え?、レベル1」
視線が山田と用紙の間で動き、最後は戸惑った様に山田に問いを発した。
「すみません、このレベル1と言うのは、間違いでは無いのですか?」
「はい、間違いありません」
マーグスの知識でギルドには、鑑定が出来る魔道具が有る事は分かっている、下手な誤魔化しは悪手とし、山田は開き直って名前とレベルは、そのままで通す事にしたのだ。
しかし開き直られた受付嬢には困惑しか無かった。
(その辺の子供でもレベル5はあるのに、レベル1ってなんなの?!)
レベル15の受付嬢は目の前の山田が、人間以外の別の何かなんじゃ無いかと錯覚すら覚えた。
「あのぅ、雑種の方では無いですよね?」
「れっきとした人間です」
「ですよねぇ。――― すみませんでした」
この世界には雑種と呼ばれる種族が居る、生物的に劣るな雑種達ならワンチャン在り得る?、受付嬢はそう思い、思わず訪ねてみるも直ぐにその失礼に気付き謝罪した。
成長には個人差が有り、異常に成長が速い者や、異常に成長が遅い者もたまーに居るらしい、目の前の男も見た目からは伺えないが、持病や障害等の身心に関わる事情が疾患が有るのかも知れない、
まさか雑種より成長が遅い人間が居るとは思わなかったが、彼女は山田の余りの不遇さに憐憫の情が沸いて来ると、せめてものお詫びに全力でタグを作って上げようと思いました。
彼女はカウンターの下から、あらかじめ ”ファストル傭兵ギルド””Eランク” と記された木札を取り出すと、空白部分に全力でヤマダと記入していく。
書き終わると彼女は、ふーと掻いてもいない額の汗を拭いつつ、手に持った木札を差し出して来る。
「こちらがEランクの傭兵タグになります」
山田は言葉と共に渡されたタグに目を落とす。
ファストル傭兵ギルド
Eランク
ヤマダ
(・・・しょぼい)
ハンコで押したような ”ファストル傭兵ギルド””Eランク” の文字と、無駄な力みで歪んでいる、ヤマダの名前。
何より未知の素材処か金属ですらない、ただの板切れである。
指でなぞると光ったり、魔力を込めると念話が出来たり、アイテムの収納が出来る等々、事前の期待が大きかっただけに、山田は手作り感溢れる名刺程度の大きさのタグに、失望感を隠せずにいた。
試しに山田が指でなぞると、乾ききてれないヤマダの文字が掠れて指先が汚れる。
(・・・異世界技術ぇ)
がっくり肩を落としてる山田を見て、受付嬢も慣れた様子で苦笑を漏らす。
「Eランクの方は皆さん、そちらの簡易タブからに成ります」
「簡易?、じゃぁ正式なタブとかも貰えるんですか」
「Eランクから正規タブになります、大抵の方は年内には昇格するのですが・・・」
期待を込めた山田の質問に答えつつも、受付嬢は言葉を途切れさせると手元の受付用紙に視線を落とす。
「Eランクへの昇格には、レベル20以上との規定が有りますので・・・」
「レベル20以上ですか・・・」
その言葉に山田も、受付用紙に書かれたレベル1の記載に視線を向ける。
沈黙の中、暫し二人してレベル1の文字を眺めた後、山田はお礼を述べると受付を離れる。
背後に「頑張って下さい」と言う憐みの籠った声援を貰いながら、彼はギルドを後にした。
訳も無く見上げた空は晴れ渡り、青い世界が広がっていた。
(さよならギルドカード)
虚しさに空を見上げる彼の視界に、ギルドと併設された建物が映る、看板を見るにどうやら宿泊施設だと思われる。
(なんかもう疲れた、・・・今日は休むか)
疲れたというより、やる気が失せた山田は、久方ぶりに人間らしい生活を求めて、宿の中に入って行った。
そこはまるで居酒屋だった、沢山の机で幾人もの人間が酒を飲みかわし、そこかしこから大きな笑い声が上がっている。
喧騒も山田が姿を現すと小さくなり、ヒソヒソ声と幾つもの視線が彼に突き刺さる。
奥に見えるカウンターへ向け山田が足を進めると、傭兵だか海賊だか良く分からない風体の女が山田を呼び止める。
「よう坊主、ここは傭兵ギルドの直営だぜ」
「一応傭兵ですんで」
「こりゃいい後輩かよ。よし、こっち来て挨拶していきな」
女海賊は、イスにふんぞり返ったまま先輩風を吹かしていた。
どうするか迷うが挨拶は大事である、日本人ならなおの事大事、山田は目の前の女海賊の言う事に素直に従う事にした。
「山田です、よろしくお願いします」
「で、取り合えず幾ら持ってんだ、あん?」
(ナニコレ、行き成りカツアゲされそうなんですが)
流石に意味が分からず固まって居ると、女海賊は立ち上がり山田の肩に腕を回してくると、酒臭い息で話しかけて来る。
「なー別に寄こせて訳じゃねー。幾ら持ってんのか聞いてるだけじゃねーか」
どうせ一緒だろ、と山田がどうしたもんかと頭を抱えていると、周りの傭兵達から笑い声が上がる。
「心配すん坊主、一杯奢れってこったよ」
「コイツはギルドの通過儀礼みたいなもんだ、全員やってるよ」
「素直に奢っとけ、後々意地悪されんぞ」
周りの傭兵も次々と口を挟んでくる。
「まぁ今後の保険だとおもいねぇ。いざという時助けても貰いてーだろ」
「これからお世話になる先輩への心尽くしだな」
結局、出しちゃえ出しちゃえ言ってくる周りの傭兵達の同調圧力に押され、山田は財布の口を開く事になった。
「おいおい、随分とあるじゃねーか」
財布の中身を覗き込んだ女海賊が背中をバンバン叩き、嬉しそうに料理を注文しだす。
「心配すんなよ、こんなチンケナ酒場じゃ大した額にはならねーよ。俺はジョリィだ、Cランクだから頼りになるぜ」
山田としては何がどう頼りに成るのか分からなかったが、どうせお金は沢山あるのだし必要経費として割り切る事にした、何より事を荒げたくは無い。
「・・・分かりました、ここは奢らせてもらいます」
「よーし、良く言った! お前も飲め飲め」
女海賊は機嫌よく笑うと、ビールを山田に突き付けて来る。
お酒は二十歳になってから、そのフレーズが脳内を掠めたが空気を読んで一口ビールを口にする。
「140万エンドル」
「は?」
翌朝、宿屋のオーナーより求められ金額に、思わず間の抜けた声が漏れる。
いつの間にか宿屋の床で眠りこけていたらしく、ビールを飲んだ後の記憶が全然ない。
「もしかして奢りの件?金額がおかしいでしょ。・・・というか俺、寝てた?」
「ビール一杯も持たなかったな」
オーナーの話ではビール一杯で酔い潰れたらしいが流石におかしい。
(まさか、あの女海賊・・・)
山田はドラマでよく見るコテコテの手口を思い出した、見て無い間に酒に薬を入れる例のアレである。
(―――あの女!やりやがったな!)
「お前がジョリィの代わりに払うんだろ、140万エンドルだ」
山田はオーナー声に顔を顰める、たまたま偶然ちょうどその位持っている、狙った様な金額に財布を覗き込んだ女海賊の顔が浮かんだ。
「ジョリィさんが、大した額にはならないって言ってましたけど」
「大した額じゃ無いんだろう、ジョリィにとっては」
「・・・そのジョリィさんは?」
「朝早く出ってたよ。あいつは依頼でこの街に寄っただけで、また依頼でもない限りここには来ないぜ」
(あの海賊逃げたな!)
山田がうぬぬと唸っていると、オーナーは申し訳無さそうに切り出した。
「口約束とは言え傭兵同士の約束事だ、ギルドとしても介入は出来んのさ、お前が一般人なら話は別だったんだがな。・・・でどうする、払わねーってなら衛兵の出番だが?」
(・・・異世界の警察とか怖すぎる。それで無くとも微妙な立場だ、司法の介入は避けたい)
「Eランクが140万なんて大金持ってたら、なにか訳アリってのは察しがつく。大事になるとまずいんだろ?」
(・・・あの海賊もこっちの事情を読んでたのか?)
「ま、金だけで済むんだ、高い授業料だと思って諦めんな」
結局オーナーのその一言で観念した山田は、財布から全ての銀貨を差し出しこの件は決着した。
一晩で140万エンドルを失った山田は途方に暮れて居た、表情から生気が感じられず目が死んでいる、・・・金を騙し取られた人間は大抵こうなる。
朝食すら取れず空腹も相まって、街を彷徨うその足取りはヨロヨロと覚束ない。
行き成り逃走資金が無くなり、そもそも生活費すら無い状況では、金を稼がないと今夜の宿もすら儘ならなかった。
だがそう分かって居ても今の山田には、何もする気が起きず当ても無く通りを歩いている、それは死に場所を探す野良猫の様でもあった。
ふと、そんな澱み切った瞳に、表通りから続く路地裏への入り口が映る。
(・・・・・・最悪、野宿でもいいか)
街の外は魔獣が危険だが、路地裏なら魔獣に襲われる心配も無い、取り合えず下見でもと考え、フラフラとした足取りで路地裏へと入る。
(・・・まさか行き成り盗賊に襲われ、有り金を奪われるとかも無いだろう)
それは分り易いフラグを立てた山田が、当然の様に賊に襲われ、残った僅かな小銭さえ失う事になる十分前の事だった。
山田は裏路地に入り込むと地面を調べ、この辺なら結構寝れそうだと、今日の寝床になるかも知れない物件の評価をしている。
その背後に、賊の鋭い恫喝が突き刺さったのはその時だった。
「か、金を出せ!」
「だ、出して」
哀れな獲物を狙い襲い掛かって来た、恐ろしい強盗に視線を向けると、そこにはナイフを構えた小学生位の女の子二人。
その頭にはピンと三角な狐耳と、背後に揺れるモフモフの尻尾。
「騒いだりしたら、だ、だめだから!」
「だめ、だから」
プルプル震えながら妹らしき一回り小さい子を背後に従え、威圧的に命令してくるその姿に、山田の全身に震えが走ったのだった。
―――狐の姉妹は食うに困っていた。
日々ゴミを漁り、僅かな食料を分け合うことで生きながらえて来たが、最近は食料も中々手に入らない。
今日も見つかったのは、朽ちかけて捨てられたナイフ一つだけ。
せめて妹だけでも何か食べさせて上げたい、そう思い悩んでいた時、路地の影から一人の人間がフラフラと現れると、地面を見つめブツブツ言いだした。
妹狐には気持ち悪い変人に見えたが、姉狐の目には妹にご飯を食べさせて上げられるかも知れない希望に見えた。
見るからに弱そうなその人間の足取りは、今にも死にそうな程フラフラしていて、一人っきりだった。
コイツになら勝てる! そう考えて姉狐は見よう見まねで山田を襲う事にした。
以前ゴロツキが追い剥ぎをしている場面を目撃した事があるが、その時の獲物は震え上がると、直ぐにお金を出し一目散に逃げていった。
しかし目の前の男はナイフを突き付けると震え上がり、血走った眼をしてドンドン近づいて来る、姉狐は予想外の展開に、どうして良いのか分からなくなった。
現代を生きる日本人には深い闇がある、日頃どんなに聖人を装っていても、ふとした切っ掛けでそのドス黒い欲望は人の皮を破り醜い本性をさらけ出す。
例えば目の前に子猫が現れた時、人はどれだけ理性を保つ事が出来るだろう、いや出来ない、直ぐに欲望に負けその頭を撫でくり回す事だろう。
そんな日本人が持つ深い闇と、鑑定大好きなマーグスの趣向が重なり、今、山田は、頭を撫でたいという欲望を満たすだけの獣になったのだった。
;´Д`)はぁはぁ、言いながら山田の足はじりじりと姉妹ににじり寄って行く。
「や、こ、来ないで」
「う、ううぅ」
両手をワキワキさせながら近づいてくる変質者に、姉妹は怯えながら後ずさり、とうとう壁際に追い詰められてしまう。
姉妹の頭を狙い手が伸ばされると、姉狐は恐怖のあまり目を瞑り、手に持ったナイフを振り払った。
キンッ、高い金属音がしたかと思うと、手の中のナイフが根元から折れている。
折れた刃は男の手に握られおり、その手が力むとボロボロの刃は山田の握力に耐えきれず砕けて散った。
「悪い子、悪い子だ。悪い子にはお仕置きなんじゃぁ」
それを目の当たりにした姉狐は、ガクガクと足が震え、手からナイフを取り落とした。
抗う事も出来ず、逃げる事も出来ず、恐怖と後悔が頭の中を駆け巡っている。
(・・・どうしよう、どうしよう、・・・このままじゃ妹まで)
姉狐は妹狐を守る様に抱きしめると目に涙を浮かべ、妹狐の方は既にボロボロ涙を零して姉狐にしがみ付いていた。
山田の手が頭へ伸びると、殴られる、そう思った姉妹が身を竦めると、伸ばされた手がピタリと止まる。
その手はフラフラと右へ左へ数瞬さまよった後、懐の財布に伸び、中から残った数枚の銅貨を取り出し姉妹の前に差し出した。
「ごめんな、今これだけしか無いんだ」
「うぇ?」
「これじゃパン数個位しか買えないと思うけど」
ほら、とばかりに付き出された掌、そこに在るのは姉妹が数日は食うに困らないお金が乗っている。
姉狐は良く分からず山田の顔と銅貨を交互に見ていたが、意を決してばっと銅貨を奪い取ると一目散に逃げだした。
片手に銅貨、片手に妹の手を握り走り去る後姿を見て、山田の胸になんだか言い様の無いシコリが残る。
残ったのはシコリだけでは無い、見下ろした手には空っぽの袋が握られていた。
「・・・お金稼がないとな」
心に残った良く分からない物を活力に変え、山田はしっかりした足取りで路地裏を抜け表通りを目指した。
野良キツネに餌を上げてはいけません。
お金だからセーフ。