10 餌付けに見返りを求めてはいけない
お腹空かせてる子供の表現、、、これはきっと残酷な描写。
R15タグ入れなきゃ。
仕事と言えばギルド、異世界の定番である。
山田も例に漏れず、即物的な収入を求めてその門をくぐった。
「Eランクで出来るのはソコの掲示板ですよ」
仕事が欲しいです、そう言うと受付嬢は壁の一角を指示した。
その一角にはやたら大量の張り紙があり、中には色褪せボロくなった物まである。
「これ全部Eランクの依頼なんですか」
「殆ど儲けが出ない依頼で、誰もやらないんですよ。でも期間が無期限なので、ずっと張りっぱなしなんです。」
「え、それって意味あるんですか」
「大人の事情ってやつです。依頼自体も、一応ギルドに対する貢献度と銅貨数枚の収入はありますし」
受付嬢が取り繕うような笑顔で説明をしてくれる。
「まぁそんな依頼を受ける位なら、魔獣を狩って納品するの方が一般的ですけどね」
「Eランクでも出来るんですか?」
「狩や採取はランクに関係なく受注できますよ。・・・まぁ狩猟や採取なんて、その辺の市民もやってますけどね」
「それは傭兵ギルドに入る意味が無いと言う事では」
「な、そんな事有りません!傭兵だと買取料に加え依頼として扱えますので依頼料が加算されますし、納品物に応じて評価だって上がりますから!」
山田の素朴な疑問に、受付嬢は思いの外、強く発言を否定してくる。
「つまり!傭兵ギルドに入る意味が無いのではなく、入らない意味が無いんです! 」
(・・・意味が良く分からないが、この手の話は危険らしい)
受付嬢の剣幕から、触れていいけないモノを感じた山田は話を変える事にした。
「では適当に狩猟や採取して来れば、お金が貰えるんですね」
「ぶっちゃけちゃうとそうなりますけど、・・・ヤマダさんは弱いから無理だと思いますよ」
受付嬢が心配そうに貶して来る。
「い、一応腕には自信がありますので」
「それ絶対勘違いですから。まず他のパーティーに寄生させて貰い、コツコツ経験とかコネを作った方がいいですよ。」
「か、考えておきます」
心配してくれているんだから、余り深くは考えない事にした山田は、規定についての尋ねる事にする。
「ギルドの規約とかはどうなってるんですか?」
「悪い事はしないで下さいね」
「え?」
「悪い事はしないで下さいね」
「あ、はい」
異世界ギルドの規約は雑だった。
山田は受付を離れると、Eランクも受注可能な掲示板の依頼を見直していた。
魔獣狩りを当面の予定にする積りだが、一応どのような依頼が有るのか、興味本位で目を通し事にしたのだ。
「ねぇ君、Eランクでしょ」
そんな山田は背後から声を掛けられ、何事かと振り向いた先には温和そうな顔立ちの糸目の男が立っている。
「僕はCランクなんだけど、良かったら臨時でウチに入らないかい」
彼はニコニコと人の良さそうな笑顔で、山田へと勧誘と持ち掛けてきた。
「・・・なんでEランクの俺を」
流石の山田も学習する、Eランクという足手まといを欲しがるなんて普通では考えらえない。
少々警戒して身構えると、男はバツが悪そうに話し出す。
「その、ハッキリ言ってしまえば安い荷物持ちを探しててね。賃金的にランクが低い方が都合がいいんだよ。勿論そこの依頼なんかより多くの報酬を約束するよ」
(なるほど、安い労働力をお求めですか。なんか貶されてる気がしないでもないが、これはいい機会か?)
魔獣狩りは何時でも出来る、折角のチャンスなので山田はその誘いを受ける事にした。
リーダムと名乗る男と軽い紹介の後、仲間が待って居ると言う男に付いて門前の広場に向かい、そこで彼のパーティーメンバーと合流することになった。
広場に付くとそこには九人のメンバーが待って居た。
正式なメンバーは五人で残り四人は臨時のメンバーであり、山田と同じ荷物持ちらしい。
荷物持ちは、完全に犬の顔をした犬族の男が一人、ケモ耳と尻尾を付けただけの女の子、オオカミ、クマ、ネコの、雑種と呼ばれる種族三人、それに山田を加えた五人が荷物持ちになる。
リーダムの正式なメンバーの五人は、全員が鎧の類を着込んでいないものの、各自が思い思いの武器で武装している。
「鎧は整備中なんだ、今回は小物しか狙わないから安心していいよ。でもその分数を熟すから、荷物の方をしっかり頼むね」
とはリーダムの言であった、Cランクの彼らにとって樹海の浅い部分での狩は、鍛練を兼ねた小遣い稼ぎ程度の簡単な仕事に過ぎない。
しかしEランクや雑種の臨時メンバーからすれば、樹海での活動は死の危険が付きまとう作業である、犬族の男は軽量級の鎧で要所を保護し危険に備えている。
そして雑種の子達も手足に防具らしきものを着けている、もっとも、腕や足に板や皮を無理やり括り付けた出で立ちは、例えるなら子供が段ボールとガムテープで作った工作以下の代物は、余りにも頼りなく見えた。
だがこの場において一人、さらに頼りない装いの男が居た、――――――山田である。
Cランクの傭兵でさえ厚手の服を着ているのに、山田はTシャツ姿。
(俺、軽装すぎん?)
明らかに今日の狩を一番舐めているのは彼だった。
こうして、CランクとEランクと雑種のちゃんぽんパーティーは、簡単な打合せの後、今日の狩場である森を目指して全員で門を抜けたのであった。
パーティーは街から街道を通り、さらに街道を離れ森へ進んでいく。
今朝、荷物の一部を売って購入した、固不味い干し肉を朝食代わりに齧りつつ歩いていると、先導するリーダムとメンバーの会話が聞こえてくる。
「なんで全員雑種にしなかったんだよ」
「居なかったんだから仕方無いじゃないか、最近数が減ってるみたいだしね」
「同業者なんて雇ったら、余計な出費が増えちまうぜ」
「居ないよりはマシさ。プラマイ、プラスだよ」
あまり好ましく無い内容だが、情報収集がてら聞き耳を立てていると、リーダムが山田へとクルリと振り返る。
「勘違いしないでくれ、君達に含む所は無いんだよ。何時もは全員雑種で占めたんだ。・・・安いからね」
振り向いたリーダムは山田と犬族へ軽いフォローを入れるが、その際に雑種である三人の少女への気配りは一切感じられなかった。
「雑種と一緒なんて気分悪いかも知れないけど、今日一日だけ我慢してね。賃金も傭兵の君達には、キチンと相場を支払うから」
なんと無しの雰囲気から察するしかないが、雑種への風当たりはは中々に強いようだった。
森へ着いてからの山田は、単調な作業を繰り返し繰り返し行っていく。
地面に落ちている良く分からない素材を、言われるがままに拾い集めて背負った鞄に入れていく、魔獣が出るとリーダム等が狩りその素材も回収する。
山田が石ころやら骨やらを鞄に詰め込んでいると、犬族の男が拾った素材を雑種の鞄に突っ込んいる、なにか段取りが在るのかと山田が見て居ると、犬族の男と目が合った。
「まずは雑種に持たせればいいんだよ、重いだろ。お前もコイツ等に持たせとけよ」
山田はふむふむと頷きつつも、何事も経験ですらと自分の荷物は自分で担いだ。
ちらりとリーダム達の様子を伺うも、何も言わない所を見るとこれが世間一般の常識なのだろうと心に留める。
山田は雑種の立場の低さを、ますます実感するのであった。
「ここでお昼休みにしよう」
日が中天に掛かる頃、リーダムが休憩を宣言し各自足を休める。
傭兵達はかたまって食事を始め、山田と犬族も適当に腰を下ろすと食事を取る事にした。
正直、買った干し肉は硬くて不味い、一切れ飲み込むのが限界だったため、山田は二度とあの店からは買わないと心に誓う。
そんな山田の目の前では、犬族が何かの肉を骨ごとバリバリ食べており、山田は至近距離から野生の王国を堪能させられる事となった。
(大型犬どころか、サバンナの猛獣だな。・・・見た事無いけど)
せめて癒しに、雑種達でも見て癒されようと、一際離れて腰を下ろして居る彼女達を視界に収める事にする。
しかし三人は疲れた様に身を寄せ合って休んでいるが、食事を取ってる様には見えない。
「・・・もしかしてご飯持ってないのか」
「持って来れなかったんだろ、毎日残飯を漁る様な連中だからな。まったく気色悪い奴等だぜ」
山田の疑問の呟きに返した、犬族の言葉に強い違和感を感じる。
「気色、悪いのか?」
「あ、お前も獣族と雑種を同じ生き物だと思ってる輩か、あんな気味の悪い生き物と一緒にすんじゃねぇ。お前ら人間も、雑種と同類なんて言われたら不愉快だろうが」
「ウンソウダネ」
(雑種って醜いんだ・・・)
雑種達に目を向けると、オオカミの子を膝枕しているクマの子が目に入る。
(元の世界でも、獣人の文化は歴史は浅かったっけ。・・・コレは、時代が追付いていないな)
一人そう結論付けると雑種達に視線を戻すと、一番大きなクマの子の膝に、オオカミの子が甘える様に頭を乗せ、一番小さなネコの子がそれを見守る様に見つめていた。
三人の間には会話も無く、疲れた表情で身を休めている。
視線を落とすと余った干し肉が目に付いた、山田が不味いという理由で残した干し肉が。
そんな干し肉と、目の前にお腹を空かせて居るだろう子供達を見て居ると、良心がチクチクしだしてくる。
こんな時、日本で生まれ日本で育った者なら、考える事は皆同じであろう。
山田は腰を上げると、近所の猫に餌を上げる気軽さで、雑種達へ向い歩き出した。
(・・・それに、上手くすればケモ耳が触れるかも知れないしな)
「な、なんだよ。あっち行けよ」
近づいて来る山田に、跳ね起きたオオカミの子が警戒心も露わに威嚇してくる。
まるでホントの野良猫みたいなその様子に苦笑が漏れる、先ずは警戒が解けるよう優しく語り掛ける事にする。
「あーちょっと頭撫でたいだけだから、心配するでない」
警戒した雑種達の目が、一瞬にして汚らわしい物を見る目に変わった。
ファーストコンタクト失敗。
(マーグスぅぅぅぅ)
大事な所で、なでぽ爺さんの呪縛が出てしまい、一気に両者の溝が深まってしまう。
「間違い間違い。一緒に食事でもどうかなと思って」
慌てて取り繕うも、三人は感情の消えた表情で氷の様な視線を向けて来る。
その視線の冷たさに、これは無理と開き直った山田は、懐から干し肉を取り出すと、露骨にチラつかせ始めた。
もはやソコに誠意は無い、物で子供の歓心を得ようとする、汚い大人の手管そのものだった。
干し肉の出現に、クマの子はチラチラ山田の様子を伺いだし、ネコの子はひたする侮蔑の視線を向けてくる。
しかし、オオカミの子の目は干し肉に釘付けになると、そのまま山田の手の動きに合わせて、右へ~左へ~揺れ動く。
いけるっいけるでー! そう確信した山田は干し肉を振りながら、ジリジリ距離と詰めていく。
そこでネコの子がこれ以上は見過ごせないと動き出した。
突如オオカミと山田の間に割って入ると、オオカミの子を庇う様に背後に隠してしまう。
しかしネコの子よりオオカミの子が大きいので、頭越しにオオカミの子が顔を覗かせている。
それでもオオカミの子を守る様に、変態め!と睨みつけるネコの子に対し、山田は怯む事なく干し肉をチラつかせ始めた。
眼前で揺れる干し肉なんて眼中に無い、と言わんばかりに山田の顔を睨みつける視線を崩さないが、小さな鼻孔がヒクヒク動き干し肉への関心を伺わせる。
ネコの子が睨み付け、山田が干し肉を見せつける、その様子をオオカミの子とクマの子が伺う中、突然ネコの子が干し肉を掴み取ると、そのまま干し肉をオオカミの子の口に突っ込み、再度こちらを睨みつけて来る。
暫し考えた山田が更に二枚の干し肉を手に握ると、ネコの子はすかさず取り上げ、一枚をクマの子へもう一枚を自分の口へ運ぶと、こちらを睨みつけたまま干し肉をガジガジ齧り出した。
暫し時は流れ、三人の干し肉が無くなる頃には、変態だが餌くれる人と認識されたのか、山田は好意こそ感じないが威嚇される事もなくなった。
許された、そう確信した山田はそっと腰を下ろすと、三人の傍で硬い不味い干し肉を齧りだす。
物足りなそうな三人に追加の干し肉を差し出すと、今度は素直に受け取って貰えたので、山田はますます許された気がして来た、・・・そして調子に乗った
一生懸命干し肉を齧り、目の前で揺れるフワフワな毛並みが三つ。
山田は餌あげたんだからお触りおっけーなんじゃ? と考えた半面、女の子の頭を撫でる不審者、そんな文面も脳裏を掠める。
(・・・いや、これはテスト、鑑定のテスト。だからなんら後ろめたい事などない)
しかし、直ぐ勝手な自己解釈を行うと、刺激しない様そっとオオカミの子の頭に手を移動さていく。
あと少しでお触り出来るという所で。
「気やすく触るな!」
オオカミの子にバシン!と払い退けられ、その手はフラフラ彷徨い・・・懲りずに隣のクマの子の頭目掛けて降下していく。
クマの子はその手に気付き、困った様な表情をしたものの、そのまま干し肉を齧り続け、山田に希望が芽生える。
「ベアーネに触んな」
しかし、横合いから又してもオオカミの子が、その手を払い退ける。
再度払い退けられた手はフラフラ彷徨い、その隣のネコの子の頭に着地―――「がぶっ!」
「ごめんはなして」
腕に走る痛みに顔を顰めながら、山田は頭を下げて謝るも、ネコの子の牙は山田を捉えたまま動ず、腕に噛みついたネコの子は、じっと懐から覗く干し肉の袋を見つめている。
放して貰うため干し肉を全て差し出した山田は、痛む腕をかかえ静かにその場を立ち去る事にした。
樹海は二つの側面を併せ持つ。
広大な面積に豊富な資源と希少な素材の宝庫―――恵みの森
濃厚な魔力を内包し危険な魔物が蠢く、人の命を容易く飲み込む―――死の森
二つは同じ存在で、唯一外界からの距離がその二つを区分している。
それは曖昧で時には容易くその境を変動させると、二つの特性を大きく入れ替えてくる。
恵みの森が一瞬で死の森となり、強力な魔物や常にない数の魔獣の群れに襲われる事も、稀に起こり得る事だった。
食事も終わりそろそろ探索を再開かと思われた頃、木々の隙間を多くの魔獣が駆け寄って来る、何時もの様に迎撃に動いた傭兵だが直ぐにその動きは止まる事になった。
「ちっ数が多い、中層の群れだ!」
傭兵達は即座に隊列を崩し、魔獣と雑種の間に割って入ると壁を作り、魔獣の群れを牽制してその動きを封じる。
「金目の物を回収しろ!」
「わかってる!」
二人の傭兵が雑種達の荷物に取り付き、目星い物を取り出すと雑種達を地面に突き飛ばし、壁を作っている仲間達に声を掛ける。
「いいぞ!」
その一声で壁を作っていた傭兵達は踵を返すと、倒れた雑種達を飛び越えて森の出口へ駆け出した。
戦えば勝てるだろうが、所詮今回の狩は鍛練と小遣い稼ぎ、防具の無い現状で怪我でもしたら馬鹿らしいと考えた傭兵達は、要らない”モノ”を投げ捨てると、その場から逃げる事にしたのだ。
「囮が生きてる内に、お前らも逃げろ!」
傭兵が背後に残った者に声を掛けたが、当然「お前ら」に雑種達は含まれていない。
彼女達は荷物持ち兼、非常時に於いての囮として連れて来られていたに過ぎないのだから。
「ま、まって」
雑種達が助けを求めて声を上げるが、その声に応えるものは誰も居ない、七人の傭兵達は全員彼女達を見捨てて駆け出しており、魔獣の目の前には今、彼女達三人しか居なかった。
食事中に行き成り猛獣が襲ってきたら、日本人なら誰だってパニックになると思われます。
咄嗟に逃げ出しても仕方ないですね。




