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83 見え透いた色仕掛け

前回のあらすじ


帰るまでが斥候です。

ゴミ掃除もキッチリ熟した、カラレイド隊長と素敵な騎士団一行

団長への報告もしっかり行い、無事にお仕事を終える事が出来ました

まる

 騎士団が去った後、「じゃそう言う事で」の一言で立ち去ろうとした山田達だが、全方位から傭兵達のタックルを喰らい、その身柄を確保され滞在の延長を余儀なくされた。



 そして今、バラフィに腕を絡め取られたまま、甘えた様な雌声を耳元で囁き続けられている。


「今回の件、有難うって言葉だけじゃ到底返せないわよね・・・どうお礼をすればいいかしら」


「・・・・・・」


「お金は私よりもってそうだし、もし興味が有るなら私の身体を差し出しても良いんだけど・・・」


「・・・・・・」


「ねぇ聞いてるの?。私は貴方にどう感謝を示そうか、真剣に悩んでいるって言うのに」


「どうでも良いけど余りくっ付くな、邪魔くせーんだよ」


 そう邪険そうに声を発するのは、バラフィに腕を抱え込まれたタイアー嬢。



 彼女は鬱陶しそうにバラフィを突き放すが、当の本人は意に介さず笑顔で纏わり続ける。


「いいじゃないこれ位。それよりやっぱり私達の所に来ない、一生不自由はさせないわよ」


「はぁ、しつけーな、行かねーての。第一ヤマダが俺を手放す訳ねーだろ」


「大丈夫よ、私が全力で説得して見せるから。だから私のパーティーに入って仲良くしましょう」


「あ、なんでテメーと仲良くする必要があんだよ」


「折角知り合ったんだから、友誼を育んで損はないでしょう。ほら、あの二人もあんなに仲が良さそうじゃない」


「あ?」


 二人の視線が地面へ向かうと敷いた毛皮に寝転がり、怪しく手足を絡める二人の少女の姿がそこにはあった。



「うふふ、ローズの肌ってスベスベで柔らかいねー」


「シ、シープア・・・あまり変なところ触らないでよ・・・」


 白い肌と肌が優しく触れ合い、シープアの妖艶な笑みを間近で見つめたローズは、思わず緊張に上ずった声を発する。


「わ、私、初めてだから優しくしてよ」


「分かってる分かってる、ぜーんぶ私に任せてくれればいいからー」


 不安そうな声にシープアは優し気に応えると、その手がローズの滑らかな肌の表面を優しく滑る。


「くす。どこから攻めて上げようかなー」


「あ、ちょっと、そんなトコ・・・んぅ」


「じゃぁ先ずは、ここから行っちゃおうかなー」


「んん、だめ、そんな・・・激しい」


「まだまだこれからだよー、ほら、ここはどう?」


「うぅん・・・お、おねがい、もっと優しく・・・」


「むふふ、がまんがまん。これからが凄いんだからー」


「あ、あぁっダメ! も、もう、もう限界っい、いだだ 痛い痛いって! ギブギブ、ギブだってばー!」


「根性無いなー、まだ関節をちょっと捻っただけなのにー」


「ちょっとでもなんでも痛いものは痛いのよ! あがっあががっが! だから、やめてって!」


 軽く腕四の字を決められたローズはジタバタと足掻くが、巧みに身体を動かすシープアはその力を巧みにいなすと、ますますその締め付けを強めていく。


「ほらほらー、下手な足掻き方をすると、どんどん関節を極められていっちゃうよー。ほい、次は股裂き」


「ぎゃー!変なカッコさせんな、バカ!ってか裂けちゃうからっ大変な所が裂けちゃうから!」


 ナチュラルに極められたセクハラ紛いの関節技に、羞恥と痛みで顔を真っ赤にしたローズの絶叫が響き渡る。



 対カラレイド戦で観た暗黒柔道に感銘を受け、技の伝授を願い出たローズであったが、シープアの指導スタイルは実戦スパルタ方式。


 技は喰らって覚えろがデフォなので、指導と言う名の拷問の間最中なのであった。


「それでねーここを支点に力を込めるとねー」


「うぎゃーーー痛いからっガチで痛いから駄目だってば! こ、こわれりゅーーー!」


 仕上げにコブラツイストという名の寝技(?)を掛けられ、悶絶しながらの泣き声が野営地の空へと消えていった。



「おい、妹が泣いてんぞ」


「んー女の子は偶に泣いた方が調子いいから別にいいのよ。それより私も色々教えて欲しいんだけど」


「あん? あーゆーめんどくせー手管、俺は知らねーっての」


「あらスキルが有るじゃない、あの騎士達を焼いた強力なスキルが。私と貴方のお揃いの火炎・・・ねぁ、これってもう運命的よね。それだけでも私達って、もっと分かり合う必要が有ると思わない」


「思わねーよ」


「ふふふ、つれないのね・・・まぁ今日の所は運命の出会いだけで満足しておく事にするわ」


「なんだよ気持ちわりーな、それといい加減離れろって」


「私からの感謝の気持ちなんだから、素直に受け取ってちょうだい」


 嫌そうに顔を顰めタイアーに比べ、その肩へ垂れかかるバラフィは途轍もなく上機嫌であった。





 うぜぇうぜぇ言われながらも、楽しそうにしがみ付くバラフィ。


 どうやどうやと締め上げられ、絶叫と共に身を震わせるローズ。


 天国と地獄、実に相反する表情を浮かべる二人の姉妹を眺め、山田は実に悩まし気な表情を浮かべていた。


「これも雑種の地位向上って事でいいのか・・・・・・でも思っていた受け入られ方と何か違うな」


 片や一方的に言い寄り、片や一方的に攻め立てる。


 どうにチグハグハな二組の交流を目にし、眉間に皺を寄せ首を捻っていると、そっと差し出された水差しから、手にした器に茶のお代わりがそそがれる。


「ヤマダ様、随分と難しい顔をされてますが、何かご不便がおありですか?」


 そう言って身を寄せてくるのは、山田の上着を未だに肩からかける、女傭兵のフローラである。


 彼女は空になった山田のカップに、トクトクとお茶を注ぎながら、ムニュリと胸の膨らみを二の腕に押し付けながら上目遣いの視線を向けてくる。


「ご所望の点が有りましたら、何でもお申し付け下さい。このフローラ、全身全霊を掛けてお応えして見せますわ」


 そう言うと上気した表情を柔らかな微笑みで彩り、密着させたオチチをあざとく揺らす。


 山田がチラリとその接触部分へ視線を向けると、彼女は困った容易に眉根を寄せた。


「あら、いやだわ私ったら。申し訳ありません」


 そう妖艶に微笑み、うっかり接触をはたしたその肢体をそっと離すが、このやり取りも既に五回目。


 完全にワザとである。



 さらにその周囲を、やたらと距離感の近い女傭兵達が侍っている。


「ヤマダさんて凄いんだね、騎士達が全然相手になってなかったよ。アタシあんなの初めて見た!」


「イヤイヤそれ程でも」


「それにあたし達の為に騎士団に逆らうなんて、ホント感動しちゃった」


「イヤイヤそれ程でも」


「ねぇ助けくれたお礼に何でもして上げる、遠慮なく言ってね」


「イヤイヤそれ程でも」


 チヤホヤと持て囃す黄色い声を御座なりにあしらい、山田の心は冷静にこの状況を分析していた。



(まるでキャバクラだな、知らんけど・・・・・・だが間違いない、これは色仕掛けと言う奴だ)


 常人なら勘違いして彼女達の好意を純粋に信じ込んでしまう所だが、並外れた感性をもつ山田は違う。


 向けられる表情や声色、視線や仕草までも細かく観察し、その全てが自分を騙し落す策略だと断定した。


(ここで鼻の下を伸ばしたら最後、骨の髄まで集られるに決まっている)


 頬を染めキラキラした瞳を向けて来る女性達を見返し”並外れた感性”をもつ山田は確信をもって断定した。


(骨の髄まで集られるに、決まっているっ!)





 そんな何処までもポンコツな山田の下へ、タイアーを解放したバラフィが足取りも軽く近寄って来る。


「ヤマダ、今日は本当に助かったわ。何かお礼をしたいんだけど、取り合えずタイアーを頂戴」


 会話の流れに不自然な物を感じ、山田が首を右へと捻る。


 そこへ、あたたたたと腰を押さえつつ、ローズがやって来ると率直に礼を述べた。


「ヤマダ、ありがとね! だからシープア頂戴!」


 会話の流れに不自然な物を感じ、山田は首を左へと捻る。


「ふむ」


 結局おかしな部分を特定できなかった山田は、一言唸ると本人達の意思を確認するため、ちらりと視線を二人の雑種へと向けた。


 が、質問を発するまでも無く、フルフルと首を横に振る二人の獣耳達。


「その気が無いようです、諦めて下さい」


「なら、あなたが私達の所に来てくれるよう、言い聞かせればいいじゃない」


「そうよ、そうすれば後はこっちで懐柔してみせるわ」


 ちらりと視線を向けると、フルフルと首を横に振る二人の獣耳達。


「本人の希望が最優先ですので却下で」


「なんでよ、あんたの所って雑種達が大勢いるじゃない。二人位分けてくれてもいいでしょう」


「タイアーもシープアも一人しか居ませんよ」


 ローズの指摘に真顔でそう答えてあげると、実に胡散臭そうに姉妹の表情が歪む。


「まぁ、変態の癖になん気障な台詞なの。よくそんな臭い口説き文句を口に出せるわね」


「そーやって二人の事も誑かしてるんでしょ、この変態」


 変な事は言って無いのに何故罵られる? と思いつつも、変態に人権が無いのはどの世界でも共通仕様。


 誤解とは言え変態のレッテルを張られた山田は、諦めに似た境地で言葉を続ける。


「常識的に考えても、本人が望まない移籍とか有り得ませんので・・・・・・あと変態じゃありませんから」


「正論だけど、貴方に常識を問われると凄くムカつくわね・・・・・・あと変態はみんなそう言うわ」


「あんたは変人の皮を被った変態でしょ、このド変態・・・・・・これ以上変態の上重ねをされたく無かったら、大人しく二人を解放しなさいよ」


「・・・・・・俺の噂ってホントどんだけ悪質なの?」





 その後も姉妹による、チクチクとした言葉の攻撃を交えた二人の引き渡しを要求が続く。


 だが雑種達の事で妥協する積りが無い山田は、どんな精神的苦痛を受けても、ダメですダメですを繰り返す機械と化した。


 流石にその意志の固さを思い知った姉妹、矛先をお目当ての獣耳二人へと変更する。



「ねぇ二人も考え直した方が良いわ、ヤマダは人格が良いだけの変態なのよ。絶対私達の所に来た方が貴方達の為になる筈だわ」


「そうしなさいよ。アイツは良い奴だけど性癖が終わってるんだから、ど変態なんだから。このままじゃきっと悲しい結末をむかえちゃう」


 どうしても二人が欲しい姉妹は、有る事無い事構わずに、思いつく限り山田のネガティブキャンペーンを展開しケモ耳達の翻意を促した。


 しかし結果は不発。


 返って二人の機嫌を損ねると、睨み付ける様な視線を向けられる羽目になった。


「ちっうっせぇな。そんなに言うなら、お前らがヤマダのトコにくりゃいいじぇねーか」


「そうだよー、どうしても一緒にやりたいなら、そっちがウチに来なよー。ご飯も美味しいんだからー」


 その言葉にハッと顔を上げたバラフィとローズの視線が絡み合う。


「私達が・・・」


「ヤマダの所に・・・」


 姉妹が目をパチクリさせていると、話を聞き付けたフローラがもの凄い勢いで突っ込んでくる。


「行きましょう、お姉さま!」


 そして、その瞳をらんらんと輝かせながら、賛成の意を高々に訴えた。


「ヤマダ様なら信頼できます! お二人の負担を軽くするためにも是非っ是非に!」


「そうね・・・・・・ヤマダは男だけど、皆も嫌がっていないし。戦力的な事も考えて、パーティーに加わる価値は十分あるわね」


「いっそウチの拠点をケモール商会に移しちゃえば、商品の独占も容易だし美容品の問題も解決じゃない」


「何より、お傍にいればヤマダ様へのご恩返しがいとも容易く行えます。何なら既成事実も!」


 三人は真剣な表情で視線を交差させると、うんと一つ大きな頷きを落とし山田を振り返った。



「決めたわ。ヤマダ、今日から其方にお世話になるから宜しくお願いするわね」


「駄目に決まってるだろお断りします」


「取り合えずこの依頼が終わるまではって、え?断る? 今断るって言ったのかしら?」


「現在ウチは従業員を募集しておりません。またの機会をお待ちしております」


「ケモール商会の従業員じゃないわよ! 貴方のパーティーへ加えなさいっていってるの!」


「どっちも駄目だつーの。そもそもCランクがEランクのパーティーには入れないでしょう? 不正防止でそんな規約があった筈ですけど」


 その当たり前の事実を耳にし、傭兵全員の表情が強張る。


「・・・・・・そう言えばあなた、Eランクだったわね」


「てか、なんでアレでEランクなのよ? バカじゃないの?」


「ど、どうしましょ・・・これじゃ、既成事実の達成に支障が・・・」


 三人の女傭兵は揃って眉を顰めると、今更ながらの現実にその端正な顔を歪め見つめ合う。


 ―――そして始まる喧々諤々の大会議。


 山田をCランクに上げる為にハゲを脅す案、一旦傭兵を辞めてランクを落とす案。


 何とか規約の抜け道を探し、山田パーティーへの加入に向け知恵を絞り始める三人。


 何時しか他のメンバーや何故か二人の雑種まで加わり、パーティー加入対策会議は当事者である山田を他所に、白熱した議論を加速させていく。



 そんな様子を一人蚊帳の外、オヤツを頬張り呆れとも付かない脱力した視線で眺める山田。


「・・・・・・はぁ他の皆は大丈夫なんかね」


 冷めたお茶を啜り空を見上げると、自然とそんな呟きがポツリと零れた。

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