51 討伐は公共事業です
前回のあらすじ
双頭エビが大地を震わせ
ベルトッシュは輝く星となり
行き成りシャジィルは匂わせ出す
脅威が迫る街では一体何が起こるのか
朝っぱらからギルドへ駆け込んで来たシャジィルの魔物発見の報は、瞬く間にギルドを騒がせ、酔っ払いの片付けが済んだシャジィルはの、僅かな仮眠時間を消し飛ばした。
職員へと矢継ぎ早に指示を出し、方々へ散った彼等を見送ると、残った凶報の主へ視線を向けた。
「はぁ、最近お前が調査をすると碌な事が起きないな」
一通りの差配がすんだボドウィンは、痛む頭を押さえ溜息を交えた愚痴を零す。
その愚痴の相手シャジィルは、疲れた様子で客用のソファーにダラリと身を預けながら、心無い批判に唇を尖らせた。
「嫌なら聞かなかった事にしなよ、こっちも魔物相手に仕事なんて、やりたく無いんだから。このまま帰ってもいいかい」
「拗ねるな、既に領主への知らせは出した後だ。ただでさえ戦力が少ない、お前も最後まで付き合え」
「なら他所へ応援を頼めばいいじゃないか、今この街にBランクは居ないんだろ」
「それは領主からの返事を待ってからだ、下手に動くと顔を潰しかねん。返事を待つ間にCランクのリーダーを全員集め、情報の共有を行っておく」
「なら、ヤマダへはあたしが知らせに向かってやるよ」
疲れた姿勢が一変、急に身を起こしたシャジィルへ、ボドウィンが苦い表情を向けて来る。
「・・・なぜEランクのアイツを参加させる必要がある」
「戦力が足り無いんだろ、参加させない理由の方が無いんじゃないかい」
シャジィルが分かってるだろ、と言いたげな表情を見せると、ボドウィンの眉間の皺がますます深くなる。
「戦力については侯爵の方でも何人か出す筈だ。第一Eランクなんぞを呼べば、他の傭兵共が騒ぐ事は目に見えて居る。それに、奴は評判も、良くない」
山田の得体の知れない不気味さを警戒し、その起用を嫌うボドウィンをシャジィルが鼻で笑い飛ばす。
「その傭兵達の被害を最小限に抑えたいなら、下らないやっかみなんか抑え込んでみなよ」
「奴自身の問題もある! ヤマダには、何かある。アイツの異常性はお前も理解している筈だ」
「確かにヤマダはヤバいよ、疼いちまう位にね。でもそれは目の前の魔物より危険な事なのかい。傭兵達に、強力な武器が有るけど扱いが難しいから素手で戦ってくれ、ってそう言う積りなのかい」
痛い所を突かれ押し黙るボドウィンに近づき、座る彼をシャジィルが頭上から見下ろす。
「使えるもんは何でも使いなよ、最悪なにかあったらアンタが責任を取ればいいだけじゃ無いか。なぁギルド長」
シャジィルの自分が圧倒的優位に有ると自覚する視線、その視線に晒され敗北を喫したボドウィンに出来る事は、皮肉を零す程度の事だった。
「ち、気楽そうに。そもそもヤマダを危険に晒す事にも成るんだぞ」
「そりゃそうだが、あたしだって死にたく無い。言い方は悪いがヤマダ以上の盾は居ないだろ」
思いがけないシャジィルの醒めた態度に、ボドウィンは思わず困惑の表情を浮かべる。
「好いた男相手に言うセリフじゃ無いな」
「ソレとコレとは話が別だろ。あたしだって守らなきゃならない部下が居るんだ、使えるモノは何でも使うさ」
シャジィルの山田への好意は、感情的な物では無く本能的部分が大きい。速い話が身体目当てである。
山田に対しあれだけ露骨に性アピールしても、ベアーネを始め周囲の雑種達が危機感を抱かない程に、その恋愛感情は薄い。
一夜を共にする為、薬や脅しを平気で使う程に彼女の想いは肉欲一辺倒だった。
「それに、もし大怪我して寝込んだら付け込むチャンスじゃないのさ」
故にこう言う台詞も自然と出て来る。
邪悪な笑みでニンマリする姪の姿に、叔父は獣族の持つ業の深さを垣間見たのだった。
ファストルの街の中心に有る館では、溜まった書類を前に溜息を付く男の姿があった。
老域に有りながら鋭い目つきと、引き締まった肉体を維持する古き良き大貴族、トレトフ侯爵である。
普段は王都の邸宅に身を置いているが、毎年この時期になると代官に任せている領地を視察し統治に目を光らせている。
今年も騎士団を伴い辺境の街に滞在して居たが、その気分は中々に優れなかった。
「Cランク二組の殺害に、大量の死体遺棄。市民街近くの路地裏でも激し抗争が散見されるか・・・最近のスラムは随分と生きよいのぅ」
苦々しい表情で手した書類には、立て続けに起きたスラムでの事件について記されている。
「いやはや面目次第も御座いません」
大きなテーブルの対面に座る代官は、流れる汗を拭きとりつつ深々と頭を下げ続ける
「色々と役に立つ連中だったのですが、どうも最近はきな臭い動きが多いようでして。特に裏路地での刃傷沙汰には、市民も大分不安がっているようで」
「儂らが手間を惜しんで放置したのを、都合よく勘違いでもしたか。下賤のものは直ぐ図に乗りよるからの」
代官の言葉にトレトフ侯爵も、困った様に顔を顰める。
急速な発展には多くのゴミが発生する、街の拡大を優先し後片付けを蔑ろにしたツケだと言えた。
しかし、ここの樹海に魔物が生まれる可能性を知って十年。様々な整備を行い各ギルドの規模拡大を助けて来た彼としては、折角増えたCランクの損失は面白くない。
「大人しく儂らの残飯を漁る程度なら、好きにさせても良かったのだがな」
再度の溜息を吐くトレトフに、傍らに控えた騎士団長のバルストームが厳つい顔を寄せる。
「一度スラムの掃除でも致しますか、騎士一隊に街の衛兵を率いさせれば十分効果がありましょう」
「いや、いっその事、連れ来た騎士を全部回してしまえ。儂の滞在中に騒ぎを起こす愚かしさを、奴らに知らしめてやれ」
「しかし、それでは侯爵様の身辺の警護が、いささか心許なく」
「元から屋敷に詰めている騎士がおろう、そもそもここを襲うバカなど居らんじゃろ」
そう言ってヒラヒラ手を振るトレトフの言に、バルストームは反論する事も無く大人しく引き下がる。
「では雑種の駆除も並行して行いますか?、最近徒党を組んで悪さをすると言う話も上がっていますが」
「雑種を排斥しようと言う輩の訴えじゃな、ほっとけほっとけ。どうせ見苦しいとか利権絡みの詰まらん理由じゃろ」
「確かに雑種が群れた所で、何か出来るとも思えませんな」
「壁を作って十年、雑種の数は年々数は減っとると言うのに、ホントしょうも無い奴等よ。害虫駆除など自分らでさせい」
そう再三の溜息を吐いていると、開け放たれた執務室の扉から一人の騎士が姿を現す。
「侯爵様、傭兵ギルドより急ぎの知らせが届いて居ります」
「ふむ、見よう」
騎士から受け取った書簡を読み進める内に、その表情に笑みが広がって行く。
「ふはは、バルストーム、スラムの件は中止じゃ!」
そう言ってギルドから届いた書簡を机に投げると、次いでバルストームが書簡へ目を通す。
「・・・魔物! 侯爵様これは」
バルストームが思わず声を荒げると、侯爵が楽し気に目を細める。
「あぁようやくじゃ。十年待たされたが遂に現れよったわ」
「おめでとう御座います。・・・と言っても取らぬ狸の何とやらですが」
「なに、十年前とは違う。来る事を前提に街の開発に取り組んできたのだ、結果は見えておるわ」
「魔物が来るのですか、この街に!?」
ギルドからの知らせへ歓迎を示す二人に反し、代官はその顔を青褪めさせて震えて上がる。
「こ、これは一大事、災難ではないのですか。下手すればこの街が・・・住民が」
「なに、めでたき事よ。魔物の討伐が成れば、その災禍はそのまま儂の功績となるのだからな。多少の被害は目をつぶろう」
古き良き貴族のトレトフ公爵にとって、民草とは大事な財産。大切に守る一方で、より大きな利益の為なら、必要に応じ切り売りする事も厭わなかった。
「数万程度なら・・・まぁ安いものだろう」
信じられないと目を見開く代官を尻目に、杖を手にすると痛む膝を庇いながら立ち上がり、コツコツ杖を突き大きな窓へとその身を寄せる。
日差し除けのカーテンを僅かに捲り、見えない樹海へ視線を飛ばすと、トレトフはまだ見ぬ魔物へ思いを馳せた。
魔物の脅威度は魔獣の比では無い、Bランクパーティーでも全滅を覚悟する必要があり、単独だとAランクでも危うい。
転じて討伐は偉業となり、政治的経済的にも大きな恩恵をもたらす事になる。
生じた被害を差し引く事になるが、十年前は幸運な傭兵達が爵位と領地を賜る程の恩恵があった。
「十年前は傭兵に全部持って行かれたが、此度の栄誉は我々が頂く。出来るなバルストーム子爵」
「は! ご下命、我が名誉に掛けて」
膝を突き、忠誠を示して拝命した子爵を見下ろし、トレトフ侯爵は事の成就を予見せずにはいられなった。
バルストームという最強の騎士、率いるは騎士団の中でも精鋭の三百騎。
それに発展した物流と豊富な人材。商業・傭兵、両ギルドの補助も受けられるのだ、これで失敗など想像する事すら難しい。
「魔物討伐の栄誉か、待ち遠しい物よな」
トレトフ侯爵はこの時、自身の進む先に確実なる勝利への道が続いていることを、ひしひしと実感していた。
傭兵ギルドの会議室、その大きなテーブルには、傭兵ギルド長を始めギルドの主幹を担う幹部と、Cランクのリーダー達、そして場違い感がある山田が集められていた。
漂う重い空気に徹夜の会議を思い出したボドウィンは、滅入る気持ちを押し殺して口を開く。
「みんな揃った様なので会議を始めようと思う。が、その前に紹介とパーティー規模の確認も含め、各々挨拶を頼みたい」
ボドウィンが目で促すと、一番右に座った男が片手を上げ名乗り出す。
「俺はロングホーン、パーティーメンバーは、Cランク四名にDランク十二名だ。ま、よろしく頼むわ」
ロングホーンが手を下げると、隣の男が僅かに顔を上げた。
「ラージロスト、C五名D八名、以上だ」
無表情で腕を組んだまま、端的な情報を告げると不意に黙り込んんだ。
ラージロストに続く言葉が無いとみると、隣の大男が口を開いた。
「ゼクスだ、Cランク七名のリーダをやっている。Dランクは、あー十二名だったか? 多分そんな感じだろ」
他を圧倒する筋肉と大きな顔の男は、適当な様子でそう締めくくった。
「私はグラファイト。初めての方も含めて宜しくお願いします。パーティーメンバーはCランク十名のみとなります」
傭兵らしからぬ柔らかな物腰と、金髪が映える端正な顔立ちの優男は、丁寧なお辞儀でそう締めくくる。
「はーい、コリーでーす。Cランク四人にDランクが四人居ます、全員女の子です」
犬族の小柄な少女が手を上げながら軽い挨拶を行うと、うって変わって物憂げな様子の女性が口を開く。
「バラフィよ、Cランクは二名でDランク二十三名ね。基本に討伐はやらない方針だけど、呼ばれたから一応来たわ」
メリハリの大きいスタイルを晒す女性が、赤い髪をくるくる指先で弄りながら告げる。
「ヒューバットだ、Cランク七人のパーティーを率いて居る。Dランクはこの前全員抜けちまったから、ギルドの情報を更新しといてくれ」
体調の悪そうな彼は発言が終わると、そのままテーブルに肘を突いて頭を垂れる。
「あたしはシャジィル、Cは五名でDは十二名。今回の件の情報提供者も兼ねている」
最後のCランクの挨拶が終わると、ロングホーンが手を上げボドウィンの注意を引いた。
「はいはいはい、ギルド長はい」
眉根を寄せるボドウィンに対し、彼は黒いポニーテールを揺らしニヤッと口を歪めた。
「ボルタイルが居ないとこ見ると、あの噂は本当って訳だ。なぁ、ギルド長」
嫌な質問だが答えない訳にもいかず、ボドウィン仕方なく彼へと向き直った。
「ボルタイルのパーティーは事故で解散した、それだけだ」
言外にこの話は終わりだと告げるが、素直に従わない連中がここには多かった。
「がはははは!ハッキリ言えばいーじゃねーか。スラムの連中にぶっ殺されたってよ!」
ゼクスが大口を開け笑い出すと、バラフィが髪を弄りながら口を挟む。
「噂でしょ、それ。スラムがCランクに手を出すって不自然だもの。普通返り討ちよ」
「だよな。な、ギルド長、本当のとこはどうなんだよ。今、領主様が来てるからそれ絡みって噂もあるぜ」
「いえ、案外犯人は傭兵かもしれませんよ。依頼上のイザコザで・・・と言った所ではないですか」
―犯人は傭兵― の言葉でシャジィルとボドウィンの視線がチラリを山田を伺い、ヒューバットもまさかと目を見張る。
そんな山田は、自分が何故呼ばれたのか分からず、ボンヤリと虚空を見つめるだけだった。
その後も、あーだのこーだの適当な噂や憶測が飛ぶが、流石にボドウィンが諫めに入る。
「うるさいぞお前ら、今は危急の問題に対す会議の為に呼んだんだ、それ以外の件は後回しにしろ」
話を戻そうと注意をし、場の喧騒が小さくなると一つ咳払いの後、伺う様に周囲へと視線を向けた。
「それと・・・もう一人、紹介するやつが、居る」
そう言いながら余り気乗りしない様な、葛藤する様な、そんな嫌々といった表情のボドウィンの視線が、ちらりと山田へ向かう。
「あぁ俺の番ですか」
ボドウィンの視線に気付いた山田がそう言って立ち上がると、周囲から誰?と訝し気な視線が集まる。
「Eランクの山田です、パーティーメンバーは私一人ですが、よろしくお願いします」
静まり返る室内、山田の挨拶は歴戦の傭兵達から、瞬発的な思考を奪った。
「あ?、なんでEランク如きが此処に居るんだよ!」
一早く我に返ったゼクスがその内容い噛みつくと、周囲の傭兵達も次第に頭の働きを再開させ始める。
「こいつアレだろ、例の雑種の・・・」
「あー、あの気色わりー連中の親玉かよ。正直、傭兵って名乗ってる時点で気に入らねぇ」
「ふ、男色と言う噂もありましたね」
「ねぇギルド長、この討伐ってEランク相当の依頼なの?、それなら私帰らせて貰いたいんだけど」
その後も不快感も露わに、口々に捲し立てる傭兵達。
やっぱりこうなったかと、ボドウィンが顔を顰めて居ると、シャジィルからの助け舟が入る。
「ヤマダが此処に居るのはあたしの提案だ、調査の結果そう判断したんだよ」
「魔物相手に、どう判断すりゃEランクの手が必要に成るってんだよ」
ゼクスは筋肉を怒らせ、シャジィルを睨んだかと思うと、続いてボドウィンへと疑惑の視線を向けた。
「なぁボドウィンさんよ、あんたの事だから大丈夫だと思うが・・・くだらねぇ私情を挟んじゃいねぇよな」
ゼクスはそう言うと意味ありげな視線をシャジィルへ向ける、少し長く傭兵をやってる者なら、二人の血縁関係など幾らでも耳に入って来る。
「つまらん勘違いはするな、ヤマダが此処に居るのはギルド長としての公的な判断だ」
「公的、ですか・・・貴方がそこのシャジィルさんに、特別な仕事を融通していると言う噂も聞きますけど。今回の事前調査も、個人的な伝手で彼女に流したのでは?」
グラファイトが探る様に疑問をぶつけると、ギルド長の半眼が挑む様に向けられる。
「そう言う事実はあるな。格安で面倒な仕事を受けてくれるなら、今後はそっちにもお願いしたい所だが?」
ボドウィンが、やってくれるんかと目で問い掛けると、グラファイトは苦笑を浮かべ、小さく肩を竦めると大人しく引き下がった。
実際、私情で色々融通を利かせて居るのはシャジィルの方で、そんな彼女が呆れた様に口を開く。
「あたしに代わって、ギルド長に扱き使われたい奴が居ないなら話を続けさせて貰うよ。ヤマダへの招集は物資面での提供を見込んでの事だ」
「なんで傭兵から? 今回の様な場合は、ギルドから支給が有るんじゃないの?」
コリーの素朴な疑問に、シャジィルの話しに乗っかったボドウィンが応答を引き継いだ。
「無論支給はある。その上でヤマダの経営するケモール商会には、必要に応じて物資の提供をお願いする積りだ。彼はEランク傭兵と同時に、Dランク商人でもあるからな」
「ギルドが有るのに、わざわざDランクの商人を頼る必要が有るんですか?」
グラファイトが不審げに眉を寄せると、シャジィルの顔に悪戯っぽい笑みが浮かぶ
「ヤマダ、ケモール商会の品揃えを教えてやりなよ」
既に何度もお邪魔している彼女に、ケモール商会の稀有な商品を問われ、山田もようやく此処へ連れて来られた意味を理解した。
「ごほん。一番人気は保存食を始めとした食料品です、発酵や熟成を施した保存食とは思えない触感と味わいが好評のようです。次に洗剤や日焼け止めと言った―「あ、うんごめん。薬関係に絞ってくれ」
山田が始めた討伐に関係ない商品の説明に、傭兵達が首を傾げるのを見ると、シャジィルは慌てて軌道の修正を願い出た。
「あー薬関係ですと各種の回復薬が売れ筋です、価格を抑えた廉価版やちょっと高価な治療薬。最近では強化薬などの売れ行きも伸びていますね」
「まて、治療薬や強化薬も扱ってるのか?Dランクが?」
「その強化薬って何処の品です? エーテル工房の品なら個人的に融通して貰いたいんですが」
「ねぇ各種回復薬とか廉価版って何よ? ホントに真面な品を扱ってるんでしょうね」
Dランクの域を超えた品揃えと不審な説明に、傭兵達は一斉に疑念の籠もった視線を山田へ投げて来る。
腰のポーチには心配性なハツカが、毎朝持たせてくれる各種薬品が有るが。
それを用いれば、実演と言う形で直ぐに詳しく説明出来るが、ここで山田は一計を思いついた。
「商品の確認をしたい方は、ウチの商会まで足を運んで下さい。係の者から詳しく説明をさせて貰いますので」
折角の機会、傭兵達にお店へ来て貰うべく、詳しくはお店で商法を採択したのだ。
そうする事により、多くの商品を見て貰い、何より働く雑種と触れ合って貰う事が出来るのだ。
「は、行かねーよ。雑種くせー回復薬なんぞ使えるか、気持ちわりー」
「確かにちょっと信用出来ねーかな。今まで通りギルドの支給品を使わせて貰うわ」
ゼクスが小ばかにした様に吐き捨て、ロングホーンが否定的な態度を示すと、ラージロストも追従するよう頷いている。
「私は一度顔を出させて貰います。どうせ粗悪品しか無いでしょうが、強化薬の確認だけでもしおきたいですから」
グラファイトは丁寧な口調ながら、見事に山田を蔑むと、バラフィが面倒そうに溜息を零した。
「私もパス。だけど新しい店舗って聞いたら、ウチの子達が行きそうなのよね。まぁその時は宜しくたのむわ」
今一食い付きの悪い客の反応に、やはり商品の実演でも行おうかと山田が思っていると、会議を動かす者が現れる。
「行きたい者だけ行けばいい。それより、まさか此処にいるメンバーだけで事を成す積りか」
魔物相手となれば、Cランクを集めた程度では十分とは言えない。ラージロストは言外にそんな疑問をボドウィンにぶつける。
「当然違う、運搬や警護等にDランク二百程度を募集する。これは必要に応じ諸君等のサポートに回す。そして討伐自体には領主様の騎士、三百があたる事になっている」
「ほう、流石トレトフ侯爵、対応が速く的確でいらっしゃる」
グラファイトが通ぶって頷くと、ロングホーンは逆に鼻を鳴らす。
「手柄が欲しいだけだろ。しかしそれなら俺等は精々囮役か」
「我々の仕事はそのお膳立てだ。魔物の位置を補足し、調査、誘導を行う」
ボドウィンのそんな説明を聞いたバラフィが、嫌そうに眉根を寄せた。
「それって樹海を這いずり回って仕事を熟すって事でしょ、ウチはパスさせて貰うわ、樹海で動き回る仕事って苦手なんだもの」
「そうですね、森の中で鬼ごっこなど、私も遠慮したい所です」
グラファイトも便乗して不参加を表明すると、シャジィルが魔物についての補足を行う。
「奴の巨体は樹海での移動に不向きで知能も低い、逃げるだけならそう難しい事じゃない」
偵察での経験から魔物の欠点を上げ、二人の翻意を促すが、そこへ横やりが入り込む。
「ふん、流石裏切者の娘は言う事が違うじゃねーか、逃げ足だけは一人前ってか」
ゼクスのからかい混じりの言葉に、シャジィルの目付きが冷たく変わる。
「あんたには敵わないよ、他のパーティーを囮に美味い汁吸ってるんだってね」
共同で依頼に当たったパーティーが、何組も壊滅した件を皮肉ると、ゼクスの目付きも怒りで歪む。
「よえぇ奴の言いがかりだろ、実際に逃げ出したテメーのクソみてーな親父とは訳が違うぜ」
「そっちこそ事情も知らずにペラペラと、被害に有った奴等を連れてこようか」
そうバチバチ視線をぶつけ始めた二人を尻目に、棄権組は腰を上げると扉へと向かう。
「取り合えず私は失礼させて貰いますよ」
「次はもっと有意義な会議に呼んで頂戴」
始まって早々、破綻したと思われた会議だが、ボドウィンの小さな一言でその流れは変わる事になる。
「今回領主様から10億エンドルの依頼料の提示があった」
途端に傭兵達の動きが止まった。いがみ合って居た者もヤル気の無い者も、ギルド長の言葉でその目の色を変えた。
「今回は経費を除いた全てを、お前達傭兵に配る積りなんだが・・・」
ボドウィンが視線を流し傭兵達を伺うと、彼等は分かりやすく姿勢と意思を前向きへと変えていく。
「やっぱトレトフ侯爵は流石だよな、金の使い方を分かってるぜ」
ロングホーンが尊敬の念を示すと、ラージロストの頭も僅かに頷く。
「街の大事ならば参加しない訳には行きませんね。傭兵として」
「私も偶には樹海での仕事にも貢献しないとね。傭兵として」
グラファイトとバラフィは意見を翻すとそそくさを席に着き、他の面々も大人しくボドウィンを注視しすると、聞く姿勢を保っている。
ぽけっと話を聞いていたコリーや項垂れていたヒューバットでさえ、輝く星をその瞳に宿していた。
「はぁ・・・では全員の参加を確認した所で、調査計画について話し合う事にする」
お行儀の良くなった傭兵達に、金の力は偉大だと内心で嘆息すると、ボドウィンは魔物討伐に関する大きな会議を進めるのだった。




