28 姉妹がピンチ
脳内のイメージを文字にできへん・・・。
基本小さい子と留守番しか、していないラネットにとって、外で活動する山田達は心配の種だった。
樹海での狩は回数を重ねる毎に、安心して待ってられる様になったが、今日は先に帰って来たタイアー達から、スラムで住人の襲撃を受けたと聞かされた。
始めは、そんな危険な目に会ったのかと驚いたが、山田がその親玉との話し合いに行ったと聞き、驚きは焦燥に変わった。
居ても立っても居られず、皆に如何すべきか相談を持ち掛けた程だった。
しかし心配するラネットと他の子達の温度差は大きく、タイアーなどは山田よりご飯が遅れる事を心配している。
皆が心配しすぎだと語り掛けるが、そんな家中に居心地の悪さを感じた彼女は、一人扉をくぐり家の外に出ると、そこで山田の帰りを待ち続けたのだった。
ド―ベルンとの話し合いを終え、家に向かってくる山田達を、玄関先で待ち侘びるラネットが見つけた。
「よかった、無事だったんですね」
特に怪我も無く、呑気に歩いてくる彼らの下へ駆け寄ると、彼女のその手が自然山田の胸元へと触れた。
「すまない遅くなったな」
「いえ、いいんですよ。みんなも心配・・・心の底では心配してた、と、思います」
山田の謝罪に対し、思わず口から出たセリフは、みなの様子を思い出した後に、微修正されて語られた。
そして見つめ合う二人に間には、余人の立ち入れぬ親密は空気が流れだす。
「ごはんは出来きた?」
そんな他人が割り込めぬ筈の空間に、ウルカがひょっこり顔を出すと、期待を込めた目でラネットへ問いかけた。
「まだですよ、それ処じゃないじゃないですか」
貴方達を心配してたんですよと、ラネットは眉間に皺を寄せ、小さい子に言い聞かせるよ言うにウルカへ注意している。
そこには折角の雰囲気を壊された苛立ちも、多少は混ざっているかも知れない。
「ご飯の方が問題。こっちは些事」
「そうだな、取り合えずご飯に取り掛かるか」
続いてネコロと山田まで、それよりご飯だと言い出すと、ラネットの眉間の皺が更に深くなった。
危険な任務を乗り越え帰宅すると、自分の身を心配して一人寒空の下、愛する女性が心を痛めながら待ち続けて居たのだ。これって感動的な場面ではなかろうか。
流石に抱き合うまでは行かなくとも、もう少し情緒が有っても良かったのではと、ラネットは憤慨しだす。
(私がどれだけ心配して居たかも知らないで!どうせ四人も私の事を、無駄に心配しすぎだって呆れてるんでしょ)
家の中で平気に過ごしてる皆への不満も合わさり、みんなへの鬱憤が心に溢れ出してくる。
そう思うと、何時もニコニコのベアーネの笑顔にまで、何かの含みを感じてしまうから不思議。そして山田は全然その辺りの機微に気付かない。学校では教えてないので仕方ない。
「次から俺の帰りは気にしないで、ご飯にしていいから」
だからこの様な言葉も、彼は平気で吐いてしまう。
「わかりました!直ぐに夕飯の準備をすればいいんでしょ!」
可愛さ余って山田の発言にカチンと来たラネットは、そう言放つとズンズン足音を響かて家の中に消えって行った。
「怒ってたな」
「おこってた!」
「お腹が空くと怒りやすくなる」
「うふふ、ラネットちゃんは食いしん坊ですね」
乙女の内心を知らぬ者、知っても敢えて素知らぬ振りをする者。
そんな四人は肩を竦めると、ようやく家の扉をくぐり、帰宅を果たした。
家に入ると既に本日の工作教室は終了し、家の中はキレイに片付いて居たので、速やかにお食事タイムとなる。
速やかに準備された料理達は、お腹を空かせた雑種達によって、速やかにちゃぶ台上のから消えて食事は終わる。
どこかぷりぷりしたラネットの機嫌も、食後に皆へ行た合成強化が終わる頃には直ったらしく。
「余り心配かけない下さいね」と微笑んで見せ、食の偉大さを山田は改めて認識する事になった。
食後は居残り組が工作した作品を、山田に見て見てと押し付けて来る。顔面に押し当てられると見えないから、離れて離れてと山田が訴える様子が広間で繰り広げられていた。
その広間の一角に古びた剣やナイフ、その他諸々の荷物を広げてる一団が居る。彼女達は戦利品を手に取りながら、あーだこーだと意見を交わし合っている。
ベアーネはトコトコと一団に近寄ると、剣を片手に何やら観察しているタイアーへ話しかけた。
「タイアーちゃん、これってさっきの人達の?」
「ん、そうだぜ。でも、あまり状態の良い物じゃねーな。見ろよ、けっこーボロいぞ」
そう言って剣を掲げて見せると、確かに刃毀れやサビが多い。手入れの杜撰さが伺える上に、どうにも年代を感じる劣化も見られる。
刃の部分を思いっきりひっぱたら、柄の部分からスポッと抜けそうな気さえした。
ベアーネは全部この調子かと残りの品に目を向けると、最近よく見る銅銀の硬貨に気が付いた。
「お金もあったんだ」
「あぁ、盗人だらけのスラムじゃ、基本的に全財産持ち歩く奴が多いからな。全部で35万あったぜ」
「うぇ!樹海に行くより儲かるの!」
ベアーネは戦利品を見て、毎日樹海まで遠出するより、スラムでチンピラ狩りした方が美味しい事に気が付いた。弱いし沢山いるのだ、
(すごい、毎日やれば沢山お金が貰えるよ。チンピラさん私見直しました!)
彼女はチンピラの評価をグングン上げて、明日から彼等へ向ける視線を、もっと優しいものへ変える事を決意する。
その様子を隣で見ていたタイアーが、顔を顰めて口を開く。
「なに考えてるか予想が付くが、ダメだぜ。樹海の魔獣と違ってあいつ等はそんなに数が居ねーしな」
「え?でも、沢山見かけるよ?」
ベアーネは山田と出会う前、スラム内で方々漁っていた頃に見かけた、大勢のスラム住人の事を思い出す。
「そーいうのは大抵毟られる側の弱者だ、金も装備も無い奴等さ。今日俺らを襲ったのは、毟る側の連中が集まってたって事だよ」
「じゃー探しても・・・」
「居ても少数だし、向こうから逃げ出すんじゃねーの。どっちにしろ山田と樹海に行った方が楽しいしな」
タイアーは年上だけあってスラムの事情に詳しいらしく、ベアーネの些細な夢を打ち砕いてしまった。
(やっぱりチンピラってダメなんだ)
上がったチンピラの評価をグングン下げたベアーネは、明日からも彼等へ冷ややかな視線を向けるのであった。
「それより、そっちはどうなったんだよ?」
タイアーがドーベルンとの話し合いの結果を聞いて来たので、ベアーネは重要な要点だけを抜き出してみた。
「えーと・・・取り合えず次からは殺してもいいって」
ベアーネが満面の笑顔でそう告げると。
「お、そーか。そりゃ楽でいいな」
タイアーも綺麗な笑顔でそう応じたのだった。
次の日。朝食を取ると、山田はウルカ達三人を連れて街へ買い物に行く。チンピラの落とし物を売り払う&市場調査の為、この日の狩はお休みである。
久しぶりの四人でのお出かけだが、三人には食料品などを持って先に帰って貰う。商店巡りに彼女達が同伴するのは、余り宜しく無いのだった。
「じゃ俺は店を回って帰るから、先に帰ってくれ」
そう言うと、しゅんとした様子の彼女達を撫でながら、広場での買い食いを勧めると、脇目も振らず一目散に広場へ駆けて行った。
「・・・食べ盛りの子供だし、しかたないよな」
一度も振り返らない彼女達に、ちょっとだけ負け惜しみじみた呟きが漏れた。
取り合えず手元のチンピラ装備をどう売り捌くべきかと、色々商店を見て回る事にする。
「ヤマダじゃないか。どうしたんだい、こんな時間に」
そんな時シャジィルに見つかったが、無視して商店を見て回る。
「ちょっと、無視するとかやめておくれよ」
彼女は、ぽよんぽよん言わせながら駆けて来ると、山田の眼前へ回り込む。
「これを見ておくれよ」
そう言うとデカい兜を目の前に突き付けて来た。
「もしかしてくれるのか?」
「ちがうよ、これあたしのなんだけどねぇ」
そう言うと兜を頭上に掲げて見せる。
「この兜がさぁ、入んなくなっちゃたのさ」
そのまま兜を頭から被ろうとする。
ガツン。彼女の牛角が、兜に空いた穴の縁にぶつかり乾いた音を立てた。
「本当はこの穴から角が出てくれる筈なんだけど・・・なんでだろうねぇ」
そう言いながら、じと目で山田の瞳を覗き込んで来る。
「今まで通った穴に角がひっかかって、兜が被れなくなっちゃたんだよねぇぇ」
シャジィルの視線から逃げる様に山田は目を逸らした。角開きの記憶は今もなお新鮮な思い出だ。
「兜は相応の依頼が無い限り被らないから、歪んだりしない筈なんだけどぉぉぉ。何が原因で角が通らなくなっちゃたんだろうねぇぇぇ」
逸らした視線を執拗に追って来るシャジィルから、視線を逸らしまくる山田。
言質こそ取られていないが、完全に山田敗訴の状況であった。
「ねぇ、どう責任取ってくれんのさぁ」
ずうずうしくも、そう言って、山田の肩に手を回すと、さわさわと二の腕や腰辺りに手を這わせて来る。
しかし防具の高さを知る山田は、罪悪感から、いやらしく体を撫で回すシャジィルの手を振り払う事が出来なかった。
何とか有耶無耶にすべく、目に付い兜をダシに話を逸らす為の話題を振った。
「シャジィルの兜は、どうやって直すんだ」
「これかい。知り合いの鍛冶師に持っていくんだよ、古い付き合いでね」
「鍛冶師に?その人は商業権を持ってるのか」
持ってるなら山田とも直接取引が出来る事になる。思い掛けず鍛冶師との伝手が出来そうな状況に、思わず期待が高まる。
「いや、持って無い筈だよ」
しかしシャジィルは、あっさり山田の期待を裏切り、しれっと言ってのける。しかもそれだと犯罪行為に当たる。
徴税システムの関係で、この国では商業権の無い商人以外の取引は、原則禁止されている。個人で勝手に金を動かされては、税金の管理が出来ないからだ。
その為に商業ギルドが商人を管理し、その売り上げに応じた所得税を徴収するのである。その重要な決まりを、この牛女は平然と破っているのだ。
「多分それって脱税だから重罪だよな?」
「まぁホントは間に商人を挟まなきゃいけないんだけど、こんな小さな事まで一々気にしなくてもいいさ」
「ほんとかよ」
「常習じゃ無い限り、バレないから大丈夫。なんなら、あんたのそれも捌いてやるよ」
そう言うと鞄から覗くチンピラ装備を指差した。
取引とは間に人が入ると、途端に利益率が落ちるものである。武器の数を揃えたい山田は暫し悩み。
「お願いします」
そう答えた。伝手が欲しい事もあり、ここは乗るしかないと思ったのだ。そしてそれを聞いたシャジィルは妖艶に笑うと、強引に山田の肩に腕を回してその身を引き寄せる。
「くふ、まかせときな。今から案内してやるよ」
そう言いながら歩き出すと、伸ばした腕でお尻を撫で回し始めた。実に分り易いリベートである。
「そうそう、向こうではあたしに話を合わせなよ、面倒を避ける為にさ」
「・・・わかった」
拒否権の無い山田は、尻を触られながら大人しくシャジィルに付き従った。
(・・・もうお尻ぐらいいや)
どうせ減らないんだしと色々割り切った山田は、仲介料としてセクハラでの接待を容認した。
こうして彼は今日も大事な何かを無くしていくのだった。
ウルカ達三人は、屋台の串焼きを頬張りながら、スラムの家に帰る道を歩んでいた。
ベアーネはモグモグ口を動かしながら、周囲をキョロキョロ見渡している。
「・・・チンピラって探すと居ないね。ウルカちゃん、どう?」
「んーーー。いない!」
ベアーネに肩車されたウルカの、同じく周囲をキョロキョロ見渡しながらの答えに、ベアーネは溜息を漏らす。
「やっぱタイアーちゃんの言った通りだね」
「でもあいつら意地悪だからいない方がいい」
彼等には石を投げられる等の仕打ちを何度も受けていたので、ベアーネに反してウルカは清々した様に言い放つ。
隣を歩くネコロもウンウン頷いている。そもそもチンピラを探し求めるベアーネの感性の方がおかしかった。
「昨日の件が有るから、暫くはこの辺りには近づいて来ない筈。とても気分がいい」
「じゃー遠くまで探しに行けば・・・」
「探すのは難しい、臆病なあいつ等は逃げるし隠れる」
「そっか、なら網を張るか餌を撒いたら・・・」
「チンピラで生計を立てるのやめろ」
ネコロはチンピラビジネスに未練があるベアーネを、なんとか翻意させようと頑張っていた。
そんな時ウルカのケモ耳がピンと立つ。
「・・・聞こえる」
「ウルカちゃん?」
ケモ耳が左に右にぴょこぴょこ動き、びしっと一つの方向に固定される。
「こっち!」
そう叫ぶとベアーネの上から飛び降りて、突然全速力で駆けだした。
何かに駆り立てられる様に爆走するウルカ、その後ろ姿は飼い主の隙を突き、リードから解放されたワンコの如く見事な疾走であった。
「え、ちょっと!ウルカちゃんってば!」
「取り合えず追いかける」
こうして逃げ出した犬を追いかける様に、二人はウルカを追ってスラムの奥へ駆け出したのだった。
「ち、うっせーな。泣き止めって言ってんだろーが」
スラムの一角で傭兵がイライラしたように吐き捨てる、その眼前には小さな狐の雑種の姉妹が座り込んでいた。
「うわーーーん」
「も、もう殴らないで・・・うぅ」
泣いて居る妹のリサリィを背後に庇っている姉のフォリィは、鼻血を流しながらも、妹の為になけなしの勇気を振り絞っていた。
「う、うう。どうしてこんな・・・」
「だから荷物持ちに使ってやるから来いって」
「い、行かないって言ってるのに」
「あ、そ」
ゴンッ!
「あ、がっ!」
「お、おねーちゃん!」
傭兵の鉄片で補強された爪先が顔面に入り、フォリィが両手で顔を押さえる蹲った。
「いだ、が、あぁぁ」
痛みの余り地面に蹲る事しか出来ないフォリィ、その押さえた両手の隙間から血と折れた歯が地面に落ちる。
「いやーーー!おねーちゃん!おねーちゃん!」
その姿にパニックになったリサリィは姉に縋りつき、大声で泣きじゃくった。
「だから、うるせえって言ってんだろーが」
だがそれは、傭兵を余計にイラつかせる結果に成ってしまう。
「おらよ!」
傭兵は足を振り上げると、リサリィの背中を踏みつけた。
「ぎゃっ!あっ!」
何度も何度も足を振り下ろし、そのボロボロの衣服には、瞬く間に赤い血の滲みが広がりだしていく。
「いだっ!ひがぁぁいっ!」
「リサリィ!」
妹の悲鳴に気付いたフォリィは、傭兵の足にしがみ付いた。
「や、やめでっ!おねがい!おねっおねがいぃ!」
必死にしがみ付いて叫び続けると、ようやく傭兵の足は止まったが、リサリィはグッタリとし動かなくなっていた。
「あ、ああ、リサリィ、リサリィィィ!」
姉は這いずる様して妹に近づき、その体に縋り付いて泣き崩れる。
その傍らでは傭兵が、無表情で自身のズボンを見ていた。フォリィがしがみ付いた際、そこにべっとり付いた薄汚い雑種の血を。
「・・・きたねぇな」
傭兵は腰の斧へ手を伸ばすと、ゆっくりと鞘から引き抜いた。
「どの道もう使いもんになんねーし」
斧を大きく振り上げると、姉妹を輪切りにするべく勢い良く振り下ろす。
「二匹まとめて死んどけや!」
「おまえがしね!」
「ごはっ!」
傭兵の脇腹にウルカの飛び蹴りが突き刺さり、傭兵はそのまま吹き飛ばされて地面を削って行く。
「つぅ、てーなっ! 何だおめーはよ!」
脇腹を押さえながら身を起こした傭兵は、蹴りつけてきたウルカを睨み怒鳴り声を上げる。
「おまえ、なんでこんな事を!」
ウルカも負けじと、姉妹を苛めていた男へ怒鳴り返した。
「子供に酷い事するなバカ!」
「ガキはおめーもだろーが!・・・ん、もしかして前に森にで捨てた雑種共か」
「おまえなんかしるか!」
「はははっ丁度いい、ここで始末しといてやるぜ」
傭兵は手にした斧をウルカへ突き付け、殺してやると気勢を上げた。
「やれるもんならやってみろ!」
腰の剣を抜き放ち、ウルカは男の視線を真っ向から跳ね返す。
かつては怯えて隠れる事しか出来なかった少女は、過去の確執に今、堂々と立ち向かっていった。
作品をお読みいただき、ありがとうございます。
更新速度が低下しておりますが、がんばって執筆いたしますので
今後とも本作品へのご愛顧をよろしくお願い致します。
どーぞたのんます。




