21 そこに愛はあるのか
山田は餓狼王の勝利に浮かれ、周りでドヤ顔を晒す三人のステータスを調べると、頭の中で戦闘前後の違いを比較する。
ウルカ
レベル 1 → 10
身体 153 → 175
敏捷 160 → 181
魔力 62 → 78
べアーネ
レベル 1 → 15
身体 255 → 307
敏捷 91 → 131
魔力 75 → 105
ネコロ
レベル 1 → 12
身体 91 → 118
敏捷 224 → 257
魔力 70 → 90
(今までに無いレベルアップだ、それに能力値の上昇も大きい・・・しかし)
新たに、事前に調べた魔獣のデータを脳裏に浮かべる。
餓狼
レベル 24
身体 120
敏捷 180
魔力 80
餓狼王
レベル 38
身体 280
敏捷 270
魔力 150
このレベルの敵をあれだけの数倒しても、最高でレベル15までしか上がっていない。
以前山田が騎士やクマから逃げ回った時は、35まで上がった事を考えると、やはり雑種の成長速度が遅い事は間違いなかった。
山田公二
レベル 1
身体 1214
敏捷 1305
魔力 288
最後に自身のステータスと三人のステータスを比べ、改めて三人の能力値の低さに不安を覚えた山田は。
(せめて俺の半分位にはしたいよな・・・)
それが一流と呼ばれるクラスだと知らない山田は、気軽にそう考えたのだった。
一通り褒めた後は、疲労した三人の回復を兼ね、お昼休憩を行う事になった。
シャジィルは中層では危険だと渋ったが、疲れた三人を長時間歩かせるのは可哀想なので、多数決と言う無慈悲な手段でもって、彼女の意見を封殺する。
飯さえ食えればどうでもいいとばかりに、死体があふれる戦場の片隅で、皆で腰を下ろし食事と歓談を行う。
―――あたしは訳ありでね、普通の依頼は受けられないのさ」
「なんで? おっぱい大きいから?」
「なんでだよ!」
今回の依頼についての質問からの流れで、シャジィルが自身の事情を話すと、おバカがおバカな事を口走る。
そんなウルカの疑問の声に、笑顔のままのシャジィルが鋭く突っ込む。その様子からは雑種への差別意識など、微塵も感じられなかった。
「あははは、面白いね、あんたんとこの子は」
「すみません失礼な事を言って」
「いいって、伊達にスラムに住んじゃいないよ」
「スラムにお住まいで?」
「あぁ、あんたと同じさ。もっともドーベルンのじじぃに金なて払っちゃ無いけどね」
「・・・それは問題になりません?」
「ドーベルンの事だから、自分がスラムを仕切ってるなんて言ったんだろうが、スラムはデカい。奴が仕切ってるのはその一部、あたしは別庭だよ」
「なるほど、しかしなぜスラムなんかに? Cランクならもっといい所に住めるのでは」
「昔色々あってさ、目くじら立てる奴が多いんだよ。さらに傭兵だからって、傭兵ギルドへ矛先を向けるバカもいてねぇ」
「ありがちですね」
「傭兵ギルドには世話になってるから、迷惑を掛けたくないんだよ。・・・だらかアンタが変な事やってる様なら釘を刺そうと思ったんだけど、雑種でもこの強さなら納得だね」
そう言うとシャジィルは、隣に座るウルカの頭に手を乗せる。
「ウルカは強いよ。ヤマダが言ってた」
「疑ってわるかったよ、これからもよろしくなお嬢ちゃん
「おう、よろしく」
頭をガシガシされるウルカも、するシャジィルもどちらも、いい笑顔で笑いあっている。
相性の問題も有るだろうが、初対の時からこの二人は結構打ち解けていたが、ネコロは何時もの無表情で二人を見つめていた。
ウルカは基本的に誰とでも笑顔で接するし、ネコロは基本的に誰にでも無表情だ。
そして時と場合で表情が揺れ動くベアーネはというと、今彼女は眉間に皺を寄せシャジィルの事を伺っていた。
怒っている訳でも困っている訳でも無く、シャジィルを視界の中に捕らえながら、何やら思い悩んでいる様に感じられる。
そう今彼女は悩んでいた、戦闘前と後とで山田とシャジィルの距離感が近づいている気がするのだ。
その理由について彼女の勘は、シャジィルの何か内面的な変化が原因だと告げているが、しかしその方向性が分からない。
始めは山田に対する、目障りな程の馴れ馴れしさに、恋愛的な要素を警戒したが、どうにも違う気がした。
と言うのも接し方が雑で、相手を気遣う様子も無く、自分本位に振る舞っている。まるでねーちゃんに絡む酔っぱらいの様な無遠慮さだった。
あれでは何時嫌われても不思議では無い。好きならあんな行動は出来ない。あれではまるで、男の子同士のどつき合いだ。
(友情? ガサツな女が山田さんに友情を感じちゃったのかな? 私がヤマダさんに取る行動と、全然違うもん・・・それなら、うん、問題ないよね)
だからベアーネは間違えた。自分を基準に人間関係を見つめてしまった事で、シャジィルに山田への恋愛感情が見られ無いからと、彼女を安パイだと誤認してしまった。
山田の周囲で最も危険な女を、彼女は今、見逃してしまったのだった。
もっとも、シャジィルが山田に向ける愛無き肉欲の何たるかを、今だ恋愛初心者の彼女に理解しろと言うのは、いささか酷と言うものであった。
そんな貞操を狙われている山田もまた、眉間に皺を寄せベアーネを観察していた。笑うウルカも無表情のネコロも何時もの事だが、うんうん思い悩むベアーネの姿は珍しい。
何事かと観察し彼女の視線を辿るとシャジィルとぶつかり、自然とその大きさが目に入ってくる事で、山田は全ての答えを得た。
(なるほど、子供と言っても女の子だからな。色々聞きたい事とか有るんだろう。・・・大きくなる秘訣とか)
そんなウルカの純粋さが際立つ、三者三様の下世話な感情渦巻く休憩時間を、一つの雄叫びが引き裂く。
「ブフォォォォォォォーーー!」
木々にぶつかり拡散し反響しながら、樹海の奥から空気を振動させる波動が響く。その轟く勢いに反し、そいつはのっそりと森の中から如何にも大物ぶって現れた。
「ブルルルゥゥゥ」
巨大な角を掲げ、嘶きを発する巨大な躯体。じろりと睥睨するその視線には、山田達など虫けら程度の存在でしか無いという、上位者たる風格すら感じる。
「おい! 武器をよこせ!」
その魔獣の姿を認めるなり、シャジィルが焦りながら声を張り上げ、格の違いを感じた雑種の三人は、直ぐに山田の背後に隠れた。
「ウルカ、シャジィルさんに武器を」
「わかった!」
借り物なので返せと言われれば返すしかないので、山田は大人しく従った。
「取り敢えず、走れ! 私が時間を稼ぐ」
ウルカから剣を受け取ったシャジィルから、続いて指示されるが、それは別の話になるので山田は無視して魔獣へ走った。
「やめろ! そいつは中層でも別格だ!」
かかるシャジィルの静止を無視し、魔獣の前に飛び出すと向こうもヤル気満々で山田に応じて来る。
それは山田が初めて見る魔獣だった、まるで鹿の様な角に、まるで鹿のような顔付き、それに体付きはまるで巨大な鹿の様だった。すなわち鹿だ。
そのデカ鹿は頭を下げ角を前に付きだすと、猛烈な勢いで突進してくる。頭を差し出されると、つい鑑定しようと手が動いてしまう。
(鑑定してる場合じゃ・・・・・・いや、折角だしやっとくか)
よく考えたら鑑定は今後の役に立つと思いたち、そのまま突っ込んで来る鹿の頭に片手を当てると、ドシンと衝突音が響き渡る。鹿の突進力に押され、両足で地面を滑りつつも山田は鑑定を行った。
大鹿
レベル63
身体 687
敏捷 573
魔力 611
(行き成り強い奴が出て来たな。ウルカ達じゃ無理だし、様子から見てシャジィルさんにも難しいのか)
突進を抑えらえた大鹿が、頭をフリフリ角を当てて来るの。山田は手っ取り早く、頭をかち割ろうと剣を振り上げたが、ふと映画などで見る壁から生えてる鹿の首を思い出す。
(頭丸ごとの方が絶対高く売れる)
ならばと大鹿の角をヨイショと避けると懐に入り込み、一刀の下にその首を跳ね飛ばした。
シャジィルは剣を片手に、呆然とその戦いを見ていた。見て居る事しか出来なかった。
大鹿の首が落ちた時も呆然としたまま、山田の下に三人の雑種が駆け寄る様子も、どこかぼやけた意識で見つめていいた。
しだいに、呆けた意識が覚めて来るほどに、先程の情景が脳裏に思い浮かぶ。
Cランクでも即死すらあり得る突撃を、有ろう事か片手で止めて、睥睨するように様に大鹿を見下ろす。
そのまま頭へ剣を叩き込めば終わりの所を、あえてに角に守られた首を取る事で、格の違いを見せつけた。
最初から最後まで余裕しか無い戦いだった。
雑種が強いのだ山田も強いとは思っていたが、自身すら遥かに超えるあの強さは、完全に想像外だった。
先程までは強い雄を見つけ、シャジィルの嗜好が山田に興味を見出しただけだったが、今は違う。
欲しい!あの雄が絶対欲しい!そう本能と身体が彼女の全てが声を発し始めたのだ。
(あーあ、しらないよぉ。あたしをこんなにしちゃうなんてねぇ)
そんな事を思いつつも、こんな所で破廉恥な行為に走らない程度には、彼女も良識を持ってる。
なので、この位はいいだろうと、山田の全身に舐めるような視線を這わせ、実際に触れた時の感触を夢想して楽しんだ。
そんなお楽しみも、横わたる首なしの大鹿を視界に納めると、困った様に眉を顰め。
(こりゃ押し倒して、どうこうするってのは難しいねぇ。薬でもつかうか?)
女性として、いや人として最低な考えに至るのであった。
「ちょっと待ちな、こいつの肉は高く売れるよ」
大鹿の首を刎ねた後、その他の肉を捨てて行こうした山田へ、シャジィルが慌てて告げる。
「そうなんですか? では血抜きでもしますか」
「血抜き? ここで?・・・ここが樹海の中層だった事、忘れてないかい」
シャジィルは忘れてない、だからこそ欲望を抑え、真面目に傭兵をやっているのだ。少なくても表面上は。
「詳しくは知りませんが、直ぐにしないと血が固まってしまうんじゃ?」
「それはそうだが、魔獣が寄ってくるぞ」
「好都合なのでは?」
シャジィルは思わず頭を抑えた、彼女の知る中層の狩りは、大物との戦闘後は一旦撤退が基本だった。
成果の確保と消耗した戦力回復の為で、その場に留まり連戦するなんて危険、普通のパーティーは冒さない。
大物と連戦なんて事になれば、すべてを捨てて逃げ出すか、最悪パーティーの崩壊もあり得るのだ。
「まぁ血抜きと言っても、やった事が無いので、ご指導願いたいんですけど」
「・・・好きにしな、こうなったらあんた等に最後まで付き合うよ」
暢気に血抜きなんて言い出す山田の余裕っぷりを目の当たりにしたシャジィルは、腹を括ると血抜きについての手解きを始めた。
「ギルドでは、魔獣の肉は食えないと聞いたんですけどね」
木にロープで吊られる、血溜まりの上にぶら下がる大鹿を見上げ、手持無沙汰に山田が呟く。作業当初は魔獣の襲来も頻発したが、十回を数える前に沈静化した。
周囲の魔獣が尽きた暫くは来ない、とはシャジィルの言で有るが、そんな物知りな彼女への質問でもある。
「大型の魔獣や、魔核と呼ばれる魔力が蓄積される部位、そいつの場合は角だが、それが体外に有る魔獣は肉が魔力に侵されてない部分は食用になる。
「ま、Eランクには無縁な話だからね、規約と一緒で一々そこまで説明なんてしないさ」
「規約は説明した方がいいと思いますけど」
「ははは、Eランクがどれだけ死んだり辞めたりすると思ってんのさ、Dランクになる奴にだけ教えた方が手間も少ないだろ。・・それより」
ずいっと身体が触れ合う距離まで身を寄せると、くいっと顎に指を添えられる。
「いつまで他人行儀なしゃべり方してんのさ、ともに戦場を駆けた仲だろう」
「駆けて無い様な気がするが、・・・まぁそっちがそう言うなら」
返事を返しつつも、山田としては現在の体勢の方が気になった。
顔がくっつく程の距離である、その所為で大きい彼女の大きな部分が山田の肩から胸にかけて、ふよんと押し付けられている。
(この、当ててんのよは、色仕掛けの積りか。もしかしてあの大鹿、相当な御値打ち物とか?)
ちらりと雑種三人が、お肉お肉言いながら、はしゃぎ見上げている、大鹿へ視線と向ける。
「あたしのコイツを目の前にしても、あんな小娘共が気になるかい」
するとその様子に何を勘違いしたのか、シャジィルはムっとしながら、さらに大きいを押し付けて来た。
「あんたの三人への態度を見るに、他の人間と違って獣族への偏見、嫌悪感が少ないんじゃないかい」
「まぁ正直ないかな」
「なら今のこの状況、不愉快に感じて無いって事でいいんだね」
いいながらシャジィルは、自前の大きいをグイグイ揺すってくる。
「不愉快とかは無いがその狙いが怖い」
「くくく、女がこんな事する狙い何て一つしかないだろうに」
(この状態から急所攻撃する人も居るけどな・・・)
シャジィルの手が、艶めかしく山田の後頭部を抱き込もうと動く。
「シャジィル、血が止まった! もう食べるか? 焼くか?」
そこにウルカが大声と共に乱入し、シャジィルの腕をグイグイ引っ張る。
男女の雰囲気なんのその、ウルカは尻尾をブンブンさせながら、食うかそれとも食べるかとシャジィルへ迫って来る。
これには流石のシャジィルも気勢を削がれ、ため息を付きながら山田から身を放すと、ウルカの頭をガシガシ撫で回す。
「こんな所で食える訳ないだろう、持てる様に分けてさっさと撤収だよ」
言いながら、こいつらなら普通に此処で食えそうだなと思いつつも、これ以上精神的に疲れたく無い彼女は、街へ戻るように話を持っていくのだった。




