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惚れた病と湯花の香り

春、桜が舞う季節の人事異動で群馬県民となった。


人生初の単身赴任がスタート。


仕事も自炊や家事などの生活も落ち着いてきた、梅雨明けの初夏。


「kou、久しぶり!元気?群馬での単身生活はどう??」


咲良からのLINE。


「久しぶりだね。群馬は自然も歴史もいろいろあって良いところだよ。少しは寂しさもあるけど、いろいろ楽しめてるかな。」


「そうなんだ。良かったね。私はね…9月から韓国に転勤になったの…」


「えっ、韓国?転勤??びっくり!さすが、出来る女は違うね~」


「そうでもないんだけどさ。いろいろ大変なのよ」


「そっか。でも、いずれにしてもご栄転でしょ?だったら、壮行会しないとね!」


「うん。ありがとう。最後に、日本の温泉に泊まりたいな。わがまま言って良い?」


「もちろん。群馬は温泉がたくさんあるからね。じゃあ、草津温泉の宿を探しておくね」




そして、当日。JR高崎駅で待ち合わせ。


新幹線で来る咲良をKICKSで迎えに行く。


「群馬県へようこそ。」


「群馬って、意外と近いんだね。あっという間だったよ。」


咲良を助手席に乗せる。


「kouが運転する車に乗るのなんて、大学生の時以来だね。」


「懐かしいなぁ。小樽の毛無山まで夜景を見にドライブしたり…」


 ~あの頃を懐かしむ二人~


「新幹線で1時間、車で1時間来るだけで、都会とは景色がこんなに変わるんだね。」


「そうだね。この景色、なんか少し北海道を思い出すね。」


草津温泉までの心地よいドライブ。


 ~二人の時間が、あの頃に戻り始める~




そして、草津温泉へ。


「あー、いつもテレビで見る湯畑だね。」


湯畑を見てはしゃぐ咲良。


 ~長い年月を経ても、あの頃の面影が大きく残る~


「もう昼過ぎだけど、何か軽く食べる?それともビールでも飲む?」


「うーん。お酒は夜まで我慢。夜はいろいろ話したいこともあるし…。でも、夕食まではたくさん観光しよう!」


「了解。湯畑と湯もみだけじゃなく、裏草津とか西の河原とかいろいろあるみたいだから、行ってみよう!」


「裏草津って、なんだか落ち着いてるけど、新しさも感じる雰囲気だね。」


「そうだね。あっ、見て足湯とかあるよ。あと、顔湯だって!」


「美肌に効果があるみたいだよ。でも、化粧が落ちちゃうね。咲良はもうこれ以上美しくならなくても良いんじゃね?」


「ふふふっ。相変わらずお上手ね。」

 



「川が流れてるね。温泉なのかなぁ?触ってみようっと」


咲良が湯の川に手を入れてみる。


「あっ、あったかい。自然の足湯になるよ。」


「ほんとだ。ちょっとたくさん歩いたから、少し休もうか。」


「ねえ、kou。覚えてる?アメフト部の夏合宿が終わった後、同期みんなで露天風呂に行ったの。」


「もちろん覚えてるよ。朝から夜までアメフト漬けの生活からの解放感や達成感の温泉!だけど、生傷が少し染みるやつ。」


「あの時までは、露天風呂は雪景色の冬の風物詩だって思ってたの。でも、あの真夏の露天風呂に入った時、夏の温泉が素晴らしいってことに気がついたんだ。」


「そんなこともあったなぁ。まあ、青春が詰まった日々だったからな。」


「そうよね…」


「さーて、そろそろ宿に行こうか」




宿に到着し、風情のある和室に入る。


「素敵な部屋。しかも、部屋に露天風呂もあるの?贅沢~」


「まあな、咲良の壮行会だからな。」


「ありがとう。しばらく日本に帰れないかもしれないからさ…本当に嬉しい。」


「ご飯にする?お風呂にする?それとも…」


「はいはい。夕食まで少し時間があるから、大浴場に行きましょう。」




そして、夕食は部屋食。


「さて、お風呂も最高だったし、いよいよ夕食だね。」


「素敵な和食懐石ね。美味しそう。」


「何飲む?ビールにする?」


「日本を離れて韓国に行くから、今日は日本酒を飲みたいな。いい?」


「OK。じゃあ地酒が良いよね。浅間酒造の『秘幻』にしよう。」


 ~秘幻。夢のような幻ような、二人の時間。~


「それで、韓国行きはどうなの?チャンスなの?それとも、本当は行きたくないとか?」


今日、咲良は仕事の話を一切していない。


「うん。チャンスはチャンスで楽しみなんだけどね。でも、外国だから不安も大きいし…」


「まあ、たしかに不安はあるよね。俺なんて、群馬に来るだけで、不安と期待が結構大きかったから。」


「それとね…彼氏が反対していてさ…仕事を取るなら終わりにするって…」


「そっか。今の彼とは結構長いもんね。彼とはさ、将来も考えていたの?」


「まあね。バツイチの40手前だからさ、ラストチャンスかなとか、いろいろ考えてたよ。」


「そうだよな…それにしても、日本酒『秘幻』、美味しいなぁ」


 ~二人の時間は、現実に戻る~


「やっぱりダメね。恋で悩んだり、将来に悩んだときは、ついkouに頼っちゃう。もう甘えちゃいけないんだってわかってるし、いつも言い聞かせてるんだけどね。」


「そんなこと言ったら、俺のほうがダメだよ。そんな権利もないし、愛してるとは少し違うんだけどさ。いつでも頼ってほしいし、咲良の特別でいることが嬉しいし。」


「kouとは久しぶりに会っても、時が流れていても、いつでもあの頃に戻れるの。大人のプライドも捨てて、遠慮も捨てて、本音の自分でいられるの。」


「俺もそうだよ。あの頃から、ずっと変わらない。いつでも前向きで一生懸命な咲良を応援したい。咲良が韓国に行ったって、電話もLINEもあるんだから。遠慮しないで、いつでも連絡してほしい。それが俺の喜び、そして誇りだから。」


「そんな優しいこと言っちゃダメなんだから…そんなこと言ったら、本当に頼っちゃうんだから…」


「わかってる。大丈夫だから。咲良…こっちにおいで…」




二人の間の特別な距離感。

それは、あの頃から続く惚れた病。

泉質の効能高き草津温泉。

草津の湯でも、二人の惚れた病は治りはしない。

草津のお湯の中には花が咲く。

湯花の香りで花が咲く。


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