第3話 私が……変態みたいじゃないですか……!
「早戸さ~ん! 一緒に帰りましょうですわー!」
「……ぅ」
またかぁ。
都城さん、いつも私と一緒に帰りたがってくる。
断るのも変だし、いつもは流されるように一緒に帰っているけど……
「今日は一緒に帰らないから」
「えっ!?」
青天の霹靂と言わんばかりにショックそうな表情を浮かべる都城さん。
「な、ななな、なにかご用事でも?」
「んーん。別に用事はないけど、今日は駄目」
「ぁぅぅ……」
泣きそうな顔を浮かべないでほしい。
つい手を差し伸べたくなりそうになってしまうから。
「それじゃそういうわけだから」
「ぁぁ! 陽菜ちゃま——じゃなくて早戸さぁぁん!」
手を伸ばして悲しげな顔をしている都城さんを置いていくのは少し気が引けるけど、今日は駄目なのだ。
後ろ髪引かれる思いはあったが、私は一人で教室を出て行った。
「(……今、都城さん、私を『陽菜ちゃま』って言わなかった?)」
気のせい……だよね。
*
靴を履き替え、校舎を出る。
少し駆け足で出たのだが、後ろから走ってきた人に追いつかれる。
「おーい! 陽菜~! 待ってよ~!」
「あ、ミサ?」
木原ミサ。
私のクラスメイトであり、親友。
茶髪のポニーテールが特徴な元気な女の子だが、実は運動苦手な女の子。
私に追いついただけでぜぇぜぇと息を切らしていた。
「どうしたの? 何か用事かな?」
小首を傾げる私。
「……はぁはぁ……いや、陽菜が珍しく一人で帰ろうとしているから……た、たまには……ぜぇぜぇ……一緒にと思って……」
「そっか。いいよ。教室で声かければよかったのに」
「いや、あの空気の中、声かけられるわけないって」
「あの空気?」
もしかして私が都城さんとの下校を断ったことだろうか。
まぁ、そうだよね。私程度が皆の憧れの彼女の誘いを断ったんだもん。そりゃあ気まずくもなるか。
「都城さん。悲しそうだったよ。いいの? 一緒に帰らなくて」
「まぁ、悪いことしちゃったなとは思うけど、今日は駄目だったの」
「なんで?」
「なんでって……」
それは酷く私的な理由。
都城さやかの誘いを断るにはあまりにも弱すぎる理由。
でも私にとっては譲れないことだった。
「……臭い……もん」
「え?」
「体育があったのに……制汗スプレー忘れちゃって……その……汗臭いって……思われちゃうと嫌だから……」
「……」
ミサがなぜか呆れた表情でこちらを見てきている。
「な、なによ!?」
「……いや、都城さんはそんなこと気にしないよ?」
「私が気にするの!!」
「むしろ都城さんは喜ぶんじゃないかな?」
「そんなわけないでしょ!?」
汗臭い女の子を喜ぶ才女がどこにいる。
ともなく、彼女の前に立つにはちゃんとした自分じゃないと嫌だ。
常にいい匂いじゃないと彼女の前に立ちたくない。
「ねえねえ」
「なに?」
ミサは私の隣に並び、顔を覗き込むように見上げてくる。
ミサは無邪気な笑顔を向けながら、とんでもないことを言い放ってくる。
「陽菜と都城さんって付き合ってるんだよね?」
思わずずっこけそうになった。
ミサが慌てて私を支える。
「な、ななななな……!」
「付き合ってどれくらい経つの?」
その言葉に私の脳はショート寸前になった。
「付き合っているわけあるかぁぁぁぁぁっ!」
多くの生徒が下校する校舎前で、私は力の限り否定の叫びを轟かせたのであった。
*
【main view 都城さやか】
一人で寂しく帰宅した私はベッドの上にドスンと腰を下ろす。
断られた。
早戸さんに一緒に帰ることを断られた。
なぜですの? どうしてですの? 私のこと嫌いになっちゃった? 嫌いになられないように細心の注意を払ってきたのに、どうして?
「(もしかして……ストローの件がバレたですの?)」
早戸さんは毎日昼休みにパック牛乳を飲む。
彼女が飲み終えたパック容器と飲むために使ったストローをこっそり持ち帰っている所を見られた?
「(いえ、そんなはずはないですわ。決してバレないように回収はできたはず……!)」
でも今後は早戸さんのストローを回収するときはより注意することにしよう。
「(はっ! もしかしたら香りの件ですの!?)」
早戸さんが珍しく体育の後に制汗スプレーを掛けていなかったから、忍び足で彼女の背後に回ってスメルを楽しんでいたことに気づいていた!?
もしそうなら……大変ですの。
そんなの……そんなのまるで……
「私が……変態みたいじゃないですか……!」
他にも早戸さんにバレたら嫌われそうなことはたくさんある。
でも……
でも……!
「自重できないのですから……しょうがないじゃないですかぁ……!」
私はベッドの上で手足をバタバタさせながら泣き喚く。
途中、すっと立ち上がり、カバンの中からストローを取り出し……
「ん~~~~~~~! ぶちゅー!」
ストローの先端にぶちゅとキスの嵐を降らす私だった。




