四年生-2
今日は週一回の居残り部屋を掃除する日だ。
旧校舎の地下という何年もほったらかしにされていた場所はどこもかしこもホコリだらけで非常に掃除甲斐がある。
部屋の構図は、入って真ん中はゲイルがどこかで拾ってきたソファとリリーが補強した大きい木の机がある。
右の空間はリリーが使用しており、いつも少し薬草の匂いがする。
左は私が使っており、いつ魔力を爆発させてもいいように先輩からもらった絶対防御の魔法陣を敷いている。
一番奥にゲイルの使っている空間があり、遊び道具がたくさん置いてある。居残り部屋の掃除によって被害のあった蜘蛛たちはゲイルの部屋に避難してそこで暮らしている。
ちなみにここは元は第四資料室という場所で、資料室という名の通りそこら中に本が詰まった本棚がある。
まぁその本も虫に食われまくって読みようがないのだが。
たまに絶版になってしまった本や過去にいた先生や生徒の日記帳などの掘り出し物があるので定期的に何が入っているのか確認している。
最近はここでの寝泊まりを可能にするために画策していたのだが流石に寮に戻れとロウガルド先生に叱られたのは記憶に新しい。
今は本の点検をしている。
本の間にお金が挟まっていることもあるので見逃さないように目を凝らす。
ここら辺にはないな。
さらに奥へと足を進める。
バキッ。
……え? バキ?
足が下に沈む。体が一瞬宙に浮いた。
「わあぁあぁぁああっ!」
古くなっていた旧校舎の床が落ち、私は地下のさらに奥深くへと真っ逆さまに落下した。
「ーーおーい、リナー!」
「大丈夫ー!?」
私が落ちた音を聞いて二人が様子を見にきてくれた。見上げると二人の姿がある。
「床がボロくて落ちたー! まだ地下があるんだけど、来てよー!」
「了解!」
ゲイルとリリーが魔法で降りる。
落ちた先は、旧校舎の最下層のようだ。
でもおかしいな。居残り部屋の周りに階段なんてないのに。
魔法で光を出して先へ進むとそこには、怪しげな魔法陣の名残りや古い研究資料が山積みになっていた。木漏れ日寮の四階を思い起こさせる。
「うわ、何ここ! 秘密基地みたいじゃん!」
ゲイルが目を輝かせて興奮している。男子はいくつになってもこういうのが好きだな。
「待って、何か変な気配がする……」
リリーが私たちの腕を掴む。
一際大きな扉の前には絵が描かれていた。黒い竜とたくさんの人間が祈っている絵。その真ん中には髪の長い人が竜に向かって手を掲げている。
その絵を見た瞬間、身体が引き寄せられるような気分になった。
ヨロヨロと、私の足は一歩ずつ前に進んでいく。
「ちょっと、リナ!」
呼ばれる声がする。足を止めたいけれど、頭がぼーっとして体が言うことを聞かない。
流れるままに足を進めることはもはや気分が良かった。
扉を開けて部屋の奥へ進むと、そこには青黒く冷たい光を放つ指輪があった。
その指輪に触れた瞬間、私の身体を流れる魔力が強く波打った気がした。
私の脳裏に映像が流れ込んでくる。
竜の咆哮、泣き叫ぶ女性の声、誰かの放った青い光。
ひんやりとした空気が私の頬を撫でた。
「ーーナ、リナ!」
「おい! しっかりしろ!」
ふと、先ほどまで水中にいるぐらいぼやけていた視界が焦点を取り戻す。
リリー、ゲイル? なんでそんな顔をしてるの?
二人にそんな顔をされると落ち着かない。
私は二人の笑顔が大好きなのに。
ぼんやり下を見ると、私の両手は凍っていた。
「ーーーーえ」
「急に部屋に入ったと思ったらお前凍ってんじゃん! 何してんだよ!」
「魔力が暴走してるのよ。リナ、あなた腕輪持ってる?」
リリーとゲイルが一生懸命に火を出して氷を溶かそうとしてくれている。
火型じゃない二人が懸命に火を出している姿を見て、胸が痛くなった。
「もっ、てる」
「貸してっ」
リリーが私のポケットから腕輪を取り出そうとする。私に触れている二人の指が少しづつ凍り始めていた。
「二人とも手が凍ってる! 一旦離れて!」
「嫌よ!!」
ゲイルがなんとか腕を溶かしてくれて、それに合わせてリリーが腕輪をはめる。
魔力が押さえられて部屋を侵食していた氷がスルスルと消えた。先ほどの光景が嘘のようだった。
「大丈夫? リナ」
「二人のお陰で、大丈夫、ありがとう」
「……なぁ、これって先生たちに見せたらヤバいよな」
ゲイルの見つめる先は指輪だ。
「そうね、そうだと思う」
「この地下のことも秘密にしよう」
指輪をポケットの中に隠す。
ゲイルの風を足場にして元の部屋へと這い上がった。




