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第二章 (2)

ちょっと一息

 週末、モッキンが休みの日曜日にケントがエミリーを散歩に連れ出すというので、ショウタも同行した。部屋の中に籠っていると憂鬱になるから、外で気分を晴らそうというケントの配慮だった。街の中心の方はごみごみと建て込んでいるため避けて、郊外の方に歩を進めた。春は天気が変わりやすく曇りや雨の日も多いが、その日は快晴で雲も少なく、澄んだ青い空が遠くまで続き、ところどころに浮かぶ白い雲がいいアクセントになっていた。

「晴れてよかったですねえ。春のこんな日は暑くも寒くもなく散歩にはちょうどいい」ショウタは足取り軽くケントとエミリーに話しかけた。

「ああ、そうだな、春は爽やかでいい」ケントがいつになく明るい声で相槌を打ったが、二人の会話をよそにエミリーは黙ってケントのそばを歩いていた。

「タテリカの里の春ってどんな感じなの?」

「タテリカの里は赤道に近いので四季はそんなにないんだよ。いつも蒸し熱く、雨季と乾季が交互にくる」ショウタはエミリーに訊いたつもりだったがケントに代わりに答えられてしまった。エミリーはケントを見上げながら、そうですねと軽くうなずいた。エミリーはやっぱり元気ないんだなとショウタは心配した。

「橋を渡った向こうに緑の多い公園があるから、そこに行きましょうよ。歩いてもそんなにかからないし」

「あの公園か。いいな、あそこは。そこに行こう」ショウタの提案にケントも賛成してくれた。

『森の公園』と呼ばれるその公園は、周りを木々が囲み緑が濃く、月に数回は通う程、ショウタが気に入っている場所だった。中央には大きな池もあり、その水は澄み、橋の上から覗くと泳いでいる魚も見えた。3人は池のほとりのベンチに腰を掛けて休んだ。

「弁当を作ってきた。ここでお昼にしよう」ケントがバッグから箱を取り出し蓋を開けると色鮮やかな具材を挟んだサンドイッチが顔を出した。

「あれー、マスターってこんなかわいい洋食も作れるんですね。刺身とか焼き鳥のイメージがあるから意外です」ショウタが驚いて明るい声を上げるとケントは苦笑いした。

「まあな、休日は洋食もよく作るよ。これはエミリーちゃんも作るのを手伝ってくれたんだ」隣でエミリーがにこりと微笑んだ。

「お世話になってばかりなんで、少しは手助けできればと思って」

「卵を茹でて、トマトとか野菜も洗って切ってくれた」

「それは楽しみ、じゃあ遠慮しないでいただきまぁす」ショウタは好物のトマトサンドに手を伸ばし頬張った。

「おいしい!マヨネーズと辛子の加減が絶妙です」ショウタは満面の笑顔でエミリーの方を見た。エミリーが目をショウタに向けて微笑んだ。からっと晴れた日の木陰、爽やかな風が頬に当たり、心地よい鳥のさえずりが聞こえた。困ったことを忘れることができるいい時間だった。

「ここの木々は幸せそうですね。皆、生き生きとしている」エミリーが池の向こう岸の森を眺めながら言った。ショウタはエミリーが少し元気になったようで嬉しかった。

「ここの公園の歴史は古いって聞いたよ。もう数百年もここにあるんだって。森に囲まれ、鳥が舞い、池と川にはきれいな水があり魚が泳ぐ。いい場所だよね」淡々と語るショウタを見てケントが笑った。

「ショウタ君がこんなに自然が好きだなんて知らなかったよ」

「飲み屋で飲んでいるだけじゃないんですよ、俺だって」ショウタも苦笑いした。


 ランチを終えて再び3人は園内を散歩した。太陽は相変わらず大きく、赤い日差しを注いでいたが、木々の枝葉が折り重ねって遮ってくれるので木陰は涼しかった。見上げると緑の葉の重なりと日差しが織りなす模様が美しかった。エミリーがもっと木々に触れたいと言うので道を少し外れて森の中に入ってみた。木々の中でもひときわ大きな木を見つけるとエミリーはそこに駆け寄り大きく手を広げて幹に抱きついた。エミリーの無邪気さと大胆さにショウタは少し驚いた。そんな不思議なエミリーを見ていると、彼女の体から何か波動のような、力のようなものをショウタは感じた。それはちょっと光を帯びているようにも見えた。オレンジ色のほのかな明かり。エミリーは幹に抱きつきながら顔を上げ瞳を閉じてじっとしていた。最初は少しこわばっていた彼女の表情は時間が経つにつれ微笑みだし、やがては大きな笑顔に変わった。エミリーを少し離れて眺めていたショウタが隣のケントにささやいた。

「エミリーちゃん、なんか嬉しそうですね」

「ああ。よっぽど木や自然が好きなんだな」

「少し元気になったようで安心しました」

10分程、木に抱きついていたエミリーが小走りでショウタ達のところに駆け寄ってきた。その顔はくしゃくしゃと笑っていて、ボールを拾って喜んで帰ってくる子犬のようだった。

「ここの木々は素敵ですね。皆、生き生きとしています。木も私を気に入ってくれたみたいです。木の枝に止まっていた鳥も優しく声をかけてくれました」

「それはいい出会いだったね」とケントが答えるとショウタも続いた。

「エミリーちゃんがここを気に入ってくれて嬉しいよ」

日が陰ってきたので3人は家路についた。途中、街を流れる川の土手の上を歩いているとエミリーが足を止めた。

「このツタ、この地のものではないですね」足元の道の端に蔓を伸ばしているツタの葉を見ながらエミリーが言った。エミリーは立ち止まりその場にかがんでツタの葉を取り上げた。そのときエミリーの顔が曇った。

「なんて気が立っているの、このツタは。こんな感情は初めて感じる……」エミリーが眉を寄せ険しい表情をした。


気が立っているツタって?

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