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第三章 (4)

ルミコのお父さんに会いに行きます。

 街の中心から車で東北方向に進むと白い塀に囲まれた大きな屋敷があった。ルミコの父、フジナミの屋敷は街の中心と産業技術研究所とのちょうど中間あたりに建っていた。ケント、ショウタ、ソフィア、エミリーが乗ったその車はリョウヘイがハンドルを握っていた。リョウヘイの高校時代の同級生がフジナミの秘書をしていて、面識があるとのことで、今回はリョウヘイが率先して車の運転を買って出た。

 屋敷に着くと5人は応接室に通された。華美ではないシックな自然の木材を基調としたインテリア。広いながら落ち着く居心地のいい部屋だった。既にそこにはルミコがいた。

「いらっしゃい。そこに座ってください。パパはじき来ると思います。パパには一通り事情は話してあります。私の頼みならということで会って話してもいいと言っていました」

「ありがとう、ルミコちゃん。無理を言ってすまなかったね」ケントがお礼を言った。部屋のドアが開いて二人の男が入ってきた。先に入ってきた男は品のある初老の老人だった。きれいにまとめた白髪に黒いスーツが似合い底知れぬ威厳が漂っていた。後に40歳位の細身の背の高い男が続いた。その男は黒髪を七三に分け丸眼鏡をかけた顔は几帳面で真面目そうに見えた。

「いやーお待たせしました。いつもルミコがお世話になっているようで、ありがとうございます。私がフジナミです」初老の男性が皆の正面に腰かけながら言った。

「秘書のナカエです。リョウヘイさんお久しぶりです。同窓会以来ですね。もうかれこれ10年前になりますかね」細身の男がリョウヘイの方を見ながら言った。

「ナカエさん、お久しぶりです。お変わりないようですね」

「お蔭様で変わらず元気にしています。社長、私、こちらのリョウヘイさんとは高校の同級生なんです」

「そうなんだ。これまた奇遇だねえ」とフジナミが言いながら笑った。その笑い方にも品があった。

「今日はお時間を頂きありがとうございます」ケントが丁重な口調でお礼を言った。

「ルミコにどうしてもと頼まれましたからねえ。この子は私どもの一人娘でしてね。上に二人の兄がいるのですが、やはり娘は可愛くて。私はこの子の言うことには逆らえないんですよ。ところでそのお嬢さんがエミリーさんですか?」

「エミリーといいます。イーグサンドのタテリカの里から来ました」エミリーははきはきとした声で答えた。

「ごめんなさい。タテリカの里というところは知らないです。お父さんとお兄さんを探しにこのカリハまでお出でだとか」

「はい。エミリーさんのお父さんとお兄さんはカリハに仕事で来ているのですが1年間、音信不通だったので心配してエミリーさんは追いかけてここまで来たのです」とエミリーに代わりここからケントが受け答えをした。

「なるほど。ルミコに聞いたのですがご父兄は産業技術研究所にお勤めなんですって」

「はい。そこまでは突き止めて、ご父兄に会うことも先日できました。しかし彼らは守秘義務があるそうで、家族と連絡することも、外に出ることも、ましてや家に帰ることもできないでいます」

「そうなんですか」

「彼女はどうにかご父兄に家に戻ってきてもらって、再び一緒に生活をしたいと願っています」

「エミリーさんはまだお若い。お父さんやお兄さん、家族と一緒に暮らしたいですよね。ルミコのことを想うと私にもわかります」フジナミが同情の言葉を口にし、ショウタは少し希望が見えた気がした。

「ご父兄に戻ってきてもらうためには、産業技術研究所に許可をもらう必要があります。しかし産業技術研究所の対応は冷たかったのです。フジナミ社長はコンフォス財団の団員だとお伺いしました。産業技術研究所の事情を何かご存じかと思い、今日、お時間を頂戴しました」

「ルミコからもだいたい話は聞いています。しかし残念ながら産業技術研究所の内部のことを私はほとんど知らないのです」

「産業技術研究所はほぼコンフォス財団の資金で運営されているんですよね。そうであれば団員のフジナミさんはお詳しいかと思ったのですが、ご存じないのでしょうか?」

「確かにコンフォス財団は産業技術研究所に出資しています。その目的は世界の産業振興のために新たな工業技術を開発することです。一企業ではできないようなお金がかかり高度なことを開発してもらっています。もちろん開発内容と結果については半期に一度の報告会があり、コンフォス財団も出資者という立場でその内容を確認しています。しかし詳細な方法や人員のことは産業技術研究所とコンフォス財団のしかるべき部署に一任しているため私は関与していないのです」

「先日、ご父兄に会ったときに、何の仕事をしているのかの話は守秘義務があるため話してもらえませんでした。産業技術研究所に物資を納入していた業者の知り合いも何を開発しているかは知らないとのことでした。コンフォス財団で報告を受けているということはフジナミ社長は開発内容をご存じなのですか?」

「産業技術研究所で開発しているテーマは一つではなく複数のプロジェクトが進行しています。それぞれのテーマと状況は報告会で報告されています。テーマ毎に秘密レベルに差はあるのですが、ほとんどのテーマは社外秘扱いになっています。それは成果を出資者が使用する権利を担保するためです。内容が漏れれば他の者にかっさらわれるリスクがありますからね」

「結局、コンフォス財団は公共のためではなく団員のための組織ということですね」とソフィアが追及してもフジナミの余裕のある表情に変化はなかった。

「各団員は少額ではない、それなりの金額を出資しているのですから、見返りを得るのは当然の権利だと思いますが」それが金持ちの論理かと思いショウタの中に嫌悪感が沸いた。

「それにしてもコンフォス財団の出資額は莫大ですよね。国家予算の防衛費や産業振興予算に匹敵するような額だ。その額に見合う成果を見込めるのですか?そしてコンフォス財団の団員は企業ではなく、あなたのような経営者など資産のある方々、個人だ。個人でなぜそんなに巨額の出資をされているのですか?産業振興のためであれば企業で出資すればいいのではないですか?」ソフィアの追及は続いた。

「私たちは成果が出るという確信の元に出資している。企業ではなく個人で出資しているのは、企業で出資するには役員や株主の承認が必要でしがらみが多く大胆なテーマにはチャレンジしずらいからです。また企業には情報を開示する義務かあるので秘密のテーマには出資ししずらい。大胆なテーマを遂行するには個人の裁量で行った方がいいのです。企業でカバーできないことを成し遂げるというのがコンフォス財団の趣旨なので個人の責任で運営しているのです」

「要はお金持ちのための集まりということですよね。庶民のことなど考えていない」とソフィアが嫌味を言うと少しフジナミが少し声を荒げた。

「失礼な。産業技術研究所はこの地で多くの雇用を生み出しているのはご存じでしょう。そして我々は開発の成果で新たな産業を産み出し、その産業が人々の生活を豊かにし、新たな雇用も産むと考えているのですよ。今日の話は研究所の開発内容のことなんでしょうか? 私はその子のお父さん、お兄さんの話だと娘からは聞いていたのですがね」フジナミはしつこいソフィアに嫌な表情をした。

「話がそれて申し訳ありません。フジナミさんはお父さん、お兄さんのことはご存じないでしょうか?」とケントが訊いた。

「残念ながら知りません。お父さん、お兄さんはお国では何をされていたのですか?」

「農業と牧畜です」とエミリーが答えた。

「そうですか。残念ながら産業技術研究所の開発テーマには農業、牧畜関係のものはないですね。報告でも聞いたことがない。そのご専門でなぜ産業技術研究所で仕事をしているのですかね?」

「そうなんです。それがわからないのです。何か植物のことで心当たりはないですか?」とケントがたずねた。

「植物ですか?産業技術研究所で植物は何か関係あるかなあ。敷地の中には木が生えていて、綺麗ですけどね。あそこは元々牧草地や森だった場所を切り開いて建てたのですが、自然をなるべく残そうという趣旨で、残せる木は残し、後で植樹もしているはずです」

「確かに先日伺ったとき周りに緑は多かったですね」とケントが言った。

「そういえば先日、街で動く植物が住宅街に入って騒ぎになっていましたね。あれは関係ないとは思いますが……」とフジナミが思い出したようなそぶりを見せた。

「私たちも現場に行きました。植物が動き回るのを間近で見て驚きました。植物が何かを要求しているようにも見えました」

「植物が来襲しているのはこの街だけで他の地域に来ているという情報はありません。この街に来る理由があるのだと思うのです。それは産業技術研究所ということはないでしょうか?」ケントの言葉に続きソフィアが鎌を掛けた。

「あの植物は何かを要求しているのですか?初めて聞きました。この街だけに来ているとしても産業技術研究所が原因とは限らないでしょう。他の理由があるかもしれない。それが何なのかは私は知りませんが」

「パパ、産業技術研究所の詳細を知らないとしても、誰か知っている人を紹介することはできないの?お父さんやお兄さんと話もできないエミリーちゃんが可哀そうだから助けてあげて」ルミコが甘える声でお願いすると、少しフジナミの顔も緩んだ。

「先日、産業技術研究所の調達部長と人事部長にお会いしたときに父兄のことは知らないと、とぼけられました。他にお話を伺える方はいらっしゃいませんか?」とケントが続けた。

「研究所長は私もよく知っていますよ。ご紹介しましょうか?」

「是非、お願いします」ケントは即答した。

「では先方に確認をとりますから。日時等の詳細は秘書ナカエと連絡を取り合ってください」

「ありがとうございます」とケントとソフィアがお礼を言った。

「会っても多くは期待できないと思いますよ。特に開発内容に関しては極秘扱いなので彼の口から聞けることはないと思います」ソフィアに向かってフジナミはピシャリと扉を閉じた。


 今回も得るものが少なかったなとショウタは失望した。エミリーもそう思ったようで顔つきが暗かった。そんな失望感とともに玄関を出て、重い足取りで車に向かいトボトボと歩いた。秘書ナカエとリョウヘイが旧交を温めているのか少し距離をおいて歩いた。ナカエがリョウヘイに囁くように耳打ちをした。

「あまり産業技術研究所のことを突くな。裏側には触らず、表側だけと付き合った方がいい」その声はショウタにも聞こえた。リョウヘイは空を見上げながら黙って歩いていた。


結局、産業技術研究所が何をしているのかは分からず。釘も刺されてしまいました。

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