第1話 ダメ出し未来予報、起動しました
朝は、だいたい失敗から始まる。
目覚ましが鳴らなかった。
いや、正確には鳴っていたらしい。
ただし、俺の意識に届かなかっただけだ。
「やばっ!!」
飛び起きた瞬間、俺の脳内で警報が鳴る。
――遅刻確定。
分かっている。
分かっているのに、なぜか布団を蹴飛ばす動きがワンテンポ遅い。
人はなぜ、確定演出を見てから慌てるのか。
制服を掴み、階段を駆け下り、食パンを口にくわえ――
「待て待て待て!」
自分で自分にツッコミを入れる。
この時代に、食パンくわえて走る高校生がいるか。
いるわけがない。
俺だ。
玄関のドアを開けた、その瞬間だった。
――ピロン。
頭の中で、通知音が鳴った。
スマホじゃない。
耳でもない。
脳内に、直接。
【失敗予報:その靴で走ると、三十秒後に盛大にコケます】
「は?」
思わず立ち止まる。
……誰だ?
……今の?
……どこから来た?
俺は靴を見た。
右足の靴紐が、ほどけている。
「いや、まあ・・・」
ほどけてたら、そりゃコケるだろ。
当たり前すぎて、逆に怖い。
靴紐を結び直す。
「気のせいだよな」
再び走り出そうとした、その瞬間。
――ピロン。
【失敗予報:今の結び方だと、二百メートル先で再びほどけます】
「うるさいな!?」
思わず声が出た。
誰もいない朝の住宅街で、一人ツッコミ。
完全に不審者だ。
「何なんだよ」
もう一度、今度はきつめに結ぶ。
――ピロン。
【失敗予報:きつすぎ。授業中に血が止まります】
「黙れ!!」
俺は叫んだ。
空に向かって。
未来に向かって。
……いや、違う。
これは、未来からのダメ出しだ。
気づいた瞬間、妙に腹が立った。
「じゃあ、どう結べばいいんだよ!」
――ピロン。
【失敗予報:自分で考えましょう】
「腹立つなこの機能!!」
俺は深呼吸した。
一度、落ち着こう。
ほどよく結び直し、走り出す。
……今度は、何も鳴らない。
「勝ったな」
謎の勝利宣言をしつつ、全力疾走。
そして、角を曲がった瞬間。
――ピロン。
【失敗予報:その角、曲がり方が雑。自転車と衝突します】
「はっ?」
反射的に急ブレーキ。
次の瞬間、俺の鼻先を自転車がかすめて通過した。
「うわっ!? 危なっ!!」
自転車の兄ちゃんが振り返る。
「気をつけろよ!」
「そっちこそ!!」
心臓が、バクバク鳴る。
……今の、完全に当たってた。
偶然?
いや、さっきからの的中率がおかしい。
「ちょっと待て」
俺は立ち止まり、頭を押さえた。
……これ、もしや。
「俺、未来が見える系の能力、手に入れた?」
胸が高鳴る。
ついに来たか。
選ばれし者ルート。
だが――
――ピロン。
【訂正:未来は見えません。見えるのは“失敗”だけです】
「めっちゃ限定的!!」
テンションが急降下した。
「成功は!?」
――ピロン。
【未対応です】
「対応しろよ!!」
俺は空に向かって怒鳴った。
つまり、こういうことらしい。
・何を選んでも
・成功かどうかは教えてくれない
・でも
・ダメな選択だけは、先に分かる
……最悪じゃないか。
「いや、でも・・・」
ふと思う。
少なくとも、
“確実にやらかす未来”は避けられる。
それって、反則じゃないか?
俺は再び走り出す。
――ピロン。
【失敗予報:今のペースだと、遅刻は回避できません】
「それはもう知ってる!!」
叫びながら、学校の校門が見えてきた。
チャイムが鳴る。
遅刻確定。
だが、不思議と焦りはなかった。
代わりに、胸の奥で、別の感情が芽生えていた。
「なあ」
誰にともなく、問いかける。
「これ、俺が選ばなかった未来って、どうなるんだ?」
――ピロン。
【回答不能】
「だよな」
俺は苦笑した。
成功は分からない。
正解も分からない。
分かるのは、
“やらかす未来”だけ。
それでも――
……選ばない、という選択だけは、
なぜか、したくなかった。
――――――――――
第1話 了




